第4話 〜秘密の契約〜
前回のあらすじ
貧民街で搾取され続けていたジナトスは、偶然出会った中級者モーナトールと契約を結び、強さを得た。
しかし、街の支配者ゴラヌスに契約に裏があることが伝えられ…
「騙されてるぞ」
ゴラヌスはそう言った。
その言葉を聞き、俺はこの2日を思い返した。
(騙されている?そうだな。言うことを聞くって契約はなかなか怪しい。だが、)
「そうか?あいつは俺の見た目が好きで契約したらしい。しかも、あんなに美味しいもんをくれた!騙されてようが関係ねぇ!」
ゴラヌスの圧で動けなくなって、口調を強くして、どうにか自分を強く見せることしかできねぇ。
「まあまあ。話だけは聞いてくれよ。騙されてるってのはちと違ったかもしれないが、このままいけばお前は今まで以上に悪い目に遭う。」
「ほ〜ん。今まで以上にだぁ?お前、俺が今までどんな環境にいたか知ってんのか?何日も飯が食えなかったり、ようやくゲットしたと思った飯を、あのカスどもに取られたり、明日死ぬかもしれねぇ恐怖を味わいながら過ごしたりなぁ!お前みてぇにぃ力を持ってるやつは知らないかもしれんがなぁ!」
(イライラする…。こうやって上から知ったような口を聞いてくる奴が一番気にくわねぇ。
そもそもなんでそんなことを言ってくんだ?あの女を敵にすんのが嫌なのか?)
「いいや。知っている。俺もな、昔はお前みたいにここで虐げられる側のやつだった。」
ゴラヌスは少し下を向いたように思えた。
「俺と同じように?でも、なら、どうしてそんなに力を持ってんだ!?嘘をつくんじゃねぇよ!」
「いいや。嘘じゃない。こんなに力を持っているのは親父…前のこの街の支配者に力をもらったからだ。俺がお前ぐらいの時に親父に拾われてな、育てられて支配者の地位まで継がせてもらった。」
懐かしむように言っている。
「なにが虐げられる側だ!随分恵まれてるじゃねぇか。今、まさに俺に上からもの言うまで出世してなぁ!」
俺が喚いていると
「ほう?お前は俺がただ恵まれているだけだと思っているのか?想像力が足りないな。俺だってしっかりと苦労したさ。他人との上手い関わり方とか、戦闘の基礎だとを学んで、支配者の器になるための基礎を作ったり、この街の現状を知り、今後どうすればいいかを考えたりな。考えてもみろ。お前のそばでただの飢餓で死んだ奴がいたか?お前もふくめて。それも全て俺がやった。なんだかんだ人がいなくならないように調整してるんだ。これでもな。他にも、俺との契約システムの構築とか…」
ゴラヌスは今まで自分がやってきたこと、苦労したことを話してきた。
(こいつ、話が変わってないか?俺になんか言いにきてたよな?)
「で?そんなに努力をした、えら〜いゴラヌスさんは結局何が言いたいんだ?」
「ああ。そうだったな。今までの話でわかって欲しいことは、俺はこの街に愛着を持っているってことだ。だから、俺は街の外から来たやつに街の奴らが食い物にされんのを見過ごせない。お前の契約はなんとなくでいつ切られるかわからないだろう?俺の拳を防げたとき、驚いてたもんな。俺は自分の契約の内容すら把握してないお前を救いたいんだよ。」
(確かに…。俺はこの契約についてよく知らないな。安全を保証するとか言ってたが、あんな効果があるなんて知らなかったしな…。)
「そうだな…だったら俺の、この契約の危うさとどうやって俺を助けるかを教えてくれ。」
「わかってくれて助かる。まず契約の危うさだな。お前の契約は詳しく知らんが、あまり細かく決まっていないんだろう?ど〜せ、いつまでかも決まっていない。そういうときに危険なのが、契約者がお前を切り捨てることができるってところだ。こういう期限が決められていない契約はしかけた側がいつでも契約を解除できる。だから、お前は飽きたいらないと思われたとき、今まで通りの奪われる側の人間に戻るんだ。」
(そうだったな…。俺とあいつは出会ってから2日ぐらいだ。温まりやすいもんは冷めやすいしな…。)
「なるほど。確かにお前の言っていることは正しいな。」
「だろ? で、お前の契約の内容を聞かせてくれないか?やはり契約の裏を書くためには契約を知らないといけない。策を練るにしてもお前には経験が足りない。重みのある、人生を左右するような契約に立ち会った経験が。
それと、契約相手の情報もくれないか?相手が上級者と繋がってたりしたらそこも考慮しないといけなくなってくる。俺たちだけの問題から、貧民街全体の問題になっちまうからなぁ。」
(あいつが上級者と繋がってても考慮する、か…。なかなか信用できそうだな。だが、これが嘘なら?俺だけが割を食うハメになる。)
(いや…今までもそうだったな。ここで信用しなくちゃあの女に一生手駒にされるかもしれねぇ。そうじゃなくてもこんな奴らに従わなきゃ前よりもっと悪い目に遭う。そんなの…、うんざりなんてもんじゃねぇ。)
「わかった。あいつと会ってから今までの話を全部しよう。」
そうして俺はゴラヌスに全てを話した。契約の内容、モーナトールの言っていた動機、目的、モーナトールの下での生活、やらされたことなどなど…
途中からゴラヌス少し表情が歪んだように見えた。
「…なるほどな。聞けば聞くほど騙されてるようにしか聞こえねえな。まず、契約の内容が最悪だ。なんだ”言うことを聞くなら、安全を絶対に保証する”って!この時点で使い捨てる気満々じゃねぇか。この街じゃあ俺以外にお前を殴れる奴はいない。そして俺はヤると決めたら全力を込めてやる男だ。つまり、俺に殴られるような状況になったら、お前が契約不履行を唱える前に、俺に殴られて死んでしまう。あいつは少しのデメリットでお前を、自分の言うことをなんでも聞く奴隷にしたんだ。」
(なるほど…。確かにそうだ。なんで気が付かなかったんだ俺は!口調を変えられたときに契約の強さはわかっていたはずだろう!)
「それも、それだけじゃなく!お前に心の安らぎを与えると言う名目上でお前にある程度の力を渡し、力に酔わせた。しかも、いい飯を食わせ、いい環境で過ごさせ、モーナトール従う心すらも植え付けた。俺が知ってる流れではこの後、普段は最初ほどの食事を与えずに、いい仕事をした直後だけはいい飯をくれる。そうして、自分に依存させて、他人からの意見を聞かないようにさせる。そうして従順な駒として使って、最終的には自分に反発されないように捨てるのさ。普段のこういう手口は結構見てきた。わかったか?あいつはお前を利用して、使い潰そうとしてんだ。」
「ああ…わかった。あいつを潰そう。お前の言うとおりだ。俺はあいつに自由を奪われてまで従い続けたくねぇからな。それで、策はあるか?」
ゴラヌスは大きく頷き、
「ある。まあ細かく調べないといけないこともあるが、多分大丈夫だ。」
「そうか、俺がやることはあるか?調べることとか?」
「やってもらうことはある。が、いまお前に話すことはないな。」
「あ”?なにひとつ教えてくれねぇのか?俺のための作戦じゃねぇのかよ。」
「まぁ、落ち着け。そうすぐ感情が昂るのは良くないぞ。上を目指すなら絶対にやめた方がいい。この街育ちじゃしょうがないけどな。で、なんも教えないのはモーナトールを確実に潰すためだ。お前は奴に”今日あったこと全部話せ”と言われたら、この会話も話しちまうだろう?あ〜、お前に話せることが一つあったぞ。”この会話を話させられる状況にならない”ことだ。例えば、自分から今日の出来事を報告するとかな。お前に計画の中身を話さないのは保険だよ。わかるだろ?この作戦は向こうが俺を、貧民街を狙ってくる間は刺さる可能性が高い。だから、作戦があることはバレてもいいんだが、内容まで知られるとお前もこっちも困るんだよ。な?いい感じに質問を回避してくれよ?」
「それは…、中身がなくても作戦を立ててるのがバレたら、俺がヤバいんじゃないのか?」
「それもそうだなぁ。よし、わかった。一旦契約でお前の記憶を消そう。契約内容はどうする?お前が記憶を対価にするはいいとして、俺は何を差し出せばいい?お前への裏切り行為の禁止?作戦決行時に必ず知らせるとか?期限は1年でいいな、ちょいと力も貸しとくか。」
「そうだなぁ…。?それって俺はいつ記憶を戻せるんだ?」
「それは俺が契約を解消すればいいだろう。」
「そうか…。でも、そうすると俺はこの契約の記憶も失うわけだ。つまり、お前が契約不履行しても俺は摘発できない。が、お前がそんなことするメリットはないな。よしそれで契約を結ぼう。条件を言ってくれ。」
「よし。じゃあ、契約だ!”この私、ゴラヌスからジナトスへ契約する!期間は今から太陽が365回真南に登るまでだ!ゴラヌスはジナトスへの裏切り行為の禁止、そしてモールトールへの作戦決行時に必ずジナトスに伝えること、そしてゴラヌスの力の5%の譲渡を!そして、ジナトスからは今までのゴラヌスとの会話の記憶の消去を対価とする!”」
そう言って茶色の、少し細かい模様の浮かんだオーラを出しながら手を差し伸べてきた。
(ようやく腰の抜けが治って立ち上がれそうだ)
そして、俺は立ち上がり、その手を取った。
「よし!契約成立だな!」
目の前には街の支配者であるゴラヌスが立っていた。
「は?」
(なぜこいつの前にいる?俺はゴラヌスの手下を詰めていたはず!?)
なぜかゴラヌスが肩に手を乗せてきた。
「さぁ!さっさと帰りな!こんなところに来んな!」
(なんだったんだ?想像よりも怖くなかったな…)
怒鳴り口調だがなぜか機嫌が良さそうなゴラヌスを横目に、俺はモーナトールと合流するために歩き始めた。
世界設定メモ ー《顔屋》ー
各地に存在する顔の売買店。
取引の通貨は主に力であり、いい顔は大きな力で売れ、売られされている。
いい顔には力が必要




