第3話 〜貧民街での邂逅〜
前回のあらすじ
貧民街で搾取され続けていたジナトスは、偶然出会った中級者モーナトールと契約を結び、強さを得た。
初めての仕事である死体処理を終え、束の間の安息を味わうが、その死体の関係者に目をつけられ…
「よし、今日は一緒に出かけるぞ。」
ベッドから起きると、モーナトールは声をかけてきた。
起き上がった瞬間、身体の軽さに驚く。
こんなにも痛みなく眠れたのは、生まれて初めてだった。
やはりベッドというものはすごいな。
「どこへ行くんです?ゴラヌスの屋敷?」
「いいや。お前も言っていただろう?今、奴と接触しても敵わない。だから今、奴が何を求めているかを調べにいくのさ。まぁ、大体わかっているけどな。」
と言いながらパンを投げ、食べ終わったら行くぞ、と俺を待っている。
俺はパンを食べながら考えた。今日のパンは昨日より黒く、パサついていたが、以前とは違い食事ではあった。
(モーナトールはわかっているみたいだが、ゴラヌスは何を求めているんだ?
美味しい食事?
違うな。奴と食材の契約をした奴がいたはずだ。
いい生活?
それも違う。奴はたまに貧民街に出てきて過ごす。新しい契約者を作るためかもしれないが、手下に呼ばせればいい。快適さを求めるのなら、街に出てきてそこらで眠るなんてことをしないはずだ。)
考えてみたがわからない。まあいい。
パンを食べ終わり、モーナトールと貧民街の中の方へ出かけると、いつもよりも視線を感じた。
「あいつらなんなんでしょうね?私もいつも見られるんですけど、今日は一段と多い…」
モーナトールに意見を求めると、驚いた顔をしていた。
「君、気づいてなかったのかい?こんな街で顔屋に顔を売ってないやつなんて、元の顔が酷くて価値がつかないやつぐらいだよ。君の顔だったら私との契約の半分くらいの力になったんじゃ無いか?」
「そんなに…ですか。」
(なるほどな。自分の容姿を気にする暇も道具もなかったが、俺の外見にはそんな価値があったのか。いや、その暇の無さもこの顔のせいだったのかもしれないな。他のやつに比べて、俺ばっかり狙われてたもんなぁ。)
そう昔のことを考えていると、モーナトールが立ち止まり、路地の裏を見ている。
「なにかありましたか?」
「ああ、君の顔のおかげで釣れたかもしれないな。私1人のときは現れなかったのに…」
モーナトールの視線の先には周囲の野次馬のような奴らとは違い、連携をとって俺らを観察している集団がいた。
「あいつらはゴラヌスの契約者だよ。1人でいいから捕えておいて。」
その声を聞き、体が勝手に動き出す。
「ッ?!複数人相手だぞッ!しかも契約者!?」
「気にしないで行っておいで、君の安全は契約で保証しただろう?」
体が走り出し、あの女の声が遠ざかっていく。
(クソがッ!そういう契約だが、やっぱり体の自由を取られるってのは嫌だな。美味しい食事や快適な環境の代わりだぞ。)
走っていると俺らを監視していた連中は解散し、他方に別れた。
そのうちの1人を俺の体は追いかけている。やはりゴラヌスの部下とはいえ、契約の力が1人に集中しているこっちの方が身体能力は上で、少しずつ距離が縮んでいく。が、何やら妙な逃げ方をされている。
(なんだ?変に真っ直ぐ進んだり、左右に曲がったりする。速度で負けているなら、曲がりまくるのが最適だろ?)
ゴラヌスの部下は逃げながら、チラチラ後ろを見てくる。
(なるほど、誘い込まれてんのか。複数いて袋叩きにしない方がおかしいもんな。)
そうは思っても足は止まらない。契約に沿った意思は起こせるが、否定する意思は無視されるみたいだ。
(まあいい。この前のジジイも倒せたんだ。複数来ようが1人ずつ、2人ずつ削ってきゃいい。)
そのまま追いかけていると、後ろの方から2つ、物音がしだした。
(そろそろ始まるらしいな。先に追ってた奴をやるか。)
昨日のジジイを思い出しながら、地面の小石をひとつ拾い上げた。
前を走っているそいつを狙い、腕を振り抜く。
小石は風を裂く音を立てて飛び、そいつの足元の地面にぶつかる。
砕けた破片が跳ね上がり、そのままそいつの体に当たった。
(まずは1人。次は、後ろで呆けて、何もしてこなかった奴らだ…)
後ろの奴らも同じように投石で倒した。
やっぱり、今の俺はそこそこ強い。そう思うと、自然と口角が上がる。
「お〜い、これで終わりか〜?俺はまだまだいけるぜ〜。」
倒したゴラヌスの部下共をそこら辺にあった縄で拘束し、他の奴らを探していると、部下の1人が聞いてきた。
「おい…お前たちはなんなんだ…?」
「なんだ、とはなんだ?こっちからも聞いてやろうか?”おい…お前たちはなんなんだ…?”ってなぁ!」
「…わかっている癖に。俺らが聞きたいのは、あの6人を殺すほどの力を持ったお前らは一体どこからきたのかってことだ。」
「隊長!今気づいたんすけど、こいつジナトスだ!顔がいいのに売らないで、弱いまんまのバカだ!」
部下の1人が俺が誰かに気付いたようだった。
それはそうと
「バカだぁ?お前今の状況をわかってねぇのか?」
そう言って脅すも、会話は止まらない。
「でも、こいつ強いぞ。」
「やっぱあの女じゃないすか?あの女の声の後から追ってきたし!こいつあの女と契約してるんすよ!」
「なぁんだ。戦う必要なかったな。あのまま観察してりゃわかったことじゃねえか。」
そこからもやいやい言い合っている。
蹴って黙らせようと思っても相手の強度と自分の強さの感覚がわからず、殺してしまうかもしれない。
(ああ、クソッ!なぁにが”捕えておいて”だ。あの女ぁ!)
そこで、ふと会話の内容を思い出す。
(いや。そうだった、1人でいいんだったな。)
俺はしゃがみ込み、3人を脅そうと声をかけた。
「おい、お前ら。俺の命令は”1人を残して捕える”だ。今から2人を嬲るから、誰か1人だけ助かるやつを決めな。」
この言葉を聞いた3人は黙った。
(ようやく、自分の状況を理解したか。)
そう思っていると…
「レイト、契約だ!もし俺らのどっちかが死んだら、残った方も死ぬ!」
「ライド、契約だ!もし俺らのどっちかが死んだら、残った方も死ぬ!」
と隊長と呼ばれていた男が他2人の手を結びながら叫んだ。
その声に呆気にとられていると…
「ウヒャヒャヒャヒャ、こいつやっぱバカですね。隊長!」
「自分が課されている命令を答えるなんて!」
「これで俺らに危害を与えられないなぁ」
「テメェらぁ!」
そうしておちょくられていると、後ろから足音が聞こえてきた。
「よくもまあ、俺の部下を縛ってくれてるなぁ!」
その声は体の芯から震えるように低く、響く。
声の圧に震えながら後ろを振り返ると、
そこにいたのは、ここら一帯の支配者であり、俺には勝てない相手、ゴラヌスだった。
「で、こいつがなんだっけ?あの6人を殺したやつだっけ?」
ゴラヌスがそう聞くと、隣にいた仮面の女が答える。
「いえ、おそらく違うかと。6人が最後に見られたのは3日前。そしてこいつ、ジナトスは昨日までただの契約者にすら恫喝されるくらい弱く、6人を殺せるとは思えません。しかし、急激な力の上昇から見るに、6人を殺したやつと契約しているかと思われます。」
全て聞くとゴラヌスは頷き、
「なるほどな。つまりこいつは泥舟に乗った可哀想なやつってことか。」
(可哀想だと?見下してきやがって!が、立てねぇ。今まで感じたこと無い圧が!)
「おい、お前。ジナトスだったか?あの6人についてはいい。ジナトス、お前がやったんじゃ無いんだもんな?
だが、そこの3人についてはどう考えてもお前がやってるよなあ。俺は契約を使ってこの街のトップを一応やってんだ。身内が被害受けたら、相手に罰を与えなくちゃいけねぇよな?じゃあ、歯ぁ食いしばれ!!」
ゴラヌスは拳を振り上げ、俺の頬目掛けて殴った。
いや、殴ったはずだった。ゴラヌスの拳は俺の体のスレスレを滑るように通り過ぎていった。
「!お前、契約内容は?」
「言わない。そんなことより今のは何だ?俺の体に触れられないみたいだったが…」
ゴラヌスは少し考え込み、何か納得いった顔をして、俺に語りかけた。
「なるほどな。お前……、
この契約したやつに、騙されてるぞーーー
世界設定メモ ー《食事》ー
この世界は力が全てで、ただの人間が畜産農業をやっても奪われるだけ。そのため、この世界の一次産業に関わっている人たちは、元いたコミュニティより上の人たちと、生産物を納める代わりに周りのやつに奪われない強さを手にいれる契約をする。そのため、販売人に従うしかできない貧民はほんとうにカスみたいなものしか食べられない。
しかし、上位の人間は下の人間がいるからの上位なので、下位が死なない程度に食糧を売るよう指示をすることが多い。
力があれば美味しいものをたくさん食べられる。




