第1話 〜拾われる〜
「おい、そこの坊主。死にたくなけりゃ金出しな。」ガタイの良い男が上から声をかけてくる。
いつも通りだ、自分より弱い奴に目をつけて脅す。これで何回、何人目だ?
78人は記憶に残っているが…
言われたものは仕方がない、が顔は覚えた。ぜってぇやり返してやる…
頭の中でそう思いつつ、俺は持っている財布を地面に置き、逃げ出した。
死体にまみれ、常に腐った匂いのするこの街では強くなければ生きていけないのだ。
この街は大きく変化しない。急激に強くなるなど無く、いつも奪われてばかり。
ーーでも、この日は違ったーー
必死に走って逃げているはずがどんどん足音が近くなってくる。
(くそっ!今日のはしつこいな。)
いつもなら置いた財布を取ったあと、遠くに逃げた俺を追いかける奴なんていなかった。
(あいつは誰なんだ?知らぬ間になんかやっちまってたか?)
などと考えながら走っていると後ろからの足音が止んだ。
(まさか、疲れて諦めたか?)
疲れた相手にしめしめとスピードを落とし、今後に備え相手の顔を覗こうと後ろを見ると…
見たことのない濃い赤髪の女が地面に両手を当て、こちらを見ている。
そこで俺は気がついた相手は疲れたから止まったのではなく、
魔法を使うために止まったのだと!
「こいつッ!、まさか!、ちly」
俺が驚き、言葉を発する前に、走っていた地面が少し下がり、俺はコケた。
(クソが!なんで中級以上の魔法使いがこんなとこにいんだ!)
(なぜ俺を追ってきたんだ!捕まったら何をされるんだ!?)
(まだ何もできてねぇのに!なんで俺が!)
などと考えながら後ずさりしていると
女は立ち上がり、笑みを浮かべながら俺に近づきながら手を差しのべ、こう言った
「私と〈契約〉しないか?」
それはあまりに突然な提案だった。
「は?契約?」
「そう。君が私の言うことを聞いてくれるなら、君の安全を絶対に保証するっていう契約。受けてくれる?」
女は黄色いオーラを纏わせた右手を差し伸べている。
そこで、俺は迷わず女の手を取ったーー
俺への契約の理由とか、言うことを聞くとかはどうでも良かった。
だた、ここで死にたくない。上のやつらを見下したい。などの感情が出てきたのだ
俺が女の手を取ると体の底から力が湧いてくるような感覚がした。
なんという高揚感だろうか。上位の存在になったみたいで気分がよい。
しかし、同時に体のどこかが縛られた感覚もした。
これがこの女との繋がりなのか?
「契約完了、だな。これからよろしく。召使くん」
女はにっこりと笑い、デコボコとした道を歩き出した。
ついてこいと言うことなのだろうか。
歩きながら俺は気になったことを聞くことにした
「あんたはなんて名前なんだ?」
「モーナトールだ。普通は身分の低いあなたから名乗ったほうがいいと思うんだけど、私だけかい?それと口の聞き方を直しな」
「申し訳ありません。私の名前はジナトスです。私は貧民街ですら搾取される側でして、とても利用価値があるとは思わないのですが、なぜ私と契約をされたのでしょうか?」
(ッ!口が勝手に!さっきの口の聞き方を直せでこうなってんのか?言うことを聞くってなかなかやばいな)
「ちょっと口調が固すぎるかも。少しだけ戻して。で、なんで私が君と契約したかって?そんなの決まってるじゃん。君の見た目がタイプなんだよ。」
「タ、タイプ??」
「そう、黒髪で顔立ちも良くて、逃げる時の諦めと希望を持ったあの表情!ああいう微妙な顔が好きなんだよねぇ。それにちょうど召使を切らしてたし。」
(急にテンション上がるな、こいつ)
「前にも契約してた人がいたんですか?」
「いいや、前の召使は契約してなくて弱かったからすぐ死んじゃった。まあ、そこまで優秀じゃなかったからしょうがないね。」
「ふ〜ん。今はどこに向かっているんですか?」
「私の基地。今から私と君でここら一体を手に入れるから。諜報とかよろしくね」
(ここらを手にいれるだって!?俺が契約されてるゴラヌスが治めてるのをぶん取るのか?)
「どうするんです?もらった力から考えるに、あなたの力でもやつを倒すのは無理では?」
女は少しこちらを向いて、指を横に振った
「わかってないな〜、君〜。なにも正面からじゃ無くてもいいじゃないか。ここの奴らはみんな、何かをやりたいって思ってる。そこを突けばすぐさ。」
そうして歩いていると、街の端のそびえ立った崖に埋まっている半地下の家に辿り着いた。
「今日からここが君の家だ。私の家でもあるがな。」
家の中には柔らかそうなベッド、テーブル、キッチンなどの貧民街では見たこともない、噂だけ知っていた「家具」が置いてあった。
(座る専用の家具もあるのか、あそことは大違いだな。)
「座っていいぞ。これからの詳しい話をするからな。」
俺と女はテーブルを挟み、向かい合って座った。
「まず、今日やってもらうのは掃除だ。どうも私には向いていないようでね。皿洗いとゴミの処分だけでいいよ。」
洗い場?に目を向けるとソースの残ったお皿が積み重なっており、隣にそのままの井戸が置いてある。
(あんなにソースを残すなんてもったいねぇな。しかも個人で井戸を持ってんのか。)
「わかりました。で、ゴミはどこにあるんですか?」
女は視線を壁に向け、入口とは違う扉を指差した。
「そこに入ってるよ。そのまま捨てるのは面倒くさくてね。」
扉を開けてみるとそこには死体が6つほどと食材の切れ端が溜まっていた。
(なるほどな、だから街と匂いが変わんないのか。)
「こいつら、私がよそ者だからってちょっかいかけてきたんだよ。いや〜殺すのは簡単だったんだけど、殺した後にゴラヌスの契約者だって気づいたんだよ。それで、死体を私が処理してるとゴラヌス本人から目をつけられるからできなかったんだよね〜。」
「はぁ。じゃあ、捨ててきますね。」
俺は死体をずるずる引きずり、街の裏道を通って、ゴラヌスと契約しない頑固なジジイの散歩ルートに置きに行った。この道は大通りから外れたところにある砂利道で人が滅多にこない。だからあのジジイもゴラヌスの目から逃れるために選んでるんだろう。
(あの女、マジもんの世間知らずか?ここであいつの契約者、しかも結構贔屓されてる奴らを殺すなんて…。まぁ、あのジジイになすりつけたらいいか。)
そうやって、死体を運んでいると、ちょうど散歩をしにきた頑固ジジイに見つかってしまった。
「おいッ!そこの坊主!そのゴミ、あいつの契約者だろ!俺がいつも通る道にやっかいごと持ってくんじゃねぇ!」
(こいつ声がデケェんだよな。自分が正義みたいな面してやがる。そうか。こいつでどんくらい力もらえたのか試しゃいいんだ)
俺は無言で死体を置いていき、次の死体を取りに行った。ジジイは怒鳴っていたが、死体を隠しているのか追ってこない。
しばらくしてもう一つ持っていくと、ジジイは待ち構えていた。
「そいつらのグループはここ最近姿を消していた…。そこまで強くないとはいえ、お前が殺せるような奴らじゃなかったはず。お前、何をした?」
(もう少しおちょくってみるか。今の俺には力があるしな)
無言で死体を取りに戻ろうとすると、頭の横を握り拳ほどの石が通り過ぎる。
「人を舐めるのも大概にしろよ…。なぜ俺があいつと契約しないと思う?なぜ契約しないでも生き残ってると思う?なぜ他の契約した連中が俺にちょっかいをかけないと思う?」
ジジイの雰囲気が変わった。なげられた石をみると建物にめり込んでいる。
「俺が強いからだ。覚悟しろよ、ガキィ!!」
俺は振り返り、その気迫に煽ったことをすこし後悔しながら臨戦体制をとった…
世界設定メモ ー《契約》ー
それは条件と対価を決め合い、お互いの魂を結ぶ行為。
具体的には、持ちかける側が条件と対価を口頭で伝え、契約という言葉を発し、手を差し伸べる。そして受ける側がその手を取ることで契約が結ばれる。
この際、持ちかける側から少し魂が溢れるため、オーラのようなものが出る。(Gが今回出していたもの)
そのため、ステルス契約は起こらない。
契約の中身としては、
力を貸すから、言うことを聞け。
守ってやるから、作物を納めろ。
奴を殺してくれたら、今後なんでも言うことを聞く。
のようなものである。
結ばれた契約はしかけた側が破棄するまで続き、契約に沿わない行為をした者にはデリメットが生じる。
しかし、このシステムは非常に曖昧であるため、悪用する者もいるらしい…
この世界はこの《契約》が世界のルールとして浸透している世界である。




