第9話:大聖女、恋の大作戦を思いつきました
「ラディウス様が離婚なさったんですって!!!!!?」
高級宿屋のエントランスに、満面の笑顔で大聖女スティラが飛び込んできた。
「どこで聞たんだよ」
「それはもう、ラディウス様の動向は逐一報告させ――あ、いや。愛の力でビビっと来たのですわ!」
「もしかしてオレ、監視されてる?」
「今日の式典は結婚式ですね!」
話聞いて?
「ガイとリーズの結婚発表を本当に?」
「何を言ってるんですか?」
「ん?」
「私とラディウス様のですよ!」
「んん?」
「ラディウス様はいつも私と一緒になれない言い訳に「結婚しているから」とおっしゃいましたよね」
「言い訳ではないが……」
「本当は私の身体をめちゃくちゃにしたかったくせに……ぽっ♡」
「いやいやいや、そんなつもりはないから!」
めちゃくちゃセクシーだとは思うけどね?
リーズのことを愛してたから、スティラとどうこうなんて考えもしなかったが……たしかにもう障害なんて何もないんだよな……。
「愛の痛みを癒せるのは新しい愛だけですよ。もっとも、私の愛は旅の間にしっかり熟成されてますけど。ふふふ……こうしてはいられません! 王に進言しなければ!」
「王に!? 待って!?」
スティラがお願いしたら実現しちゃうから!
あいつ、宮殿内でも謎の政治力を持ってるっぽいし!
「はい! 待っていてくださいね!」
「待つのはスティラの方だって! おい!」
スティラは宿の前に待たせていた馬車に飛び乗った。
普段は聡明なのに、暴走すると人の話を聞かないのは相変わらずだなあ。
それすらちょっと心の癒やしになっているのに、自分でもびっくりだ。
のんびり屋台でも見て回りながら王城に向かおう。
そう思って宿屋を出ると、路地裏から悲鳴が聞こえてきた。
雑踏に消え入るような微かな音だ。
しかしオレの耳はそれをはっきりと捉えていた。
聞き逃さなかったのは、昔から聞き慣れた声だったせいもあるだろう。
悲鳴の主はリーズだ。
助けてやる義理なんてもうない。
ないが……。
………………あーもう!
見捨てるのも寝覚めが悪すぎる。
オレは悲鳴のした路地裏へと走った。
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