第8話:オレの離婚、喜ばれすぎじゃない?
「なぜあんたがここに? しかも上から降りてくるんだ?」
高級宿屋の最上階から降りてきたオレを、ガイが訝しげな顔で見てくる。
「雇ってもらったのかしら?」
「そんなにみすぼらしい格好でもぐりこんで恥ずかしくないの?」
やれやれ。すがすがしいくらい調子にのっている。
「あーしが招待したんだけど?」
その時、階段の上から声をかけてきたのはキルケだ。
いつもの三角帽子姿である。
「なんだこのガキ? こっちは王様から剣聖のセレモニーに招待されてるんだ」
ガイが小馬鹿にした視線をキルケに向ける。
「本当?」
キルケがオレに視線を送る。
「なんでそいつに聞くんだよ。オレの隣にいるのはリートネ村……いや、町の町長の娘だぞ!」
「リートネってもしかして……」
キルケが困惑の視線をオレに向けた。
彼女には故郷のことを話したことがある。
村長の一人娘が嫁であることもだ。
「ふふん、聞いたことくらいはあるようだな。そう! 最近急速に発展し、貿易の要所になるであろうリートネだ。そしてオレ達は婚約をしている! 魔王討伐完了のセレモニーで大々的に発表されるはずだ!」
ガイはそんなキルケには気づかず、ドヤ顔をかましている。
ちなみに、セレモニーで彼らの結婚発表が行われる予定などもちろんない。
完全なる彼の思い込みである。
「え? 待って……ええと……つまり……」
キルケは眉をひそめ、少し悲しそうな顔でオレを見た後、ぱっと顔を明るくした。
ころころ表情がかわるなあ。
「離婚したってこと!? ラディウスと別れるなんてバカなの!?」
喜びすぎでは!?
「ふんっ、ラディウスなんかよりガイの方が何倍も頼りになるんだから」
リーズがガイにぎゅっと腕を絡ませた。
「はぁ? ラディウス以上に頼りになる男なんてこの世に存在しないんだけど?」
キルケもまけじとオレに腕を絡ませる。
「ふんっ、そんなつまんない男と結婚したがる女なんていないわよ。一時でも一緒になっていたなんて、人生の汚点だわ」
「はぁ!? 少なくともあーしはラディウスと結婚したいよ。こんなに強くて優しい人なんて他にいないからね!」
「こんなおじさんと結婚したいなんて、弱みでも握られてんの?」
ひどい言いがかりすぎるが、キルケは十代前半。
貴族じゃあるまいし、歳の差がありすぎるのは事実である。
「剣聖がフリーなんて……スティラに知られたら大変だぁ……」
「はっ? 剣聖? あんた、こんな子供も騙してるの?」
あきれるリーズを見て、キルケは何かを察したらしい。
「ねえ、ラディウス。こんなバカ女、別れて正解だよ」
「バカ女ですって!? ガイ行きましょ! こんなちんちくりんのクソガキの相手なんてしてらんないわ!」
「お、おいリーズ!」
カリカリと怒って宿を出ていくリーズをガイが慌てて追いかける。
「べー! バーカ!」
天才大魔道士とは思えない子供っぽい仕草で二人の背中に舌を出すキルケである。
「あ! ごめーんラディウス! セレモニーの準備があるから先に行くね!」
そんなキルケはオレに手を振りながら、ばたばたと宿を出ていった。
朝から騒がしいことだが、里帰りでちょっと疲れた心には染みるものがあった。
「ラディウス様が離婚なさったんですって!!!!!?」
そんな時、キルケと入れ替わるようにして満面の笑顔で大聖女スティラが飛び込んできた。
オレの離婚、喜ばれすぎじゃない?
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