第6話:大臣登場で一発逆転?
「なにをしておるかああああああ!」
フリードリヒの怒号が留置所中に響き渡った。
「え? え?」
衛兵たちは驚き戸惑っている。
「この方は剣聖ラディウス様だぞ!」
「ほ、本当に?」
「いやまさか……」
「は、はやく手錠を外せ!」
「し、しかし彼はエリクサーを盗んだ犯罪者で……」
「だまれ! ラディウス様がそんなことをするはずがない! 我が国の国賓にこの仕打ち! 一族郎党首をはねられても文句は言えぬぞ! さっさと手錠を外せ!」
「は、はいぃ!」
フリードリヒの迫力に押され、震え上がった衛兵のリーダーがオレの手錠を外した。
彼は急いで部屋の隅へと下がり、ぷるぷると震えている。
そりゃあそうだろう。
それこそ国賓と呼べる隣国の貴族に叱責されたとあれば、比喩抜きで首が飛んでもおかしくない。
いい気味だが、少し可愛そうでもある。
「ラディウス様、これはいったい……」
「元嫁の実家にエリクサーをプレゼントしたら盗人扱いされましてね。オレがエリクサーなんて持っているハズがないと」
オレの説明を聞いたフリードリヒは呆れ顔で衛兵達を睨みつけた。
「はぁ……何を言っているのか。むしろ、世界中のエリクサーをラディウス様に差し上げてもおかしくないというのに。……ん? 元……嫁?」
「ああ、離婚をされてしまいましてね」
「ラディウス様に離婚をつきつけるなてどこのバ……失礼、元奥様でしたな……」
「いえ、いいんです。気持ちはもうきれいさっぱりなくなりましたから」
オレはことのあらましを軽く話した。
「信じられない……」
フリードリヒはしかめっ面でこめかみを押さえた。
「せっかく訪ねてきてくれたのにすみませんね」
剣聖の生家を見るのを楽しみにしてくれていたというのに、残念な思いをさせてしまった。
「いいえとんでもない。ラディウス様の受けた仕打ちに比べれば些末なことです。しかしこのままで済ますことはできませんね。まずは私の権限でこいつらを牢に入れて……」
フリードリヒが衛兵達を睨む。
他国の大臣ではあるが、それくらいの圧力はかけられる。彼はそういう人物なのだ。
「そ、そんな!」
「妻も子もいるのです!」
「妻を失ったラディウス様に何をしたのかわすれたのか?」
フリードリヒにそう言われ、衛兵達はぐうの音も出ない。
「そこまでしなくても……」
「ラディウス様は我が国の爵位をお持ちなのです。放ってなどおけません!」
オレがやんわり止めようとするも、フリードリヒは止まりそうにない。
「無理やりおしつけられた爵位ですけどね……」
オレとのつながりを少しでも作ろうとした隣国の采配だ。
何度も断ったのだが、あまりにもしつこかったので、爵位をもらっても何もしないという条件で受け取っておいたものだ。
「では元奥様のご実家には私からしかるべき『ご説明』をせねばなりませんな。くくく……」
こわいこわい。
その笑顔がこわい。
「それは少し待っていてくれませんか? ちょっとオレに考えがあるんです」
「と、言いますと?」
「ちょっとくらい仕返しさせてもらってもいいだろってことですよ」
「ほう……そういうことであれば」
フリードリヒは実に悪そうな笑みを浮かべるのだった。
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