第5話:本物のエリクサーだってば!
オレはエリクサー盗難疑惑の件で、厳しい取り調べを受けていた。
鉄の手錠で椅子に拘束され、眼の前にはムチをちらつかせる衛兵のリーダーらしき男がニヤケ顔で立っている。彼の横には後ろに手を組んだ衛兵が二人、廊下へと続くドアの前に二人。全員が腰に剣を下げている。
5人がかりとは、さすがにエリクサー盗難ともなればそれなりの人員をさくらしい。
オレを相手にするにはまるで足りないが。
「いいかげん罪を認めて楽になれよ」
衛兵のリーダーがこれみよがしに手の中でムチを弄んでいる。
「あのエリクサーは魔王討伐の最中に手に入れたものだと何度も言っているだろ」
「はぁ……まったく。あんたがそういう嘘をつくってことはガイさんから聞いてるんだ。みっともないぜ?」
「あんなろくでなしの言う事を信じるあんたの方がみっともないと思うがね」
「この町じゃ、少なくともあんたよりは社会的信用ってやつがあるんだよ」
「その信用ってのは、オレの剣の腕を見ても信じられるほどのもんなのか?」
「とんだハッタリ野郎だぜ! なあみんな!」
リーダーが仲間たちを煽る。
「ぎゃはっは、ちがいねえ。ここまで言えるヤツはめったにいねえよ」
「いやあ、いいもん見れたぜ」
衛兵達は全員揃ってバカにしてくる。
「強がっていられるのも今のうちだ。もうすぐ隣国の大臣が視察に来る。それまでに心を入れ替えるんだな。そうしないと、大変なことになるぞ」
「そいつは楽しみだ」
オレは引きちぎりかけていた手錠にこめていた力を抜いた。
制圧したらしたで、面倒事が増えるだけだ。
「その余裕がいつまで続くかねえ」
隣国の大臣なら、大抵はオレの顔を知っている。
困ったことになるのはどちらだろうな?
「ほほう、小さな町にしては立派な留置所ですね」
廊下の向こう側から、聞き覚えのある声がした。
なるほど、彼ならわざわざこの町に足を運ぶのもわかる。
「今ちょうど、エリクサーどろぼうを捕まえたところなんですよ。ウチの尋問をご覧になりますか?」
「ほお! エリクサーを盗むとはとんでもないヤツもいたものだ。ぜひ見せてもらおう」
尋問室の扉が開く。
「こちらです。犯人は手錠をかけられていますし、5人も衛兵がつめていますからご安心ください」
「どれどれ」
案内役の衛兵を伴って尋問室に入ってきたのは、見知った顔だった。
文官にしてはやたらと鍛えられた体につねにつり上がった眉。
かの国の騎士団長ですら一目置く槍の使い手であり、国王補佐官だ。いくつもの大臣を兼任し、隣国の発展は彼なしにはありえなかったとさえ言われる男。
50歳手前とは思えないほどエネルギーにあふれている。
「な、な、な……」
その男が、驚愕の表情でわなわなと震えている。
「お久しぶりです、フリードリヒ大臣」
オレはイスに拘束されたまま、にこやかに挨拶をした。
こう見えて彼、オレの大ファンなのだ。
隣国の王が魔族に殺されかけた際、オレが助けたのだが、その戦いぶりを見て崇拝と言ってもいい視線を向けてくるようになった。
たしか彼、オレの故郷が見てみたいと何度も言っていた。
視察という理由をつけて、観光にでも来たのだろう。
「なにをしておるかああああああ!!!!」
フリードリヒの怒号が留置所中に響き渡った。
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