第4話:一家揃ってコレかよ
4話が抜けてたので差し込みました
「おや? ラディウス君じゃないか」
元義父は痛めた腰をさすりながら、杖を頼りに屋敷のドアを開けてやってきた。
「ご無沙汰しています。おと……」
クセでお義父様と呼びかけたのをぐっとこらえた。
「その様子だと、事情は理解しているようだ。けっこうけっこう」
元義父は満足げな笑みを浮かべやがった。
離婚にすいてはこの人も承知のことか。
下手をするとすでに村中に知られているかもしれない。
いよいよ、故郷にオレの居場所はなくなってしまったようだ。
「ようこそお義父様。ご無沙汰しております」
ガイが笑顔で元義父に挨拶をし、元義父もそれににこやかに答える。
元義父はちらりとこちらに嘲りの視線を送ってきた。
一家揃ってコレかよ。
「かまわんよ。よく稼いでいるらしいじゃないか」
「リーズさんに苦労はさせられませんからね」
「はっはっは! 頼もしいことだ! む……この鼻の奥から頭のてっぺんまで通り抜ける匂い……かつて一度だけ戦場で嗅いだことがある……」
ガイと和やかに話していた元義父が、急にキョロキョロとあたりを見回し始めた。
元義父の視線が、割れた床の小瓶で止まる。
そのまま杖を頼りに床へとしゃがみこむ。
「こ、これはまさか……まさか……エリクサーか!?」
元義父はビンのかけらに残ったエリクサーをぺろりと舐めた。
「お、おお……腰が……腰の痛みが和らいでいく……」
幸せそうな顔をした元義父が、表情を一転、ぎろりとあたりを睨みつけた。
「誰じゃ! エリクサーのビンを割ったのは!」
リーズの気まずそうな視線がガイに向く。
「まさかガイ殿……なぜこんな……」
「ほ、ほほほんもの……? こ、こいつが持ってきたモノだから偽物だと思ったんですよ」
ガイは言い訳にもならない言い訳を並べ立てる。
「だいたい、エリクサーなんてどこから持ってきたんだ! はっ……! まさか盗んできたんじゃ……。そうに決まっている! お義父さん! いますぐ衛兵を呼びましょう! エリクサーの盗難なんてことが知れたら、一族皆殺しですよ!」
「そ、そうじゃな! 幸いもうこの男は我が家とは無関係じゃ! 衛兵にそこはしっかり念押ししておかねば!」
こんなに話の通じない連中だとは思わなかった。
オレが旅立ったときは、ここまでひどくなかったはず……。
金が彼らを変えてしまったのか、本性があぶりだされたのか。
あきれてものも言えないとはこのことだ。
やがて、5人の衛兵がどかどかと屋敷にやってきた。
「逃げずにいたことだけは褒めてやろう。そいつが盗人だ、連れて行け」
ガイが偉そうに言うと、衛兵にアゴで合図をした。
「はっ!」
敬礼をした衛兵が、オレの腕を掴む。
「な、なんだこいつ、ビクともしないぞ」
一見細身なオレだが、そこらの衛兵ごときにどうにかできるような鍛え方はしていない。
「く、この……抵抗するな!」
石像のように動かないオレの手になんとか縄をかけようとする衛兵達を尻目に、オレはリーズを睨む。
「これが本当に最後だ。オレは剣聖になって魔王を倒してきた。王都に一緒に来てくれれば本当だとわかる。それでも信じないか?」
「ふん! そんな嘘、信じられるわけないわ!」
にべもなしか。
「よくわかった。さよならだ、リーズ。世話になったな」
「ええ、まったくね」
オレは未だになんとかして縄をかけようとしてくる衛兵を引きずるように、自らの足で屋敷を出た。
リーズとは長いつきあいだった。
あんな女だったとしても、情が移っている。
だが二度と会いに来ることはないだろう。
少し寂しくないと言えば嘘になるが、なぜか晴れ晴れとした気持ちだった。
知らず知らずのうち、わがままで短気でちょっとおバカな彼女の相手をするのが負担になっていたのかもしれない。
あの広い青空のようにオレは自由だ!
とりあえずの行き先は留置所だけどな!




