第13話:みんなクセ強すぎ! 王様のどんでん返し!
---- ラディウス視点 ----
白を基調とした礼服に身を包み、オレはセレモニーが行われる謁見の間へとやってきた。
こういう格好はどうにもかたっ苦しくて嫌いだが、勅命だとまで言われてしまっては仕方ない。
両開きの荘厳な扉が兵士によって開けられ、その先には赤い絨毯が玉座へと続いている。
絨毯の両脇には貴族と騎士鎧を身に着けた兵士達がずらりと並んでいる。
そんな中、オレの前に立ちふさがったのはガイとリーズだ。
二人共このまま結婚式でも始めそうな真っ白な正装に身を包んでいる。
「おいおいラディウス。まさか王宮にまで入り込んで来るなんて、どういうつもりだ? だいたいなんだその服は?」
予想通り、第一声から小馬鹿にしてくるガイである。
もうちょっと泳がしておきたいな。
貴族たちが止めに入ってこないよう目で制しようと思ったが、彼らはわざとらしくよそ見をしてみせた。
そんな貴族たちの横で、スティラがウィンクをしている。
彼女が貴族たちに裏から手をまわしてくれたのだろう。
リーズ達のことはなんの説明もしてないはずなんだが……。
あまりの察しの良さがちょっと怖い。
だが、話が早くて助かるのも確かだ。
「言ったろ? オレが剣聖だって」
オレは平然とそう言った。
「まーだそんなこと言ってんのか」
「王宮に来てまでそんな見栄をはるなんてみっともないわ」
ガイとリーズがバカ丸出しの蔑み顔を向けてくる。
「わかった! その礼服もこっそり盗んだんでしょ。衛兵さん! この人を捕まえて! 泥棒よ!」
「い、いやしかし……」
ちょっと気弱そうな衛兵は戸惑いリーズとオレを交互に見る。
「そのままでいい」
オレが衛兵にそう言ってやると、衛兵はほっとしたように姿勢を正した。
「なんであんたが衛兵に命令すんのよ!」
「おいおい、命令なんてしてないだろ。彼が困っていたから助け舟を出しただけだ」
「はぁ!? なにわけわかんないこと言ってんの! あんたもこんなヤツの言う事聞かないで!」
リーズが衛兵をキッと睨むも、彼は虚空を見つめたまま微動だにしない。
「もう! なんなの!? 剣聖が来たらあんたなんて追い出されるんだから! そうでしょ、ガイ!」
「もちろんだ。そして、王は僕達の結婚を祝福してくれるだろう」
「なぜ王がお前たちの結婚を祝福するんだ?」
「そんなこともわからないのかい? もちろんリートネ村を国内屈指の要所にまで育てたからさ。その立役者と長の娘の結婚だよ? その二人を呼んだセレモニーで大々的に祝わないなんてありえないだろう?」
あまりのおめでたさにめまいがするよ。
その功績はオレが用意したものだし、魔王討伐と並ぶものでもない。
仮に勲功を労われるとしても、別日にするだろうよ。
「随分な自信だな」
「あたりまえよ! 剣聖の一番弟子になる人なのよ!」
だからそんな話は知らないって。
「本当に? 剣聖の弟子に?」
「も、もちろんだとも! オレには商才だけじゃなく、剣の腕もあると認めてもらったんだ!」
ウソをついているうちに自分でも信じてしまったのか、それとも単にひっこみがつかないのか。
いずれにせよどうしようもないな。
「ほぉぉぉら見なさい! 恥をかく前にさっさと出ていったらどう?」
「そういうわけにはいかないんだよなあ。王にどうしてもと呼ばれてるんで」
「ああもう! あんたの戯言は聞き飽きたわ! 元妻のよしみで助けてあげようと思ったのに! このままここにいて、縛り首にでもなんでもなればいい!」
「むしろお前達がそうならないようにはしてやるよ」
そんなオレ達のやりとりをスティラは微笑みながら、キルケは目を吊り上げて見ている。
貴族たちの間にも呆れた雰囲気が漂う。
「な、なんだ……?」
さすがのガイも周囲の様子がおかしいことに気づき始めたようだ。
――カツーーン!!
その時、玉座の傍らに立つ衛兵が槍で地面を打ち鳴らした。
「ライガンス王のおなぁぁああありいいぃぃいい!」
よく通る衛兵の声とともに、玉座の後ろにあるカーテンの向こうから王が現れた。
60歳は超えているはずなのに、未だにその眼光は衰えていない。
賢王と呼ばれる人物だ。
その場にいた全員が跪く。
「面をあげよ」
低く良く通る声が謁見の間に響いた。
王はゆっくりとその場にいた全員を見渡した。
「む……そなたは?」
王が目を止めたのはガイだ。
ガイはぱぁっと顔を明るくし、得意げな視線を一瞬オレに向けた。
「はっ! リートネ村のガイでございます。こちらは、婚約者のリーズです」
王様に話しかけられて、もうニッコニコのガイ君である。
彼の中ではこれからおきるバラ色の展開で頭がいっぱいなのだろう。
「リーズ? ラディウスの嫁の名ではなかったか?」
「彼とは離婚しました。今ではリーズ村を発展させたガイが夫です」
リーズもまたニッコニコで答える。
オレの名前が王の口から出たことにすら疑問に思わないらしい。
「まことか?」
「はい」
王の問いかけにオレは、静かに頷いた。
王は何かを察したのか、ほんの一瞬だけ口の端を笑みの形に歪めた。
「では祝ってやらねばならぬなあ」
「「ありがとうございます!!」」
ガイとリーズが揃って頭を下げた。
「おや、なぜ貴様らが礼を言うのだ?」
「「へ?」」
「それにガイとやら」
「は、はい……なんでございましょう?」
さすがのガイも不安を隠せない。
「貴様はなぜここにいるのだ?」
「はえ?」
ガイの間抜けな声が謁見の間に静かに響いた。
さて、そろそろネタばらしといこうか。
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