第12話:スティラの場合
---- スティラ視点 ----
セレモニーの控室にいるすべての男達が、私の美貌と胸に釘付けね。
うふふ……気持ちいいわぁ。
でも、ごめんなさいね。
私が愛しているのはラディウス様だけなの。
「おお、大聖女様!」
「スティラ様がいらっしゃったぞ!」
そんな私に男たちが私に群がってくる。
「皆様ごきげんよう」
私はドレスの裾をつまみ、貴族式のお辞儀をする。
地方の没落貴族出身なのはコンプレックスだった。
でも母のつまらないプライドに駆られた厳しい貴族教育は、魔王討伐の旅でも大いに役立った。
ラディウス様もキルケも、貴族流の交渉は得意じゃなかったから。
今もこうして裏から王宮を操ってきた成果が出ている。
ここにいるおじさん達全員の弱みをがっちり握っているのよね。
恐妻家の浮気の証拠、脱税の証拠、禁止されている国との奴隷売買の証拠……全部押さえてある。
もちろんその代わりに甘い汁を吸わせてあげることも忘れていない。
貴族たちのネットワークを使って、しっかり儲かる仕組みを作ってある。
彼らはもう私なしでは今の地位と生活を維持できないのだ。
私達は魔王討伐が終われば、平和の象徴として利用されるだけ利用され、都合が悪くなればポイ捨てされることはわかりきっていた。
だからしっかり準備してきたのだ。
ラディウス様もキルケも狸親父どもの食い物になんて絶対させない。
それがこんなところで役立つなんてね。
「あなたがガイ様ですね」
私はラディウス様の妻を寝取った男の前へと進んだ。
元妻のリーズと合わせて人相は調べてある。
「え、あ……はい……オレ……あ、いや私のことをご存知で?」
ガイの視線が私の顔、胸元、スリットから除く脚へと移り、鼻の下をびろびろに伸ばしている。
そんなガイを見て、隣のリーズが顔をしかめる。
ここでそんな表情を出してしまうあたり、全くなっていない。
社交界で生きていくには修行がたりないようね。
「オーラが違いますもの。成功された方の魅力を感じますわ」
「そ、そうでしょうか……えへへ……」
ここまであっさり籠絡されてくれるバカが相手だと、ちょっと悪い気すらしてしまう。
もちろんラディウスに嫌な思いをさせたこの二人を許すことなんて、絶対にないんだけど。
「申し遅れました。スティラと申します。お恥ずかしながら、大聖女などと呼ばれていますわ」
「あなたがあの大聖女様! 私はガイと申します。リトーネ村の商会代表をしています」
「まあまあ、最近大きくなった町ですわね。噂は王都まで届いておりますわ」
ここでラディウス様の名前を出したりなんてしない。
どうやらこのガイとかいう男、自分の実績を実力だと勘違いしているらしい。
私がここでガイを糾弾するのは簡単だ。
でもラディウス様には何かお考えがあるようなので、私がここで動くような真似はしない。
でもちょっとだけお手伝いをしておこう。
ふふ……このおバカさんには調子にのってもらった方が、真実を知った時の落差が大きいでしょう?
「おお……大聖女様にまで知っていただけているとは」
「あの町はガイ様の手によって、これから更に大きくなるのでしょうね」
「もちろんですよ。なあリーズ」
「も、もちろんよ。王都にだって負けない街になるんだから」
嫉妬心丸出しで私を睨んでいたリーズが、慌ててそんな戯言を口にする。
「お、王が治める王都よりも?」
「な、なんて不敬な」
周囲の貴族たちがざわつき出した。
やれやれ、こんなバカがラディウス様の愛を受けていたなんて、許しがたい。
「ち、違うんです……。おいリーズ!」
この程度で大慌てだなんて、ガイも大したことのない男ね。
とても要所の街一つを運営していけるとは思えない。
「王都により貢献できるよう頑張るという意味ですわよね?」
「そ、そうなんですよ!」
私の助け舟にガイはコクコクと頷く。一方のリーズは貴族達の視線に震えたままだ。
「まあまあ皆さん、せっかく前途有望な他国とのパイプ役なのです。あまりいじめないであげてくださいな」
「ははは、わかっていますよ」
「ガイ君には期待しているからね」
私の一言で、貴族たちが笑顔に戻る。
もちろんその目は笑っていないが。
「で、ですよね!」
「よかったわ。さすがガイね」
貴族たちの言葉を真に受けた二人はほっと胸を撫で下ろしている。
「それにしても楽しみだなあ。今日僕達はこんなにも立派な方々に祝福されるんだね」
ガイが慌てて話題を変える。
「ええ本当に。ラディウスなんかと別れて、本当に正解だったわ」
リーズもうっとりとそれに応える。
「ラディ――」
ラディウス様の名が出たことに驚く貴族を、私は目で制した。
彼らには後でもう少し釘をさしておきましょう。
「あらまあ、奥様は再婚ですのね」
「え……ええ。前の夫はとてもひどい男で……稼げないだけじゃなく、暴力は振るうし、浮気はするし、借金はするしで……もう……」
この国おいて、女性の離婚は恥だ。
それをごまかすように、リーズは元夫の悪口をまくしたてた。
「それは大変でしたわね。きっとガイ様が護ってくださいますわ」
「もちろんですよ。剣聖とも知り合いですからね! あんな男の好きにはさせませんよ!」
鼻息を荒くするガイである。
さて、このあたりで十分かしら。
彼らが王とラディウス様に謁見した時の顔が楽しみだわ。
「皆様、セレモニーの準備が整いました。謁見の間にお越しください」
兵士の宣言が行われると、貴族たちはぞろぞろと控室を出て行く。
「今の何?」
移動中、キルケがこっそり聞いてきた。
「うふふ。すぐにわかるわ」
「スティラがそう言う時はだいたいろくなことがない」
「失礼ね。退屈なセレモニーがエンタメになるのよ?」
「ふ、不安だわ……」
キルケはかわいらしいお目々をジトっと細めた。
あらあら、失礼しちゃうわねえ。
うふふふふ……。
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