第3話 特級 霜降竜フリガドラ
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シルア地方では語られていた。
「この雪の中で困ったらその名を叫びなさい。きっと迎えに来てくれるはずよ」
この地方は本土よりも北にあり雪の銀世界と呼ばれていた。
その美しさのあまり、本土から観光に来る人も少なからずいるそうだ。
「誰が来てくれるの?」
「う~ん、私たちの神様かな?」
「神様?」
「そうよ。私たちに永遠の救いをもたらしてくれの。今日の話はおしまいこれでおしまい!ユナは早く寝なさい」
「は~い」
白銀の世界に舞い降りる、シルアの守護者――その名は「フリガドラ」。
フリガドラは雪と氷の魔力をまとった伝説のドラゴンで、北の果ての「シシラト山脈」に棲んでいる。
その翼がひとたびはためけば、嵐のような吹雪が巻き起こり、大地すら凍てつくという。
古の叡智を宿し、人里には滅多に姿を見せないが、シルアに危機が迫るとき、氷の羽音と共に現れる。
人々はその姿を「霜降竜」と呼び、畏れと敬意をもって語り継いでいる。
その姿はまるで雪そのものから生まれたかのように純白で、体から常に冷気が漂い、羽ばたけば吹雪が巻き起こる。
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セナはまだ小さな少女だ。
町では幸せのの宅急便といわれている。
「ねぇ、お母さん!町の外に行ってきていい?」
「何しに行くの?」
「お花を探しに行くの!」
「暗くなる前に帰るのよ。絶対にね」
セナは町の外れ、雪に沈む野原を歩いていた。
冬でも咲くという赤い花――「ユキバラ」を探すために。
「お母さんに、プレゼントしたいな……」
小さな手が、雪をかき分け、探し続ける。
雪は昼のうちは弱く、歩きやすかった。
けれど空にはすでに暗い雲が広がり始めていた。
足跡は、雪の地の奥へ続いていた。
セナは、もう何度も来た場所だと自分に言い聞かせながら進んだ。
「大丈夫。少しだけ……ちょっとだけ、だから」
すると足元に一輪の赤い花が咲いていた。
「あった!」
セナはユキバラを摘んだ。
けれどその頃には、空は急に暗くなり、冷たい風が耳を刺した。
しかし周りは吹雪だった。
それも、尋常ではない。
目の前すら見えず、足跡も消えていく。
ドガーン!
雷だろうか低いうなりが遠くで鳴り響き、灰色の空にの1本光が走った。
「……あれ? こっち……だったよね……?」
セナは歩く。手を前に伸ばしながら。
だが進めば進むほど道は失われていく。
やがて彼女の足は、雪の下に隠れた石に躓き、バランスを崩した。
「ちょっと……まって……」
セナはカゴを落とし、摘んだばかりの花が、雪面に散った。
セナは花を拾おうと手を伸ばした。
そのとき、突風が彼女の身体を横に押し倒す。
「あっ!」
膝をついたとき、足元にあった地面が、崩れた。
そこから先は、雪で隠された崖だった。
身体が傾き、手が空を掴もうとする。
何もつかめない。
何もない。
体が宙に浮いていた。
「キャーー!…………誰か…助けて!……、フリガドラ!」
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目が覚めると崖下に落ちるはずだったセナの身体が、突如として現れた何かに受け止められた。
風が裂ける音。
周囲の雪が、吸い込まれるように一方向へ流れる。
氷の翼だった。
滑らかで、鋭く、巨大な翼が、空間を包み込むように展開されていた。
鱗は霜に覆われ、全身から冷気が霧のように立ち昇る。
一瞬、周囲の雪が空中で止まった。
吹雪が凍り、風が静まる。
空の裂け目から舞い降りたのは――
伝説の白き竜、霜降竜フリガドラ。
その姿は、空と地の狭間に立つ冬の王のようだった。
爪は鋭く、だが触れるものを決して裂かず、
崖から滑り落ちた少女の小さな身体を、宙で支えていた。
「お嬢さん、大丈夫?」
竜の眼が、動かない。
深く、青く、澄みきっていた。
セナの髪が風に揺れ、顔がゆっくりと上を向く。
「……ほんとに、いたんだ……」
かすれた声が白い息とともに竜の顔に届いた。
フリガドラは応えない。
ただ、氷の翼をゆるやかに動かし続けた。
「…………フフフ。町で親が待っているよ」
フリガドラは必要なことしか喋らない。
けれど、セナはそれでよかった。
それが伝説というものだ。
「…………ありがとうフリガドラ!」
フリガドラは一部の人間から嫌われている。
この国を白の一色に変えた悪の竜だと。
しかしセナは信じている。
フリガドラはそんな竜ではないということを。
「これはひどい猛吹雪だ、少し飛ばすよ」
フリガドラは翼を大きく広げた。
翼の羽ばたく音が耳の隣で聴こえる。
フリガドラの背に乗ったセナは、冷たい空の中を風よりも速く駆けた。
町で聞いたことのある“伝説”の続きを、自分の目で確かめているような気がした。
雪と風が、彼の軌跡を避けるように裂けていった。
崖の下には、ただ静かな氷原が広がっていた。
「……うわ!」
セナの口からこぼれた感嘆の声。
でも、フリガドラは何も言わない。ただ静かに、まっすぐに飛んでいく。
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10分ほどたっただろうか。
やがて、吹雪の切れ間から、セナの町が見えてきた。
小さな灯りが点々とともり、煙突からは温かな煙が上がっている。
「…………あ!お母さん!」
町の門の前には二つの人影がある。
セナの親だろう。
フリガドラは空間を割いて滑空した。
「…………!…………なんだ妙だな」
フリガドラはなにか異質の違和感に気付き、今まで勢いを殺した。
「どうしたの?」
セナには当然何もおかしなことは感じない。
この違和感はフリガドラにさえ、微々たるものだった。
セナがわかるはずないのである。
「…………いやなんでもない」
フリガドラはそれを自分の勘違いだと割り振った。
それはセナを心配させないためでもあるだろう。
そしてさっきまでの速度は出さずゆっくり地に近づいた。
「……セナ⁉セナなの⁉よかった……!」
フリガドラはゆっくりと地に降り立った。
母の声が風を裂いて駆け寄る。
セナは、その胸に飛び込んだ。
「ただいま……お母さん。はい、これ……!」
セナは懐から、たった一輪だけ残ったユキバラを差し出した。
吹雪の中でも、色褪せることなく、赤く咲いていた。
「フリガドラ様!うちの娘を救ってくれて本当にありがとうございます!」
「礼はいらないよ、さっさと門の内側に戻った方がいいだろう。何かが来るよ」
フリガドラはセナ達を門兵に引き渡し、門とは反対側を向いた。
異質なものがこちらに来るのを感じる。
違和感は地面に降りることに強固なものとなった。
「フ、フリガドラ様!なにが来ているのでしょうか?」
一人の門兵が聞いた。
一般人にはその片鱗を知ることはできない。
「…………フフフ。…………来るよあの魔法使いが」
フリガドラには見えている。
強大な魔力を持つものが。
「君たちは下がっているとといい、これは特級同士の戦いだ。君たちではどうこうなる話ではない」
フリガドラは忠告した。
「は、はい!」
その謎の人物の姿はだんだん肉眼でも見えるようになってきた。
「あれは、氷の道?」
目線の先には空中に浮いた一本の氷の道ができていた。
そしてそこを走るがごとく、乗っている者がいた。
「アッハッハッハ!久しぶりだなフリガドラ!何年ぶりだ?」
「100年ぶりだよレーラ。にしても二人で出向かうとは君も落ちたものだよね」
その氷の上にいるのは赤髪の少年と黄色の髪をした女性だ
「お前こそ人助けなんかして、変わっちまったな」
「あ…………あのすいません!俺は教育実習生のようなもので二人で戦いあってください」
「レーラを殺してから、殺す。それでいいかな?」
読んでいただきたいありがとうございます。