第1話 老人に殺された
慣れていないので大目に見てやってください。
俺の名前は畑中雄太。
22歳の社会人だ。
社会人になるために都会に暮らしはじめ、まんまと騙された人間だ。
何騙されたって?
人間だよ…………、人間。俺はブラック企業に入れられたんだ…………
超長時間労働、ほぼない休日、当然のようにない残業代。
いやぁ~完全に騙されたよね。都会きて右も左もわかんないとき「どうですか?」っと良い条件をぶつけてきたのだから。
そんなこんなで外れくじを引き、今に至るのである。
プルルルル___
うわ!上司からだよ……。こんなの電話に出たら、ろくなことにならんよ。
「はい。どうされましたか?」
「ごめん。昨日辞めた田中の仕事があるそうだ。すまんがもう1度職場に戻ってきてほしいそうだ。」
「…え?どうゆうこ」
「あ!あと、俺の分も頼む。職場に忘れちまったようでな。……ブチ……」
は?こいつはマジで許せない。
今何時だかわかってんのか⁉1時だぞ⁉
今日は早く終わったっていうのに!
まあもう今日じゃなくなってるけど。
しかもぉ!自分のミスまで押し付けやがって……!
どうせお前は今から寝るつもりなんだろ!
一度帰り始めたのに職場に戻るってないからね⁉
あいつ次会ったらぶっ殺してやる!
「絶対にぶっ……」
おっと危ない危ない、落ち着け俺……。
こんな街中で叫んだら近所迷惑だ。ここは田舎とは違うんだ。
近くに人はほぼいないけれど、普通の時間軸じゃ今はみな睡眠タイムだ。
仕方ない文句を言ったって進まないんだ。切り換えるんだ。
俺は上司にむかつきながらもそう決意し、俺はクルリと進行方向変えた。
「クソ!明日絶対にやめてやる。明日絶対にやめて……………」
小声で悪口言っていると、肩に弱弱しい力がのせられた。
その手の力やしわの多さにそれが年寄りの手だと気づいた。
こんな夜中に何だろうか?
最近は理不尽にキレる年寄りが多いだとか。
俺は疲れているんだ。
そうゆうのはやめてほしい。
「どうしましたか?もしかしてうるさかったですか?すいません!」
俺の上司の愚痴はあまり大きい声ではなかったし、迷惑のかかることではないだろう。
当然心では謝っていないが、会社で身につけられた技‘‘謝罪スタート‘‘を使って、俺は謝罪をしつつ、後ろを振り返った。
「いやいやそんなことあらぬよ。それより若者よ、どうやら困っているようじゃのう」
振り返った先には黒いフードを被った怪しい老人がいた。
なんだこの人!
喋り方も胡散臭いし、恰好も汚い。
「えっと…はい。そうっすね…………」
違うなら話しかけてこないでよ。
夜中に老人に話しかけられるなんてギリホラーだよ、ホラー。
今は苛立ちが勝ってるけどが、普通に生活していたらビビり散らかしていた。
「やはりそうであるか……。そこで君にいい提案がある」
良い提案?…………あぁ、宗教勧誘的なやつか。
はっはっは!申し訳ないなその手には騙されないんだよ。
1度騙されているからね。
「ごめんなさ~い!今時間なくて、間に合ってます!」
俺はそう言ってこの場を立ち去ろうとした。
こうゆうのはきっぱり断るのが1番だ。
俺は都会でてそう気づいた。
「はっはっは!まちたまえ」
老人笑い声と共にリュックについてる取っ手?を強く握りしめた。
え?こうゆうことまでしてくるの?
「ちょっと!やめてください。俺はまだ仕事が残っているんだ!」
ホントに言ってて悲しくなるけどやるしかないんだ。
そう思い老人の手を放そうとした。
だがしかし結果はなんと驚き!びくともしなかったのだ。
「効かぬよ!それでおぬし、異世界転生したくないか?」
なんなんだよこの老人!最初ちょっと怪しい人程度だと思っていたけどこの人はやばい人だよ、やばい人!
てゆうか、異世界転生したくないか?ってなんだよ⁉どうゆう宗教なんだ⁉
そんなこと出来たら当然願ったものだがそれはファンタジーの話なのだ。
妄想の話はやめていただきたい。
この社畜からは誰も逃れられない。
「そんな出来たらいいですけど、出来ないでしょ!出来ないこと提案しないでください!」
そう俺が叫ぶと老人がニヤリと笑った。あと、さっきの言葉前言撤回!やばい人に会ったときは叫んでもいい!
「おお!いいんじゃな?じゃあ今から殺すぞ」
そう言うと握っていない反対の手から黒い光をでた。
え?まってほんとにできんのかよ⁉
「待って待って!」
すると老人は焦るように答えた。
「え?どうしてじゃ?」
「殺すぞぉーって言われて反抗しないやつがいるか!」
「いやぁだって異世界転生したいんじゃろ。異世界転生しますは、今から殺しますと同じ意味だぞ」
なんなんだよこの人。思考が怖いよ。
どうゆう生活してたらそうなるんだ。
というかほんとに異世界に行けるのか?
「待って異世界転生したいんだけど、そ…………」
「したいんじゃな!じゃあさらばだ!」
その言葉と共に老人の手から放たれる黒い光が大きくなった。
グサッ。
は?
良くない音を聞き、腹に目をやった。
すると、トンネルができてました!
あら凄い!
「って言ってる場合じゃあねぇッ!待てッつってんだろうがよ!クソじじい!」
「それじゃあ頑張るんだぞ」
その言葉聞き終わると目が眩い光で包み込まれた。
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えー、おじいちゃんに殺されました。
遂にね、上司より憎い存在が現れました。
こんな事夢にも思っていなかったよ。
しかも自分よりはるかに弱そうな、‘‘おじいちゃん‘‘にね。
正直悔しいよ、握力で老人に負けるなんてね。この成人が。
実はもう少しで勝てそうな雰囲気はあったんだ。その分悔しい部分があるよね。
え?リュックを捨てたらよかった?
…………
クソがぁ~~~!その手があったか!
力で敵わないのは良いとしても、頭で勝てない(?)のはよろしくない。
過ぎたことは仕方ない、さっきも心の中で誓ったはずだ。文句を言ったって進まないから切り換えるんだ。
よし!
俺は頬を両手で叩いた。
ということで異世界に来ちゃいました。
ここで上司にざまぁと思う心が先に出てしまうのは、心が廃れているだろうか?
いや、そんなことないな。安心しよう。
「んで、どうなってんだこれはーー⁉」
そう目の前に広がっていたのは、銀世界だった。
これは、口でツッコム案件だよね。
360度周りを見渡して雪しか見えなかった。
異世界のスタートって家の中とかでじまるもんじゃないのか?
少なくとも洞窟とか森林の中だよね。
こんな真っ白な世界で何をしたらいいんだ!
俺の出身は東北の方だからわかる。これは人が死ぬやつだ。
雪は踏み込んでもそこが見えないし、降りやみそう雰囲気は一切ない。
「どうしたらいいんだよ!」
しかも、体にも異変があるようだ。
これは頬を叩いたとき気づいたが、確実に小顔になっていた。
こ、これはもしかして⁉
そう気になって体に目をやった。
当然さっき空いたトンネルはなく、地面と同化していて見づらいが白に赤いラインが斜めに2本入った単純な服だった。服は着ているようで本当に良かった、流石に裸だったら終わっていたからね。
あとスーツ、オカンに買ってもらったやつだから絶対に返してね。カバンも!
次にズボンを見た。ズボンは長ズボンで、裾が靴下に入っている感覚がある。
色は半分以上雪に埋もれていて見えないが、きっと真っ白なんだろう。多分あの黒一色のフードを着ていたやつが考えたんだろう。なんて単純設計なんだ。
そして服の外から体を触ると、明らかに俺の体とは思えぬほど小さくなっていた。
なるほど、これは…………
「確実に体が変わるタイプの異世界転生だ」
よし!これはとてもうれしい。
現代に生きている人にとって、体というコンプレックスに敵うものはいない。俺もそのうちの一人だ。
これ1つでおじいちゃん対する気持ちが、憎いから尊敬になったまである。
この体だけは異世界に合わせていて、親切設計のようだ。
もしかして髪色も変わってたりして…………!
俺は前髪下した。
「…………あ、赤だと⁉」
これは激熱だな。
これは、主人公気質ビンビンだ。
赤色で、主人公じゃなかった戦隊ヒーローがいただろうか?俺は知らない。これは、……来たな!
リスポーン地点と誘い方さえ違えば、確実にあの老人を慕っていただろう。そこがあの老人らしいところではあるが……。
まあいいや!色々と不満はあるが、与えられたものは充分ある!
「とりあえずここから抜け出そう!そしてオールで自分の顔が見たい!」
俺はそう決意し、何も見えない銀世界を歩き始めた。
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どうもこんにちは、畑中です。
どうやら今日の出張先は雪国みたい。しかも上司は、取引先も教えくれない。
だからといって諦めてはならない、逆らってはならない。それが社会というものだ。
もうほんとに………
「どこなんだよ!取引先ーー!!!!!!」
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この異世界に来てから何時間たっただろうか?
木一本生えていない、生命の欠片も感じられないこの場所でどれほど歩いただろうか?
Qアンサー……10時間。
あのおじさんはやっぱりバカだったんだ。慕うになんてもんに値するはずがない。
10時間も歩いてんだよ⁉
この時間は、俺の体感でしかないが10時間以上は歩いている自信がある。
一体この時間で何か成果があっただろうか?この時間に意味はあるのだろうか?
Qアンサー……ない!ハッキリ言ってない!絶対にない!
シャレにならんよね。いくら東北出身だからといって無理なもんは無理なのだ!
「……疲れた。」
さすがに少し休まないと死んでまう。
だがしかし気づきもあった。それはある程度寒さに耐性があることだ。流石に今着ている長袖長ズボンじゃ、とっくのとうに死んでいただろう。
スキー場というのはあのモッフモッフの服着ているから楽しめるのだ。半袖短パンで行くことは自殺行為だ。
そして俺はそれを行っているんだ。耐性の1つや2つないと、あの老人は殺人鬼になる。
でもちょっと、魔法の一種を見れた感じがして嬉しい。魔法と剣の世界に転生したのか確証がなかったからな。
けれど、ここで喜んではいけない!ここが死地だということ忘れてはならない。そしてこれをあやつが見ていたら、これを良い事だと勘違いしてしまう。
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「もう歩くのが限界だな…………」
あれから5時間たった。
さすがに15時間ぶっとうしで歩いているんだ、限界近づいてるに決まっている。
足の裏の皮も全部とれているだろう、こんなに運動を久しぶりだからな。全部はさすがに嘘だけど。
にしてもよくここまで頑張った。俺の足!
雪の道を15時間も歩いたんだ。普通の道を歩くのとはわけがちがう。
多分これも異世界の影響か、あのおじさんによって、何かしらの強化はされているんだろう。
これは元居た世界の人が人間が出せる体力ではない。
「よっこいしょ。はぁ~。…………腹減ったなあ」
俺はとりあえず雪に埋もれて座った。
おじを感じるため息してごめんね。さすがに疲れたから年を感じる声を出してしまった。きっと見た目にはそぐわないと思う。
そして疲弊の次に感じているのは食欲だ。
すっげぇー腹が減ったなぁ、あっちの世界の時間から合わせると20時間は何も食っていない。
食欲はあった方が、料理を楽しめるため異世界に行っても感じたい欲望だ。でもこういう困った状況の時にはない方がいいな。
「あぁ、やばい。眠たくなってきたな。このまま寝てぇ」
食欲の次は睡眠欲だ。
これはまずいね。低体温症で死んでしまう。
低体温症は体温がー35度になったらおきるそうだ。
ここは余裕でその温度を超えているだろう。
絶対に寝ないようにしないといけない。
「…………本当に寝たい」
異世界に来たっていうのにこんな序盤に死にたくねぇよ。
俺はいつの間にか目をこすっていた。
この眠気に勝つんだ…………やばい、まぶたが勝手に閉じていく…………寝ちまう…………。
「ハッハッハッハッハ!この俺が眠気なんかに負けるはずがないだろう!この程度で俺が死ぬと思ったか!」
俺はもう1度腰を上げた。
この程度の眠気に俺に勝てる思ったか!俺はいつも職場という名の戦場で睡眠の悪魔と戦っているんだ。
こんな極地毎日行っている!この程度で弱音を吐く社会人は2流だ!
睡眠など自分への甘えだ!コントロールするんだよ!
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1度座ってから1時間ほどたっただろうか?
「…………眠らせろ」
俺は亡霊のようになってしまいました。
ごめんなさい、さっきの話は噓です。助けてください!
ちょっと大口叩きすぎました。
死にます!ほんとに。
そこら辺の人と比べれば多少あるだろうけど、ここを耐えきるのは無理だよね。
こんな雪の世界じゃ死体も見つからないだろう。
人間の真の限界を感じてるよ。今。
これは、会社でも感じたことない程死に近い感覚だ。
「…………しぬ」
そう思い、まぶたを今度こそ閉じた。
「ウオオオオーーーーーー!」
ん⁉
あまりの大声にまぶたを開けざるおえなかった。
これ俺の声じゃないからね!
すると茶色の人型の何かが全速力で近づいてきた。
もしかして人なのか⁉
「た、助けてください!」
「ウオオオオーーーーーー!」
なんていい返事だ!
これは上司からも好かれるだろう。
まだ少し遠くて見えないが、きっと良い人だろう。
「ウオオオオーーーーーー!」
だんだん近づいてきたな!
「助けてくれ」
俺は気力を振り絞って助けを求めた。
ん?この人少し変わった走り方するな。かなり角度のある前傾姿勢で手を地面にたたきつけている。
しかもかなりデカいのか?人の5倍くらいだろうか、この大きさは。
異世界らしい大きさだな!やっぱり巨人族とかだろうか!
「ありが…………」
「ウオオオオーーーーーー!」
ってこれ魔物じゃねぇか!!!!
俺はそう気づくと同時に、弱りに弱った足で魔物から逃げ始めた。
やばいぞこれは!
「ウオオオオーーーーーー!」
超巨大ゴリラみたいなものか?俺が今襲われているのは。
当然もともといた世界では、絶対に有り得ない生き物だ。
服だと思っていたものもすべて体毛だった。
こいつ俺のこと食おうとしてるよね?
どんどんその魔物が俺に近づいてくる。
早く逃げないと!
「ウオオオオーーーーーー!」
俺は今出せる最大の脚力で逃げた。
だがその魔物とてつもなく早く、俺との差は『アキレスと亀』よりひどいものだ。
「ウオオオオーーーーーーーー!!!!」
「痛ってぇ!」
ついに魔物が俺に追いつき、俺のことを掴んだ!
その魔物の爪が俺の腹にまたもや穴を作ろうとしており、真っ白の雪を赤で染めていた。
クソ!大量に血が出てる!
今までことがどうでもよくなるほど痛い。
このまま死んじまうのか!
「ウオオオオーーーーーーーー!!!!」
目の前にいる超巨大ゴリラは人間一人分の口を開け、俺のことを食べようとした。
おいこのまま食われちまう!
ほんとに異世界が終わっちまう。
せっかく転生したっていうのに…………!
剣も魔法も見づにか?
ダメだろそんなの!
使いてぇだろ、魔法!
「魔法を使わせろぉ!」
そう叫ぶと体中に感じる寒気が手に集まるのを感じた。
「ッフ!最高だ」
俺は掴まれていた体から右手引っこ抜いた。
そして超巨大ゴリラの顔に向かって手をかざした。
「氷雷」
読んでいただきたいありがとうございます。