第五話 グローリー6の再会
【前回のあらすじ】
転校先のクラスメイトから興味が一ミリも湧かない身内話を聞かされる(フラグ)
五月五日 大型連休の終盤。
駅前では六人の女子高生が、久方ぶりの再会を喜んでいた。
「なごみー! ひさしぶりー!」
「怜も久しぶりー!」
そのままハイタッチを決める奥寺なごみと北裏怜。怜はなごみに比べると10センチほど小柄だが、見るからに活発で気の強そうな雰囲気の女子だった。
「いやー、昨日までラクロス部の合宿でくたくただったんだけど、今日のことを思うと全然まだまだ余裕だったよ! 超元気!」
「怜、ほんと昔から体力が底なしだよね」
その横では眼鏡の女子と、長い髪を二つ結びにしたそばかすの女子がスマホの画面を見ながら雑談している。狭陽奈と夜野真奈子である。
「わあああまなやんのイラストすっごく綺麗でかっこいい! さすが神絵師!」
「大袈裟だよぉ。私より上手い人いっぱいいるのに」
「あたしはまなやんの絵が好きなの! 中学の頃からまなやんの描く絵が一番よかったし、あの時描いてもらった推しの絵、まだ持ってるもん」
「そんな大声で言われると恥ずかしいよぉ……しかもあれシャーペンで描いたやつなのに」
目をキラキラさせる陽奈に、真奈子は褒めちぎられすぎて苦笑いする。
更にその横では、メンバーで一番小柄な黒小路美涼と、メンバーで一番背の高い深澤香弥が会話していた。20センチ程もある身長差は同い年であるはずなのに、歳の離れた姉妹に見えなくもない。
「ふーちゃん、学年変わってどう? 元気でやってる?」
「別に? 相変わらず一人でいるだけ」
「え!? それって寂しくない?」
「全然。気楽でいい」
「そ、そうなんだー……ふーちゃんは強いなあ」
くるくると表情が変わる美涼とは対照的に、香弥は淡々としていた。
「ねえねえダーリン! まなやんのイラストすごいんだよ!」
陽奈が真奈子のスマホを持ったまま割り込んできた。香弥は「どんなの?」とスマホを覗き込んで小さく感嘆の声を上げる。陽奈にダーリンと呼ばれても全くそこには気にも留めない。
「まなやん、この絵あとであたしのスマホに送って!」
「はいはい、落ち着いてねぇ。てか、先にスマホ返してくれないと送りようがないんだけど」
陽奈からスマホを返してもらおうと真奈子が手を伸ばした途端、美涼が「あー!!」と素っ頓狂な声を上げた。
「あの店の看板! いつの間にか新しくなってる!」
「……それ驚くことなの?」
「重要だよ! 前のネコ人間の絵、シュール可愛くて好きだったのに」
「そんな看板だっけ?」
首をかしげる真奈子達。そんな四人を見ながら怜は「うちら、いっつもこんな感じだよね」と楽しそうに笑う。
「だよね」
なごみはそう返事しながら、進路がバラバラになってもこの絆が続いてくることに幸せを噛みしめていた。
◆
のんびりとウィンドウショッピングを満喫した後、六人はカラオケ屋へ。
「ふーちゃん、マイク持つと人格変わるよね」
なごみが笑う。
「人格は変わってないと思うけど」
「でも普段ハスキーボイスなのにあれだけ高音出せるのはすごいって」
「ん。時々ランニングやってるから肺活量鍛えられてるかも」
褒めちぎられても香弥は淡々とした態度を崩さない。
「きゃー、ダーリンってばストイックぅ。次、ボカロのやつ歌って!」
「あー……ボカロは息継ぎが独特だからちょっと……」
「じゃあこっちのアニソン! あとあたしの推しの曲も!」
嬉々としてリクエストを投げる陽奈を見ながら、怜は「相変わらず香弥が絡むとテンション高いな」と呆れながら呟く。
「……ヒナち、あんた青森でもこんな感じなの?」
「え? え? そんなことはない……かな……と思う……」
怜から飛んできた疑問に、陽奈は気まずそうに目を泳がせる。
「絶対そのノリは直ってなさそう。あと香弥にリクエストするのはいいけど順番は守りなよ」
怜がため息をついた。
ちなみに実際青森へ行っても陽奈はこんなノリである。
「そう言えばスズ、今の部活は続けてるの?」
持っているトートバッグの中身を整理しながら、真奈子は隣にいる美涼に話しかけた。
「うん、去年と同じ漫研部。週一しかやってない部活だけど」
「いいなぁ。私の学校、お堅すぎてそういうの禁止になってるんだよねぇ。最近はどういうの描いてるの?」
真奈子が食いついてくるのを見て、美涼はちょっと困った顔をする。
「うーん……描きかけのやつばっかりで見せられるのが今のとこないかなあ……それにちょっとスランプ気味って感じだし」
「え、スズ、スランプって大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ、まなやん。気味ってだけだから。たまにはそういう日もあるって!」
「そうかなぁ……でもスズが言うなら大丈夫か」
美涼は「そうだよ大丈夫だよ~」と緊張感のない声で返事しながら笑った。
異変が起きたのは、この数分後だった。
「え……?」
急に不快な耳鳴りに襲われ、マイクを持って歌っていたなごみの頭がふらついた。
いや、なごみだけではない。他のメンバーも顔を苦痛に歪ませて同じような症状になっている。
ある者は頭を抑え、ある者はテーブルに突っ伏した勢いで空のグラスをひっくり返し、またある者はソファの端から崩れ落ち、床に転がった。
この不快な現象は数十秒ほど続き、耳鳴りが治まったところでなごみは辺りを見回した。
「何なの、今の……?」
六人全員が耳鳴りとふらつきに襲われたという謎現象。なごみはそっとドアを開け、外の様子を見に行ったが、廊下では何事もなく従業員が料理を運んでいたし、他の個室からは誰かの音のはずれた歌声がドア越しに微かに聞こえてくる。
「私たち、だけ……?」
あの耳鳴りがしたのは自分達だけ。だが、そんなことはありえるのだろうか。
「なごみ、大変!」
怜がダッシュでこちらに向かってきたので、なごみは部屋に戻ることにした。
「まなやんが起きないの!」
「えっ!?」
部屋に戻ると、真奈子が床の上にぐったりしたまま動かない。身体を軽く揺すってみるものの、意識がないようだった。
「きゅ、救急車!」
美涼が慌てて立ち上がる。
「その前に店員呼んで」
「そうだった! お店の人ー!」
香弥に言われて、美涼は大急ぎで廊下に出て行った。
「……そこにある備え付けの電話使った方が早いんじゃ」
「香弥、あんたはあんたで冷静すぎ! あー、もう、どうすんだよこんな緊急事態……」
怜は、香弥と陽奈に介抱されている真奈子を見ながら頭を抱えた。
◆
夜野真奈子が駅近くの総合病院へ運ばれ、近所だから家の電話番号を知っているという美涼からの連絡で、真奈子の両親が病院へ駆けつけたのを確認してからなごみ達は受付の待合で何をする事もなく、ただそこにいた。
とは言え病院での長居は迷惑なので、もう解散しようかと誰かが言い出したところで、なごみたちは医師に呼び止められた。
「君ら、夜野真奈子さんと一緒にいた子だよね?」
「そうですが、何か?」
「彼女が倒れた状況を詳しく知る必要が出てきてね。今、専門家の人たちも来ているから少し時間をもらえないか?」
なごみ達は顔を見合わせた。専門家、という単語が妙に引っかかるが、真奈子に関わることなら無視するわけにもいかない。なごみは真っ先に手を上げた。
「じゃあ、代表して私が」
「いや、連れてくるように言われたのは君たち全員だ」
全員? 再び彼女たちは困惑したまま顔を見合わせる。
「行くしか……なくない?」
何か大ごとになっているのでは、と不安を抱えながら五人は医師の案内に従うことにした。
◆
案内された部屋は、会議室のような部屋で、そこには既に二人の人間がいた。
目に優しくない黄色と紫のストライプ柄のスーツを着た男と、なごみと同じくらいの年頃の少年だ。
「って、サダ君!? なんで!? なんでこんな所に!?」
「……こっちが聞きたい」
サダと呼ばれた少年がぶっきらぼうに答えた。
「なごみ、この人って知り合い?」
「知り合いというか、うちのクラスに来た転校生だよ!」
久々に仲間達と遊びに行ったらそのうちの一人が倒れて病院に搬送、その病院で自分のクラスにやってきた転校生と遭遇した。まとめてしまえば普通に何を言ってるんだと言われる案件である。
「えーっと、うちのサダがお世話になってるようだね?」
空気が微妙な方向へ流れていきそうなのを、スーツの男が強引につなぎ止めに入る。
「ひとまず自己紹介だけさせて。僕は怪討局中央第五支部所属怪討人・水無口憶人。一応こいつの先輩に当たる」
水無口と名乗る男はにこやかになごみ達に笑いかけるが、なごみ達は全く警戒を解く気にはなれなかった。特に怜は露骨に嫌そうな顔をしながら「なにこの一昔前のお笑い芸人みたいな変な服着てる人」とまで言っている。
「あの、サダ君も言っていた気がするんですけど、その怪討人って言うのは何ですか?」
なごみがそっと質問した。
「いや、一応名乗った時に説明したと思うが。怪異なるものを討伐する仕事」
「あの時は半信半疑というか、サダ君のごっこ遊びだと思ってたし!」
サダはなごみに対して返答する気力を失ったのか、大きなため息をついた。ため息をついたところで、「サダ、仕事しろ」と水無口が横からつつく。
「……夜野真奈子が倒れたのは本人の体調不良でも人為的な事故でもない」
「え?」
真奈子が倒れた時の状況を思い出す。あの時は全員が謎の耳鳴りに襲われて、それが治まってきた時には既に真奈子は意識を失っていた。
状況を考えると、その耳鳴りが原因だと思うが、だったらその耳鳴りは何なのか。何故起きたのか。
「結論だけ言う。この一件はU型怪魔の仕業だ。夜野真奈子はそいつに呪われて襲撃されたんだ」




