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第四話 奥寺なごみという女

【前回のあらすじ】

雪殿高校へ転入生としてやってきたサダ。

いたずら好きの先輩のせいで、名前が刃闇はやみ 運命さだめにされちゃったけど……


 また更に次の休み時間。

 サダは色々理由を付けられて、奥寺おくでらなごみに廊下の隅に呼び出された。

 まさか昨日のM型怪魔を討伐した時に居合わせたのが彼女だとは思わなかった。単純にヘアスタイルが昨日と今と違うので気付くのが遅かった。昨日の彼女は赤茶色の髪をまとめておらず、そのまま下ろしていた。

 呼び出された理由は想像はつく。昨日のことを聞かれるんだろうなと思ってたし、実際そうであった。

「で、あの物体が降ってくる現象は何だったの? サダ君があれを止めたって思っていいんだよね? というか、あれ片付けるの大変だったからね。よく分からないから一応警察呼んで対応してくれたけどさ」

 サダはどう答えるべきか考えた。がっつりとM型怪魔の悪戯に巻き込まれた以上、ごまかしたりはぐらかしたりも通じそうもない。

「言いたくない、って言いたいわけ?」

 黙っていると答えをせかしてきた。なごみからして見れば当然の行動だが、サダにとってはこういうのは苦手であった。こっちが答えるまで少しは待てないのか。

 言葉を選ぶのも面倒になってきたので、サダはポケットから怪討人の身分証を取り出して、なごみに見せた。


 SADAME HAYAMI


 身分証の一番上にはローマ字で氏名が書かれており、その下には十桁ほどの数字の羅列や記号が並んでいる。おそらくIDのような識別番号なのだろう。

 かろうじてなごみが日本語として読めたのは怪討局中央第五支部所属怪討人、と描かれた部分であった。

「怪討局の怪討人。それが俺の正体だ」

「かい、とう……?」

「怪異なるものを討伐する人間、略して怪討人。昨日のあの現象も怪異を引き起こしている怪魔という化け物のせいだったが、俺が討伐した」

 なごみはぽかんとしたままリアクションに困っている。

「まあ結論だけ言うと、もう落下物に襲われる心配はないと思っていい。説明はそれだけだ」

 サダはそのまま身分証をしまうと、その場を立ち去ろうとした。

「サダ君……やっぱ厨二?」

「説明しろといったのはそっちだろ! 言うと思ったけど!」

 まあ、厨二ごっこと思えばそれはそれで問題ないだろう。仮になごみがサダの正体を言いふらしたところで頭がおかしいと疑われるのはなごみの方だ。一般人に怪魔の姿は見えないし、現実離れしすぎて誰も信じるはずがない。



「おーい、どこ行ってたんだよ」

 教室に戻ると、先ほど占った男子がサダに話しかけてきた。

「奥寺なごみに呼ばれただけだ」

 サダはぶっきらぼうに答えながら自分の席へ向かう。

「え? 奥寺に呼ばれたの?」

「たいした用事じゃない」

「そりゃそうだろ。たいした用事だったら大変だろ。……あれ? もしかしてあいつのこと気になる?」

 サダは首をかしげた。気にはしていないが、何故そんな質問をするのだろうか。

「あいつはクラスの世話焼き女王だぜ。誰に対しても優しいというか、面倒見がいいというか。だから、奥寺に気にかけられても変な気を起こすなよ?」

「ふーん」

「ふーん、ってお前、そんな興味ないって顔すんなよ!」

「変な気を起こすなと言ったり興味ない顔をするなと言ったりどっちなんだよ……」

 ふと教室の入り口を見ると、なごみも教室に戻ってきており、クラスの女子から「宿題見せて」とせがまれている。

「だーめ。それは自力でやりなさいって」

「数問だけ! 数問だけでいいから! お願いなごみー」

 どうやらこの女、人望はかなり高いようだった。女子達は頼られているようだし、それでいて相手のいいように流されず、主導権はしっかり自分が握っている。

 サダの脳内でカテゴライズされるなら、スクールカーストの頂上にいる陽キャなリーダー。彼女を悪く言うものは許されず、それでいて万が一彼女が乱心して誰かを攻撃しようならたちまち他の皆も一緒になって攻撃するだろう。


 俺とは全く違う世界の人間すぎて、相容れそうにないな。


 いや、今日まともに自己紹介した時点で妙なレッテルを貼るのは多分良くないな、とサダは我に返る。

 それにそんなことは任務には関係ない。今だけクラスメイト。ただそれだけの話だ。



 放課後。慌ただしい転校初日が終わろうとしていた。

「しっかし、サダ君も変わった時期に転校してきたよね。明日からゴールデンウィークだよ?」

「仕事の都合なんだから仕方がない」

 前の席から話しかけてくるなごみに返答しつつ、帰る支度をしながらなんとなく教室を見回すと、空気が完全にお気楽ムードだ。

 ああ、そういや中学の頃は長期休暇の前になるとこんな感じになるんだっけ。しかし、怪討人であるサダにはあまり関係のない話である。

「私は連休の終わりの方で中学時代の仲間と遊ぶ約束があるんだー」

「そうか。それはよかったな」

 サダからして見れば、なごみの話には全く興味が無かったのだが、彼女の方は「よかったな」を同意としての意味と取ったらしく、詳細を語り始めた。

「中学時代にダンス部に入っててさ、グローリー(シックス)っていうチーム名だけど、その仲間達と今もすごく仲が良くて」

 そうしてなごみはポケットから手帳を取り出し、そこに挟んであった写真をサダに見せた。

 六人の女子、そのうち一人は中学時代のなごみの姿だ。全員おそろいのシャツを着て賞状を持っている辺り、何かの大会の記念写真のようだ。

「こっちがれい。私の相棒って感じで、気が強くて前向きでよく勇気づけられた。その隣にいるのがスズ。いつもおっちょこちょいで放っておけなかった。眼鏡をかけてるのがヒナち。真面目で几帳面なアニメ好きで、料理が得意なの。一番背が高い子がふーちゃん。同じ学校の違うクラスの子だけど、いつも冷静でかっこいいの。で、こっちがまなやん。おっとりしているようですごく頭いいの。あとめちゃくちゃ絵が上手くて神絵師とか呼ばれてるの」

「一気に名前を言われても分かるか」

 しかもサダにとっては完全に無関係の人間である。

「あはは、ごめんごめん。もうすぐ会えると思うとつい嬉しくて。ヒナちとか去年末に青森に引っ越しちゃったんだけど、今回わざわざ来てくれるし」

「だから誰だよ」

 こいつ意外と人の話を聞かないなと、サダは頭を抱えた。そもそも今日会ったばかり(厳密には昨日が初対面だったが)の相手の人間関係の話なんてどこが面白いのか理解が出来ない。興味を引くポイントもなければ、有用な情報でもない。限りなくどうでもいい。

「ちょっとサダくん、聞いてるー?」

「聞かなきゃ駄目なのか、これ……」



 帰宅したサダはぐったりしていた。事務所として使っている拠点には先輩の水無口みなぐちだけがいたが、今朝の偽名の一件を改めて責める気力もなかった。

「サダ、ずいぶん気疲れしているけど久々の学校で疲れた?」

「聞かないで下さいよ……」

 見りゃ分かるだろ、と言わんばかりにサダは返事をする。水無口はそりゃそうだろうな、と言いたげにニヤニヤ笑っている。

「でも一日ではさすがに手がかりは掴めませんでした。「雪殿ゆきどの高校へ転入した際にどう振る舞うべきか」と占ったら手がかりを意味する鍵のカードが出たんですけどね」

「そんなほいほいと占い能力使うなよ……まあ雪殿高校に転入すると言う行為自体は最初で最後だろうけど」

 ニヤニヤ笑いが苦笑いへ変化する水無口。

「ま、とにかく手がかりを掴むまでサダはただの高校生だ。ちゃんと学校生活を楽しんどけよ?」

「……学校ってそんなに面白いとは思わないんですけど」

 サダは目を閉じながら小学校や中学校の生活を思い出す。

 この変な能力のおかげで、周囲からは気味悪がられて浮いていた記憶しかない。育ってきた施設の時点でこうだったため、学校に行ってもそれは変わらなかった。

 そのうち一人でいるのが当たり前になったので単独行動を取るのは得意だったが、逆に団体行動が大の苦手である。一人か二人程度ならどうにかなるが、十人も二十人も、となると正直気が重たくなる。合唱だらけの音楽の授業や運動会のノリは一生わかり合えそうもない。

 そのくせ、それを否定したがる自分がいるのだから見栄を張って大丈夫だと擬態してしまう。

「俺は、ちゃんとやれますよ」

 だけど、大丈夫だと思い込めばもしかしたら、本当に。

 水無口は「そっか」と呟いた。

「ま、気が済むまで踏ん張れ。あ、何かあってもなくてもちゃんと遠慮なく頼れよ。()()()()も捜査に役に立つんだからさ」

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