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第三話 転校生・ハヤミサダメ

【前回のあらすじ】

JK、怪異に遭遇する

 翌朝。早見はやみさだめは時間より早く制服に着替え、自室のデスクの前に座っていた。

 デスクの上には三枚のカードが並べてあった。それぞれ左から弁当のバラン(緑のギザギザ)みたいな図形、王冠を被った棒人間、占という漢字に横棒がもう一つ足されたものが描かれてある。

「岩、王様、鍵の暗示……動じるな、堂々と振る舞え。そうすれば手がかりが得られる……か」

 それから手持ちのルーズリーフに目を通す。乱雑に書かれた文字がびっしり書かれており、書いた本人以外には判別不能だった。

 最後にもう一度三枚のカードを眺めながら、彼はよし、と言わんばかりに頷き、それらを回収した。



 県立雪殿(ゆきどの)高校は住宅街をひたすら進んで行った先にあった。

 その近所には大型の公民館があり、先輩の水無口みなぐちの話によると図書館や自習スペース、予約すれば誰でも使える小型ホールやミニスタジオまであるという。

 豪華。豪華すぎる。と横を通りすがりながらサダは思う。彼の記憶の中の公民館は板張りの広い部屋で、地域のこども会みたいな行事をする場所、としかなかった。

 こんな豪華な公民館があるのなら高校ももっと豪華なのだろうと思ったが、残念ながら校舎はいい感じに年期の入っているごくごく普通の高校であった。

 紺のブレザーに柄の入ったスラックスという制服に身を包み、ちゃんと高校生に擬態できているだろうかと心配しながらまずは校長室のある二階への階段を上る。

 校長室ではまず挨拶と自己紹介に始まり、簡単な学校紹介に続く。

 怪討局の事情は知っているものの、学校はあくまで籍を貸すだけで任務には関与しないこと、一生徒として扱うのでこちらの校則には従うことなどの打ち合わせに入る。

そして最後に教科書と学生証が配布される。

 そう言えば学校で使う偽名を用意したと水無口が言っていた。ちゃんと覚えておかなければと学生証の名前欄を確認すると、


「……は?」



 二年三組の教室。

「突然ですが、今日からうちのクラスに転入生が来ます。お仕事の都合でいつまでいられるかは分からないそうですが、みんなでフォローするように」

「ハヤミ サダメです。よろしく」

 教室にいる生徒達は黒板の前に立っているサダを奇異なる目で見ている。

 それは単純に転入生という新しい要素が入ってきたからではない。

「質問」

 生徒の一人が挙手した。

「……気を悪くしたら謝るけど、それ本名?」

 無理も無かった。なぜなら黒板に書かれた名前はこうだったからだ。


 刃闇 運命


 教室から小声で「やばいセンスの親だとか?」「いや、名字は親もどうにもならんだろ」「厨二感半端ない」とざわついているが、全部本人には聞こえている。

「本名……です。まわりからはサダと呼ばれてるんで、出来ればそれで」

 サダは必死で顔が引きつらないように耐えていた。まずい、この空気はきつい。話題を変えねば。

「趣味は音楽鑑賞。ノリのいい曲なら大体何でも好きです。あと変わっているかもしれないけど、オカルトや都市伝説とかに興味があるのでそういうの知っている人がいたら教えてほしいです。特技はダウジングとカード占いです」

 一瞬教室が静まりかえった後、生徒の興味は「オカルト男子か」「ダウジングって何?」「頼めば占ってくれるかな?」といった方向に流れる。よしよし、狙い通りだ。とサダは平静を取り戻した。

 ここで重要なのは「第一印象を良くして親しみやすくする」のではなく、「少し変わった趣味のある普通の男子だと思わせる」ことだ。はじめからオカルト系が好きだと言っておけば、ユカイ魔関連の情報が集めやすいし、多少怪しまれることをしてもごまかしやすい。昨日夜遅くまで考えた作戦であった。

 自己紹介が終わり、サダの席は窓際最後尾のぼっち席へ案内される。

 教室など中学校以来だ。もう一度クラスメイトの顔をざっと見回すとそんな中で一人、サダの前の席に座っている女生徒の視線が妙に気になった。

 赤茶色の後ろ髪を丸くまとめた活発そうな雰囲気の女子だが、その視線は観察しているような、警戒しているような、そんな視線。

 不思議に思って彼女の方を見ると、何だかどこかで見たことがあるような……? と思ったらあからさまに向こうが目をそらした。

 サダはよく分からない、と言う顔をしてからすぐにまあいいか、と頭を切り替えた。



 次の休み時間。サダは速攻で教室を出ると、人気ひとけの無い場所を探して電話をかけた。通話先はもちろん水無口だ。とりあえず一言は言ってやらないと気が済まなかった。

「はいはいどうしたー?」

「どうしたもこうしたもないです。 何なんですあの偽名!? どこの世界に刃に闇と書いてハヤミと読ませるやつがいるんですか!?」

「あっはっは、傑作だった?」

「同じ音でも速いに水とかあるでしょうよ」

「あるけどさー、なんかかっこよく見えて悔しいからやめた」

「あのですねえ……」

 がくりとうなだれるサダ。

「ま、偽名使う理由なんて大して無いさ。強いて言うなら遊び心ってだけ」

「遊び心で厨二にしないで下さい。というか偽名自体意味なかったんですか」

 上司二人はいつもこうだ。こちらが真面目になればなるほど親切なフリをしてからかう隙を狙っている。

「悪かったって。それじゃ、つかの間の高校生活、頑張れよ」

「任務じゃなくて?」

「どうせ現時点じゃ手がかりゼロだろ。何なら今のうちに高校生ごっこを楽しんどけ。お前さんは中卒でこの業界に入ったんだし、高校行ったのも今日が初めてだろ?」

「あいにく俺は任務を早く終わらせて肩の荷を下ろしたいんです! それじゃあ!」

 強引に通話を終了し、サダは気疲れでよれよれになりながら教室に戻るのであった。



「ねーねーサダくん、ちょっと占ってみてよ」

「あー、俺も占ってるとこ見たい」

 更に次の休み時間。クラスメイト達はサダの占いに食いついてきた。特技が占いと言ったのだからそうなるのも自然ではあった。

「別にいいけど、何を占えばいいんだ?」

「んー……告白したい相手への成功率とか?」

「わかった。あんたの名前と、差し支えがなければ言える範囲で相手のことも教えてほしい」

 サダはカードの束を取り出し、それをシャッフルした。そして三枚のカードを引いてそれを机の上に並べる。

 ものすごい記号的に書かれた天秤らしきものと、銃を構えた棒人間、そして走っているのかふざけ合ってるのかよく分からない二人の棒人間がそれぞれ描かれている。

「天秤、狙撃者、競争の暗示……他に狙っているライバルがいるから成功率は五分五分。だが、告白するなら早くした方がいいかも」

「じゃあ次は俺。部のレギュラー取れるか占える?」

 サダは頷くと再びシャッフルしてカードを引く。

「肉体、心、平坦の暗示。トラブルがなければ割と大丈夫とでている」

「ガチャで推し引ける?」

「金、無、天井の暗示。やるなら破産覚悟だな」

 そんな感じにサダの占いはそこそこ盛り上がっていた。

 占う前に細かく状況を聞いてから実行しているので、結果自体は合っている。

 ただし、サダは断定的な言い回しで結果は伝えない。百発百中っぽく振る舞うと後々ややこしくなるという経験上での判断であった。

 今よりも子供の頃にそれをやって周囲をドン引きさせた上に、同じ内容のものは占えないのに「明日の天気は?」みたいなシンプルな占い内容ばっかりやっていたら当たらなくなっていったせいで嘘つき扱いされたからである。

 あくまでも趣味で占いをかじった高校生。そう演じなければ。

「と言うか、カード占いってタロットじゃないんだね。こんなよく分からんカードの絵って見たことがないよ。棒人間とか普通に無いし」

「……内容が分かれはいいんだよ、こういうのは」

 実はこのカードはサダの完全オリジナルである。即座に結果を解釈できるよう、彼は長年かけて様々なカードを作ったのである。なのでカードの意図を読み解くのも作ったサダにしか出来ないし、一度に三枚引くのは占いの精度を上げるためであった。

 ちなみにカードそのものは去年のボーナスの一部を作ってそれらしいものを特注で作ってもらった。絵柄が棒人間なのは、彼の絵心の賜物である。本人は内容が分かればいいらしいので、問題にはしていない。

 しかし。しかしだ。

 ちょっと物珍しいからといって、集まってきた人数が多すぎて捌ききれそうに無い。

 占いの途中でも「どこからきたの?」とか「変わった名前だね」と話しかけられる。

 相手に悪気はないので、どっか行けとぶっきらぼうに追い払うのも気が引ける。

 どうしたものか、と思っていると横から凜とした声が割って入ってきた。

「刃闇君! あ、サダ君の方がいいんだっけ。これ次の授業で使うプリントだって」

 赤茶色の髪の女子がプリントをサダに渡す。サダの前の席の子だった。

 手渡されたプリントは数枚あり、どれもこれも英語の長文問題がプリントされている。

「さすがに転校初日から当てられることはないと思うけど、一応やっといた方がいいよ。うちの英語担当の先生、結構厳しいから」

 任務に英語の問題を解くことは含まれてはいないものの、これは流れ的にやっておいた方がいいという空気になっている。サダのまわりにいる者も「やべ、俺やって来るの忘れた」「当てられる前にちょっと確認しなきゃ」と完全に英語の方に頭が切り替わっていた。

 皆が散り散りに自分の席に戻ってくる中、プリントを渡した女子はそのままサダに小声で話しかけてきた。

「ごめんね、サダ君。みんな転校生が珍しいだけで悪気はないの」

 ここでようやく、彼女はサダに気を遣って助け船を出していたということに気付く。

「あ、私は奥寺おくでらなごみ。席近いしよろしく」

「よろし……く?」

 返答が急に疑問形になっているのは、途中で奥寺なごみの声が何処かで聞き覚えがあることに気付いたからであった。そう言えば顔もどこかで……と、考えていると先に彼女の方が答えを出した。


「昨日、あの怪奇現象の時にいたのってサダ君だよね?」

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