第十三話 切り札発動
【前回のあらすじ】
人員の代わりに寄越された真言討魔の札。これを上手く使えばユカイ魔を討伐できるかも、と考えるサダであったが……
それからのサダの行動は早かった。
お世辞にも綺麗とは言えない机の上にグローリー6のメンバーのそれぞれの顔写真を広げ、その上から占い用のペンデュラムの先端を垂らす。
「サダー? お前は同じ内容の占いは出来ないし、「この中にいる被怪者」とか「ユカイ魔が取り憑いた人物」とかのワードはもう使えないんじゃなかったか? 一つ前の被怪者の特定の時に似たような質問してたし」
「分かってます。でもやれることはやりたいんです」
念のため、と「被怪者はこの中の誰か」と占いを試してみるが、やはり反応はない。ユカイ魔が取り憑いた人物も占ってみたが、反応なし。
「……前って何占ったっけ?」
そもそもが今回のユカイ魔に限らずとも被怪者の特定にサダの占い能力を使う事が多かったため、質問のストックが減っているのも事実であった。
おまけに追っているのが前回と同一のユカイ魔なのが始末が悪い。別個体なら別個体と分かるフレーズを混ぜれば多少は精度が上がるからだ。ただし絶対ではないが。
「サダ、前のユカイ魔探したときの日時、覚えている?」
先輩の水無口が問いかけてきた。
覚えていなかった。つまり水無口の力はアテにできそうになかった。
こういう時、つくづく占った日時をメモに残しておくべきだったと反省するのだが、大体反省するのは事が起きた後である。
「まあまあ、今のなら記録取れるから。さあ、未来に活かせるよう頑張ってみようか」
そう言われると、何とも引き下がれない気分になってくる。サダは口をへの字に曲げたままペンデュラムをかざしてやけっぱちになった。
「ユカイ魔が次に狙うのは誰!?」
反応なし。言ってから前にも似たような質問をした気がした。
「犯人誰だ!?」
反応なし。水無口が笑いをこらえながら「そりゃ犯人はユカイ魔だろ」と突っ込んだ。
「なら夜野真奈子と狭陽奈を深く恨んでいるのは誰だ!?」
一瞬これは有効だと思ったが、ペンデュラムは無反応だった。
「深く、じゃないかもなあ、これ」
水無口の言葉に悔しそうなサダ。だが、挫けてる場合ではない。
「真言討魔の札を誰に使えばいい!?」
ペンデュラムは反応しない。さすがにこれは水無口も「あれ?」と言葉を漏らした。
「さすがに今のは反応されてもいい質問だったよな? 連発しすぎて疲れてないか?」
「だ、大丈夫です! ……ああもう! だったらこの中で元凶がいるとしたら誰なんだよ!!」
その時だった。
ずっと無反応なペンデュラムがぐいっと強い力でサダの指先を引っ張った。
「き、来た! 来ました!」
「今ので!?」
ペンデュラムは吸い寄せられるように、一枚の写真を示している。
そこに映っているのは、
「……マジで?」
◆
翌日。雪殿高校。
「誰が取り憑かれたかが分かったって?」
二年三組の教室で、奥寺なごみが素っ頓狂な声を上げた。
「声が大きい」
サダがイラつきながら周囲をキョロキョロ見回す。クラスメイトの何人かはこちらを不審そうに見えてきたが、幸いそれ以上は追求されなかった。
「……それでどうするつもりなの?」
なごみが声のトーンを落とすが、私の友達に酷い事をしたらタダじゃおかないと言わんばかりに口調がきつい。
「心配するな。ただユカイ魔を追っ払って倒すだけだ。誰も傷つけるつもりはない」
サダは一旦言葉を区切ってから、じっとなごみの顔を見た。
「そこで、頼みがある」
「私に?」
なごみが驚く。
「学校の西側の門にある駐車場。昼休みにそこで作戦を教える。そしてこの事を誰にも知らせないでほしい」
「なんで? ……って、そっか。作戦だもんね」
「理解が早くて助かる」
助かる、と言っておきながら物言いは淡々としているサダの口調に、なごみは少し不快そうな表情を作ってみせるが、すぐに了承の返事をした。
「まだ納得はしてないけど、まなやんとヒナちの為だもんね」
「感謝する」
そこで予鈴が鳴った。
サダはそのまま席に着くと、スマホを取り出してチャットアプリのメッセージを開き、大急ぎで文字を打って送信した。送信したあとに、心を落ち着かせようと大きく深呼吸する。
大丈夫、必ず上手くいく。信じろ。
◆
昼休み。雪殿高校西門駐輪場。
周辺はコンクリートブロックの塀と何らかの記念で植えたらしい背の高い木々により、妙に閉塞感のある場所であった。
校舎から少し離れた位置にある上、誰かが校舎からこちらを見たとしても木々が死角になっているため、密談にはもってこいの場所だった。
「サダくーん! 来てるー?」
「ああ」
駐輪場の柱にもたれながら、先に来ていたサダが返事をした。
一緒に移動しなかったのは、単に目立ちたくなかったからである。
「ちょっと遅れたけどごめんね? 待たせたかな?」
「あ、や、問題はない。来てくれさえすれば良い」
サダの声が少し裏返ったのを聞いて、なごみは何やら違和感を察知した。
どことなく、サダの表情はいつもより硬く、ぎこちない動作で自身のブレザーのポケットをごそごそさせている。
「サダ君、何かあったの?」
「いや、何もないが?」
一瞬で平静を装ったのがバレバレな切り替わりである。
「えー、なんか怪しいなあ」
そしてそういう怪しさを放っておけないのがなごみの性分である。
なごみはずかずかとサダの方に近づき、睨み付けるようにサダの顔を見る。
「で、作戦って? というか取り憑かれているのは誰?」
サダはその質問に答える前に、大きく深呼吸をした。
「作戦は既に始まっている。お前自身は何もしなくていい。ユカイ魔を倒すのが俺の仕事だからな」
サダの右手がすっと横に伸びる。
その手の指には何やらくすんだ色の札が挟まれていた。
「そして、被怪者はお前だ。奥寺なごみ」
なごみが気付いたときには遅い。サダの持つ札が彼女の頬に触れ、その瞬間、周囲が閃光に包まれた。
あまりの眩しさにまぶたをきつく閉じて数秒後。なごみは恐る恐る目を開ける。
そしてそこに見えたのは、派手な勢いで吹っ飛ばされたかのように宙を舞うサダの姿だった。
そのまま地面に落ち、勢いで数回転がって、動かなくなった。
「……え?」
何かの見間違いかと思い、なごみは高速で瞬きをしてみるが、どう見たってそこにいるのは地面に伸びているサダである。
「サダ!?」
背後の物陰から派手な色のスーツに身を包んだ水無口が飛び出し、まっしぐらにサダに駆け寄る。
「……どういうことなのこれ……?」
◆
サダが意識を取り戻したのは保健室のベッドだった。
身体を起こすと、心配そうにこちらを見る水無口と、不貞腐れたなごみの姿がいた。
「事情は水無口さんから聞いたけど、さすがにこれは……というか、なんで私が犯人扱いされなきゃいけないわけ!?」
「いや、それは占いで……」
「そんないい加減に犯人決めないでよ!」
なごみは盛大なため息をついた。
「協力頼まれたときは信頼されてると思ったのにさー。実際は私を人気のないところにおびき寄せるだけの口実だったんだ?」
サダは何も言い返せなかった。普通に考えても彼女が文句を言うのは当然の事であった。
それでも黙りっぱなしはまずいと思い、何をどう言おうか慌てて考える。
が、思いつかなかった。
「サダ、ひとまず謝罪しとけ」
水無口が静かに呼びかけた。それはそうである。
「……スミマセンデシタ」
◆
結局、この作戦で得たものといえば、奥寺なごみは確白、つまり確定的に被怪者ではないという情報だけであった。
「おかしい、確かに占いではこいつを指していたのに……」
百発百中の占い能力なのに結果が外れるとは思えない。
となると、一番可能性が高いのは占い結果の読み違え。
だったら何故、なごみを元凶だと示したのか。自分で占っておいてなんだが、何を以て元凶だったのか。
「……よく分からないけど、あれって私たちが知らないうちに別の人に乗り移るとかはないの?」
「基本、ユカイ魔は追い出さない限りは、宿主の精神が崩壊するまで寄生する」
「うわ、悪趣味」
なごみが眉をひそめた。
「怪魔の感性なんて人間には理解できないからな。まあ、例外的に取り憑かれた相手より精神が不安定で壊れそうな人間を目の前に置けば速攻そっちに乗り換えるケースはあるにはある」
「前回はある意味それで逃げられたも同然だからねえ」
「ぐっ……」
横から飛んできた水無口の言葉に、サダはボディーブローを喰らったような苦い表情になった。
「まあ、極度の緊張状態から不意打ちを食らいそうになったら頭が真っ白になってもおかしくないから、気にしなくていいよ、サダ。……さてと」
水無口はスマホを取り出してから、何かをチェックして再びそれをしまった。
「サダ、突然だが良いニュースと悪いニュースがある」
「本当に突然ですね」
ちょっと古いネットスラングか何かで聞いた事がある言い回しだ、と思いながらサダは水無口の方を見た。
「まず良いニュースの方だが、今、病院から夜野さんが会話できるまで回復したと連絡が来た。アポさえ取れば今日にでも面会できるらしいぞ」
夜野真奈子。この事件の最初に襲撃された人間である。
「えっ、まなやん大丈夫なの!?」
サダより先になごみの方が反応した。
「ああ、命にも別状はないし順調に回復しているようだね」
「よ、よかったあ」
なごみの目からうれし涙がこぼれる。が、すぐにその涙を拭った。
「ようし、面談なら私も行くよ! あと他のメンバーにも連絡する!」
「え、ちょっと待てよ! これ俺の仕事だし、なんでお前が仕切ってるんだよ!」
サダが阻止しようとするが、なごみはそれを受け入れる気はない。
「ユカイ魔を捕まえるのはサダ君達の仕事かもしれないけどさ、仲間内の問題は私たちが解決するのが筋だから」
そう言われてしまったら、どうしようもない。
どっちにせよ、問題が解決するにはまだまだ先のようであった。
「で、悪いニュースは何ですか?」
「僕に県外の支部への出張任務が来た」
水無口がげんなりした顔でため息をついた。
「それ、今のユカイ魔とは関係のない任務、ですよね?」
「そんなところだ。前線で戦える人材を集めてるって言ってたから、こないだのような大きな規模の作戦かもな」
それはつまり、
「これから数日間は、今みたいに直接サダのサポートするのは無理って話」




