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第十二話 異能者達の憂鬱

【前回のあらすじ】

VS北裏怜だった(ただし無駄な戦いではある)。

「おーい、言われたもの持ってきたぞー」

 先輩である水無口みなぐち憶人おくとの声がしたので、事務所で一人作業していたサダはそのまま何も考えずに振り返った。微妙にそれが間違いであった。

 途端に顔面にペチリと何かが当たって視界を遮る。紙の束だった。

「……普通に渡してくださいよ」

 不機嫌な顔をしながら、サダは紙の束を受けとるり、そこに書かれているものを確認する。


“私、メンバーの中に誰かを嫌ったり恨んだりする人が居るとは正直思ってない”


“ううーん……そう言われても全然心当たりないんだけど。少なくとも友達があんなことになって喜びそうな人はいないと思う。特にまなやんは一番付き合い長いし、わたしの中では一番信用できるし”


“……正直あの二人が恨まれる理由は分からないけど、少なくとも二人が結託して誰かを貶めるという可能性は薄いと思う”


“うちは別にあの二人とトラブルなんて起こしてないし、普通に元・部活仲間だし……”


 サダとグローリー6のメンバーに聞き込みした際に発言されたやりとりが、黒いインクで力強く、それでいて丁寧な筆跡で何枚も何枚も綴られている。

「こら。読み入る前に感謝の言葉が先だろ。社会人の基本!」

 水無口のチョップがサダの脳天を直撃した。

「……ありがとうございます」

 渋々、というのが丸わかりなサダの感謝である。紙束アタックとチョップの分でただでさえ少ない感謝からしっかり値引きされている。

「ま、効率的に捜査するために僕の「力」を頼った点は評価するけどね」

「レコーダーもメモ帳もいらない水無口さんの「力」は使えると思って」

「そこは「助けになる」って言おうか、サダ。どこの世界に先輩に対して「使える」って言う後輩がいるんだよ」

 再び、チョップがサダめがけて落ちた。さっきより強かった。


「実際、水無口さんの「力」は俺の「力」より使い勝手よさそうじゃないですか。俺の占いは制約が強すぎて正直微妙だし」

 百発百中だが、同じ内容は占えない。占っても正確な解釈が出来るかといわれると首をかしげるくらいのサダの占い能力。

 対して水無口の力は、過去の発言を文章化して再現する能力。

 特定の日時に、特定の人間が発言した言葉を一字一句違わず書き示すことができる。水無口本人がその発言を聞いていなくても、いつ誰の口から発せられたという情報だけあれば発動できる。

 サダにしろ水無口にしろ、何故こんな超能力じみた力を使えるのか、本人達にも分からない。専門家の知識をもってしても未だ解明されていない。

 サダは幼少期から、水無口は前職時代にストレス過多なブラック環境の中で自身の力に気付いたが、ただ一つ分かっているのはそういう力を持っている人間は例外なく怪異、そして怪魔が視える。怪魔が視えるということは、それらに対抗できる適性がある。

 適性があるからこそ、怪討局にスカウトされ、今に至る。

「で、お前の指示通りに聞き込みを再現して見せたけど、もう少し要点を絞って話を詰めた方がいいな。事件の感想とかグループの人間関係とか漠然と話を振っても漠然とした解答しか帰ってこないだろ?」

 水無口の尤もな指摘に、サダは押し黙る。

「ま、超人見知りなサダが聞き込みをやったという事に関しては評価するけどさ」

「人見知りじゃありません」

 サダの説得力のない反論に、水無口は呆れたようなため息をついた。

「で、何か手がかりはありそうか?」

「ちょっと待ってください」

 サダは手渡された紙束に一通り目を通してから答える。

「直感ですが」

「別にいいぞ、直感でも」

深澤ふかざわ香弥かやの言ってた「夜野やの真奈子まなこはざま陽奈はるなが結託して他の誰かを貶める可能性は薄い」というのは信用できる気がします。分析が冷静だし、そこに嘘をついたり庇ったりする理由がない」

「となると?」

被怪者ひかいしゃが二人に抱いている感情はそれぞれ別のものでは、と思います」

「へえ……」

 水無口が目を細める。それを見て、サダの表情がわずかに不安げになった。

「俺の言ってる事って間違ってますか?」

「さあ? でも調査方針がそれで少しでも定まったのならいいんじゃないか?」

「それで定まったら苦労しませんよ……」



「ただいまー。って、何をやっているのかね?」

 数分後、支部長の碓氷うすいが段ボール箱を抱えて事務所に帰ってきた。

「ボス、お帰りなさい。その荷物は?」

「ああ、本局から支給された怪討道具だよ。これが来たという事は……」

 碓氷と水無口が同時に深いため息をついた。

 サダが意味不明と言いたげな顔をしていると、水無口がサダの肩をぽんと叩きながら「手配していたお祓い要員が予定通りに来られない可能性が出てきたから、来るまでの繋ぎとして物資で支援するよって意味だよ」と説明した。

「え、どうするんですか!? 俺ら人に取り憑いた怪魔を剥がすすべはないんですけど!?」

「この業界はいっつも人手不足なんだよ! 正直こっちが泣きたいよ!」

 碓氷は空いてる机に段ボール箱を置くと、「ほらサダ、確認しろ」と言いながら蓋を開けた。

 サダは段ボール箱に近づくと中身を確認した。

 まず回復術用の札の束。これは病院で講習を受けた際にたくさんくれたので正直有り難みがない。そもそも怪魔絡みのダメージにしか効果がない。

 それから怪魔浄化の札。メインウェポンではあるが、これも支部内にストックがあるのでやはり有り難みは薄い。

「これは……スマホ?」

 札と札の隙間から一台のスマホが出てきた。

「あ、それはだな。サダ、被怪者候補の子達にチャットアプリのアカウントを交換しただろ? セキュリティと個人情報保護の問題で今後はこっちのスマホで連絡をとるようにしてくれ」

「まあ、教えたのは元々捨てアカだったし。あとで設定しておきます」

 サダは支給されたスマホの電源ボタンを押した。ちゃんと動作するのを確認してから次のアイテムを取り出す。

「……なんだこの球?」

 出てきたのはゴルフボールより一回り大きいくらいの黒い球体だった。

「それは怪異空間固定コアだな。ほら、二人目の犠牲者が出た時、謎の赤い扉が現れたってあの子達が言ってただろ?」

「ええ。俺は見てないですが、そこから棘の生えた根っこが伸びてきたって言ってました」

 碓氷が力強く頷く。

「これはあの扉の中へ行き来するためのアイテムだよ。万が一あの扉の中へ誰かが取り込まれたら救出しないといけないからね」

 確かにそうなる可能性は否定できない。陽奈は強引に振り払った反動で負傷したが、本来ならそのまま扉の中へ連れて行かれてもおかしくなかった。

「あの扉の中ってどうなってるんですか?」

「ユカイ魔が被怪者の精神を元に構成した怪異の空間だから被怪者次第としか言いようがないな。何にせよ丸腰で入ったら自力ででるのはほぼ無理」

 水無口の言葉に、俺はそんなの相手に戦うのかと言いたげにサダは身震いした。

「まあ、救出任務になっても僕がサポートに入るだろうからそんなに心配はいらないさ。少なくともサダ一人が単騎突撃することはないと思っていいよ」

 気を取り直して、また段ボール箱の中身を確認する。といってもあとはA4サイズの茶封筒と、紙に包まれた長方形の小箱だった。

「この封筒は私宛の調査書だな。サダの任務には直接関係ないのでこっちで預かっておく」

 茶封筒はそのまま碓氷に回収されたので、残った小箱を開けてみる事にした。

「これは……?」

 箱の中にあったのは、金色がくすんだような色の札であった。

「おいおい、本局の連中はこんなものよこしたのかよ!」

 水無口が思わず声を上げた。

サダにはそれが何なのかは分からなかったが、水無口も碓氷も驚愕と困惑で満ちたような表情であった。

「何ですか、これ?」

「あ、サダは見るのが初めてか。これは真言討魔しんごんとうまの札っていう滅多にお目にかかれないレア札だよ」

「レア札?」

 そして水無口と碓氷がひどくげんなりとした顔で深いため息をつく。

「ああ、ごめん。サダに対してではないよ。この札があるって事はそいつ使ってユカイ魔を倒せって事になるからげんなりしてるのだ」

 この業界、言葉ではない暗黙のメッセージが多すぎる。

「にしても真言討魔の札はないっしょ、ボス」

「私がリクエストしたのは確実性のある人員であって、これじゃないんだがね……」

 碓氷が眉間を手で押さえた。サダには状況がさっぱり分からない。

「こいつはいわゆるバクチ札とも呼ばれているものでな。正直、使い勝手が悪い」

「バクチ札?」

「念じながら被怪者に貼り付けると強制的に怪魔を引き剥がせる強力な札だが、そうでない者に貼り付けると、貼り付けた者にダメージが返ってくる。だからバクチ札」

「ええー……」

 サダは箱の中にある札を確認した。札は一枚しか入っていない。

「これ、もしかして使い捨てだったりしません?」

「札は基本一回限りの使い捨てだ」

「あとなんで失敗したら自分にはね返る仕様になってるんですか?」

 普通に考えれば必要のない仕様である。

「専門家ではないから詳細は分からないが、こいつは言霊ことだま由来の術士、つまり言葉の力を信仰する者が作った札だから、口にした言葉が真実なら絶大な力を発揮してくれるが、そこに虚偽や嘘が混じると天罰が下るという事らしい」

「はあ……」

 分かったような分からないような返事をしてから、サダは少し考える。


 ……つまり、被怪者さえ特定できればこの札を使ってユカイ魔を倒せるのでは?

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