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第十話 深澤香弥への聴取

【前回のあらすじ】

捜査メモ

美涼と真奈子は幼馴染みで家が近所

陽奈は去年末まで美涼と同じクラスにいた

 翌日。休み明けの昼休みの雪殿ゆきどの高校。

「面倒な負担・動じるな・禁句……」

 サダはカードを見ながら呟いた。それぞれリュックらしきもの、バラン(本人曰く岩)、×のマークの入ったマスクの絵が描かれている。

 これはかなり難易度が高そうだな、とカードをしまいながら大股で廊下を歩く。その後ろを奥寺おくでらなごみが慌ててついてきた。

「いや、なんでついてきてるんだよ」

「なんでついて行っちゃダメなの?」

 サダが早足で歩くと、なごみも同じように追いかけてくる。

「というかサダ君を放っておくと心配だし。今からふーちゃんに話を聞きに行くんでしょ?」

「話を聞きに行くだけのどこに不安があるんだよ?」

 サダは廊下を曲がり、上り階段を駆け上がり、足を止めた。

「ふーちゃんのクラスは右に曲がって真ん中の教室だよ」

 忌々しげに振り向くと、なごみが得意げに笑っている。

「あと、サダ君がいきなり一人で押しかけても警戒されると思うよ。よく知らない転校生、しかも男子。クラスの人たちも何事ってなるだろうし、私が一緒に行った方が自然に呼び出せると思うけど」

「ぐっ……」

 反論できなかった。

「それにふーちゃん、クールというか初対面の人だと近寄りがたい雰囲気あるからね。私が間に入った方が絶対スムーズにいけるよ」

 言うなり彼女はサダを追い越して二年五組の教室の入り口まで行くと、二、三言ほどやりとりをした後に、何事かと言いたげな表情の深澤ふかざわ香弥かやを連れて戻ってきた。



「本当にうちの転校生だったとは……確か、名前は刃闇はやみ、だっけ?」

「急にごめんね、ふーちゃん。時間あった?」

「食べ終わったから別にいい。大体一人でいるし」

 場面は、人気のない空き教室前に変わる。

「私に話を聞いたところで解決の手がかりになるとは思えないけど」

 香弥はサダの方を一瞥すると、素っ気なく言った。なるほど、確かに警戒は解こうともしない。だが、サダの方もひるんでいる場合ではない。

「それでも構わない。今は人間関係に関する情報が少しでも欲しい」

そもそも相手を警戒しているのはお互い様である。

 落ち着け、俺。

 サダは昨日、黒小路くろこうじ美涼みすずから来たチャットアプリのメッセージを思い出していた。

 美涼なりにサダが情報収集しやすいよう、簡単な立ち振る舞いを教えていたのだった。


“ふーちゃんは誤解されやすいけど、要点をまとめてちゃんと話せば聞いてくれるよ。人の意見にも流されにくいし、言ってる事はちゃんと筋が通ってるし”


「先に訊くけど、そもそも嫌っている人間を呪うことで宿主の心を折るって何?」

 香弥が眉間にしわを寄せながら、疑問を口にした。

「人の心を折るならどう考えても親しい人間を呪った方が効果的だと思うけど。正直意味不明」

「あ、それはそうだよね。化け物だから人間の心が分からないとか?」

 なごみがそれに便乗し、答えを期待するかのようにサダの方を見た。

 サダはその流れを鬱陶しそうに感じながら、とはいえ答えられる事は答えるのが仕事だと割り切る事にした。

「正直そこに関しては俺らにも分からない」

「え?」

「ユカイ魔に人間の常識は通用しない。強いて言うなら、あいつらは好意のようなプラスの感情より、敵意や恨みのようなマイナスの感情の方が察知しやすいという説があるくらい」

「つまり分からない、と」

「……ああ」

 微妙に気まずい空気が流れた。とは言え、サダとしてはそうとしか答えられない。

常識が通じないのが怪異であり、それを引き起こすのが怪魔。そして人類による怪魔の研究はほとんど進んでいない。ここまで言われたら察しろ、である。

「そんなわけですまないが、人間関係の情報が欲しい」

「どんなわけだよ」

 香弥はサダの方を呆れながら睨み付けると、返答を考える為に十秒ほど黙り込む。

「人間関係って言っても、あの二人に関しては本当に心当たりはない」

 眉をひそめながら香弥は言う。鋭い目付きが更に鋭くなる。

「まあ、ふーちゃんはどっちかと言うとれいとよく喧嘩してたよね」

「なごみ、その情報いる? 絶対関係なさそうだけど」

 怜というのは北裏きたうら怜のことだろう。あの感情的に噛みついてきた女子の。

「まあ、確かに怜との喧嘩は一番多かったけど、それは中学の話。大体喧嘩と言っても向こうが勝手にキレてるだけでこっちは別に嫌ってないつもりだけど」

 香弥は短くため息をつく。

「二人ともグローリー6時代にしょっちゅう衝突してたからね。怜はバリバリの体育系で、ふーちゃんはバリバリの論理的思考派で。でも二人は二人なりにチームの事を考えてくれてたんだよね」

「なごみ、恥ずかしくなるからやめて。そんな話はどうでもいいだろ?」

 怒っているわけではなさそうだが、香弥の物言いはものすごくバッサリしている。

「ふーちゃんももう少し愛想がよかったらねえ。学校でも一人だって言うし、私としてもちょっと心配なんだよね」

「オカンじゃあるまいし。なごみはちょっと騒ぎすぎ。別にイジメに遭ってるわけではないんだしいいでしょ本当に」

 確かにこの女ならいじめっ子を軽々と返り討ちにしそうな圧がある。

「話を戻していいか?」

「ん? ああ、私なりの見解を言えばいいのか、転校生」

 香弥は少し考えてから、自分の意見を話し始めた。

「……正直あの二人が恨まれる理由は分からないけど、少なくとも二人が結託して誰かを貶めるという可能性は薄いと思う」

「そうなのか?」

「まなやん、夜野やの真奈子まなこは雰囲気的におっとりしているけど、メンバーの中ではなごみと同様の常識人の部類だからそういうことはしなさそうだし」

「うんうん、私、ふーちゃんに常識人だと思われてたんだ。よかったー」

 常識人ならことごとく話の腰を折らないでほしい。サダは頭痛がしてきた。

「残りのメンバーは誰かに唆された場合はちょっと危ういかもしれない。怜は直情的で流されやすいし、スズは人の話すぐ信じちゃうし、ヒナちは真面目だけどいわゆるオタク気質の人間で、自分の気に入ったものに関しては一直線というか」

「まあふーちゃんはヒナちにものすごく気に入られてるしねえ。ダーリンとか呼ばれちゃってるし」

「ダーリン?」

 性的指向はこの際さておき、メンバー内の恋愛関係はなかなか面倒そうな要素だな。

 とサダが思っていたら、次の瞬間それはあっさり否定された。

「ああ、それ別にそういう関係じゃないし、よくある女子高生のごっこ遊びの延長だから」

 女子高生の感性が分からん。

 多分この口ぶりだと、はざま陽奈はるなが言い寄って、香弥がそれを適当に流している感じだった。

「話を戻すと二人とも性格は大人しい方で、悪意を持って人を傷つけるようなことをするイメージが正直湧いてこない」

「なるほど」

 確かに美涼の言う通り、筋道立てて話すタイプのようであった。

「黒小路美涼の言っている事は合っていた。あんたの言う事は冷静で助かる」

「……あんた、スズに会ったの?」

「えっ、サダ君、スズに会ったの!?」

 香弥となごみが同時に声を上げた。

「昨日偶然な。幼馴染みである夜野真奈子があんなことになって不安そうだった」

「あー、スズとまなやんは家が近所だしねえ。中学時代でも仲良かったし、そそっかしいスズを私とまなやんがよくフォローしてたっけ」

「自分で手柄を言うのかよ……」

 どうにもなごみの無自覚な自己アピールにイラッとくる。理由はサダ本人にもよく分からないが、自分だったらそんな事はしない、という感覚から来ているものかもしれない。

「でもサダ君、スズに変な事吹き込んだりしてないよね? ふーちゃんが言ったようにあの子は人の話を何でも信じちゃうし、お人好しで騙されやすいんだから放っておくと色々大変なんだから」

「別に変な話はしてない。人を詐欺師扱いする言い方はやめろ」

「私はただ心配なだけだよ。スズはちょいちょいそういう所があるから……」

 この口ぶりだと美涼は、過去にも誰かに騙されて酷い目に遭ったような感じだ。きっと水無口みなぐちのような人をからかうのが好きな人間が居たのだろう。それを考えると、サダは他人事とは思えなくなってくる。

「で、スズとは何を話した?」

 香弥が不機嫌そうにきいた。

「別に大した話はしてない。ユカイ魔に対する不安の話とか、あとは普通に雑談とか」

「雑談?」

「ああ。有線イヤホン派だとか、あとは音楽の話で盛り上がったくらいだ。俺のおすすめはフィクティクってバンドとTACK-ME(タクミ)という歌い手でボカ」

「あ、本当にどうでもいい雑談だったか」

 話している途中で、香弥にバッサリ会話を斬られる。

「ひとまず話は終わりのようだし、私は教室に帰る」

「え!? ちょっとふーちゃん!?」

 なごみの声も無視して香弥は歩き出してしまった。

 まさかいきなり話を一方的に切り上げて帰ってしまうとは思いもしなかったサダは、ただただ困惑している。こいつ、意味がわからない!

「サダ君!? 何か機嫌悪くするような事言った!?」

「知るかよ。と言うかあれ、怒ってるのか!?」

「去り際にふーちゃんの眉間に皺がさっきより寄ってたから機嫌が悪いことは確かだね! あ、そういやふーちゃんってワイヤレスイヤホン派だった!」

「そんな理由で不機嫌になるか普通!?」

 本当に釈然としなかったが、サダは敢えて今は追わない事にした。本当の原因は後で考えればいい。

 そしてそのままサダはスマホを取り出し、時計を見た。12時45分と表示されている画面をそのままスクショする。

「何やってるの、サダ君?」

「ただの記録だ。あとで使えるかもしれないからな」

 そう言えば、美涼が送ってきたアドバイスはなごみの分もあったのを、サダはふと思い出した。


“なごみちゃんは皆のまとめ役するのが得意な普通の人だから、普通に接して大丈夫だよ”


「……普通の人はここまでお節介回してこないと思う……」

「え? サダ君何か言った?」

 常識人というのも普通というのもメンバー視点ではそう見えるんだろうが、少なくとも俺の中では少し違う。

 と、サダはそこまで考えてから、微妙に使い勝手の悪い占い能力を持っている中卒で怪討人やっている自分の方が遙かにイレギュラーな存在だったことに気付いて、軽く絶望した。

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