はじまり
いつまでも続いていく終わりのない幸せなんてない。
解っているつもりだった、
日常が日常じゃなくなる瞬間が必ず来る。
ただ、見ないように見えないように考えないように蓋をして生きている。
だって、そんなことばかり考えていたって人生は楽しめないから。
だから、その瞬間が来ると人は無力になる。
2021年7月。
猛暑が予想される初夏。
この日の天気は雨ではなかったが晴れていたわけでもなかった。
1本の電話が鳴った。
ピルルルピルルル・・・プツッ。
「はい・・・」登録のない知らない固定番号。
普段なら出なかった。なのにこの時は出てしまった。
この時も切るはずだった。いや、出なければいけない気がした。
正直この時の心情は分からない。今になっては“呼ばれていたのかも”とさえ思えてくる。
「わたくし・・・・病院救急センター看護師の・・・です。・・・様のお電話でよろしいでしょか。」
「はい、そうですが。どうして電話を・・・」
「現在・・・・・という状況で救急搬送されました。急いで・・・病院に向かってください。お越しっされた際は・・・」と若い女性が生き継ぐ間もなく話し続ける。
相槌を忘れ世界が止まったかのように静止していた。
こちらの状況とは違い、電話口では騒がしく遠くで「先生、血圧が・・・を切りました。」と報告する女性の声と「今すぐ・・を用意して」と指示する男性の声。
そして、聞きなれない機械音。
電話の内容はすぐには理解し難いものだったが「わかりました。」といて電話切った。
切った後の数秒だけ電話を眺めていた。
ふと我に帰り、言われた病院に向かった。
どうしてかこんな時だけ信号に引っかかることなく進むことができた。
導かれているような、待ているかのように、どんどん不安だけが募る。
妙な緊張から全身が強張り手先が震え出す。
重たい足を引き摺りながら病院のドアを通過していく。
今思えば“早く早く”という気持ちだけで全身を動かしていた気がする。
救急センター標識を見つける。
受付カウンターに手お掛け「はあっ・はあっ・はあっ・先ほど電話をいただいて・・・」と途切れ類機の中声を出した。「・・・さんですか。先ほどお電話した看護師の・・・」と待っていたと言わんばかりに看護師が受付の右奥から駆けつけて来た。
「何がどうなっているんですか。無事ですよね。」と駆けつけた看護師の肩に掴みかかった。
看護師は掴みかかった手を優しく解きながら「少し落ち着きましょうか。」と深呼吸するように促した。
荒かった息が整った。
看護師は整う様子を見て状況を説明しはじめた。だが、放たれた言葉は脳に記憶するのを拒むかの風のように過ぎ去っていった。「とりあえず中へ・・」と看護師は出てきた所へ向かっ。
自動ドアが空き、先に見えたのは白衣を着た男性。振り向くと軽く会釈する。
一つのベットを数人の医療関係者らしき人たちが取り囲む。
隙間から目を瞑り横たわっているあなた。
身体中に繋がれている医療機器。
医療知識のない私でもわかるモニターが示す線。
指先の震えは全身の震えに代わり踏み出す一歩が重かった。
目頭から耳先、全身が熱くなる。
周りの声がこもったように聞こえ耳鳴りがピーーと鳴っている。
時間で言ったらす数十秒の事だったとも思う。
数十秒がスローモーションのように時が止まったように感じた。
「・・・・さまのご家族ですね。お待ちしておりました。医師の・・です。現状について・・・・」と男性医師が淡々と状況を話した。
「わかりました。お世話になりました。」と告げると看護師が今後の流れを説明した。
自分でも驚くほど冷静に状況を把握することができた。
「本日7月・・・・・・分」と男性医師が時計を皆ながら声を上げた。
先ほど看護師から死亡確認を行うと言っていたことを思い出した。
「心音、呼吸音停止、瞳孔拡大、対光反射消失。これらをもちまして死亡確認とさせていただきます。」と言って一例をした。
頭はまだ混乱していた。
今起きていることを理解するには時間が足りなかった。
ベットの横に椅子があった。
椅子に腰掛け手を握った。
冷たかった。
手を握りながら溢れ出す涙を拭くことあできなかった。
周りにいた看護師と医者は静かにそばを離れカーテンを閉めた。
「うっ・・」と漏れる声だけが響くくらい静かだった。
死ぬことに予告などはないのだろうか。
今も現実と夢の境目にいるみたいだ。
一つの機械で1人の人間の確認で死んだことを受け入れられるわけもない。
昨日まで話していたのに、息を吸って吐いていたのに、ご飯をた食べていたのに、目を開けてこっちをみていたのに、昨日まで心臓は動いていたのに、
どうして今はベットのの上で目を瞑って、息もせず、心臓は動いていない。
冷たくなったあなたの手を摩りながら泣くことしかできない。
声にならない叫びは誰にも拾われることもなく消えていた。
病院を後にする時、看護師が「お気を足しに・・・」と声をかけてきた。
これが一つ目の同情となった。