だいじょうぶ
あれから時が経ち49日を迎えていた。
3日間の葬儀は悲しみに包まれ訪れる人日とみんな口を揃えて「突然すぎる」と言っていた。
葬儀の間泣き続けている喪主の代わりに主となって動いておかげで泣いている暇がなかった。
来る人の同情が苦しかったが動いていないと今にも崩れ落ちそうだった。
ただ、夜の静かさが苦しかった。
祭壇の上で眠るあなたを見るとうまく息ず、
ビニール袋が離せなかった。
ピーンポーン。
「・・・葬儀屋の・・・」と葬儀の時に担当していた女性が訪ねてきた。
病院から運ぶ時や葬儀の進行、お返しの手配まで何から何までサポートしていくれた。
初めてのことで右も左も分からなかったが彼女のおかげで今日までやってこれた。
「ここまでお疲れまでした。」と部屋に入ると簡易に用意された祭壇に手を合わせ言った。
「何から何までお世話になりました。ありがとうございました。」と深く頭を下げた。
頭を上げると彼女は、「私はサポートをさせていただいたまでです。」と恐縮した。
続けて「ここからで終わりではありません。ここからが始まりです。この先、大変なことも多いでしょうが1人で乗り越えようとは思わず、周りを頼ってください。私共も祭事のときはお力になります。」と言って少し話すと簡易に作られた祭壇を引き上げて帰っていった。
彼女を見送りながら言われた言葉の意味を考えていたが分からなかった。
仏壇の遺影をみて「はぁー、終わった。」と呟いた。
火葬場で骨になったあなたをみて“死んだんだ”と自覚した。
カーテンの隙間からゆ狐色の夕日が差し込む。
静まり返った部屋の中に外の生活音だけが響きわたっていた。
子供のはしゃぎ声に鳥の鳴き声踏切の音。
いつも聞こえていた音全てが冷たく聞こえた。
何時間、仏壇の写真を眺めていたのだろうか。
電気の点いていない部屋は真っ暗に外も静まりかえっていた。
時間を見るとちょうど00:00になっていた。
床へ吸い込まれるかの様に寝そべり目を閉じた。
カーテンの隙間から朝日が差し込む。
「んんっ・・・」両手をあげて伸びをする。
少しづつ目を開け体を起こす。
一番に仏壇に目を向け遺影写真をみる。
こんな日々を遺骨となってかえって来てからずっと繰り返している。
時計を見ると05:30。冷房の点いていない真夏の朝は全身が汗でびっしょり。
立ち上がり台所へ向かう。
ジャーコップに水を注ぎゴクゴクと飲み干す。
洗面所に向かい洗濯機を回しながらシャワーを浴びる。
ガタガタ、ジャージャー・・・・キュッ・・・・ガラッ。
静まり返った部屋に響く唯一の生活音。
突然の別れを経験したが、アニメやドラマで見るよな廃人とかすわけでもなく日々泣き崩れるわけでもない。
働かなければ生きてはいけない。
どんなに悲しくてもお腹わ空くし、眠くもなる。
ただ、生きている気がしない。
ご飯も美味しいと感じない。
テレビをつけても一点を見つめるだけで内容が入ってこない。
同僚と笑い合っていても心から笑えない。
人間としての感情が欠落したみたいだった。
忌引き休暇を使った後、仕事に復帰したさいは同情の目を向けられ慰めの言葉をもらった。
その度に愛想笑いをして「もう大丈夫です」と言った。
“大丈夫”自分に言い聞かせる様に暗示をかけている様だった。
うまく笑えているだろうか。
うまく話せているだろうか。
うまく歩けているだろうか。
それだけが気がかりだった。
仕事の帰り道。
通過する電車を見ながら前後に揺れる。
このまま飛び降りたっらと何度も考えて何度も電車を見送る。
定時に退社しても帰るのはいつも夜になる。
ガチャ。
真っ暗な部屋の中にバタンとドアが閉まるお音が響く。
靴を脱いで仏壇の前に座り込む。
そしてまた眠りにつく。
「はっ」と目が覚め体が飛び起きた。
自分の頬に手を合ってると濡れていた。
仏壇に目を向け遺影写真を見つめ「やっと来てくれた」と震える声で呟いた。
夢の中に出て来たあなたは少し強張った笑顔を見せていた。
死んでからはじめて夢を見た。
夢を見る余裕が少し出て来たのかもしれない。
久しぶりにカーテンを全開にして朝日を全身で浴びた。
いつも通りシャワーを浴びて出社した。
色のない世界が少し色づいた気がした。
悲しい別れから半年が過ぎていた。
悲しみから無理に抜け出さなくてもいい。
日々の中で変わっていくものなのだ。
自分が冷たい人間じゃないのか不安になった。
でも現実問題、泣いてばかりいられない。
あなたの居ない世界を生き続けていかなくてはならない。
なんてただ、どうやって受け止めていいのかが分からないだけだ。
だから、今日も大丈夫と暗示をかける。