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赤と青

「まさかSクラスにまで勝ってしまうなんてね…」

俺の前に座ったリョウが言ってくる。

「あのSクラスが弱かったとかそういう話じゃねぇのか?」

1人だけガツガツと飯を食っているアベルが言う。

コメとかいうらしいが美味いのだろうか?

アベルは焼肉とコメをどんどん食べ進めていく。

「フローベルさんはこの学校で1、2位を争う実力者ですよ?

そんなに弱いとは考えられません!」

カルリアが言い返す。

俺は自分の飲み物が入ったグラスを回している。

だんだんその緑の茶がグラスの中で渦を巻く。

そして俺はそれを飲む。

飲んでいるのは刀を作った元となる、例のニホンという場所のマッチャとかいうものだ。

なんとも言えない不思議な味がするんだな…

「にしても、この食堂でもニホンとか言う場所のものが多いんだな。」

俺の言葉を聞いてカルリアが説明を始める。

「日本から転生した桜庭霞という人がこの抹茶を発案したらしいですよ。

それと米というものは畑に植えられていたものを霞さんが見つけて、これは食べることができると言って食堂の人にレシピを教えたらしいですね。」

「そのサクラバカスミっていうのはどんなやつなんだ?」

俺の問いにカルリアがすぐに答える。

「私たちは1学年なので…

桜庭さんは2学年の先輩ですね。」

カルリアはこの学校のことをよく知っている。

そこまで人脈が広いわけではないが、噂話や友達との話から情報を得ているのだろう。

「その人なら知ってるぜ。

1つ上の学年で1番かわいいって言われてる人だろ?」

もう食べ終わったアベルが水を飲みながら言う。

こいつは可愛いと言われる人ばっかりを求めて情報収集してるから全然違うな…

ジトーっとアベルの方を見る。

ただ、おそらくその人も刀を使っているのだろう。

しかもわざわざこの世界で作ってもらえると言うことは相当の実力者ということになる。

そのうち戦うこともあるだろう。

それまでのお楽しみだな…

その後の1日は何もなく過ぎ去っていった。

いや、アベルが相手選手をボコボコにしていたか…

かわいそうじゃね?

と思いながら俺は観客席からそれを見ていた。





そして最終日、アベルとカルリアは試合が終わっているため試合があるのは俺とリョウなのだが…

なんで授業を受けるのはDクラスなのに試合はAクラスと同じ3回なんだろうか…

そんなことを思いながら舞台に向かって歩いていく。

今回の試験はDクラスは三日間のうち1、CとBは2、Aは3回の試合回数となっている。

Sクラスは相手がいないから1回だけだそうだ。

そして基本的には同クラスの人としか当たらないはずなのに、ゼロクラスはどのクラスと当たるかは完全ランダムになっている。

ゼロクラスってのはなかなかに手厳しい。

ていうか、これでDクラスとかに当たったら相手がかわいそうだろ…

そんなことを思いながら舞台に上がると、またも見知ったやつが対戦相手だった。

「お前が相手かよ…」

俺はそいつに言う。

「ははは…勝てるかはわからないけど、全力でいかせてもらうよ。」

そこに立っていたのはメガネをかけた青年。

そう、言わずもがなリョウだった。

さて…まぁ負けたくはないからな。

勝ちに行きますか!

「試合開始!」

俺はその合図とともに刀の柄を掴んで一直線に攻撃を仕掛ける。

リョウは動かない。

しかし、彼の前には何やら真っ赤な人型が現れた。

なんだこいつ?

その人型は腕を振り上げ、俺に向かって振り下げる。

俺はそれを後ろに跳んで回避する。

でかい音と共に俺がいた場所にクレーターができている。

なかなかな力だ。

「すげぇ力じゃねぇか!

どうやってんだ?」

「それを言ったら僕は負けてしまうじゃないか。

負けてくれるなら教えてあげてもいいけどね。」

「ふっ。

お前に負けて教えられるなら自分で解いてやるよ!」

俺は再度地面を蹴り、その人型に向かって突っ込んで行く。

腕を上げた瞬間、速度をあげ、刀の間合いに入る。

そのまま斬りつけると、斬られた部分からボロボロと崩れるようにそいつは消えていく。

しかし、その直後だった。

前方から水のようなものが飛ばされる。

俺はそれを刀で受ける。

放っているのは青い人型だ。

また新しいのが増えているが…よくわからないな。

水の勢いを押し殺して俺は攻撃から逃れる。

その刹那、頭上から殺気を感じ、右の方向へ跳躍する。

俺がいた場所に立っている人物に目を見張る。

「フローラ・フローベル?」

今までの人型などではない。

しっかりと原型を残した状態の彼女がそこにはいた。

しかし…

「こいつは本人じゃないな?

お前が作り出したものか…」

リョウに向かって俺は言う。

「まぁ本人が介入してきたらダメだからね。

君の予想通りだよ。」

こいつはめんどくさいな…

あの青色と赤色のやつならなんとでもできるが、フローベルもどきまで相手をしないといけないのか…

いや、先にリョウを倒した方が早いか。

俺は再度リョウに向かって攻撃を仕掛けようとする。

しかし、それはフローベルもどきによる文字通りの横槍に妨害される。

その槍を弾いて地面に宙にとび、降り立つタイミングを測ったかのように水が放たれる。

さてどうするか…

こいつの攻略法も探しながら戦わないといけないのがめんどくさいポイントだ。

攻撃を回避するとまたそこにフレーベルもどきが攻撃を仕掛けてくる。

リョウに近づこうにも近づけない。

さすがにそう簡単には無理か…

2人の攻撃を対処しながら、それぞれの特徴を分析する。

めんどくさいのはもちろんフレーベルもどきの方だが、こいつは本物ほどのスピードを出すことはできていない。

それは何度も攻撃を回避していた間に確信した。

だったら…青い方から片付けるか。

俺は刀を抜き、直線上にその偽物を捉え、一足飛びで目の前まで迫って刀を振り下ろす。

その攻撃はあいつが出していた槍と同じもので防がれる。

その直後、側面から水が放たれる。

空いた左手でポケットからナイフを取り出し、その水の中心に向かって投げつける。

そのナイフは水を真っ二つにしながら飛び、青い奴に突き刺さった。

そいつは赤い方と同じようにナイフが刺さったところから崩れ落ちた。

さて…

俺は刀を振り抜いてフローベルの体を弾く。

リョウの方に目をやる。

彼は動く様子もなく突っ立っている。

側から見たら完全に無防備だ。

リョウが手作業で操っているというわけではないみたいだな…

だとしたらこいつは勝手に行動していることになるが…

俺は突っ込んできたフローベルの槍を避けながら思考を巡らせる。

能力者が動くこともなく攻撃ができる能力…そして強さも個体によって異なっている…

フローベルとの戦いの中考え続けるが、なかなかわからない。

しかもこの様子じゃ前みたいに能力のガス欠とはいかなそうだ。

確かに目の前にいるフローベルも風を起こすことはできている。

しかし、その強さは本人より明らかに劣っている上、彼女に比べたら槍による攻撃がメインに思えてくる。

攻略方が思いつきそうで思いつかないな…

これといった答えが出てこない。

いや…ちょっと待てよ?

これだけの能力ならDクラスになんてならないんじゃないのか…?

その考えに至った瞬間、閃いた。

なるほどな…

俺は一気に突っ込み、フローベルもどきの槍を弾き飛ばしてできた隙を逃さず、腹蹴りを叩き込む。

こいつを倒したあと、また同じような奴らが出てくることを見越して攻略を考えていたが、そうでもない可能性もある。

だとしたら、ここで一体倒しておくのは一つの手だろう。

そして、吹き飛んだフレーベルもどきは足が触れた場所から体が崩れていく。

俺はリョウの方へ向き直る。

「もしかして、僕の能力バレちゃったかな?」

流石に鋭いな。

「まぁ確実ではないがな。

だいたいわかった感じだ。」

「さすがだねシロ君、どうしてわかったんだい?」

「お前の能力でDということは、何かでっかいデメリットがあるってことになる。

そしてお前が出したフローベルの力は俺が戦った時より弱い。

つまり本人を操ったりしているわけではないのもわかる。

全く同一人物を作ったわけでもない。

そして赤だったり青だったりする力の人型。

その辺りをひっくるめると、だ。」

俺は刀を鞘に納め、結論を出す。

「お前の能力は…思いや想像を具現化するような能力、だろ?

ここには多くの観客がいる。

そいつらが思っているフローベルという人間を再現し、具現化した。

前回の戦いの俺の相手は彼女だ。

その戦いを思い返している奴も多いということだろう。

どうだ?」

リョウの顔には微笑みが浮かんでいる。

「いやぁすごいなぁ…正解だよ!」

リョウは拍手をしながら話し始める。

「それと、多くの人間がその力を知っているから具現化しやすいんだよ。

間違っているのは想像までは具現化できないというところかな。

だからどれだけ頑張っても本人と同じ強さまでしか出すことができない。

もっとも、僕の実力不足で本人と対等な力までも出せないんだけどね。」

「なるほどな…

人に認知されているやつを具現化するのが1番簡単というわけか…

それで?

フローベルもどきはいなくなったがどうするんだ?」

「僕の考えでは彼女を作り出して負けるなんて考えていなかったんだけどね。

昨日までは…

そもそもAクラス相手でも多少はなんとかできるかとも考えてたんだけど…」

リョウはそこで言葉を区切った。

そして、紡いだ。

「でも、君に勝つための方法が決してないわけじゃないと思うんだ。

僕が君に勝つことができる恐らくたった一つの方法、それは…」

一泊置いて彼は言った。

「君が今まで出会った中でもっとも強い人を具現化することだよ。」

なるほど…俺がもっとも強いと考えるやつ…

不意に彼女の影が頭に浮かんでくる。

確かに、あいつが出てくるなら俺は勝てないだろう…

あの時の炎が脳裏に蘇ってくる。

だめだ━━━。

ここであいつのことを考えれば考えるほどリョウの能力が強く発揮されてしまうだろう。

さて…どうなるか…

しかし、この俺の考えは杞憂に終わることになる。

いつまで経ってもリョウの能力が発動されないのだ。

しかもその状況に1番驚いているのは俺ではなく彼だった。

「…君の心の中が具現化できない…!?」

はははと小さく笑って彼は言った。

「これで、僕が君に勝つ最後の作戦はなくなった…

僕の負けか…」

そしてリョウは降参を宣言した。

試合は俺の勝利に終わった。

なぜ能力が発動できなかったのか、なえリョウが俺の心の中を読み解けなかったのかはわからないが、とりあえず勝敗は決した。

なんともいえない雰囲気の中、俺は舞台から去ろうとする。

彼女のことを思い出し、少し心が乱れたかもしれないな。

後ろを向き、歩き出す。

すると後ろから声が飛んでくる。

「いつか君の心を読み解いてみせるよ!

そして君に勝つ!」

いつも穏やかなリョウからの力強い宣言に、俺は振り向かずに応える。

「楽しみにしておくよ。」と。

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