脆い強さと目指した強さ
次の日、俺は傍観席に座ってカルリアの戦いを見物していた。
まぁ完全に自我を失っているから彼女自身の力と言っていいのかはわからないが…
相手はDクラスの生徒か。
あいつは隣のクラスの、最強になる男!って毎日言ってるユーハベルンみたいな名前のやつ…
毎日うるさいから名前覚えちまったんだよな…
確かに昨日の試合見た感じDの中では強いんだろうが、その強さというのが単純な能力の力なので戦い方は初心者そのものだ。
ゴリ押しと言っていいだろう。
次の試合は俺の番だから、そう長くは見ていられないな。
そう思っているところに、
「お前まだ見てんのか?」と声をかけられる。
振り返るとそこにはアベルとリョウが立っていた。
「あぁ、これを見終わったらいくつもりだ。」
「行くつもりというか次の試合だろう?
大丈夫かい?」リョウが聞いてくる。
「問題ない。
休憩時間もあるし、いざとなれば走ればいいからな。」
「それもそうか。」
そう言って2人は俺の隣に座る。
試合はカルリアが終始圧倒していた。
それを感じたユーハベルンも持久戦を仕掛けていて、試合時間はどんどん長引いていた。
しかし、その時は唐突に訪れた。
カルリアの覚醒状態が解けたのだ。
明らかに弱まった攻撃をユーハベルンは手にした大剣で弾き返し、隙だらけになったカルリアの腹を蹴り飛ばした。
カルリアはそのまま吹っ飛び、壁に激突した。
あの覚醒状態は時間が経つと終わってしまうのか…
それでもカルリアは立ち上がった。
今までならもうどうしようもなかっただろうに━━。
それを見た俺の口にはわずかな笑みが溢れていた。
気がついた時、私は剣を振り下ろしていた。
しかし、相手の手にした剣によってそれは弾き返される。
マズイっ!
そう思った瞬間、
「オラァ!」
という声と同時に勢いよく腹部を蹴られる。
「グッ!」
少しでもダメージを抑えることができるように、僅かにからだを傾ける。
やはり避け切ることはできず、受けた力をそのままに私は後方に飛ばされた。
後ろの壁に体がめり込む。
「ゴホっ!!」
息が詰まる。
体を制御できず、地面に倒れ込む。
これ…もう勝てないなぁ。
そう思った。
━━その程度で負けてちゃあ俺に勝つことはできないぞ?
これは…シロくん声?
でもこんなこと言われたことなかったはず…
重い体をなんとか動かし、私は顔を上げる。
その視線の先に、二階にいるシロ君の顔が映っていた。
心の奥が熱を持つ。
「確かに…Aクラスを相手に勝てるシロくんに勝父としているのに…
こんなところで負けてはいられないですね━━。」
そう呟き、私は震える脚を抑え、立ち上がった。
今なら、まだ立っていられるいう気分がする。
相手も自分も息が上がっている。
次が最後のチャンスだろう。
そして、一気に踏み込んで相手の前まで駆けていく。
目の前の男は、怒声とともにその手に掴んだ大剣を横薙ぎに振るう。
その剣を見切り、私は姿勢を低くする。
いける…!
私は手に持った剣を振ろうとする。
その瞬間に、目の前がだんだん暗くなっていく。
どうして…もう一歩…もう一歩なのに……!
動いて!私は体に訴えかける。
しかし、私の体はそれ以上動くことはなく限界を迎え、何も考えられなくなってしまった。
俺は一階の舞台へ向かって歩いていた。
さっきの試合ははっきり言って惜しいところだった。
あと一歩、あと一撃の攻撃が繰り出せていたらあの勝負はカルリアの勝ちだっただろう。
しかし、その一撃をくる前に体が限界を超え、その場に倒れ込んでしまった。
相手もその後倒れ、2人して担架で運ばれていった。
ただ、あれはカルリアにとって大きな一歩かもしれない。
そんなことを思いつつ、俺は舞台に上がる。
そこで会ったのは…
「あら、奇遇ね。
こんなところで会えるなんて。」
マジか…目の前にいるやつを見てため息を吐く。
昨日見た顔だ。
「まさかこんなに早く戦うことになるなんてな…フローラ・フレーベル。」
ふふッと微笑んだ後彼女は言う。
「わざわざフルネームで呼ばなくていいわよ?
フレーベルと呼んでほしいわね。」
「こっちはお前の呼び方どころじゃないんだよなぁ…」
そんなことを話していると審判から声が聞こえる。
「試合開始!」
その声と同時に、彼女は昨日見た槍を作り出し、俺のところへ一直線に距離を詰めてくる。
走っていない…?
その体は地面スレスレを飛んでいた。
槍が突き出される。
俺はそれを刀で払いのける。
ん?違和感を感じる。
その瞬間だった。
爆風によって俺の体は後方に吹き飛ばされていた。
壁にあたるすんでのところで俺は体勢を立て直し、フレーベルの方を見る。
彼女の姿はそこになかった。
直感的に上を睨む。
高く飛び上がった彼女が槍を構えていた。
空中から一直線に落ちながら容赦なく突き出された槍を避ける。
地面に槍がぶつかると同時にまた爆風が起こる。
その風を防ぐために刀を構えたのに、それに関係なく俺の体は飛ばされる。
わかんねぇな…
先ほど感じた違和感も未だになんなのか確証が持てない。
一応1つ見当をつけてはいるが…
それが正しいかわからない今、それを確認するしかない。
俺は地面を蹴り、一直線に彼女の元へと迫る。
そして刀と槍がぶつかる瞬間に俺は彼女の視界の下へと潜る。
上で発生した風に押し潰されながら、俺は刃先が地面に当たった刀を持ち上げ、上へ向かって切りつける。
その刃をギリギリで掠めるようにして彼女は宙へ舞う。
飛んだ先の彼女の中心を目掛け、俺はポケットに入れたナイフを取り出し投げる。
しかし、それを彼女は空中で一回転して回避する。
そして確信した。
彼女は空で自在に動くことができる。
つまり、能力は空気か風を操るものだと。
それならば何度も起きている爆風も説明がつく。
そして何もなかったところから現れたあの槍、あれすらも空気によってできていたら、刀と槍がぶつかった時に感じた違和感も理解できる。
後はどう攻略するかだが、攻略法は思いついている。
どうやってタイミングを作るか考えていた時だった。
「そんなに防戦一方でいいのかしら?
体力がなくなっちゃうんじゃない?」
彼女が口を開いて言う。
「体力がなくなるのはそっちの方なんじゃないか?」
俺は言い返す。
「あら、どこをどう見たらそんな風に思えるのかしらね。」
「さぁどうだろうな?
これからわかる話だ。」
そう言って俺は一気に、浮いている彼女の下を潜り抜けて走っていく。
目標は先ほど投げて落ちてきたナイフだ。
あと少しのところで刀を鞘に納め、ナイフに手を伸ばす。
しかし、それは彼女から発せられた風によって吹き飛ばされてしまう。
ミスったな…
振り返って彼女を見る。
向こうは余裕そうな顔で俺を見て、地面へと降り立ってくる。
彼女の足がちょうど地面につくタイミングで、俺は地を蹴る。
一直線に突っ込んでいったところで結果は見えている。
ただ、今回はそれでいい。
間合いあと一足というところまできて、俺は前方からの爆風に襲われる。
「引っかかったな。」
刀を鞘から抜き、その爆風を断つ。
その瞬間、彼女から発せられていた風がぴたりと止まる。
否、相殺したのだ。
彼女の顔は驚きの色を見せていた。
前方から放たれる風は勢いを増していくが、俺にそれは届かない。
昨日の夜中まで刀を魔改造した甲斐があったというものだ。
そんなことは誰も知らないだろう。
俺が刀に施した改造は、受けた力の一部を取り込み、発生させるもの。
だからこそ刀で風を受け続け、それを今ここで発散する。
俺とフレーベルを中心に風が渦を巻いているのがわかる。
刀を翻し、彼女に向けてそれを振る。
すかさず、彼女はその手に持った槍でその刃を防ぐ。
あたりに発生している風がどんどん強くなる。
力技で刀を振り抜いて槍を粉々にする。
彼女は一歩下がり、新たな槍を創ろうとする。
しかし、その手に槍が握られることはなかった。
周りに渦巻いていた風も消えている。
何が起きているのかわからない顔をし、焦っている彼女に向かって俺は言う。
「単純な話、俺の力を相殺するためにお前は力を使い続けた。
それがお前の使える能力の範囲を超えたと言うことだ。
簡単に言うとガス欠だな。」
「私の力とぶつかり合ってそれを相殺するだけの力を出し続けたってこと…?
あなたの能力は何!?
あなたは一体何者なの!?」
俺は彼女の問いに対し俺は答える。
「俺はただの無能力の転生者さ。
最強を目指しているだけのな。」
「最強を目指す…?
なぜそんなものを目指すの?」
「さぁ?お前に言う必要はあいにく無いもんでな。」
しばらくの間、静かな時が流れる。
観客も静まり返っている。
「だったら…あなたに勝ってその理由を聞いてやるわ!
私が勝ったら教えなさいよ!?」
彼女はイライラと悔しさを入り混ぜたような顔で言う。
「できねぇ約束はするもんじゃねぇよ」
俺も微笑みを浮かべながら言ってやる。
「まぁ俺を超えることができたら…な」
そうしてその勝負は俺の勝利によって終わったのであった。
今回で最なれも7話まできました。
読んでくださりありがとうございます。
(なんかもうそろそろ完結するような言い回しですがまだまだ続きます。)
今日は夜の6時くらいにも続きを投稿したいと考えていますので、よろしければぜひご覧ください!




