時間と刻
この世は不条理だ。
俺と近しかった者は、全員死んでいった。
もう、何も残っていない。
人生の絶望のど真ん中、だがしかし、ある男の言葉によって、俺の考えは否定された。
「復讐なんてしたところで意味がない。」
直接俺が言われたわけじゃないが、それでも、その言葉は俺の胸に重く深く突き刺さった。
あの男、シロは、どこか俺に似た雰囲気を纏っていた。
あの世界に転生した奴らは、俺と同じような経験をし、俺の思いを汲んだ奴、同情したやつというのも多かった。
だから、そいつらを使って元の世界に戻るための組織を作り出した。
しかし、最後の最後で、俺の全ては否定された。
たった一言の言葉と、そいつが背負ってきた人生に、言い返すことはできなかった。
願いが叶い、元の世界に戻ってきたと言うのにも関わらず、俺は一歩を踏み出すことができない。
何度も噛み締めてきた自分の弱さを、また噛み締める。
「ふざけんなよ……!」
ここにいるはずのないやつに向けて、俺は苦し紛れの言葉を放つ。
今までの俺の人生を否定したことへの、言い返しだとでも思ったのだろうか。
「ホントに強いやつだな、お前は。」
はっ。ついに聞こえるはずのない声まで聞こえてくるようになってきやがった。
そう思ったが、俺の後ろには確かな人間の力を感じる。
感じると言っても、徐々に力は減っていっている。
「わざわざ何の用だ?シロ。」
振り返ることもせず、俺は聞く。
「お前が生きた世界ってのを見せてもらいにきたんだ。グレイ。」
「色々と言いたいことが山積みだが…もういいだろう。
俺はお前に勝てねぇ。再戦を申し出られても無理だ。」
「それは、もう俺と戦う気力もないってことか?」
「どこのどいつのせいだろうな。
白い髪をした長髪の男のせいだった気がするが。」と言い返す。
「そうか…だが、お前は何かを得ることもできたんじゃないか?」
「うるせぇよ。
もう…何も帰ってこねぇ。だから……もう黙れ。」
俺は、言葉を絞り出す。
こいつがいなくなったら、もう死ねばいい。
ゆっくり、死んでいった者たちへの謝罪と感謝を持って。
「お前としては、俺の手を借りたくはないかもしれない。
だが、俺はアストリナが死んだ時、神でも何でも、どんなやつに頼ってでも、彼女の命を望んだ。
お前も、そうなんじゃないか?」
「当たり前だ。
あの場にお前がいて、俺の大切な人を護ることができるなら、お前だろうが誰だろうが助けを求めたさ。」
「その言葉、忘れるなよ?」
シロがそう言った瞬間、後ろの気配からごっそりと力がなくなる。
「はぁ…はぁ………
すまないが、まだアリアのところへも行かないといけなくてな。
こいつが俺のありったけだ。」
「何言ってんだ!?」
振り返ったそこに、シロの姿はない。
周囲を見まわし、妙に空が明るいことに気づく。
そこには、一本の白い光。
「あとは、お前の気持ち一つだ。じゃあな。」
その言葉だけが、響く。
あいつ……何を言って━━━━━
自分の手を見る。
大切なものを何一つ守れなかった、弱々しい手。
グッと、それを握りしめる。
「俺の気持ち…か。
いいじゃねぇか、上等だ。」
すっからかんになっている能力に、制約をつける。
対象にするのは、俺の命。
それを発動すると同時に、天に巨大な円陣が描かれる。
「あいつ…」
ふっと笑みが溢れる。
「ありがとな、最強。」
俺の命の全て使った、正真正銘最後の賭け。
遥か昔に置いてきた忘れ物を、持ってくる。
あとは、俺自身を信じるだけだ。
天の円陣が光り輝くと共に、俺は涙を流す。
僅かに残された、短い時間で、俺はずっと言いたかったことを、1人の少女に言う。
「愛してる……
どれだけの時間を越えようと。
俺はお前を愛している。」
「私もだよ。」
そう言って、俺たちは抱擁する。
その光景を見守ってくれた人とも抱擁し、俺はこの世を去る覚悟を決めた。




