過去と魔法
俺は捨てられたらしい。
その世界では魔法が使えるかどうかで人間の価値が決まる。
戦争に勝つためには、優秀な人間がいないといけない。
当時は大きな争いは起きていなかったが、それは真実を避けた仮初めの平和でしかない。
どの国も、自国の力を強めるために魔法が使えるものを育てていた。
だからこそ、どれだけ貧乏で貧相な家の出自でも、魔法さえ使えれば国王軍に入り、豊かな生活が確定する。
逆にどれだけ豊かな裕福で雅な家に生まれようとも、魔法が使えなければその人間に人権は与えられない。
ろくな戦力にならないからだ。
そんな子供が生まれてしまっては、その家にとっては恥晒し。
そして、俺は捨てられた。
家のメンツを保つため、疫病神はいらないということだろう。
魔法を使えるかどうかの有無は大体3歳ごろにわかる。
もちろん、そんな昔のころの記憶があるわけない。
だが、魔法の使用ができるかがわかるのがそれくらいの年齢であることを考えると、俺が捨てられたのも例外なくそんな頃だろう。
そして、幸いにも俺は拾われた。
拾われたのは、能力を持たない両親の家族だ。
だから森の中でひっそりと暮らしていた。
能力を持たない者で国王軍に入るのはおろか、街でまともに生活することができるのはほんの一握り。
それ以外の人間は森や山、自然に溶け込んで生活することを強いられた。
街へ出れば見下される。
自分たちで生きていくしかないのだ。
ただ、俺を拾った人たちは優しかった。
おそらくすぐにわかったのだろう。
俺が魔法が使えないがために捨てられた子供であることを。
そして同じ境遇の俺を温かく支えてくれた。
義父は真面目で、誠実で、優しい人だった。
時折、日記をつけていた。
なぜそんなことをしているのかと聞いた時は、
「いつかお前たちがこれを見て、懐かしいと笑い合いたいものだ。」と答えた。
義母も優しく、義父がいない間に料理やら読み書きやら色々なことを教えてくれた。
しかし、その家は他の家とは違う不思議なことが1つあった。
俺と同い年の少女がいた。
それだけでは何もなく終わりだが、彼女は魔法が使えた。
父も母も、そのまた両親も魔法を使うことができなかったのにも関わらず、だ。
5歳になる頃、彼女…アストリナの魔法は唐突に開花した。
基本的に魔法は属性に分けられる。
自然界に存在する火や水、雷といった現象を起こす魔法、治癒などの回復系統の魔法、何かを作り出す創造系の魔法、それ以外にも多くの分類がある。
彼女が異質だったのはそこにあった。
ほとんどの場合、魔法を使う奴は1つ、多くても2つの系統の魔法を使うのが限界だった。
その考えを過去のものにしたのが、他でもない彼女だった。
彼女はあらゆる魔法を扱った。
逆に、使うことができない魔法がないほどだ。
魔法によって新たに魔法を作り出すという、今まで聞いたことがないような芸当まで難なくやってのけた。
彼女はメキメキと力をつけていった。
そして、それにつられるように俺も成長していった。
6歳になる頃からはしっかりと記憶がある。
俺と彼女、彼女の両親と仲良く過ごしていた。
魔法を使っている彼女を羨ましく思い、それと同時に魔法を使わないで彼女に勝ちたいという思いが芽生えていた。
8歳になる時には、仲がいい相手という感情より、負けたくない相手という感情が強くなっていた。
彼女が魔法の特訓に行くと言って家を離れれば、俺はそれについていった。
魔法の才に溢れた少女アストリナ。
彼女が第三者だとしたら、俺はただの雑魚でしかないだろう。
ただ、そんなふうに思われていたことはないとなぜかわかる。
俺は彼女を慕っていた。
それと同時に、彼女も俺を慕ってくれていたと感じるからだ。
あらゆる魔法を扱える才能の塊を目標にして、俺は鍛えるようになった。
鍛える方法は至ってシンプル。
彼女と戦うということだ。
それは俺が7歳の時に
「僕はアストリナを超えてやる!」と宣言した時に彼女が提案したものだった。
彼女と共に修行に勤しむ日々は、俺にとってかけがえのない毎日だった。
邪魔が入らない中で彼女といられるだけで、十分だと思っていたからだ。
だからこそ、15になった時に彼女が言ったその言葉に、目の前が暗くなった。
「私は国王軍に入ろうと思う。」
2人きりの部屋の中で、ベッドに座ったアストリナは筋トレをしていた俺に言った。
国王軍…正式名を国王騎士団と言う。
それがどんなものなのか、大体は理解していた。
俺は焦った。
「ちょっ、ちょっと待てよ。
お前が国王軍に入ったら俺はどうすればいいんだ?
お前がいないと俺は…」
それを聞き、彼女は首を傾げてごく当たり前のように言う。
「何言ってるの?
シロも一緒にこればいいじゃない。」
「いやいや待てよ!
俺は魔法が使えないんだぞ?
国王軍に入ることすら許されないだろ!
何よりも、俺が一緒に行くことでお前に被害が出るかもしれないんだぞ!?」
俺は必死に言い返す。
俺の心の中には迷いだけがあった。
できることならアストリナと共に行きたい。
それは当たり前だ。
しかし、俺が行くことによって彼女が被害を被るのはもっと駄目だ。
それなのに、わがままだとわかっていても行ってほしくないというのが本心だった。
彼女のことだ。
心配なんてしていないし、環境にさえ慣れてしまえばすぐに軍の中で最強になるだろう。
それが楽しみにも思えて、それと同時に恐怖でもあった。
さらなる高みへ行くことによって、俺のことなんて気にも留めなくなってしまうのではないかという感情が、俺の首が縦に振られるのを邪魔していた。
結局、俺はアストリナのことが好きなのだとつくづく思った。
彼女の顔を見る。
彼女は真剣な目でこちらを見ている。
生半可な覚悟でこんなことを言う人間ではない。
それは俺もよくわかっている。
だからこそ、これは彼女の人生を賭けた選択であることもわかる。
俺はその目をしっかりと見て言う。
「なんのために軍に入りたいのか聞いてもいいか?」
彼女も俺の目をまっすぐ見て答える。
「私の目標は、この世界を笑顔で溢れる世界にすること。
そのために、私は魔法で最強にならないといけない。
この国に生きる命を守って、みんなに平和に生きてほしいの。
そして…いつか戦争を完全に終わらせる。」
彼女の話を聞いて、俺は呆気に取られていた。
目標も何がしたいかということも、今日初めて知った。
戦争を終わらせるなんて大きな夢を彼女が持っているということすら、考えたこともなかった。
確かに、アストリナならやってしまえると感じる。
「ここに残ってくれ」なんて、とてもじゃないが言えなかった。
俯く俺を見てか、彼女は言葉を紡いだ。
「だからね…シロ。
あなたも一緒に来てほしい。
もちろん、魔法を使えない人がどんな仕打ちを受けているのかは知っている。
だから無理にとは言えない。
それでも、あなたがいれば私の夢も叶えることができると私は思う。
シロさえ良ければ、私に力を貸してほしい。」
俺は顔を上げて彼女を見る。
一つ息を吐いて笑顔を作る。
「仕方ないな…
そこまで言うなら行ってやるよ。」
「ありがとう!」
そう言って彼女は抱きついてくる。
その背中をしっかりと押さえ、覚悟を決める。
これから俺が進もうとしているのは間違いなく茨の道だ。
それでも、俺は新たな目標、夢ができた。
彼女の夢を現実にするという夢が…
彼女にバレないように、小さく頷き自分に言い聞かせる。
“俺たちなら大丈夫だ“と。
それから1ヶ月後、俺とアストリナは国王軍に入るための試験を受けるため、王都へと来ていた。
試験内容は基礎的な運動能力、基礎的な魔法の力、魔法の応用だった。
つまり、俺は基礎的な運動能力だけで試験に合格しなければならない。
結局のところ魔法が全てなのだ。
その時点で優遇されることが決まっている。
しかし、だ。
国を守るための組織である以上、魔法が使えるだけで国王軍に入れるなんてことにはならない。
試験の内容もレベルが高いらしい。
俺が試験会場に行き、魔法を使えないということを伝えると、受付の人の顔が途端に曇る。
「魔法を使えない人が受けるものではありません…
引き返した方が…」と小声で言っくる。
当然、俺はそれでも受けたいと言って受付を終えたが、内心は穏やかでなかった。
どこまで行っても魔法の有無による差別が残る。
こんな世界で、魔法が使えない人々は幸せに過ごせるのだろうか…
そんな考えが頭をよぎる。
俺は楽しく過ごせている。
だがそれは、アストリナがいて、今の家族があるからだ。
なんともやるせない気持ちになりながら、俺は先に受付を終えて座っているアストリナのもとへと歩いていく。
「緊張する?」
彼女は笑いながら俺に聞く。
「そこまでだな。」
「そっか…」
なぜか気まずい雰囲気になる。
いや、今に始まった事ではない。
1週間前の夜、家を出る時からこんな感じなのだ。
俺を無理に連れてきて悪かったとでも思っているのだろうか。
ついてきたのは勝手だし、俺が来ようと思ったんだから彼女に非は一切ない。
ただ、その顔にはいつもの明るさがない。
2人とも口を開くことなく、10分ほどが過ぎて彼女の元に1人の女性が来た。
名前を呼ばれて彼女は頷く。
何も言わずに立ち上がり歩き出したその背中に、俺も立ち上がって声をかける。
「頑張れよ!アストリナ。」
彼女は振り返って答える。
「えぇ、もちろん。」
そう言って前を向く彼女の顔には、少し明るさが戻っていたように見えた。
そしてそれから数十分が経過した頃だろうか。
俺は受付の人に呼ばれ、試験会場に行くように言われた。
長い廊下を歩き、言われた通りの場所にある両開きの扉を開く。
その先にあった広く何もない部屋には、1人の兵士がいた。
全身を武装で包み、堂々と立ってる。
これは人間か…?
そんなことを思いながら俺はそれの前まで歩いていく。
5歩分くらい間が空いた時、その鎧は急に言葉を発す。
「お前がシロだな?」
重々しい声が部屋に響く。
「そうだ。」
「今から私に攻撃を当て、この鎧を破壊して見せよ。」
そう言ってそいつは一歩前に出る。
「それでは、試験はじめ!」
そう言われた瞬間、俺はその鎧の腹部を思いっきり蹴り飛ばしていた。
鈍い音が響き、その鎧は吹っ飛んでいく。
向こう側の壁に当たり、落下してくる。
なるほど…流石にこの程度じゃ壊れてくれないってことか。
俺は再び踏み込み、一気に近づいて落ちてくるところを下から蹴り上げる。
天井にぶつかる前にその上に移動し、それを蹴り落とす。
地面に落ち、ワンバウンドしたところに拳を固めて全力の一発を腹部に叩き込む。
それと同時にその鎧を俺の腕が貫通し、穴が開く。
しかし、不思議と感覚がない。
本来なら中にいる人間にも拳が当たるはずだが、そんな感触はなかった。
俺はしっかりと固めた拳をその鎧から外し、そこに倒す。
やはり中には誰もいないのか…
そう思っているとまたあの声が聞こえてくる。
「なかなかいい腕をしている。
よかろう。
お前をこの国の軍人の一員として認めよう。」
声がそう言うと鎧の頭部が外れ、その中から綺麗に巻かれた紙が姿を表す。
それを手に取り、俺は元きた道を歩いて受付へと戻るのだった。
結局、俺は試験に合格していた。
受付でアストリナを待っていると、しばらくして彼女も同じ紙を持って現れた。
つまり、彼女も合格していたということだ。
無邪気にハイタッチをして、外へ出た。
ほんのりとした明るさが残る綺麗な夕焼けが見えていた。
それからは街の飯屋へ行き、夕食をとり、宿泊所に行って一晩泊まった。
俺は自分の気持ちを伝えるなら今しかないと思っていた。
しかし、どう頑張っても最後の一歩を踏み出すことができなかった。
いつも最後の一歩を踏み出させてくれていたのは彼女だということに、その時になって気づいた。
その後も時間はすぐに過ぎ去り、次の日に備えるため、俺たちは早く寝ることにした。
数年ぶりに同じベッドの中で寝た彼女の温かさは、俺の心を慰めるように思えた。
俺とアストリナは朝早くから王城へ来ていた。
その一室で俺は髭の生えた身分が高そうな男に作戦を伝えられた。
北面の担当大臣らしい。
新入りも新入り。
そんな俺にいきなり任務を与えてきたのだ。
「使い捨てはどうでもいいってことか…」
直感的に感じた。
アストリナはしばらくの間王都で訓練を積むらしい。
「それじゃあ、行ってくる。」
王城の出入り口付近にある橋の上で俺は彼女に言った。
俺に与えられた任務は北の国への偵察だった。
大きな争いはないと言っても、小競り合いは常に起きている。
さっきの大臣も、そろそろ戦争が起きる可能性があると言われた。
その最前線に行けと言うのだ。
俺は自分の命の軽さにつくづく呆れていたが、文句を言っても始まらない。
自分の力は自分で示すしかないのだ。
俺は拳を固める。
「また会おう。」
そう言って俺は振り向いて歩き出す。
もう二度と会うことができないかもしれない。
それでも、これは彼女が選んだ道であり、俺が選んだ道だ。
そう言い聞かせて、覚悟を決めた。
一つ息を吐いたとき、後ろから声が飛ぶ。
「行ってらっしゃい!」
その声がする方を振り返り、彼女の笑顔を見て思わず俺も笑顔が溢れる。
固めたままにしていた拳を突き上げる。
大丈夫だ。
絶対帰ってこれる。
なんせ俺は、最強と戦い、強さを磨いてきた男だからだ。
自分に自信を持てばなんとかなる。
もう一度覚悟を固め、俺はまた歩き始めた。
行った先での俺の扱いは酷いものだった。
「魔法が使えない?
テメェなんのためにここに来てんだ?あぁ?
お前みたいな雑魚は突撃して死んでこりゃぁいいんだよ!」
開口一番、行くように言われた隊の隊長に怒鳴りつけられた。
結局、この世界とはこんなものなのだ。
呆れつつも、俺は言われたことを全うした。
北の敵の砦へ偵察へ行くとき、俺の他に魔法が使えるやつが2人来ていた。
しかし、目的地までもう少しだというところで、その2人は俺に向けて言った。
「ここから先はお前が1人で行け。
俺たちはここで待っているとしよう。」
「もし敵に見つかった場合って…」
「は?知らねぇよそんなもん。
襲ってきた敵を全員ぶっ殺しちまえばいいんじゃね?
ま、魔法の一つも使えない敗北者のお前にそんなことできるかどうかは別としてな。」
ゲラゲラと笑いながら、その2人は俺に言う。
だんだんと昂ってくる気持ちを抑え、1人で森の奥へと入っていく。
数分もすると森を抜け、それらしい建物が姿を現す。
そして、その建物を目撃すると同時に、数箇所に光が見える。
こっちの情報を事前に理解しているというわけか…
そう判断した俺は、目の前から向けられる無数の魔法━━━━━
いや、所詮数十発の魔法を一本の剣でかき消していく。
量も少なければ威力も弱い。
炎、水、雷等々いろんなバリエーションの攻撃が飛んでくるが、全て同じ結果に終わる。
なんというか、手を抜いている時のアストリナの10分の1くらい弱い。
見えている魔法陣の数的に2〜30人程度で攻撃を仕掛けてきているようだが、申し訳ないが弱すぎる。
そのまま砦の中まで入ろうとすると、中から剣を持った屈強そうな男たちが姿を現す。
魔法でダメなら肉弾戦で、と言うことなのだろうか。
そんなことを思いつつ、斬り掛かってくるやつの剣を殴ったり蹴ったりしてへし折っていく。
数分も経つ頃には、砦は勝手に俺を受け入れて降伏した。
「この砦にいる者たちはどうなるのでしょうか…」
砦を仕切っているという男が、俺の前に跪く。
「ど、どうか兵士たちだけでも国に帰してやることはできませんか━━━━?
私はどこへ連れて行かれて何をされようと構いませんので………」
神に祈るように、そいつは俺を見る。
周りの兵士たちは、指揮官の姿に感化されて涙を流す者、自分たちのために犠牲にならないでくださいと声を張り上げる者、俺たちだって一緒に行きますと立ち上がる者に分かれる。
その姿を見た俺は、なんとなく一つの気持ちが芽生えた。
「正直言うと、俺はただの新入り偵察兵だ。
この砦はもぬけの殻で何を狙っているかわからないと伝えておこう。
その間に荷物をまとめて逃げるといい。
まぁ、その後にこの砦はもらうことになるかもしれないけどな。」
そう言った俺を見て、指揮官と兵士たちは呆気に取られる。
「ほ、本当に宜しいのですか…?」
「え?
砦落としたらどうしろって命令も出てないしな…
いいんじゃないか?」
「ほ、本当にですか…?」
「い、いやだから大丈夫だろ。
今からお前たちを殺すのはなんか嫌だしな。」
何度もそんなやりとりが続き、最終的にそいつらは俺の言う通りにすることにした。
あんなに頭を下げるなんてな…
俺に比べて重い命ってのはやっぱり違うのか?
そんなことを思いながら、元来た道を戻っていくと、2人の兵士に矢が突き刺さり、死んでいるのが見える。
「聞こえるか?」
一応確認はしたが、やはり死んでいるみたいだ。
そういえばさっき砦で話をしていた時、弓矢を持ったやつが何人か砦の外から帰ってきてたっけ…
多分、この2人を殺したのはあいつらだろう。
俺が砦に姿を現す前から隠れて狙っていたとするならば、この2人が死んでも仕方ない。
呑気に酒なんか飲みながら、油断しまくってたしな。
二つの亡骸を担ぎ上げ、偵察を終えた俺は軍の基地に戻って行った。
砦はもぬけの殻だったことと、伏兵によって2人の兵が死んだことを伝え、様子見のために砦に向けての行軍は1週間後に設定された。
結局、1週間後には敵はいなくなっていた。
ちゃんと言われたことをしたはずの俺だが、砦に軍を入れた直後、次の砦に向けての偵察任務が与えられた。
それからも任務を着々とこなしていき、5つ目の砦へ偵察へ行った時、いつもみたいに撤退するだろうと思っていた俺は、同じように正面から堂々と砦に進んでいった。
だが、現実はそう甘くなく、そこの兵士たちは必死の抵抗を見せた。
基本的に後方支援に徹する魔法使いたちもが、剣を振るって突っ込んでくる。
「俺はお前たちを殺そうとは思ってないんだ…
降伏して砦を明け渡してくれないか?」
そんな風に言ってもみたが、そいつらは一切話を聞こうとはしない。
「降伏するくらいならここで死んだ方がマシだ!」
逆に刺激され、そこの兵士たちは力を振り絞る。
殺すべきか…殺さないべきか…
そんな二択を迫られながらの戦いは数時間にも及んだ。
結果、その砦の守備兵たちは疲れ果て、傷つき、倒れていく。
急所は外して攻撃していたし、死んではいないだろうな…
あとは軍の誰かがどうにかするだろ。
そんなことを思って、俺は砦を後にした。
そこからさらに2時間ほどが経ち、俺たちの軍が砦にたどり着いた。
だが、俺は目にした光景は砦を後にした時とは全く違った。
兵士全員が砦の隅に集まり、そのうちの多くが心臓や頭から血を流している。
つまり、生きていたはずの全員が、自ら息を絶った。
俺はその光景に驚いていたが、俺以外の奴らはそれではない部分に驚いていた。
ここの砦に偵察に来た人間はたった1人。
それに対して、その場で死んでいるのは数百人だ。
全員の目が、俺に向けられた。
だがしかし、そんな状況を魔法というものが使える奴らが認めるわけない。
『こいつらは俺たちの兵力にビビって自害の道を選んだんだ』
そう決めつけ、当たり前のように俺の手柄は無くなった。
そんなことが何回かあり、俺が所属する軍は嫌でも現実を見るしかなくなってきた。
あるとき、俺たちは敵の罠にまんまと嵌った。
俺が偵察に行っている間に、近くにあるもう一つの砦に攻撃を仕掛けたのだ。
その砦が罠だというのは、気づいていた。
次はそこにいくのだろうと考えていたが、小さい砦であったがために、うちの軍は相手が少数だと考えて全軍で突撃した。
俺が気づいてその砦に行った時には、すでに全員が捕虜になっていた。
「やはり、あなたの軍でしたか。」
敵の兵士たちが道を開け、その先から1人の男が姿を現す。
「あんたは…」
「えぇ、あの時に命を助けられた者です。」
そいつは、1番最初の偵察の時に逃した指揮官だった。
周りの兵士を見ると、見たことがある顔のやつが何人かいる。
「元気そうで何よりだ。」
そう言った時、その指揮官の顔が困惑を露わにする。
「い、いや…
あなた、今置かれている状況理解していますか?」
そう言われて初めて、あぁそうかと気づく。
俺の仲間たちは今、こいつらに命を握られているのだ。
「この数百対一の状況でもそんなにゆっくりしていられるということは、あなたは死ぬ状況だと思っていないということですね…
普通じゃ考えられないことですな!」
そう言って、その男は笑い飛ばす。
「前に私たちはあなたに助けていただきました。
我々にも騎士としてのプライドというものがある。
ここは、皆さんを解放させていただきます。」
横にいた兵士に目配せをすると、そいつは俺の仲間を捕らえていたロープをナイフで切る。
「私から言うのはなんですが、これで貸し借りなしということで。」
そんな言葉を残し、彼は軍を引き上げさせる。
なんとか生き残った奴らから俺に放たれたのは、感謝なんかじゃない。
『お前がちゃんとしなかったから敵を見誤った』という内容を隠れ蓑にした罵詈雑言の嵐だ。
そして、隊長は俺のことを王都に訴えた。
それから3日後、俺は王都に出向くよう言いつけられた。
「なんでこうなるんだか…」
文句を垂らしながらも、俺は王都へと戻った。
作戦を担当する大臣にブチギレられ、死刑の処罰を言い渡された俺を助けたのは、他でもないアストリナだった。
僅か1、2ヶ月の間に、彼女は軍の中で大きな発言力を持つようになっていた。
軍きっての最強と言われていたやつがボコボコにされたのだからそうなるだろう。
「大変そうね。」
「全く、どうしてこんなことになったんだかな。」
軍で起きたことを愚痴りながら、久しぶりに会ったアストリナと街の店で飯を食べていた。
その時、急に俺たちにいちゃもんをつけてきたやつを適当に殴り倒した。
アストリナの話だと、そいつが今まで最強と言われていたやつらしく、アストリナにその座を奪われたことを根に持っていたらしい。
まぁ、そりゃ勝てんよなってレベルで弱かった。
近接戦闘もできる魔法使いってところを見れば、強い方なのかもしれないけどな。
そんなこんなで、俺とアストリナの知名度は上がっていったわけだ。」
そこまで言って、俺は区切る。
その話をじっと聞いていたカルリアは、憐れみの目を向けて俺を見ていた。
「長くなったが、ここまではあくまでも前座だ。
本題はここから先。
まだ時間はあると思うが、いつまでこの世界にいれるのかわからないからな。
続きを話そう。」
カルリアが頷くのを見て、俺は再び話し始めるのであった。




