世界と真実
私の体が限界を迎え、それでも動けるだけの力を振り絞って、シロくんに最後の攻撃をかける。
いつもの彼なら、否、シロくんの体がシロくんのものであったなら、楽に避けることができただろう。
しかし、彼はその攻撃を避けることができなかった。
シロくんの力によってだ。
私にとって、全力を出した最後の一撃。
その攻撃を、彼は真正面から受け止める。
シロくんの体に深く刺さった神々しい刀は、光り輝いて姿を消す。
そこで、私の体も限界を迎え、その場に倒れ込む。
その私の体を、シロくんはそっと支える。
「頑張りすぎだ。」
優しい声でそう言って、私の体を軽く抱きしめる。
「ありがとう。」
その言葉に、私は自然と涙を流す。
でも、私は次の瞬間に起こることを知っている。
そして、それは現実になる。
「お取り込み中すまないが、これでおしまいだ。」
その声と共に、シロくんの心臓はナイフで突き刺されていた━━━━━
心臓が突き刺された瞬間、俺は反射的に魔法を発動させていた。
ナイフが心臓に突き刺さり、傷ついていくとほぼ同時に、傷ついた場所が治癒魔法によって癒やされていく。
カルリアの体から手を離し、上に向かって跳躍。
刺さっていたナイフを抜き取る。
抜いたナイフをカルリアに向けて投げ飛ばすが、それはその場にいる男によって弾かれる。
地面に降り立ち、俺はその男がなぜここにいるのかを考える。
あの時にグレイに与えたダメージは、そう簡単に完治させることはできない。
もちろん、一切のダメージがないわけじゃないかもしれないが、彼は悠々とした姿でそこに立つ。
「全力で来いよ。
5分以上は保証ができない。」
グレイがカルリアに囁き、その瞬間にカルリアの姿が消える。
「さて…始めようか。」
そう言うやいなや、グレイは俺の前まで距離を詰めてナイフを振るう。
すでに、俺が考えてどうこうするという領域にはない。
振るわれたナイフを刀で払い、超高速の斬り合いが生じる。
何度もぶつかり合う中で、服が裂け、血が吹き出す。
それは俺もグレイも同じだ。
だが、カルリアとの戦闘で魔法を使わなかった時により、俺の魔力は一定数回復している。
切られた瞬間、そこを回復魔法によって治癒する。
グレイはグレイで、斬られた場所を即座に回復する。
治癒能力があるわけじゃないグレイがこれをできるということは、時間戻しの場所を限定し、肉体の回復を行なっているということか…
先ほどの戦いで与えた傷が全回復している理由はこれなのだとわかる。
切り合いが始まって数百回の攻撃が行き交った時、突如としてグレイのナイフが赤く光る。
それが振られた時、ナイフの軌道上から炎が発生する。
その炎を掻き消すと同時に、次に俺は電撃に襲われる。
体を翻し、その攻撃を回避する。
回避地点を見切ったように、地面に青い光が生まれる。
空を蹴り、そこから突き上げられた氷の塊を避ける。
それを避ける中で、俺の心の中は疑問に溢れていた。
グレイの能力は、時戻しと時飛ばしであるはずだ。
だが、今のこれらは絶対に違う。
そもそも、こんな芸当ができるならばさっき戦った時からやっているはずだ。
「そろそろ、決着をつけさせてもらうぜ。」
俺の周りに、氷で作られた蛇のようなものが姿を表す。
それが俺の四肢を捉え、行動を制限する。
おそらく、グレイが待ち望んだこの状況。
しかし……
俺の体の中心から発された衝撃波によって、それはバラバラに吹き飛ばされていく。
それでも、グレイは止まることなくナイフを振り下ろす。
刀を振り抜き、その攻撃を受け止める。
そこで、俺は違和感を覚える。
なんで…時間操作をしない?
今の場面でも剣戦の中でも、前のように時間移動をすれば多少は有利に立ち回れそうな時は何度かあった。
だが、グレイは頑なに自分の能力を使おうとしない。
その理由を考えつく前に、
「━━━━━今だ!」
グレイの声が、響き渡る。
少し遠く、1人の人影が姿を現す。
リョウ……?
目に映った人物に、俺は疑問を抱える。
なぜこの状況でリョウなのか、その答えが出ない。
次の瞬間、グレイの後ろにうっすらと青みを帯びた巨大な時計のようなものが浮かび上がる。
どちらかというと魔法陣のような…
そんなことを考える間もなく、俺の視界は真っ白な光に飲まれていった━━━━━━
何が起きた…?
目を開くと、そこには懐かしい空気が広がっている。
絶対的確信を持って、俺は今いる場所がどこかを理解する。
ただ、俺が知っていた時とは全然違う。
視線の先にあるそれを見て、俺は状況を目を見開く。
「すまない…
義父さん、義母さん……」
自然と、そんな言葉が口から溢れる。
「━━━━━シロくん!」
弾かれるように聞こえた声の方を見て、俺は驚く。
荒い息をしたカルリアが、そこには立っている。
「どうしてお前がここに…
ていうか、なんで俺たちはここにいるんだ?」
冷静になると、今俺たちがここにいるのは不思議すぎる。
今俺が立っているのは、元々俺がいた世界。
厳密に言うなれば、その世界の俺の家があった場所だ。
俺の体は、魔力に満ちたこの空間に喜びを感じている。
「この世界が…シロくんがいた世界なんですね。」
前おきをするようにそう言って、彼女は俺の問いに答える。
「グレイの能力によるものです。
いえ、彼1人ではなく、リョウくんの力も合わさった結果、これをすることができたという感じですね。」
おそらく、カルリア自身もよくわかっていないのだろう。
「そうか…それで十分だ。」
言って、俺は彼女をまっすぐに見る。
「それと…色々と無理をしてもらって悪かったな。」
そう口にした時、俺は気づく。
今なら、俺が言いたいことが言えると言うことを。
魔力に満ちているこの世界でなら、俺の力はアリアの能力に打ち勝つことができるらしい。
「シロくん…正直に言ってください。」
俺の目をしっかりと見て、カルリアが言う。
縛るものが何もない今、カルリアに何があったか話しても問題ない。
そもそも、黙っていたくない話なんだからな。
そんなことを思いつつ、俺はカルリアに本当のことを話す。
「カルリアたちが俺の姿を見る前、アリアはとある能力を使った。
その効力は、簡単な話精神支配だ。
対象はあの世界にいた転生者全てに絞られていた。」
その言葉を聞き、カルリアの顔は明らかに困惑していた。
「えっと…それなら、なんで私たちは精神支配にかからなかったのでしょうか?」
その質問に、俺は答える。
「俺の世界にも、精神支配系の魔法があることにはあったからな。
正直言って賭けではあったが、俺が知っている人物のみを対象に、その精神支配を俺が肩代わりした。
グレイも、お前も、フレーベルも、桜庭霞も、全員がその対象に入っている。
でも、俺が肩代わりできない分の人間は、そのまま精神支配を受けている状況だろうな。」
「その人たちは…どうなってるんでしょうか?」
カルリアの顔は、心配の一色だ。
だが、気休めなんて言ったところで意味はないか…
「俺の想像だが、ペルセントから出て、イステルトとウェイスに向かって攻撃をしているはずだ。」
その言葉に、カルリアは絶句する。
急にそんなこと言われても、理解できないか…。
カルリアからしてみれば、アリアがそんなことをやったというのにも納得がいっていないだろう。
「ま、ここで立ち話もなんだな。
ちょっとついて来てくれ。」
そう言って、俺たちは並んで歩き出す。
こうしてカルリアと話をできるのも、今日までってことだよな…
そう思うと、今までの時間が長かったような短かったような変な気分になる。
崩れている家の前に立ち、俺は魔法を使う。
アストリナでもできなかった、時間操作魔法を俺は行使する。
グレイの能力を見て、それを解読して見よう見真似で魔法に変換してみたのだ。
俺が受け継いだこの力は、なぜかわからないがよく馴染む。
アストリナが俺のためにどうにかしてくれたのかもしれないな…
そんなことを思いつつも、俺はみるみる修復されていくその家を見つめる。
数十秒が経過し、その家は元の形を取り戻す。
ドアを開け、「ただいま」と小さくつぶやく。
少し遠慮しがちなカルリアに入るよう促すと、お邪魔しますと言って中へと入ってくる。
義父と義母がここで殺されたなら、今の魔法で生き返る可能性もあったと思ったが…
どうやらここで死んだわけではないらしい。
カルリアを座らせ、魔法で水を作ってそれを火で温める。
そうして作られたコーヒーを飲み、俺たちは一息つく。
沈黙の中、この時間がいつまで続くかわからないことを思い出す。
「そろそろ続きを話すとするか。」
そう言って、俺は先ほどの続きを始める。
「アリアが能力育成学校というものを作った李理由はわかるか?」
その疑問に、カルリアはすぐに答える。
「確か、この世界で悪いことをする転生者を止めるため、でしたよね?」
前にも聞いた通りの答えを彼女は返す。
「でも…前にシロくんは転生が意図的に行われていたらどうだって言いましたよね。」
そう言って、考え込むよな素振りを見せる。
他人のことを疑ったりするのが苦手な、カルリアだからこそかもしれない。
「結論、転生を引き起こしていたのはアリアだ。
その目標は、世界を平和にすること。
つまり、3つの国を制圧し、ペルセントがそれらを治めるってことだ。」
大きな情報を一つずつ解決するように、彼女は小さく頷きながら話を聞いている。
だが、先ほどのようには驚いた顔をしなかった。
「リョウくんが言ってたんです。
もしかしたら、アリア学園長が転生を起こしている可能性が高いって。」
リョウは、相手の心を読み取ることができる能力を持っている。
昔の時点では、対象の人間1人を絞って心を読むのは、なかなかに難しかったはずだ。
だが、アリアの心からそれを引っ張り出してきたということだ。
「ですが…それは単なる悪意ではない、とも言っていました。
自分の世界をどうにかするために考えた結果、歪んだ考えになってしまったらしいです。
アリア学園長にとっては、それが自分の正義であり、世界のためになることだと考えてたみたいです。」
頭の良いリョウだからできる考えと言えそうだな…
普通の人間なら、自分が勝手に他の世界に連れてこまれて怒るところだろう。
「正直言って、アリアが自分の正義としてやっていることは良いことじゃない。
それこそ、人の人生を変えてしまうことだってあり得るだろう。
……………桜庭霞のように、失われてしまう命だってある。」
その言葉を聞いて、カルリアは少し俯く。
「あいつに色々と教えてもらったみたいだな。」
「はい……
えっ!?」
飛び上がるように驚いて、彼女は俺を見る。
「き、聞いたんですか?
と、と、ということはあの話も……!?」
なんて聞いてくる。
「直接その話をしたわけじゃない。
ま、別のことについて話をしたことはあったけどな。」
あいつが死ぬ直前だけど。と心の中で付け加える。
「お前の記憶を読んだだけだ。」
さらりと答える俺に、
「そうですか……」と答えて、
「じゃあ見られてるじゃないですかっ!」と珍しく大声を上げる。
「さっきから何の話をしているかわからないんだが…」
困惑しながらも、あたふたしているカルリアを見ていると笑みが溢れてくる。
そういえばと思い、俺はカルリアを見る。
「お前は前に、過去を話してくれたよな。
意味があるかはわからないが、俺の過去の話もさせてくれ。」
そう言って、俺はその話を始めるのであった。




