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最強と超える者

最強…それを目指して戦い続けたのはいいが、俺の目標は最強になることだ。

勝たねばならない。

打ち倒さなければならない。

巨大な壁が立ちはだかったのなら、その壁を壊してでも越えなければならない。

彼女の顔が脳裏に浮かぶ。

いや、今俺の敵は、相手は、アストリナじゃない。

邪念を捨てろ。

無駄なことは考えるな。

ただ目の前にいる相手を倒すことだけを考えろ!

「うおおぉぉぉぉ!!!」

その思いを声に出すように、怒声と共に踏み出して刀を振るう。

その刃は真正面から受け止められる。

縦と横、2本の刀がぶつかり合い、バチバチと火花が散る。

かつてないほどの金属音が響き、激しい剣戦が巻き起こる。

剣戦の中、魔法を入り混ぜながら攻撃を仕掛けるも、それは当たり前のように躱され、切り伏せられる。

しばらくの間撃ち合いが続き、互いに一歩後退したところで彼女は口を開く。

「本当は、戦いを長引かせた方がいいみたいなんだけど…

時間は稼げても、このまま時間をかけて戦うのはなんだか違う気がするのよね。

だから…

次の一発の攻撃で決着をつけよう。

前にやったみたいにね。」

俺はその言葉に驚く。

彼女の言う通りなら、このまま時間をかけて俺と戦うという手筈みたいだ。

強力な魔法を使うためには時間が必要ということがわかっているのだろう。

桜庭霞と戦っている間、俺が魔法を使うまでの時間を稼ぐことができる。

アリアも死に、グレイも戦闘不能、フレーベルも気絶した今、向こう側からしたら桜庭霞が最後の切り札であるはずだ。

しかし…その彼女ですら時間稼ぎ要員になっている。

…………それを超える切り札があるとでもいうことだろうか?

俺は、その提案に同意する。

その理由は単純。

桜庭霞が戦いたいように戦ってやりたかったからだ。

「わかった。

その申し出を受けよう。」

俺が答えると彼女は小さく笑う。

そしてつぶやいた。

「約束は必ず果たすよ。」

約束…?

こいつも誰かと約束をしていたということか?

そんなことを考えている間に彼女は空高くへ翔び上がる。

彼女を睨み、しっかりと深呼吸をする。

自分に言い聞かせる。

他の世界の人間の、しかも元の世界で起きていたことなんて気にしてどうする。

俺は魔法陣を作り出す。

5つ、6つ、7つ…いくつもの魔法陣が俺の後ろに形成されていく。

詠唱を始めようとするが、それは不可能なのだと理解する。

ここで詠唱込みの魔法を使うと、俺は全魔力を消費することになる。

次の敵が現れた時に対処できるかどうかわからない上、作り途中の転生者を殺す魔法の完成ができなくなる。

9つ目の魔法陣が組み上がり、最後の主力となる魔法陣を作り始める。

天高く、彼女の声が響く。

「神なる剣よ、

古より世界を護し神々よ。

人々を守るため、私に力を与え給え!」

彼女は目を開いて言う。

「いくよ━━━━━━!

“天世神烈・日輪炎華“!!」

こちらに向けられた彼女の右手から、黄金に輝く炎の光が一直線に飛んでくる。

10つ目の魔法陣を完成させ、言い放つ。

「こいつで決着だ!

“エレクサイド・ブラッティス“!!」

何色もの輝きを持つ光が入り混じりながら、俺の右手に作られた魔法陣から彼女に向かって放たれる。

二つの巨大な力がぶつかり、世界の色が白から黒、黒から白へと何度も変わっていくような感覚さえする。

一進一退、ぶつかりあう互角の力の押し合いの中で、唐突に気づく。

約束………そういえば、桜庭霞ともしたことがあったな。

ふっと笑みが溢れる。

なるほど……そういうことか。

あのとき、俺は彼女を超えると言った。

「だったら、負けるわけには…いかねぇな!」

もう一つ魔法陣を描き、両手から一気に魔法を放つ。

互角だった力は、徐々に彼女の方へと押し返されていく。

数秒後、俺の魔法は完全に彼女の攻撃を掻き消し、彼女に直撃した。





「あーあ、負けちゃったか。」

圧倒的な力が爆発した後の、真っ白に光り輝く中を、彼女は立っていた。

直感的にわかる。

桜庭霞は、生と死の境目にいるのだと。

否、死に向かっているというほうが正しいだろう。

「これで、俺は約束を果たしたということでいいか?」

「そうだね。

君は約束を守ったよ。

私の負け。

君の勝ち。

それは揺らぐことない事実だからね。」

彼女の体からわずかに光が溢れ始める。

「死ぬのか?」

そう問いかけた俺に、特に心残りがあるようでもなく彼女は答える。

「そうだろうね。

神の力っていうのは代償があるんだよ。

━━━━━それで………多分、私に聞きたいことがいっぱいあるんでしょ?」

今しかないよと言うように、彼女は俺を見る。

正直言って、聞きたいことは山ほどある。

なぜ、最初から全てわかっていたような立ち回りをしていたのか、ルービヒのことについてもわかっていたのかなどなど、聞きたいことを挙げればきりがない。

だが、俺は今そんなことはどうでもいい。

全てを理解したところで、俺とこいつらの向かう先は変わらない。

俺がこいつらを殺すか、こいつらが俺を止めるか。

この二つ以外の選択肢を、俺は思い描くことができない。

だから………

「聞きたいことはない。」と言う。

それに対し、彼女は驚きながらも笑みを浮かべる。

………………………

静寂が、うるさく俺の頭の中を圧迫していく。

何か言わなくていいのかと、騒ぎ立ててくる。

「……………お別れの時間みたいだね。」

俺が口を開く前に、彼女が言う。

「そうか…」

俺の口から、言葉が漏れる。

それ以上に、言うことができなかった。

「まぁ、この名前に相応しいような終わり方かもしれないね。

たった1人の人間にできるなんてことは限られているのだから。」

そうは言っているものの、彼女の目にはどこか寂しさが浮かんでいる。

「名前に相応しいとか言うが、お前の顔と名前は俺の頭と心に残り続けると思うぞ?

桜庭霞という存在は、形だけは霞になっても、その存在は、記憶は、その人が残した言葉は、誰かの中に響き続ける。」

言い切った俺を見て、彼女は少しの間沈黙する。

そして、少し俯いて呟く。

「もしも、来世とかそういうのがあるなら、私の国で、みんなで桜の花を見ながら過ごしたいなぁ。」そう溢した彼女は、ふと思い出したように俺を向き直って言う。

「そういえばあなた、誰かを殺さないようにしていたでしょ?」

俺の心を見抜いたように、彼女は言う。

「人が死ぬというのは、あなたにとってとてつもなく大きいことなんじゃない?

私も…自分以外の人が死ぬのは嫌い。

だから……誰かがあなたを止めてくれると信じているわ。」そう言って、彼女は目を閉じる。

「最期くらい、本当のことを言いたかった。」

その言葉だけが、光り輝く空間の中に響いて消えていった。






俺は、地面に刺さっていた1本の刀を見ていた。

その所有者が死んだにも関わらず、その刀は神々しい光を放っている。

短い間だったが、楽しかったな…

そんな思いが、俺の中に芽生えてくる。

多分、桜庭霞は悲しかったのだろう。

それでいて、寂しくもあり、辛くもあった。

彼女が言ったように、俺は人が死ぬのには抵抗がある。

多分、アストリナが死んだ時のアレが強く心に残っているからだ。

能力育成学校での試験は、相手を殺すことが違反になるということは基本的にない。

それでも、俺は相手を殺すことはしなかった。

否、できなかったと言うべきだろうか。

だが、桜庭霞は違う。

あの約束を結んだ時から、彼女は俺に、自分を超えて欲しいと思っていた。

自分を超え、自分を殺せるであろう相手を、俺だと考えたのだろう。

今の俺と同じように、自分の運命に終止符を打てる相手を探していたような気がする。

彼女も、運命に翻弄された可哀想な人間の1人だ。

桜庭霞との約束は果たした。

そして、俺は近づいている足音の方を見る。

「本当に………見違えたみたいだな。」

そう言って、その少女との再戦に臨むのだった。

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