試験の開始
学校という場所は学ぶものがたくさんあるな…
そんなことを思いながら、俺は教室の窓から外を眺める。
この世界、転生者のことを知るために、ここにいるのは意味がある。
「おーいシロ!飯食いにいくぞー。」
なんだかんだ入学から一週間も経てば自然と友好関係もできた。
「はいはい今行きますよー。」
アベルとリョウは共に飯を食べる中だ。
アベルは…ぶっちゃけ頭は悪いが顔はいい。
優しいやつというか根がいいやつという感じだ。
だが…バカでアホだ。
そのハネハネの赤い頭のイメージ通り、頭が悪い。
リョウは頭もいいし顔もいいしは優しいし…
黒髪メガネのその視線はいつでも優しさを持っている。
ザ・好青年という感じだが…とにかくコミュ障だ。
アベルが無理やり話しかけたから話すようになった、というところだな。
アベルの能力はこの間の練習試合で知っている。
自分と能力の相性が良さそうというのが素直な感想だ。
なんせ、バカが使う身体強化による馬鹿力なんて面白いじゃないか。
リョウはいまだに能力がわからないけどな。
俺はゼロクラスだが、授業を受けるのはDクラスだから仲良くなるのもDクラスのやつの方が多い。
慣れてみるといいもんだ。
こんなふうにたくさんの人と笑い合ったのはいつぶりだろうか。
そう思う日常が今ここにあった。
俺は席を立ち、2人の方へと歩いて行くのであった。
「そういや…」飯を前にして座り、アベルが言い始める。
「明日からのテスト、ランダムに相手が選ばれて試合するんだろ?
それ以外全然言われてないんだがどうなってんだ?」
こいつなんも聞いてねぇな…俺が呆れているとリョウも苦笑しながら詳細を話す。
「一対一で、3日間で3試合、基本的にはDクラスとCクラスはそれぞれのクラス内でしか対戦しないようになってるよ。
まぁどこかのゼロクラスの生徒はS〜Dまで誰と当たるかわからないらしいけどね。」
くっ…こいつら楽でいいな…
まぁでも、
「俺は強いやつと戦ってる方が楽しいからそっちの方が助かるな。」
それに対しリョウは、
「そんなこと言って、何試合もAクラスとかと当たって3連敗したら退学だよ?」
「大丈夫だ。そう易々とAやらSクラスとは当たんないさ。」
もとより、負けるつもりもないけどな。
「Aクラスとかどんだけ比率少ないと思ってんだ?
どうせDとかCとかと戦うことに━━」
ならなかった。
俺は思った。
あれフラグだったのだと。
だって俺の前にいるのAクラスだもん。
なぜ初戦からAなのだろうか…
まぁしかし、昨日も言った通り俺は負けるつもりはない。
「試合開始!」
その声と共に、そいつはナイフを持ち、こちらにかけてくる。
ナイフはどうとでもできる。
問題はこいつが腰につけている拳銃の方だ。
遠近両方の武器を持っているのはめんどくさいな…
しかし、どうするか考えている暇はなく、その距離を詰められる。
俺は刀に手をかける。
その次の瞬間、金属音が響き渡る。
突かれたナイフを俺は刀の側面で受ける。
俺の剣と相手のナイフがぶつかりあう。
打ち合った時点で、俺は勘づく。
こいつ、体術は強くないな。
攻撃は単調、その上、突かれたナイフに力が入っていない。
俺はそのナイフを弾いて一度距離をとる。
そして、刀を鞘に戻し、地面を蹴ってそいつの目の前まで迫る。
そいつの目は見開いている。
おそらく、俺のスピードについてこれていないのだろう。
そのまま俺はそいつの腹に拳をぶち込む。
「ゴハッ…!」
声を漏らしながら、そいつは吹っ飛んでいく。
10メートルくらいだろうか。
そこでそいつは止まる。
「貴様ぁ…ゼロランクのくせにいきがるなよ!」
そいつは言ってから手を上に向ける。
そして、
「エクレール・ストライク!」と叫ぶ。
その瞬間、轟音と共に、晴れているはずの空から一筋の光が落ちてくる。
咄嗟のところで、俺はそれを避ける。
「雷…?にしては少し遅いな」
しかし、今の音、光から見て雷を操る能力ということはほぼ確定だろう。
遅いのは、単に実力不足といったところか。
「はっ!まぐれで避けたのか?
運だけはいいじゃねぇか!」
まぐれで雷を避けれるものだとこいつは思っているのか…?
そう思いつつも、俺は再度脚に力を入れ、一直線にかけていく。
距離1メートル。
これなら当たる。
そう思い刀に手をかけた矢先、
「トニトルツ・フォース!」
という相手の声とともに俺は後ろへ跳んで下がる。
そいつの周りには雷のドーム状のものができていた。
なるほど…上から落とす雷だけじゃないのか。
しかし、今の俺の攻撃を、間合いを把握して防いできたということか…
さすがAランクというところだろう。
数メートル下がったところから、俺はゆっくりとそいつに向かって歩いていく。
そいつは手をこちらに向ける。
その瞬間、その手のひらから電光が走る。
俺はそれを右に避け、そのままそいつの周りを円形に大きく疾走する。
しかし、このまま正面から攻撃してもまた防がれるのがオチだ。
「お前の技か俺の速度、どっちが速いんだろうな?」
そう言って俺はそいつの周りを回るようにしてその攻撃を躱す。
手から同時に5本ほどの光が飛来する。
俺はそれを走りながら掻い潜る。
それを避けている間にあいつは手を天へ向ける。
そしてまた怒号と共に雷が降り注ぐ。
先ほどより速く、数も威力も高い。
なるほど…これがAクラスの本気か!
しかし…その程度では俺を仕留めることはできないぞ?
「どうした!かかってこないのか!」
今尚舞台を駆けている俺にそいつは言ってくる。
挑発ってことは何か作戦があるんだろうな。
まぁ…乗ってやろうじゃねぇか!
俺は走る角度を変え、一直線にそいつに向かって突っ込んでいく。
前方から無数の光が飛来する。
まだ精度が甘い。
それを避け、躱し、そいつとの距離は5メートルまでくる。
俺は刀に手を掛ける。
この状況、俺は刀を抜くために両手を使っている。
つまり、こいつが仕掛けてくるならここしかない。
その瞬間、やつは全ての攻撃を止め手を下ろし
「トニトルツ・フォ━━ス!!!」
そいつは大声で声を上げる。
目の前ギリギリまで、そのドームは展開される。
わずかな時間の間で俺は刀を抜き、刃をぶつける。
刀はその雷にめり込む。
しかし、そいつは不適な笑みを浮かべ、
「終わりだ!ゼロクラス!」
そう呟き、手を天へ翳す。
そして、今までの中で最も強い天を裂くような轟音と共に、一筋の光が俺を目がけて降ってくる。
俺が動けないこの状況、計算した攻撃、たいしたものだ。
「だが!」
轟音が響いたその刹那、俺は左のポケットからナイフを取り出し、頭上に向かい一直線に投げる。
そいつは目を見開く。
と同時に俺はその雷のドームを刀で断ち切る。
ガラスが割れるような音と共にそれは崩れていく。
真上まで迫っていたはずの雷は、俺に当たることはなかった。
俺が投げたナイフによって雷は綺麗に裂かれ、それは辺り一面に乱雑に落ちてきていた。
「終わりなのはお前だ。
Aクラス。」
そう言って、俺は握り締めた左手でそいつの顔面を殴る。
まだ残っている雷に触れながらもそれを無理やりぶち破り、電気を帯びた俺の左手がぶつかった瞬間、激しい閃光とスパーク音が鳴り響き、それはこの勝負の決着の音となった。




