移動と夢
「あなたをAクラスに昇格します。」
俺の隣を歩く彼女、アリアはそう口にした。
「テストでもないのにそんなことを決めて大丈夫なんですか?」
「実は、特別訓練で好成績を納めた人はクラスを上げる事ができるんです。
しかし、クロくんの場合だと、特別試験が終わる前にCクラスが壊滅しそうなんです。」
先ほどの俺の魔法では、Cクラスに釣り合わないという事だろう。
その結果がAクラスか…
ふと、カルリアたちの顔が浮かんでくる。
俺がAクラスに上がる事で、あいつらがやる気を上げてくれるならそれに越したことはないか。
クラスが変わったら私情でも会えなくなるなんていうことはないのだからな。
気がかりなのは前の試験の時にアベルを狙ったあの罠を作ったやつのことだが、それはCクラスの問題だ。
マルトールもいるからなんとかなるだろう。
Aに上がることで学校の内部事情も少しは
理解できるかもしれない。
「わかりました。
Aクラスに上げてください。」
俺の答えを聞き、アリアは満足そうに頷く。
「そういえば、この学校は誰に作られたんですか?」
会話が途切れたタイミングを見計らい、俺はアリアに聞く。
「能力育成学校を作ったのは私です。」
何事でも内容に答えた彼女を見て、俺は桜庭霞が言っていた“見落としていること“をついに理解する。
アリアはこの世界の人間だ。
そして、能力を使うことができる。
能力育成学校を作ったと言うが、どこから金が出ているのかなどはわからない。
それよりも今重要なことは、元々この世界の住民に能力を使うことができる人間がいるということだ。
くっそ…なんで今まで気づけなかった……
いや、気づいてはいたのだ。
なんとなく、そんな可能性は薄いと感じてしまっていた。
この世界に能力者がいて、そいつが転生を引き起こしているとするなら、それは━━━━
「どうしましたか?」
アリアに声をかけられ、俺の体が少し震える。
「い、いや。
なんでもありません。」
そう返して、俺達は他愛もない話をしながら寮へと戻っていくのであった。
「ということなのですが…」
寮に戻った後、俺はクラシス・リビルズの建物に来ていた。
物は片付けられ、最低限しか残っていない。
組織への近隣住民の反発が強くなり、組織の場所を変えるしかなくなったらしい。
「今更そんなことに気づいたのか?
お前は頭がキレると思っていたが、その程度みたいだな。」
ついに核心を掴んだかのように話した俺に、膨大な書類に目を通してはゴミ箱に捨てているグレイは言う。
内心イラっともしたが、まぁいいだろう。
事実、俺は大して頭がいいわけではないのだ。
「それで?
お前は元からこの世界にいる能力を扱える人間を見つけたのか?」
相変わらず、顔をあげることもなく聞いてくる彼に、ノーを返す。
俺が関わっているこの世界の人間なんて、アリアしかいないのだ。
学校生活を送りながらその情報を手に入れていくのは無理ゲーなんじゃないか?
そんなことを考えていると、
「だったら、今の任務を進めながらその疑問も解決しろ。」と他人事のように言われる。
「グレイさんはすでに答えを知っているんですか?」
「いや?
俺はまだ知らんな。」
お前も知らないのかよ!と思わず怒りが煮えたぎってくる。
「とにかく、あの学校の学園長以外の能力者を見つけてきます。」
そう言って、俺は席を立って扉に向かって歩いていく。
「自分の気持ちに嘘をつくことはお勧めできんぞ。」
扉を開くと同時に後ろからかけられた声に振り返ることなく、俺はその部屋を出た。
自分の気持ちに嘘をつく、か。
自分の気持ちを押さえつけたことはあっても、嘘をついたことはないな。
勝手に、俺の心の中でそんな言葉が描かれる。
明日から俺の所属になるAクラスへの移動も、カルリアやアベル、リョウが今よりももっとやる気を出してくれるようにだ。
まぁ、アベルとリョウに関しては心配していない。
あいつらは強い。
おそらくだが、悠々自適にこの生活を楽しむことができるだろう。
カルリアに関しても、見違えるほどに成長している。
ただただ、俺が心配性なだけだろうな。
いつの間にやら、この世界でずっと生きていくような生活を送ってしまっている。
俺にはそんなこと叶わないと知っているが、それでも今の方がいいと思えるほど今の生活が楽しいのだ。
悩みなど一切捨ててこの世界で生きていこうとしたらどれだけ楽なんだろうか。
……………いかんいかん。
叶わない夢を見る必要はないな。
一つため息をつき、だんだんと空に登ってきている淡い月を眺めるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
予約投稿したはずだったのがミスしてしまいすみません。
次回からの区切りの話になっているので、今回の話は短くなってしまっていますがお許しください。
閑話的なのも作ろうとして作れない今日この頃です。
これからも頑張って書いていくので応援お願いします〜