再会と再会
それにしても、特別訓練というのはよくわからない。
1日に何度も模擬戦を行うこともあれば、1日一回の時、1日中一試合もない時もある。
生徒への負担を増やしたいのか減らしたいのか、それとも教師たちの時間の兼ね合いなのか、全くもって想像がつかない。
まぁそれを考えるのは教師たちの仕事であって、俺のやることじゃないな。
そんなことを考えながら、マルトールとの対戦の後、自分の部屋に向かって歩いている。
ちょうど真昼間なのもあって、直射日光が頭をジリジリと熱くさせる。
ただ、この世界の夏というのはそこまで暑くないみたいだ。
雨が降っていることが少ない気がするな…
やることがない人間というのは実に悠長なもんだと、改めて思う。
もっとも、暇をしてちゃいけない気がするんだがな…
そう思った最中、俺は上空から近づいてくるただならぬ気配に目をやる。
その先に映る人間を見て、お前かよ…と呟く。
「俺みたいなCクラスごときにSクラスの人がなんのようですかね?
フローラ・フレーベルさん。」
俺の前に降り立ったその女子、フレーベルに声をかける。
しかし、彼女は何も答えない。
いつもの槍を手に持ち、何も言わずに立っている。
ただ、俺の目だけを見ている。
「何の用なのかくらいは答えてくれてもいい気がするけど…」
「だったら単刀直入に言わせてもらう。
私と戦いなさい。」
本当に単刀直入だな…
「俺と戦って、何か特があるのか?」
「特?
そんなものはないわ。
ただ、あなたを倒したいだけ。」
「だったら、勘弁願おうか。
俺もそこまで暇じゃないんだ。」
さっきまで暇だと言っていたものの発言だとは思えんな。
なんて相変わらず悠長に考える。
「暇じゃない…ね。
それなら1分で終わらせるわ。」
言った瞬間、彼女は俺のすぐ隣にいた。
速いっ…!
彼女が移動の動作を見せたと同時に、横から声が聞こえた。
明らかに、前に戦った時とは実力が違う。
「それで、なんのようだ?」
「全然動じないのね。
普通のCクラスなら私に声をかけられたら震え上がってもおかしくないのに。」
「何が言いたいんだ?」
「………」
無言で、彼女は俺の前に立って顔を近づけてくる。
唇と唇が触れ合いそうな距離まで来て、彼女が顔を引っ込める。
「やっぱり、あなたシロでしょう?」
「シロってのはカルリアたちの口からよく名前が出る、白い髪の男のことか?」
「あくまでも、否定するつもり?
能力が使えなかったあなたが、どうやってさっきの雷を落としたか知らないけど、どこかで能力が開花したってところかしら。」
淡々と、俺の否定が真実であることはあり得ないというように彼女は話し続ける。
「あなたがシロであるということは私の推測の範疇を超えない。
それでも、私の直感があなたとシロを同一人物だっと訴えている。」
死線を潜り抜けてきた者や、他の人間では追いつけないような壮絶な人生を送ってきた者は、それだけ直感も優れているのだ。
そして、マルトールに言ったことの延長線だが、自分に自信があるやつの直感はよく当たる。
Sクラスである彼女なら、それだけの実力から直感というものを導き出しているのだろう。
ここで俺が認めようが認めまいが、彼女は俺をシロだと思い続けるだろう。
それならば、種明かしをしても大して変わらない。
彼女ならば、不用意に周りに言いふらすこともしないだろう。
「まぁ、どちらが答えかなんて言わないな。」
そう言って、周りに人がいないことを確認して俺は歩き出す。
すれ違いざまの一瞬、俺は魔法を解く。
わずかな時間、俺の髪が白く戻る。
そしてそのまま、彼女の横を通り過ぎ、真っすぐ歩く。
「前に言ったように、次は負けないわ。」
「前にも言ったが、お前じゃ俺には勝てない。」
「どうかしら。
本気でぶつかり合ってみないとわからないものよ。」
俺も彼女も、振り向かない。
「そうだな。
また戦うことがあったら、本気でやり合おうじゃねぇか。」
「逃げるんじゃないわよ。」
「あぁ、お前との決着をつけるまでは元の世界には帰らないでおこう。」
俺の答えに、彼女は静かで不敵な笑みを見せたような気がした。
顔が見えないからあくまでも俺の直感だ。
「あなたを倒して、あなたの考えが間違いだったと証明してあげる。」
「やってみろ。
できるもんならな。」
そう言って、止めた足を再び前に進める。
また新しい約束が増えちまったな…
そんなことを思いながら、俺はあいも変わらず暑苦しい太陽を見上げる。
てか、よく考えたらこの世界にも太陽と月があるんだな、なんて思いながら。
自室に帰宅し、俺はゆっくりとソファーに体を預ける。
せっかく時間が余っているのだから、今のところの現状整理でもしておこうか。
現状整理といっても、わかりきっていることを今更思い返しても仕方がない。
俺が整理したいのは、今もまだ解明されて
いない謎の部分だ。
能力育成学校の存在理由、ルービヒの消息、桜庭霞が俺に与えたヒント、そんなところだろう。
この学校の存在理由に関しては、能力者が転生してきたときに、管理する場所が必要だからだと俺は考えている。
前にアリアが、この学校は転生者に好き勝手させないために、転生者に対抗してもらうためにあると言っていた。
確かに、それも理由の一片にはあるだろう。
しかし…その仮説を立てるとなると一つの大きな問題が起きる。
なぜ、クラシス・リビルズではいけないのか。ということだ。
転生者がまとまりを作るのであれば、あの組織でまとまれば、問題を起こすような輩が現れた場合でも容易に制圧できるだろう。
そんな組織があるのに、なぜ能力育成学校があるのか。
クラシス・リビルズが後からできたとしても、吸収なり合併なりすることもできたはずだ。
つまり、グレイがあの学校の仕組みの何かに気づいた…?
その上で学校ではなく新たな勢力を作り出した可能性も十分にあり得る。
俺が組織の幹部に入ったと言っても、1年すら経たないような奴に、組織の全貌とあいつの思惑や本心を教えるわけがないだろう。
グレイのような男の場合、それは尚更だ。
あいつの過去を知っているからこそだろうが、あいつはとてつもなく恐ろしい。
元の世界に帰るという目標を持っているのは普通だが、あいつの口ぶりから見てこの世界をぶっ壊すことくらいは簡単だと思っているはずだ。
この学校も、自分以外の能力者も、全てを従えさせるか、1人残らず全員殺すことすらできる。
そういう確証が、あの濁った目にはあった。
あの組織とグレイという人間について、もっと知らないといけないようだな…
ルービヒの消息については、もう死んでいるということでいいだろう。
どれだけ気配を探ろうと、ルービヒの気配がないのだ。
カストフにもおらず、ペルセントにもいない。
ということは、必然的に死んだと考えて当然だ。
少なくとも、姿を見せない相手を頼るわけにはいかないからな。
そして、1番急を要しているのは、桜庭霞が言っていた見落としていることだ。
正直、結構な自信を持っていた。
この学校の存在理由というのは俺もまだわかっていない。
それが彼女の言っていたことと合致するなら、学校の存在理由が何か知る必要があるという俺の考えが的中していたことになったはずだったんだがな…
今の学校生活は個人的に楽しいと思っている。
悠長にこんなことをしている暇はないとわかっているが、この生活が続いて欲しいと思ってしまう。
組織の任務として学校に潜入していることも、任務だからと脳内で考えているが、本心は都合が良くて嬉しいというかんじだろう。
しかし、最も重要になるであろうルービヒが死んだということは、元の世界に帰る方法は一気に減らされたと考えるべきだろう。
あいつが作っていた長距離転移装置は、俺が見てきた中で1番可能性があったはずだ。
グレイがこの世界を手中に収め、転生が起きている理由を見つけ出したとしても、逆のことをすれば元の世界に帰る事ができるという確証はない。
何者かによって起こされている事だとしても、そいつも元の世界に戻す事ができるかすらわからない。
そう考えると、確実に目的が達成できる方法を探す必要がある。
グレイにそのプランがあるかどうかはわからないけどな…
やはり、整理しようにもし切れないか…
ため息をついて、俺は起き上がる。
それと同時に、扉からノックの音が聞こえてくる。
やれやれ…
街の店にでも行こうと思っていたところなんだがな…
そんなことを思いつつ、俺はドアノブに手をかける。
扉を開けた先にいる人に警戒の眼差しを向けつつ、靴を履いて部屋から出ていくのであった。




