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未解決と覚悟の剣

「能力育成学校で毒ガス騒ぎ…

ルービヒと連絡がつかない…

どうしたもんか…」

彼はいつものように両肘を机につけて椅子に座っている。

「それで、カストフの方はどうなってるんだ?」

「そっちは今、ジールスが部下に調べさせに行っている。

もちろん、あの研究所のことを知っている人間が出向いているはずさ。」

「はぁ…お前が行ってこれば話が早かったんじゃないか?

レイテス。」

彼は僕に向けてそんなことを言ってくる。

「あのさぁ…1ヶ月前に、

“レイテス、お前は西の国の偵察に行ってくれ。

その間は他の業務は放棄していい。

他の幹部どもにやらせておくからな。“って言ってきたのは誰さ。

今日帰ってきたばっかりで無理言わないでもらえる?」

反論に、彼は一つため息をついて言う。

「まぁ、やっちまったもんは仕方ない。

そんなことより、問題はなぜこんなことが起きたのかだ。」

「そうだね。

1番あり得るのは学校側の誰かにやられたか、政府にやられたかだと思うけど。」

「やはり、お前もルービヒが自らの意思で姿を消したと考えてはいないということか。」

「そりゃ、彼がやりたいのは研究だけだし、自由に研究ができる環境を放り出すことはないと思うのが普通でしょ。

研究バカなのもあって、事故るとか考えにくいしね。」

僕の言っていることに賛成なのか、グレイは顔色ひとつ変えずに座っている。

「それで?僕はどうs━━━」

「客人だ。」

言葉を遮って、グレイは少し顔を上げる。

それと同時に部屋の扉が開き、ソーサリーが姿を現す。

「何かあったか?」

グレイの問いかけに、

「ルービヒ先生が姿を消しました。」と彼は短く答える。

「そのことならすでに聞いている。

さきほどカストフに向かって調査を依頼したところだ。

お前もジールスから研究所のことを聞いただろう?」

そう言った彼を見て、

「それなんですが…

カストフにある研究所は火が出ていました。

しばらくして鎮火しましたが、中は完全に灰になっています。」とソーサリーは答える。

火が出ていた…?

そっちの研究所まで被害が出ていたのか…

学校内で変化はあったか?」

「合宿とテストを中断して全生徒が学校に戻され、この組織とやり合うんじゃないかってピリピリしているところですね。

それと、彼が使っていた実験室のある別棟が封鎖されました。」

ソーサリーはすぐそこのソファーに座る。

羽織られた黒のローブの下から、少しだけ制服がのぞいている。

彼が着替えることもなく来るということは、急用と考えて良さそうだ。

「それだけ?」

僕は彼を見ながら、机を挟んだ反対のソファーに腰をかけて問いかける。

「いえ、もう一つ。

学校で、特別訓練というものが開始されました。」

「特別訓練?」

「この組織がいつ争いを開始するかわからない。

だから少しでも早く生徒たちを成長させようということみたいですね。」

なるほど…ただ、こちらとしてはあの学校に攻め入るなんて話は出てなかったはずだけど…

横目でグレイを見ると、彼は口を開く。

「その特別訓練とやらがどれくらいの規模かわからないが、前にも言った通り、俺たちは俺たちがやるべきことをするだけだ。

ただ、俺たちの行動を邪魔をするようなら容赦はしねぇ。

お前が本気でまずいと思った時にまた報告に来い。」

そう伝えられたソーサリーは一つ頷き、立ち上がって部屋から出ていく。

扉が閉まって少しの時が経ち、僕はグレイに

「もしも彼が学校側に付くなんてことになったらどうするの?」と問いかける。

彼からは「どういうことだ?」という返事が返ってくる。

「あの学校に入ったことで、学校のやっていることを肯定したり、友達なんてのができて、その人を助けようとしたりするかもしれない。

そうなった時に、彼と戦うことになったらどうするの?」

僕から放たれた新たな問いに、グレイは口を開く。

「俺たちの邪魔をするなら、あいつを殺す。」

薄々、そんな答えが返ってくることは考えついていた。

それでも、改めてこの男の恐ろしさを思い知らされる。

冷酷な目で、躊躇なく、当たり前のことのように答えた彼の顔を見つめる。

「どうした?

俺は間違ったことなど言っていない。

邪魔をするもの、無駄なもの、どんな奴であろうと俺に楯突くものは敵だ。

この世から消えたところで文句は言えない。

もちろんお前もだ、レイテス。」

その険しい目を僕にも向け、彼は席を立ち上がる。

「アルテに用ができた。

留守を頼むぞ。」

そう言葉を残し、扉を開けて姿を消す。

はぁ…

ため息をついて、僕はそのまま横になる。

数分が経ち、扉が音を立てる。

「どうした?

忘れ物?」

扉の前に立っている男、ソーサリーに問いかける。

「そういうわけじゃない。」

いつもと違うのは雰囲気だけでなく、口調まで変わっている。

「なるほどね…

それが本来の君の姿ってところかな?」

「そういうことだ。

お前に話したいことがあって来た。」

「わかった。

ここじゃあなんだし、外へ行こうか。」

そう言って、僕と彼は2人で建物から出ていくのだった。






特別訓練の開始から3日、実戦形式の訓練へと移り変わっていた。

「次の相手は…カルリアか。」

目の前に立つ彼女を見て、俺は彼女の成長を実感する。

前の試験の時は、相手と対峙するだけで体を震わせて怯えていた彼女が、今では一切の怯えを感じさせない。

組織の地下を彷彿させるだだっ広い地下訓練場があったのだ。

全方向が厚い金属製の壁に覆われた、いかにも頑丈そうな建物だ。

「それじゃあ、いくぞ。」

俺は踏み込見込んで彼女に近づき、勢いをつけて剣を振るう。

直後、剣と剣がぶつかり合う音が響き渡り、打ち合いは、二太刀、三太刀……次第に速度が上がっていく。

剣と剣がぶつかる音が、壁に鋭く跳ね返る。

俺は考える暇もなく、ただ応えるように斬り返す。

彼女の剣には無駄がない。

受ければ押し返され、躱せば踏み込まれる。

本当に、とんでもない成長だ。

これだけの戦いを能力を使わずに行えている。

カルリアが剣と剣がぶつかり合う戦いを楽しんでいるは思えない。

しかし、俺は今この瞬間を楽しいと思ってしまう。

努力によって鍛え上げられた力を振るう者との戦いってのは、いつやっても面白いものだ。

俺は力強く剣を握りしめ、強烈な一撃を繰り出す。

それに応えるように、彼女も素早く一撃を繰り出してくる。

金属音が、耳の奥を焼く。

彼女の刃が俺の肩を掠める。

俺の攻撃を躱しつつ、正確に攻撃を当ててきやがった…!

ギリギリのところで剣の角度を変え、彼女の刃をずらしていなかったら危なかった。

一瞬の遅れが致命になる。

この戦いが始まってから忘れていた、戦いの基本が思い出される。

前のように手を抜いていては負けるかもしれん。

これが、彼女の本気の鍛錬の成果なのだ。

おもしろい━━━━!

考えるより先に身体が動く。

俺は彼女の元まで一瞬で近づき、腰を落として剣を振るう。

牽制気味の一撃。

しかし、それを彼女は見切っていた。

首を傾けるだけで躱し、すぐさま踏み込んで一撃を振るう。

速く、鋭い。

まるで一切の迷いがない。彼女は次々に刃を放つ。

腹部、膝、喉元——すべて急所。

寸分の狂いもなく狙ってくる。

それを受け流し、反撃し、反撃の反撃を避けて反撃する。

ギリ、と歯を食いしばる音がした。

自分のか、彼女のか、わからない。

彼女の剣を受けた剣が痺れ、手首に鈍い衝撃が伝わる。

だが、まだだ。

互いの呼吸が乱れてきている。

汗が顎を伝う。

床に一滴、しかしその音は剣戦によって生じている金属音にかき消される。視線がぶつかる。

言葉はない。

今はこの楽しい時間を過ごしていたい。

余裕はないはずなのに、心のどこかから余裕が湧いてくる。

しばらく剣戦が続き、互いに一歩下がる。

彼女の呼吸が見るからに荒くなっている。

次が、正面からの勝負だと直感的に感じる。

俺は深く息を吸う。

重心を落とし、右足に力を込める。彼女の指が、剣の柄をわずかに握り直す。

次の一太刀。それが、この戦いを決めるということだろう。

本当に、よくこれだけ成長したもんだ。

ぽつりと心の中でつぶやく。

━━━━━いくぞ!

床を蹴った俺の視界に、彼女の刃が閃く。彼女もまた、まっすぐ俺に向かっていた。

避けない、引かない。

真正面からぶつかる2本の剣。俺は、剣を振り抜く。

彼女も同時だ。

俺は思わず笑みを漏らす。

どちらの剣が先に届いたのか━━━━━

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