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トラップとトリック

「やってやるぜオラァァァ━━━!」

アベルの咆哮と共に、1週間の訓練を終えてついに試験が始まった。

最初の種目は山登りだ。

あくまでも順位ではなく時間を測るというものなので、急ぐよりも自分のペースを維持して走り続けることが大切になってくる。

実際の距離は31キロメートル。

やはりうちの担任が言っていた距離より大きくずれている。

しかし…なんだこの違和感。

今まで登ってきた山道と同じはずなのに、いつもと違う感覚が俺の中にある。

走り出して1分が経ち、アベルの姿はもうすでに見えなくなっている。

この違和感がなんなのかがわからない。

仕方ないな…

俺は少し道を逸れ、走るのをやめて目を瞑る。

意識を集中させてルート上を細かく認識する。

前にカストフでやったことと同じだ。

数秒後、俺はその違和感を発していた場所を見つける。

それと同時に、一つの可能性を思いつく。

まずいッ━━━━

そう思った瞬間、俺は走り出していた。

目指すのはアベルの元だ。

木から木へと跳躍し、最短ルートで駆けていく。

早速本当になりやがった━━━━━!

そして俺はアベルの後ろ姿を見つける。

「アベル!」

俺が声を発すると、あのバカはこっちを振り返り

「やるじゃねぇかクロ!

だが、俺は負けねぇぜ!」

雄叫びをあげてさらに加速していく。

クソっ!

そういうことじゃねぇんだよ!

俺もさらに速度を上げる。

アベルが一本の木の横を通り過ぎた時だ。

ちょうどアベルの身体が入るように地面が赤く光り輝く。

間に合うか…!

俺は一気に加速し、その身体を後ろから抱え込んで光から抜ける。

そこから0.数秒も経たず、光っていた場所から火柱が上がる。

間一髪、と言ったところだろう。

確かに規模は小さいが、それでも人1人を怪我させるには十分すぎる威力だ。

そして、この一箇所だけではなく、ここから先の5キロ毎くらいで同じような感覚がする。

明らかに人間によって作られたものだ。

しかし今の火柱…

能力というよりも俺が使うセット式の魔法に近いものを感じる。

今のは━━━━━

「おい!」

アベルの声で俺はハッとする。

「今のはなんなんだ!」

その目には怒りと困惑が入り混じっている。

「正直言って今のがなんなのか俺にもわからない。

ただ、トラップとか罠とかそういう類のものだろう。」

「なんでそんなんがここにあんだよ!」

どんどんヒートアップしていくアベルにため息をつき、

「それについては後回しだ。

さっさと先に進め。」と言うと

「いやいや、さっきみたいのがまた来たらどうすんだよ!?」という反論が返ってくる。

「大丈夫だ。

ここから先に今のと同じものはない。

そんなことより、ここで足止めを食っていると他のやつに1番を持ってかれるぞ?」

普通のやつなら、ここに来て試験のことなんて考えないだろう。

しかし、俺の前にいるやつは違う。

「そうじゃねぇか!

俺は負けねぇぞ!」

などと言って再度駆け出す。

ほんとに、良い意味でも悪い意味でもこいつは元気だ。

さて…

俺はアベルのルートを先回りし、そこにあった先ほどと同じ光を見つけて魔法を使用する。

━━━━━これで大丈夫だろう。

このトラップが作用できないように上から魔法を被せたのだ。

仮に発動できたとしても、魔法によって威力は皆無だろう。

あと五箇所くらいか…

その後、全てのトラップを防ぎ、一応魔法に異常がないか確認しながら1番後ろのやつと同時にゴールしたのであった。







「なるほどぉ。

その話が本当なら結構な問題だね。

こっちでも調べてみるわね。」

次の競泳試験のために着替え終えた俺は、同じく水着に着替え終わったクラーラ先生に先ほどのことを報告していた。

魔法を使って防いだと言うことはできないし、今の俺の能力は雷を使うものということになっているのだ。

だから仕掛けられていたトラップは一つだけだったということにして、他クラスの試験でも同じようなことが起きているのかを聞くことにした。

先ほどのトラップがアベルのみを狙ったものなのか、無座別に狙ったものなのかも判明していないのだ。

これではあれを仕掛けたやつが誰かという答えに辿り着くわけがない。

俺は情報を得るために、このことを訴えたのだ。

「それで、こういう場合試験はどうするんですか?」

俺の問いかけに彼女は何事もないように答える。

「続けるんじゃないかな〜

他のクラスでも起きているなら話は変わってくるけど、このクラスでその罠と火柱を見たのはクロくんとアベルくんだけ。

そんなことはないだろうけど、2人が嘘をついている可能性も考えられる。

それに、その程度で試験が怖くて受けられないような人が、この学校で、この世界で生きていくのは難しいんじゃない?」

真剣な顔でそう言って、微笑を浮かべる彼女に、俺は感心していた。

確かに、あんなものによって試験が受けれなくなったり死んだりするような人間では、いつ戦争が始まるかもわからない世界では生きていけないだろう。

現実の厳しさを教えるような彼女の目の奥には、いつもの優しさが混ざっている。

甘くするだけが優しさでないと、この人は理解しているのだ。

「わかりました。

とりあえず、他のクラスにも似たようなことがなかったか聞いてみてください。」

「それはもちろんやっておくわ。

それじゃあ、次の試験も頑張ってね〜」

そう言って彼女は俺に背を向けて歩いていく。

それと同時に、

「おいクロ!

早くいくぞ!」

と後ろからアベルに呼ばれる。

「あぁ、今行く。」

アベルとリョウのところまで歩くと、

「なんの話をしていたんだい?」と聞かれ、

「ただの世間話だ。」なんていうありがちな答えを返すのであった。




その後の競泳の試験は問題は起きなかった。

いや、女子の水着が脱げたがどうとか言って一部男子達が大騒ぎしていたか…

めちゃくちゃキモがられていたのでこれからの人間関係が大変になりそうだ。

火柱の問題と今回のことも関係あったりしてな。

なんて勝手に思い浮かべて心の中で笑い飛ばし、更衣室の扉を閉めて廊下に出る。

そこへ、

「全くヨォ、普通あんな状況になったら誰でも喜ぶだろうが。」

「それはそうかもだけど…

あんなにはしゃいだら変態だと思われて当たり前だよ…」

なんて言いながら、アベルとリョウが歩いてくる。

「なぁクロ!

お前はどう思ったんだよ。」

同情して欲しそうな顔で、アベルは俺に顔を近づけてくる。

「あいにくだが、俺はそういうのに興味がないんだ。

リョウの考えに賛成だな。」

「やっぱりそうだよね。」

「なんでそうなんだよ!」

2人の声が重なる。

そこに向こうから走ってきたカルリアが入って来る。

「アベルくん、女子達の間で変質者扱いですよ。

もちろん、アベルくん以外の男子達ほとんどもですけど…」

カルリアに言われ、アベルはしょぼんとしている。

それを見て呆れ顔をしているカルリアに、

「そういえば、今日は調子大丈夫か?」と尋ねる。

「はい。

この前ので慣れたんだと思います。

疲れはすごいですけどね。」

彼女は笑って答える。

「そうか。」

短く答え、俺はあのことについて考え始める。

あの罠…

思い返してみてもやはり能力で作られたものには違いない。

俺が元いた世界であれば、魔法石から作られたトリガー式のトラップという可能性もあるが、この世界にそんな技術はないだろう。

ただ、あれが能力によるものだとして、一体どんな能力を使ったのだろうか。

罠を作るという能力が存在した場合、火柱以外も作りだすことができるだろう。

水も風も、対応できるとしたら…

そんな万能な能力あるのか?

アストリナだからこそあらゆる属性の魔法を扱うことができるのだと思っていた。

ただ、魔法にも拡大解釈というものがある。

イメージを持ち、あとは本人の魔力次第。

しかしそれを可能にしているのも、多くの属性を操れる彼女の力、それを受け継いだ俺の専売特許だと思っていたのだがな…

能力というのは俺の世界でいうところの上級騎士や上級貴族と同じくらいの拡大解釈が可能ということだろうか。

魔法よりも優れた、応用が効く力…

確かに、その能力の使い手を育成していけば━━━━━

そこで俺は気づく。

桜庭霞が言っていたことを、理解する。

「そういうことか…」

ポツリと言葉が漏れる。

「ど、どうした?」

前を歩いていたアベルが尋ねてくる。

「お前達…この学校はなんのためにあると思う?」

俺の問いかけに、3人は顔を見合わせる。

「えっと確か…

この世界で暴走する転生者がいるから、それを止めるため…

みたいな感じじゃなかったでしたっけ?」

とカルリアが答え、アベルとリョウも頷く。

「そうだ。

しかし…転生が何者かによって意図的に行われたものだとしたらどうなる?」

…………………………

3人は再び顔を合わせて悩み始める。

「少し急用ができた。

朝までには戻ってくる。」

そう言い残し、俺は合宿所を飛び出す。

目指すは南の国アルテ。

会う必要がある人間が2人いるのだ。

そのうちの1人はアルテにいる保証はないが行かないよりはマシだろう。

そして俺は飛び上がり、その場所に向けて一直線に飛んでいくのであった━━━━━

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