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ゼロとD

三日間という短い時間はすぐに過ぎ去り、入学式の日となった。

入学式は滞りなく進み、学園長の長ったらしい話を聞き体育館へと移動し、説明が始まった。

新たに入学したのは約50人だという。

そして10人単位で集まり、前に置かれた石というか結晶のようなものに触れるよう指示される。

俺の前のやつはそれに触れて73という数字を言われる。

マックスで100、10から60はD、61〜70はC、71〜80でB、81〜90がA、91〜100でSだったか…

そんなことを考えていると名前が呼ばれる。

さてさて、俺の番か。

そうして俺はその結晶に触れる。

俺より前の奴のを見ているとこの結晶が赤になったり青になったりと色が変わるはずなんだが…

Dランクと言われていたやつでも多少は色が変わったのだ。

なのになぜかその透明の結晶は色が変わらない。

この学校では俺はDランクと比べても比較にならないほど弱いってことか…!?

いやでも、アリアの話ではこの前街で倒したやつで強いレベルだと言っていたし…

俺は今突きつけられている現実を素直に受け止めることができなかった。

なんでだ…?

そんなことを考え頭を抱えていると、うちのグループを担当していた女教師が怪訝そうな目で、

「確認してきます。

待っていてください。」

と言い、そこから去って他の教師と話に行き、しばらく話して戻ってきた。

「あなたのランクは一旦お預けです。

次の人、前へ。」

お預け…?

それはどういうことだ?

そんなことを考えながらも、俺は後ろへ下がりながら周りを見渡す。

その時、ガラスが粉々になるような音が聞こえ、歓声と驚きが入り混じった声が上がる。

そちらを見ると、1人の女子生徒がその結晶を粉砕していた。

その姿勢から、殴ったわけではなく純粋に力が強いために割れたということがはっきりとわかる。

その場にいた教師が声をあげる。

「99!」

99…なるほど。こいつはSクラス確定だな。

結局、この結晶を壊すことができたのは1人だけか。

そうして卒業式の日程は終わり、学生寮に荷物を入れた後、俺は学園長に呼ばれて学園長室へときていた。

そこには学園長、そしてその他3人の教師がいた。

1人は教師というよりか博士という感じの服装だ。

そんなことを思いながら、アリアの前まで進み出る。

「まずは、ご入学おめでとうございます。」

完全に学園長モードだな…まぁ他の人がいるんだからそりゃそうか。

俺はコクリと頭を下げる。

「あなたのランクですが、待たせてしまってすみません。」

そして彼女の口から驚きの言葉が発せられる。

「あなたのランクは…ゼロです。」

ん?ゼロってなんだ?

俺が言われた限りのランク、もといクラスはDからSまでだったはずだが。

「ゼロというランクは今までありませんでした。

ですが、あなたは今までのランクではどうにも対応できないのです。」

………

「どういうことか教えてもらってもいいか?」

俺が尋ねると、側にいた男の教師に

「年上相手には敬語を使いなさい。」

と小声で言われる。

そのやりとりを横目に、アリアは話を続ける。

「あの結晶はその人の持っている能力の強さを潜在的なものも含めて測定できるものなのです。

そちらにいらっしゃる、ルービヒ先生が作られたものです。」

そう言って1人の教師を指す。

ルービヒと言われた教師は

「私は教師の傍ら科学者もやっている。

そしてこの結晶は能力を測定することができる。

君も見たかもしれないが、99に達するとその時点でこの結晶は割れてしまう。

つまり、あの結晶を割るほどの力を持つものは相当な実力者というわけだ。」

前にアリアから聞いた話、今までの卒業生を含めたSランクの生徒は3人と言っていたな。そいつらはとんでもなく強いということだろう。

「しかし、君の場合は一切変化しなかった。

君も見ていたかもしれないが、Dランクだとしても結晶の色は変わるのだ。

それなのに変わらないという事は、君にはなんの能力もないということになる。

もっとも、ここは能力を育成するための学校であって、今までそんな生徒は1人もいなかったんだがね。」

つまり、俺がこの学校で最初の能力を持たない生徒になるということか。

だから学校側も新しくランクを作るしかないと。

「それで?

俺がゼロランクになるということは、能力の才能も素質もないということですか?」

“素質“、“才能“…俺が嫌いな言葉ばかりが、俺の口から出ていた。

結局、この世界でもそれに振り回されることになるのか…

しかし、そういうものを公言しない方がいい時もあるのも事実だろうと感じる。

1人だけ集団から弾かれた存在というレッテルが、またもや俺に貼られたように思っていると、その教師は言葉を紡ぐ。

「あぁ…そうなるだろうな。

少なくとも、とてつもなく強い能力を持つ事はない。

そしてひとつ聞かせてもらおう。

君は何か能力以外に特殊な力を持っていたりするのかい?」

その人の言葉に俺は、

「いや、俺は特別な力など持ってはいないはずですが?」

と答えた。

ルービヒ先生は困った顔をする。

わずかな静寂が流れ、アリアが口を開く。

「そうですか…

ですが先ほども言った通り、この結晶はその者の潜在的な能力まで測定して結果を出します。

能力が使えないとなれば、あなたはこれから苦難の道を歩くかもしれません。」

そう言って彼女は、

「一応、ランクとクラスはゼロということになりますが、もうしわけないですが1人のために新たな教室を作ることはできませんし、今すぐにどうこうすることもできないので、Dクラスの生徒と共に授業を受けていただけますか?」

と言葉を繋げた。

「全然大丈夫ですよ。」

と俺は答える。

彼女は微笑みを浮かべながら、

「それでは、こちらがあなたの担任となる先生、ヴィルヘル先生です。」

と紹介をする。

ついさっき敬語を使えと言ってきた教師だ。

「エリク・ヴィルヘルだ。

よろしく。」

元気が良さそうな教師だな…

そう思いながら俺は、

「よろしくお願いします。」

と返し、話を終えて自分の寮へと帰っていくのであった。





次の日、朝早くから実践形式の練習が始まった。

元の世界でもそうだったな。

やはり実際に戦ってみるというのが、手っ取り早く実戦できるようにするためには向いているのだろう。

1ヶ月後にはテストがあるらしく、そこに向けてということだ。

テストも実戦となると試合みたいになる可能性が高そうだな。

そう思いつつ、俺は目の前の練習相手の少女を見る。

綺麗な銀色の髪をした、琥珀色の目をした少女だ。

しかしまぁ、なんとも気が弱そうなやつだな…

俺と向かい合ってから、いや、それより前からずっとびくびくしている。

人との関わりが苦手なのか、そこのところはよくわからんが、とりあえず話しかけてみるか。

「俺はシロ。

お前の名前は?」

こいつとは同じクラスなのだ。

名前を知れば関わることもできるだろう。

「わ、私の名前はモル・カルリアです…」

「カルリアか…

よろしく頼む。」

俺の言葉に彼女は小さく頷く。

こんなんでこの世界で生きていけるのだろうか?

そんなことを思いながら俺は武器に手をかける。

この世界で基本的に利用される武器は剣、ナイフ、拳銃ということだが、俺はその中になかなかいいものを見つけた。

“刀”というらしい。

剣は両方の面で斬れるが、刀は一方でしか斬れないので戦闘には不向きと言われたが…

いいじゃないか!見たことがない武器!

かっこいい見た目!お前に決めた!

と思いながら俺はそれを選んだ。

いや、そんなにハイテンションじゃなかったか…

目の前にいる彼女が自分の気持ちを表現するのが苦手なのだとしたら、俺も同じ様なものなのかもしれないな…

あいつが生きていれば全く違ったかもしれないが━━

そして俺はその刀を鞘と言われるものから抜く。

木で作られた刀は木刀というらしい。

これは何かと聞いた教師も、半ばよくわかっていないような感じだった。

ナイフも木製のものを渡されている。

流石に本物ではやらないということだろう。

「さて、そろそろ始めようか。」

俺が言うとカルリアは頷く。

そして、俺は一歩踏み込むと同時に一直線に飛ぶ。

地上数センチのところを一度の踏み込みの力でひとっ飛びに突き進んでいく。

そしてそのまま叩こうとした瞬間だった。

カーンという音が響く。

俺の木刀は、木で作られた剣で受け止められていた。

さっきまでの緊張が嘘のように、彼女の行動は素早かった。

その直後、彼女のもう片方の手には剣がもう一本握られている。

「━━っマジかよ。」

俺はその攻撃をギリギリで躱し、後ろへと下がる。

「なんだ?

さっきまで緊張してたのが一気に吹っ飛んだみたいじゃないか。」

俺の問いに対して彼女は答えない。

先ほどと比べて目つきも変わっている。

あきらかに鋭くなっているのだ。

先ほどまでとの違いに、違和感を抱いていると、そこにいたはずの彼女の姿が消えた。

後ろから気配を感じ取り、その剣を刀で防ぐ。

なかなか強い力だ。

「やるじゃないか!」

そう言って俺は再度地面を蹴り、刀を振るう。

研がれた木と木がぶつかり合う音が周りに響く。

これでDクラスなのか?

そう思いつつも俺は攻撃をし続ける。

互いに攻めるタイミングが図れないというわけだろう。

でもここであの力を使うのは…

剣戦の中、俺は思考を巡らせる。

ん?待てよ?

こいつ…自我を失っているんじゃないか?

その考えが浮かんだ瞬間、途切れた糸が一本に戻るような感覚がする。

投げかけた質問にも答えず、戦いが始まった途端に緊張がなくなって別人のように変わっている。

つまり、この能力はおそらく自己防衛からくる覚醒のようなものだろう。

それなら説明がつくのだ。

だとしたらやってみる価値はあるか…

同じ授業を受ける仲なのだ。

相手の弱点を知っておいて損もないし、向こうが知りたいなら後から教えてやればいい。

能力が使えないのであれば、そこをカバーするのは戦術、といったところだろうか。

そうして俺は、剣が当たるような隙を作る。

それ見逃さないように彼女の剣は俺を捉える。

腹部に衝撃を受け、声が漏れる。

「グハッ!」

俺はそのまま地面に叩きつけられる。

2、3度跳ねて、地面を転がり、その先で倒れる。

審判がカウントを始めているが、俺は一切動かない。

カウントが8まで来た時、彼女の様子に異変が現れる。

足がふらつき、その場に倒れかけた。

俺は素早く立ち上がり、その体を抱える。

カウントが止まる。

彼女の目つきは試合の始めと同じに戻っていた。

「あ、あの、ごめんなさい!

思いっきり叩いちゃって…」

急に彼女は謝り始める。

まぁ予想通りだ。

本能的な敵対行動…

そして彼女自身の力ではそれを制御できないのだろう。

だから俺が倒れた後、カウントが残っているにも関わらず覚醒状態が解除されたのだ。

自身に危害を加える敵はいなくなったと思ったのだろう。

「これは実戦練習だぞ?

殴られて文句を言うほうがおかしいってもんだ。」

そう言って支えながら彼女を立たせる。

「それに、試合はまだ終わってないぞ?」

彼女はハッとしたような顔をして怯え始める。

「この距離で俺が攻撃すれば流石に守れないだろ?」

彼女は顔を下げる。

「そうですね…私の負けです…」

その目からは涙が流れていた。

俺はこの涙の訳がわかる気がする。

決着を決める審判の声がして再び彼女の顔を見ると、目を瞑ってその場に倒れかけた。

そして俺は気を失った彼女を抱き上げて医務室へ連れて行くのだった━━






私が5歳になった頃だった。

お母さんとお父さんと共に、村はずれにある家で3人で暮らしていた。

父は剣を作ることで家族を支え、私とお母さんは2人でその仕事を支える生活。

そこで作られる剣は一級品で、多くの冒険者がその剣を求めて買いに来ていた。

いつもと違いない日。

なんの前触れもなく、その時は訪れた。

1人の強盗がうちへと来たのだ。

その男は私に剣を振るった。

私はその場にうずくまった。

その瞬間、剣と剣がぶつかり合う音が聞こえた。

見ると父が剣で私に振り下ろされた剣を防いでいた。

私はそのまま父に蹴飛ばされ、父は

「逃げろ!」

と叫んだ。

父とその男は剣を押し付け合っている。

「助けなきゃ…」

そう思い、近くに置いてあった剣を持った。

しかし、それと同時に父親は肩を刺され、苦しそうに地面に倒れこんだ。

「お父さん!」

叫ぶ私に、

「先にお前からだ!」

声を荒げ、男は私に向かって再度剣を振り上げてきた。

その瞬間、周りが見えなくなった。

私の耳には、

「やめて!やめて!」

という叫び声だけが、遠く聞こえていた━━━。




それからどのくらいが経過しただろう。

次に目を開いたときには、私は床に倒れていた。

周りは真っ赤に染め上げられていた。

私は自分の手から熱い感覚を覚え、手を見た。

そこには赤い液がついた手と、手についているものと同じものがベッタリとついた一本の剣が握られていた。

そこでやっと、私は我に帰った。

立ち上がって周りを見渡す。

そこには真っ赤になった強盗と、父と母が倒れていた。

「お…お父さん?お母さん?」

何が起きているのかわからなかった。

いや、もしかしたらわかっていたのかもしれない。

それでも、認めたくなかった。

自分を責めたくなかった。

私は、出せる声を全力を出して呼んだ。

「お父さん!お母さん━━━!」

叫んだ瞬間、目の前に広がった霧が晴れるように、視界が明るくなっていった。

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