民と王
その大柄の国王は語り始める。
「お主もわかるように、この国は陸から離れておる。
その分多くの食料や他にではあに入れることができないものを得ることができるのだ。
だからだと思うが、西の国ウェイスがこの国の大臣に賄賂を渡し、交易の主導権を手に入れようとしてきおってな。
そこから内政干渉までしようとしてきたため、大臣たちの首を飛ばし、やむなく軍事侵攻したのだ。
交易の主導権を取られてしまっては、この国が立ち行かなくなるばかりか、この国で働いている多くの国民が生活に苦しむことになる。
そして、昔からこの国には金があった。
強い軍隊を作ることが容易で、圧倒的な軍事力で西の国を攻めた。
1対1では勝てんと察したのか、あの国は東の国イステルトに助けを求めた。
そしてイステルトの国王はその求めに応じおったのだ。」
「何のために、イステルトはウェイスを助けようとしたのですか?」
「当時、イステルトでは我が国から攻められるかもしれないというデマが多く流れていたらしい。
おそらく、それを真に受けてしまったのだろう。
1対2になってしまった我が国は北の国、お主がいる国に助けを求めた。」
なるほど…それで全ての国が戦争に巻き込まれたということか…
「ペルセントは当時、全然力を持っていなかったのだ。
1番の理由は国内の政治がガタガタであったことだろうな。
だからこそ、イステルトと戦って負けてしまった。
今考えると、無理なことをさせてしまったとは思っている。
しかし、ペルセントがイステルトと戦い、時間を稼いでくれたおかげもあって我が国はウェイスに勝てたのだ。
ウェイスを降伏させ、その後にイステルトへも攻撃して勝利を収められた。
先に負けたとは言ってもペルセントは戦勝国でもあるということだな。」
ふむ…だいぶややこしいが、西と東対南と北の構図で戦争が起きたということだな。
イステルトがあれだけボロボロになっていたのはアルテに攻められたからで、ペルセントがあれだけ復興している理由は、最終的に戦勝国だからというわけだ。
ただ、この国王の言っていることを全て信じるのは愚策と言わざるを得ないだろう。
しばらくはここで過ごし、グレイに言われたことを調べながらこの国から見たペルセントというところも探るとしよう。
こうして、新しい国での任務が始まった。
まずは街に出て情報を集めた方がいいだろうということで、次の日から早速街へと出かけてきていた。
それにしても、海の幸が多い。
魚から海藻、貝類まで、俺の世界じゃ到底お目にかかれないような品々が揃えられ、それが街中のごく普通な商店で売られているのだ。
こんなの王族やら貴族への献上品レベルだろ…
そんなことを思いつつも、持ってきた金でいろんな食べ物を買っていく。
これがまた安いのだ。
そのうち俺も船に乗ってこういうのを採りに行きたいもんだ。
しかし、ここにいる理由は任務のためで、飯を食べにきているわけではないのだ。
………
いや、2ヶ月もあれば多少サボっても大丈夫だな。
ただ、後に後にと仕事を残していくと最後に詰むからな。
やはりできるうちから進めておいた方がいいだろう。
そして馬鹿でかい魚の代金を渡しながら、その店の店主に聞く。
「なんでこの国はこんなにたくさんの魚が採れるんだ?」
「にいちゃんは他の国のお人か。
この国にくる途中、海を通ってきただろ?
あの海は一部が通行用、それ以外は漁業用っていう感じで分けられてんだ。
その漁業用のところじゃ魚やら何やらがたくさん採れるから、こういう感じで市場に出回って、安く買うことができるんだ。
ちなみに、他の国では魚が採れにくいのは、陸と陸の間にある海の方が魚が多くいるって特性があってだな、それがこの国で多く魚が採れる理由さ。
あとは漁業をすることのルールがしっかりしている、とかもあるな。」
そう言って、その親父は自慢げに語り終えた。
やはり漁業だけに関わらず、貿易を要としている分、そこでのルールや規制はしっかりしているということか…
そう考えると、ジールスのとっている政治は商人にとっては良いもので、それは最終的に国民全体にとっても良いことというわけだ。
だから戦争が起こったジールスは国民から反発されていないということか…
やはり人望があるということは良いことらしい。
俺はその親父に礼を言い、魚を担いで城へと戻ってくる。
それを厨房に持っていき、ナイフを取り出して勝手に捌いていく。
城の人間に言って捌いてもらうこともできるだろうが、それでは面白みがないからな。
泊まらせてもらっている手前、迷惑をかけることもできん。
そんな思いもありながら、俺はその魚を捌いていく。
元いた世界で数年間森の中で生活していたこともあって、肉やら魚やらの捌き方には自信がある。
一つだけ心配だったのは、生物の体の作りが違う可能性だったが、ほぼ変わらない。
2分後、その魚は綺麗に捌かれ、刺身になった。
それを皿に並べ、ふと思う。
こんなに大量に食うのはちょっと無理があるんじゃないか…?
俺の目の前には円形に刺身が並べられたでかい皿が10数枚並んでいる。
ここの料理人たちに渡せば食べるだろうか?
そう思い周りを見ると、そいつらは口を開いて俺のことを見ている。
ん?
なんだ?
まぁ良いか。
そして4皿ほど持っていき、それを差し出す。
「これ、こんなに食べれらいのでよろしければ皆さんでどうぞ。」
「あ、あぁ。
ありがたくいただきます…」
つい先ほど厨房を使う許可をとった料理長が言い、4人の料理人たちがその皿たちをとる。
しかし、やはり皆ぎこちない雰囲気だ。
この魚が美味いかどうかもわからんからな…
周りの反応を見るに、食えない個体だとでもいうのか?
だとしたらミスったな…
いやでも、食えないならあの魚屋のおっちゃんも聞いてきそうなものだ。
料理人たちの顔が何を表しているのか全くわからず、戸惑っていると、先ほどの料理長が声をかけてくる。
「あのお…一つご教授いただきたいのですがよろしいですか?」
「どうかしました?」
ご教授というのがよくわからない。
ここにいる奴らは基本的にこの国の料理においてのプロなはずなのが…
となると料理のこと以外か?
疑問が加速していく。
そしてその男は口を開く。
「どうやったらあの魚をそんなスピードで捌くことができるんですか?」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
どう、と言われても、別に俺は料理がうまいわけでも得意なわけでもない。
何なら家事とかそういうのは全部アストリナがやってくれていたからな…
そんなことを思いながら答える。
「そうですね…
森とか川とか、そういう自然の中で過ごしていると勝手に身につくと思いますよ?」
俺のその答えに対し、沈黙が生まれる。
まぁそりゃそうだろうな。
こんなものが答えになるとは全く思えん。
しかし、これが事実であって、逆にこれ以外の答えがないのだ。
そんなことを自分に言い聞かせていると、料理人たちは何か覚悟を決めたような顔をする。
ちょうどそこに、ジールスが現れる。
「何かとんでもないこと起きていると聞いて来てみれば、ほんとに何が起きているんだこれは。」
豪快に笑いながら、その男は並んだ皿を見ている。
「魚を買って来たので、厨房を拝借しました。
お食べになりますか?」
そう答えた俺を見て、彼は驚いたような顔をする。
「お主が帰ってきたのは今さっきだろう?
もうこれを捌いたというのか?
これでは我が国の料理人たちは顔負けではないか!」
そう言って、また豪快に笑う。
「魚を捌いただけでそんなことはないと思いますよ。
この城で食べた朝食は美味しかったですし━━」
そこまで言いかけたところで、料理長がそれを遮って言葉を放つ。
「陛下!
我々をカストフで修行させていただけないでしょうか!」
カストフ…?
なんのことだ?
そう思いながら料理人たちの顔を見ると、全員必死の形相をしている。
ジールスはそれを聞いて少し考え、大きく頷く。
「お前たちがそれを望むのであれば、行こうではないか!」
一気に暑苦しくなったその空間を冷ますように、俺はジールスに問いかける。
「カストフっていうのはなんのことですか?」
ジールスはその質問に少し誇らしそうに答える。
「カストフというのはこの島のさらに南にある島のことだ。
そこまで大きいわけではないが、色々な生物が生息していてな。
狩りをするときだけ使われるのだが、それ以外は基本的に人の手が加わることなく放置されている。
だから自然がほぼそのままの形で残っておる。
こやつらがそこに行きたがる理由は、料理の腕前をあげたいからだろう。
そこにいる生物で料理を作っていれば、いい経験になるはずだ。
命をいただくということの再認識もできるかもしれぬしな。」
この国王の言葉を聞いていると、それが戦争を起こした者の言葉とは思えない。
当時、ジールスはそれだけ切羽詰まっていたということだろう。
それにしても、だ。
自然の中で過ごしていたら勝手に身につくなどという頓珍漢なことを言われて、それを信じるなんてことがあるんだな…
俺は別に嘘を吐いたわけではなく、これが事実だったんだから悪くはないと思うが、この料理人たちが同じことをやって成功する保証なんてどこにもない。
俺は料理の専門家でも訓練の専門家でもないのだからな。
しかし、彼らは意外どころではなく乗り気で、ジールスも完全に行く気になっている。
となると行くしかないな…
結局、その後すぐに出発準備を始め、その日の夕飯は買ってきた海の幸を城の料理人たちに調理してもらい、次の日の早朝、俺たちはカストフに向けて出港するのだった━━━
今まで2〜3日に1本の投稿ペースでやってきたので、間が空いてしまいすみません!
これからもなるべく3日で1本上げられるようにやっていきたいと思いますのでどうぞお願いします!
5月下旬頃から少しペースが落ちるかもしれませんが、その時はまた後書きか活動記録に書こうと思いますのでご承知ください。




