理解と共感
俺は夜風に当たりながら、宿泊所の部屋の窓から学校を眺めていた。
どうするのが正解なのだろうか。
この組織が何をしようとしているのか、まだ確定してはいない。
しかし、アリアの夢を叶え、約束を守るためにはどうすればいいかを考えなくてはいけない。
彼女の顔を思い浮かべる。
「なぁ、アストリナ。
お前なら…どうする?」
そう呟いた俺の声は、寂しい夜の空に消えていく。
1つ息を吐いて、俺は立ち上がる。
とにかく、ぶつかってみるしかない。
そして俺は明日に備えるのだった。
次の日、俺は朝早くからグレイの元を訪ねていた。
昨日と同じ彼の部屋で、向かい合って座っている。
「それじゃあ、この組織について説明しよう。」
そう言って、彼は話し始める。
「まず、この組織は危ないという考えを持つ人間も多いということはお前もよく知っているだろう。
確かに、それは一理ある。
俺たちのやりたいことをやるためには手段を選んではいられないからな。」
「この組織がやりたいことっていうのは世界を手に入れることじゃないんですよね?」
「あぁ。
前にも言った通り、世界を手に入れるってのはあくまでも最終手段だ。」
最終手段…
やはり本当の目的はそんなことをやらなくても達成できる目標ってことだ。
そして、今までの彼の行動や言動、色々な要素を混ぜ合わせて俺は一つの予想を立てていた。
「じゃあ、あなたの目的は元の世界に戻ること、で良いですか?」
それを聞いて、グレイはその目を光らせ、俺を見て言う。
「その通りだ。」
前にあの森で聞いた話。
元の世界に戻ってやらなくてはならない復讐。
この世界に来たことによってそれは止まってしまった。
だから今の彼の目標は、元の世界に帰ることであって、この組織の目標もそうなるだろう。
元の世界へ戻るために活動をしている。
だからこそ多くの転生者がこんな危なっかしい組織に入るということだろう。
それだけ、自分がいた世界が愛おしいやつが多いということでもある。
確かに、元の世界に戻りたいやつからしてみれば、力をつけてこの世界で生きていくための訓練を受ける能力育成学校より、こっちの方が手っ取り早い。
そして俺はグレイに尋ねる。
「今の時点で、どうやったら元の世界に帰れるかわかってるんですか?」
彼はゆっくりとした口調で答えてくる。
「帰るためには、この世界に入ってくるその条件がどんなものかを考えなければいけない。
なぜこの世界に入ってくるのか、どんな条件があるのか、何がこの事態を引き起こしているのか、とかな。
そして、俺は一つ睨んでいる部分がある。」
俺は彼の目を見る。
そこには険しい目つきがあった。
「この世界に4つ存在する大国。
その中でも特に、この北の国だ。」
「この国?
ただ、わざわざ国が転生者を招き入れてなんのメリットが…」
言いかけて、俺は気づく。
アリアが言っていたことが脳裏に浮かんでくる。
まさか…
その俺の顔を見たのか、グレイが言葉を繋ぐ。
「おそらく、お前が考えている通りだ。
数年前まで、この世界は戦争の真っ只中だったらしい。
戦争に必要なのは金と力だ。
だから、転生者というものを連れてくることによって、戦争を有利に進めようとしたんだろう。」
やっぱりか…そして…
「転生者はこの北の国にしかいない…」
俺は言葉を漏らす。
「そういうことだ。」
その言葉を聞いてグレイは満足そうに言う。
ただ、これが人為的に行われているかどうかは確かではない。
とはいえ、グレイの口ぶりからして、少なくともこいつは人為的に起きているものだと思っていそうだ。
俺が考えているとグレイが口を開く。
「それで、だ。
俺はこの現象は人為的に行われていることだと踏んでいる。」
やはりそうだろうな…
それにしても、これを言えるということは、なんらかの確証があるということだろう。
そこで俺は自分が考えていたことを口に出す。
「僕が気になったのは文字ですね…」
「俺もそうだ。
自然現象でこれが起きているのであれば、なぜこの世界の文字が読めるのか。
言葉も同じだ。
普通に考えて、全くちがう世界の言葉が、しかもいくつもの世界の言葉が、全く同じわけがない。
違う言語のはずが、なぜか言葉が通じるようになっている。」
なるほど…言葉もそうか。
見落としていたな。
となれば、と俺は言う。
「人為的に言葉や文字が通じるようにされているということでしょうか?」
「そうだろうな。
自然現象で言葉が勝手に翻訳されるとは思わない。
俺とお前が話しているが、それぞれ話している言葉は違うはずだ。
それがなんらかによってそれぞれの言語に対応して聞こえ、文字を見る場合は自分に合って見えるようになっているのだろう。
こんなことが自然現象によって起きるとは考えにくい。」
「ちなみに、誰がこの現象を起こしているかっていうのは…?」
「そこから先が手詰まりだ。
今の時点では、少なくともこの国でなかなかの地位を持つものだと思っている。」
まぁそうなるだろうな…
しかし、人為的だと考えた時に1番気になるのは誰が転生を起こしたのか。
そして、どうやって転生を起こしているのかだ。
これが人為的に起こされたとなれば、この世界にはもともと能力者がいたか、とんでもなく頭が切れる科学者がいると言うことになる。
ただ、そんな話はこの世界に来てから聞いたことがない。
アリアもそんなことは言っていなかった。
そもそも、能力者がいるのならそいつが戦えばいいだけだ。
わざわざ転生者を招き入れる必要もない。
それとも、隠しているだけで別の国にも能力者がいるのか?
それなれば、戦争におなったときに数を稼ぐくらいはできるだろう。
俺はいくつか新たな可能性を思いつく。
とはいえ、どれもパッとしない理由だ。
これだ!と思うものがない。
追々考えながら探ってみるしかないだろうな。
グレイもここで手詰まりということは、国の中の上位層である説は高そうだ。
上位の存在であればあるほど、国の権力やらを使って隠蔽することもできる。
それこそ、科学者がいたとしてもそいつの存在を隠すことだってできるだろう。
ただ、答えが出ない限りは探すしかない。
俺が考えていると、グレイは立ち上がって俺の前に1束の冊子を出してくる。
それを受け取り、中を見る。
内容は計画書のようになっていた。
「それじゃあ、頼んだぞ。
お前は正式に幹部の1人となっているんだからな。」
そう言いながら、彼は部屋を後にした。
その紙の束を一通り読み、俺も立ち上がって部屋を出ていく。
やれやれ、この組織も幹部となれば大変な重役を負うのだな。
そんなことを思いながら屋上から宿泊所へと跳んでいくのであった。




