表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/64

組織と幹部

さて、ここからどうするか…

俺は寮に忍び込み、今まで着ていなかった服と持ち金を持ってきて、街を歩いていた。

理由は簡単。

制服を着て街を出歩いていると即座にバレるからだ。

もちろん、魔法によって髪を黒く変えている。

学校の様子も見ておきたかったが、警備が強化されているようだ。

「ここでバレるのは流石にまずいか…」

と思ったので、学校へはいかずにこうして街を歩いているのだが…

一か八か、行ってみるとするか。

俺は前に訪れた建物…

クラシス・リビルズの建物の方へ足を進めた。

目の前まで来て、その異様な光景を目にする。

大量の貼り紙がされ、その内容は組織への抗議であったり悪口だ。

学校爆破のことについてか…

これについても聞きたいのだが…

なんせ入り口は閉鎖されている。

「どうすっかな…」

一応考えてみるも、このままここから入るのは得策ではないことくらいわかっている。

そこで、俺は勢いよく飛び上がる。

屋上に降り立つ。

そこには置物も何もなく、ただ一つ、昇降口の扉があるだけだった。

その扉まで歩いて行き、ドアノブに手を掛ける。

鍵すらかけてないのか…不用心だな。

そして扉の先にある階段を下へ向かって降りていく。

階段を1階分降りたところから伸びる廊下に、一つだけ光が漏れている部屋があった。

しかし、階段にはまだ下がある。

この建物の高さ的に5階くらいはありそうなんだよな…

そう思いつつ、まずは見えている部屋に入ろうとする。

その部屋のドアの近くに立った時、中から声が聞こえる。

「遅かったな、レイテス。」

この声…グレイの声だ。

レイテス…そいつを待っていたということだろうか。

ただ、ここに立っていても何も始まらない。

俺はその扉を全開にして姿を見せる。

「なんだ…お前か。」

奥の椅子に座ったグレイが声を出す。

ここだけみると、会社の社長室にいるただの社長だ。

その社長じみたグレイに向けて俺は話しかける。

「覚えていてくれたんですね。」

「当たり前だ。

俺にはお前が必要だと言っただろう?」

「そうでしたね。」

「それでなんの用だ?

こっちは大変でお前の話し相手をしている時間はないが?」

書類のようなものをペラペラとめくりながら、グレイはこちらの顔を見ることもなく答える。

「それは1階のあの貼り紙たちのことですか?」

これは好機だと思い、その質問を投げかける。

「それはそれ、これはこれだ。

そもそも、俺たちがこのタイミングで能力育成学校を爆破したとして、なんのメリットがあると思っているのか。

向こうからの警戒を深めて、俺たちはもっと他の奴らからの嫌われ者になっちまう。

言われちまったもんは仕方ないがな。

俺たちはやることをやるだけだ。」

グレイは俺の顔を見て言う。

「それで?

なんのためにここにきた。」

俺は答える。

「暇つぶしですよ。

なんも楽しいことがないもんで。」

少しの間静寂が流れ、グレイは口を開く。

「なかなか面白いやつだ。

それじゃあ、お前の力がどれくらいかもう一度見せてもらおうか。

おいレイテス。

もう入ってきていいぞ。」

扉の向こうから1人の水色髪の女性が姿を現す。

髪は短く、体つきは細い感じだ。

どこかの王国の騎士団にいそうな服装をしている。

パッとみた感じは女なのだが、どこかに男らしさを持っているようにも思える。

ただ、いかにも強者というような感覚を俺に与えてくる。

見た目だけでなく、俺の体の感覚もこいつは強いと訴えている。

「つまり、僕がこの人と戦えばいいってことか。

まぁグレイが言うなら良いんだけどさ。」

ため息をつきながら、レイテスと呼ばれた人は言う。

「にしても、もう一度って?」

「前に俺が戦ったことがあってな。

あの時は時間がなかったもんで決着までつけていられなかったんだ。」

「じゃあもう一回グレイが戦えばいいじゃん。」

「こっちは忙しいんだ。

だからお前がやってくれ。」

グレイに言われて彼女はもう一度大きなため息をつく。

いやいや、ちょっと待てよ?

一つの疑問が頭に浮かび、俺はわざとらしくそれを呟く。

「戦うって言ってもこの建物の中で戦うなんて…」

俺のその声を聞いて、グレイが立ち上がる。

「ついて来い。」

そう言って歩き出すグレイの後ろを、レイテスと共に歩いていく。

結局お前もいくのかよ…

そんなことを思いながら、何となく見覚えのある一階をさらに通りすぎて下の階へと降りていく。

ここは地下もあったのか…

そして地下一階へと辿り着き、グレイは一つの鉄の扉を開ける。

その先にはコンクリートで覆われた、だだっ広い空間が広がっていた。

「じゃあ、手っ取り早く始めようか。」

そう言って、彼女は懐からナイフを取り出す。

やはりこの世界ではナイフと剣を使う奴が多いんだよな…

一応銃も存在しているが、それをメインに使って戦っている奴は学校にもいなかった。

ただ、それは元いた世界でも同じことだ。

魔法を使った高速戦闘の中ではそんな飛び道具は使い物にならない。

銃を使って戦うためには、結局剣やナイフを用いた近接戦闘技術が必要になってくる。

そう考えると、能力を用いて戦うこの世界でも、小回りが効く武器の方が使い勝手がいいだろう。

そんなことを思いながら、俺は魔法を発動する。

異空間にしまっていた剣を取り出す。

レイテスは驚くような顔をして言う。。

「君、そんなことできるんだ。」

「まぁ。

とは言ってもただの収納ボックス的なものですけどね。」

「便利だよね。」

便利…だよね?

だよねってなんだ?

「じゃあ…いくよ。」

考える間もなく、戦いが始まる。




俺は一気に距離を詰めて切りかかる。

しかし、その攻撃はナイフによって簡単に防がれる。

結構速く動いたはずなんだが…

俺を弾き飛ばして彼女はいう。

「へぇ…すごいじゃん。

今の速さ、全力でもないんでしょ?

ふざけてると負けそうだし、最初っからギア上げていくよ?」

そう言った瞬間、彼女は姿を消した。

高速移動…?

いや、違う。

完全に気配が消えた。

つまりこれは…

その時、後ろから一本のナイフが飛来する。

それを剣で切り落とすと同時に、背後に彼女が現れる。

床を蹴って宙に飛び、強引にその攻撃を躱わす。

これは…空間移動の能力…!

床に降り立ち、剣を構え直す。

そして、右足を強く踏み込む。

それと同時に雷が発生し、それは彼女に向かって地面を這う。

いとも簡単に彼女はその攻撃を避ける。

その回避行動と同時にまた姿が消える。

今のナイフの構え方…

右から振りかぶるしかないはず!

俺は背後に向かって剣を振る。

それによって生じた雷が切り裂いた空気を焼く。

見事なまでに、その剣は後ろから現れた彼女のナイフを弾き飛ばす。

「まじかぁ…」

彼女は一歩下がって片膝をつき、右肩を抑える。

今の雷が肩をかすったのだろう。

「消える一瞬の体勢を見てどこから攻撃を仕掛けにくるか見抜いたね?

すごい洞察力…

グレイと同じだね。」

笑いながらグレイを見る。

そいつは目を閉じて壁にもたれかかっている。

こいつ寝てんじゃないのか…?

「ちょっと流石にまずいかな…

次にグレイと戦う時のためのとっておきだったんだけど…」

ふうっと息を吐いて彼女は立ち上がる。

「じゃあ、いくよ?」

そのまま彼女は丸腰でまっすぐ突っ込んでくる。

俺は左手を向けて雷を放つ。

彼女はそれを能力を用いて回避する。

次はどこに消えた…

と思ったのも束の間、俺の背中には一本のナイフが突き刺さっていた。

わずかに遅れて痛みがやってくる。

嘘…だろ?

彼女の気配を感じてすらいない。

一体どうやって…

しかし、考える間もなく、俺は右から蹴りをくらう。

「うっ!」

なんとか腕で防ぎはしたが、吹っ飛ばされる。

壁に激突する瞬間、体の向きを整えてなんとか壁を蹴る。

その反動を使って一気に彼女に近づき、剣を振るうと見せかけて周りに雷を発生させる。

俺の周りを覆うように、雷はあたり一面に放たれる。

そしてそれは、異空間から出てきた彼女にあたる。

しかし、すぐに距離を取り、雷を回避してくる。

その間に俺は背中に刺さったナイフを抜き、それに雷を与えて、彼女の方に投げる。

しかし、そのナイフは彼女の目の前で消える。

その瞬間、俺は体に極限まで近づけて雷のバリアを強く張る。

そして、さっきの攻撃の確証を得る。

「もしかして、今のは失敗だったかな…」

彼女は俺を見て言う。

体に当たる寸前でバリアにつき刺さったナイフを手に取って言う。

「さっきの攻撃…

僕の体に当たるギリギリのところから出していたんでしょ?

だからナイフに気づくより前に当てることができるし、あなたの気配も感じることはできなかった。」

「一回で見抜かれちゃうか…

ご名答、その通りだよ。」

「でも、それだったら直接僕の体の中にナイフを差し込めばいいんじゃないですか?」

「そう…

僕も初めはそう思ったよ。

でも、それをやるのは何年練習してもできなかった。

純粋な技術不足と、あとは…感情?

どうしてもそれをする気になれないんだよね。」

そう言って彼女は自分の手を眺める。

「君には最強の技みたいなのはあるのかい?」

「一応、ありますよ。」

魔法は詠唱をすることで威力を上げることができる。

しかし、桜庭霞と戦った時のように、詠唱付きの魔法は魔力の消耗が激しい。

そして空間を自在に移動し、あらゆる場所から攻撃できる相手には使い勝手が悪い。

詠唱中に攻撃されてはこちらのダメージがデカくなってしまう上に、フルパワーで放った攻撃も、楽々躱されてしまうからだ。

だからずっと肉弾戦をしていたわけだが…

「それ、やってみてよ。」

興味深そうに彼女は言う。

「少し時間がかかりますよ?」

「待つよ。

それくらい。」

「そうですか…

じゃあ始めます。」

一応、不意打ちでやられないように常に身体強化魔法を使っていた。

本来なら魔力はだいぶ減っているはずだが…

桜庭霞との戦いの前から考えてはいた、魔力切れを起こさないための工夫をしてみた。

もちろん、まだ開発途中だから上手く使えない部分もあるけどな。

魔法の使用には魔力を使う。

そして元の世界では魔力が満ちているから魔法の行使が容易い。

しかし、それならばこの世界でも能力という力が存在している。

それによって外に漏れ出ている能力の力の一部を魔力に換算してしまえばいい。

そのために、新たな魔法構築を作り出した。

つまり常に魔力が回復し続けることができる状態になったということだ。

ただ、そうしても魔力による生命エネルギーを回復させることはできなかった。

だから制限時間の5年は変わりはしないが…

今そんなことはどうでもいい。

この前に立つ敵に勝つために、剣をしまって詠唱を始める。

「雷の力、我が体に集い、

天の怒り、今ここに解き放たん。

爆ぜて震えよ、無慈悲なる雷の轟き。

我が命令に従い、爆裂せよ!!」

俺の周りを雷が覆っていく。

「それじゃあ行きますよ。」

そしてその魔法を発動させる。

「“サンクロス・ウォールストライク!”」

いくつもの雷が俺の周りから彼女に向かって放たれる。

それを空間移動によって彼女は避け、間合いを詰めてくる。

そしてナイフを振りかぶったその瞬間、俺の体を中心に雷を爆発させる。

空間移動によって躱されないための方法。

それは…

空間全てを雷で埋め尽くすことだ。

怒号のような雷鳴と共に、俺の前は光によって見えなくなるのだった。




その光が弱まり、俺は辺りを見る。

後ろに、倒れている人影を見つける。

それはさっきまで戦っていたレイテスだった。

あれほどの実力者なら命を落とすまではいかないはずだが…

向こうからグレイが歩いてくる。

彼女の頭の横に片膝をつき、その顔をしっかりと見る。

「お前、だいぶ力を抑えただろ。」

こちらを見ずにグレイは言う。

「流石に、殺すわけにはいきませんから…。」

「仕方ない。

お前の実力を認めないわけにはいかないからな。」

そう言ってそいつは一つのバッジを俺に放り投げる。

それを手に取り、見る。

四角形の中にばつ印が入っている銀製のバッジだ。

「これは…?」

「お前をこの組織の幹部として正式に承認しよう。

幹部の1人に勝ったんだから当然の権利だろう。」

やっぱり幹部だったのか…

「また明日俺の部屋に来い。

色々と、話さないといけないこともあるからな。」

そう言って彼女を抱きかかえてグレイは部屋から出ていった。

その姿を見送りながら、俺はそのバッジをポケットの中にしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ