運命と約束
魔法の世界で、魔法を使うことができなかった俺は最弱として周りからあざ笑われた。
しかし、幼馴染である1人の少女は、平民でありながら才能に溢れていた。
みるみるうちに成長し、強くなっていった。
そいつに追いつくためだけに、自分を磨き、魔法が使えなくても力を示せるように体を極め続けた。
そして青年になる頃には俺と彼女は周りに認められるほどの力を持った。
もちろん、その頃になっても俺が魔法を使うことはできなかった。
それを理由に俺を認めないやつも多かった。
とはいえ、強いのは事実ということで俺と彼女は国王軍に入ることを許可された。
俺の世界では基本的に貴族などの高位なものが優遇され、指示を出し、それによって軍が動く。
そんな中で、俺たちは単独任務が与えられるほどになった。
単独任務が与えられるようになるのは、軍隊全体の中の上位10人なのだから、強さは認められていたと言っていいかもしれない。
ある時、俺と彼女にそれぞれ東と西の偵察に参加するように指令が出された。
最近の任務は単独任務ばかりだったのに、それぞれ五千人ずつの兵を率いていくよう指令が下された。
理由は相手の軍勢が大人数である可能性があるということだ。
偵察なのにそこまでの軍勢を連れていく可能性もわからなく、妙な胸騒ぎもしていたが、作戦が変わるわけもなく、俺は東、彼女は西へ向けて出発した。
そして行動し始めて5日が経過した時だ。
俺の軍は近くの村へ立ち寄って食事をとっていた。
あらかじめ食料だけは届けておいたので補給は十分だった。
それにしても五千もの人数を引き連れてきた意味はどこに…
出発してからそればかりを考えていた。
いつものようにそんなことを考えながら置かれたスープに手をかける。
しかし、俺はそれに違和感を感じた。
気づかれないようにそっと周りの様子を伺う。
近くにいた兵士たちはソワソワしながら俺を方を見ている。
一口、俺はそれを飲む。
そして確信した。
これには毒が入っている。
ただ、毒程度が効くはずもない。
そのまま飲みほし、他の飯を食べ終え、眠りにつくと言って自室へ行った。
夜中になり、部屋の外でゴソゴソと音がし始める。
やっぱりそうか…
これは完全に裏切り行為だった。
誰に命令されたのか。
いや、ひとまずここを離れる方が先決だろう。
そう思った俺は窓をぶち破って外へ飛び出た。
異変に気づき、外にいた奴らは一気に部屋へとなだれ込んでくる。
その瞬間、部屋に仕掛けておいた爆弾が爆発を起こす。
爆弾と言っても白い煙を巻き起こすだけの目くらまし用のものだ。
そのまま俺は外に出て駆けていく。
俺を止めるべく切りかかってきた兵士を投げたおし、喉元にナイフを当てて問う。
「これを企てたのは誰だ?」
その男は震えながら、
「こ、国王によるものです…」と言った。
「くそっ…俺たちが力を持つのを遅れたと言うわけか…?」
いや待て。
俺が裏切られたということは…
最悪の未来が頭をよぎる。
「やべぇ……!」
全力で西へ向かって駆けていく。
急げ…急げ…急げ!
ただひたすら、走り続ける。
今まで出したことがないスピードで走り続けた。
500キロはある道を15分で走り切る。
走るほど、焼けこげた匂いが強くなってくる。
それでも走り続け、そこに広がっていたのは至るところから炎が吹き出ている村だった。
「やはり…」
思わず言葉が漏れる。
いや、あいつなら大丈夫だ。
無理やり自分に言い聞かせるようにして俺は頭を動かす。
そしてその燃える村の中に俺は突っ込んでいく。
彼女の名を叫ぶ。
「アストリナ!
いるか!?
アストリナ!」
どれだけ呼ぼうにも声は返ってこない。
頭の中でどんどん最悪な結末が鮮明になっていく。
それを振り払うように頭を振り、体を動かして奥に進んで行き、人影を見つける。
人が何人も倒れている。
そのさらに奥へ奥へと駆けていく。
倒れている人間の中に俺がよく知る銀髪の少女がいた。
それは戦いによって傷だらけになったアストリナだった。
すぐに駆け寄り、体をゆすって声をかける。
「おい!聞こえるか!
俺だ!おい!返事をしろ!」
しかし、その口が開くことはない。
その瞬間、後ろに殺気を感じる。
切り掛かってくる男が1人。
こいつは…西側の副隊長…こいつも裏切り者か。
俺はその剣を躱し、そいつを思いっきり上に蹴りとばす。
装備をつけたままそいつは数十メートルぶっ飛んでいく。
落ちてきたやつの顔に固めた拳をぶつける。
口から血を吐き出しながらそいつは遥か彼方へと飛んでいく。
そんなものには目もくれず、俺はアストリナの体をゆすり続ける。
くそっ…どうすることもできないのか…!
自分の弱さを噛み締める。
結局、俺は落ちこぼれなのか…
人生で、たった1人愛した人すら守れないのか━━━
その時、
「また…自分を嫌になってる…」
ああ………生きていた……
俺の目から自然と涙が流れる。
微かに目を開いて彼女は俺に言葉をかける。
「よかった…あなたは無事だったんだ…」
「おい…喋るな……!
何か、お前を助けることができる手が…」
「そんなこと考えなくていいよ。
その代わり、最後に聞いてほしい。」
俺の目のあたりがどんどん熱くなっていく。
「あなたは、どんな時も優しかった。
困っている誰かのために、あなたの力を使ってあげてほしい。
あなたはいつも誰かに迷惑をかけないようにしてるけど、誰かを頼ってもいいんだよ…」
アストリナの声はどんどん掠れていく。
俺は彼女を呼び止めるように言う。
「約束をしようアストリナ!
お前が夢見て望んだように、この世界を笑顔あふれる世界にしよう!
理不尽に笑顔が失われる世界を壊してやろう!
そのために2人で命をかけようじゃないか…!
だから…だからそれまでは死んじゃダメだ……!
約束してくれ……」
無理だとわかっている。
魔法によって傷つけられた体は、薬を利用しようと効果はほとんどない。
それも、最強と言える彼女をここまで弱らせるほど腕前が強い奴らが集まっていたのだ。
魔法を使うことすらできない俺にはもうどうしようもない。
俺の力不足のせいで、もう彼女は生きることはできない。
そんなことはわかりきっているのだ。
しかし、それでも、わかっていても、俺は彼女と離れたくない。
別れたくない。
繋がっていたい。
だから、俺は彼女との関係を約束によってつなげ止めようとしていた。
側から見れば無謀で無意味だろう。
そんなのはどうだっていい。
自己満足だっていい。
俺は彼女がいない世界がどうしようもなく怖いのだ。
最愛の人がこの世界から消えていくのが、あまりにも怖すぎたのだ。
「約束してくれ……」
祈るように、俺は彼女の顔を見る。
その目からは一筋の光が流れている。
「私のたった1つの心残りは…ずっとあなたに言いたかったことを伝えれなかったことかな…」
そんなことを言う彼女に、俺は震える声を絞り出す。
「今、言ってくれよ…」
「ふふっ…これを言ってしまったら、あなたの人生を曲げてしまうかもしれない。
またいつか、あなたと出会った時に、この言葉はとっておくよ…
でもこれだけは言わせてほしい。
シロ…今までありがとう。」
涙が止まらない俺を落ち着かせるように、彼女は言葉を紡ぐ。
「大丈夫。
約束はいつか必ず果たすことができるから。
信じれば、それは必ず報われる。
何年、何十年、今世では無理かもしれなくても、いつかきっと報われる。
だから…またどこかで会いましょう?」
彼女の顔が、ぼやけて見えなくなってくる。
幾つもの雫が、俺の目から彼女の顔に向かって落ちる。
震えた口を動かし、できる限りの笑みをつくり、彼女の手をとって答える。
「あぁ…必ず会おう…またいつか…」
満足そうに彼女は微笑み、俺の腕の中で息絶えた。
俺の体に今まで知る由もなかった力を残して━━━━━




