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シロという人間

俺は吹き飛んだ工場の中、カルリアの元へと歩き、その体をかかえる。

身体中ボロボロになっているが、まだ生きている。

死んでいてはどうにもできないが、生きているのであれば話は別だ。

彼女の額にそっと手を当て、力を行使する。

手の触れた部分から淡い緑色の光が溢れる。

彼女の体の傷がだんだんと和らいでいく。

数秒後、その傷はほぼ完治された。

いくらAクラスといっても、彼女が能力を使えばただでは済まないと思っていたが…

まさか能力を封じる能力が存在するとはな…

そう考えながら、俺は彼女と共に消えるようにしてその場を去った。





俺は彼女の部屋まで彼女を抱えていき、カルリアの友達にあとを頼んで自分の部屋へと戻り、ベッドに寝転がっていた。

流石にこの世界で力を使うと魔力の消費量が半端じゃないな…

先ほどの爆発の種明かしをすると、俺は魔法というものが使える。

一つの魔法陣で爆発魔法を使い、もう一つの魔法陣でカルリアにバリアを付与した。

その前の雷も魔法によるものだ。

なんなら、フレーベルとの戦いの時もこの力を使っているが、なんとも魔力が安定しない。

そもそも、俺が元いた世界に能力なんていうものはなかった。

その代わりなのかはわからないが、魔法というものが当たり前の世界だった。

そして魔法を持たぬものは魔法を使えるものに負けないように武器を強化したり、単純な肉体を強化したりしていた。

俺は後者だった。

魔法の実力が強さの基準の9割以上を占めていた中、魔法を使うことができなかった。

俺は元の世界で最弱と言われていた。

別に俺1人を指してそう呼ばれていたわけではないだろう。

ただ、なんと言っても魔法を持たないのだ。

それだけで弱者であり、魔法を使えるものには蔑むことができる権利が当然のように与えられる。

俺が魔法を使用できるようになったのは他でもない、彼女がいたからだ。

最期の刻、彼女は世界の平和を俺に託し、それと同時に彼女が持っていた魔法の力を俺に渡した。

だからこそ俺は魔法が使えるようになった。

もちろん、彼女のように高性能な魔法を完璧に使いこなすことはできない。

さらにこの世界には魔力というものが存在しない。

だから魔法を使用するためには俺が持っている魔力…

彼女からもらった魔力から使うしかない。

魔力自体は時間と共に回復することができるからそこまでの問題はない。

1番の問題は俺がいつまで生きていることができるかだ。

この世界に来た時、薄々は気づいていた。

魔力が無いこと、そして魔法を行使する者は魔力が全く存在しない世界では長く生きることができないことを。

そこまで長くと言っても、極端に短いわけではない。

今の俺の魔力量的に5年くらいは持つはずだ。

だからそこまで焦る必要はないのだ。

ゆっくりと、ただし確実に元の世界に帰れる方法を探す。

まだ向こうの世界でやらなければならないこともあるしな…

それにしても疲れた。

これからも魔法はできる限り使わないようにしておこう。

Aクラスの件の後始末は…まぁなんとかなるか。

そう思いながら俺は眠りについた。





次の日、明らかに周りの目が変わった。

俺をヤバいやつを見るような目で見てくるのだ。

なんでこんなことになったんだか…

思いつく理由は昨日のあれしかないが、俺は見て見ぬふりをすることを決めた。

教室に入ると、いつも通りカルリアは席に座っていた。

昨日の治癒もあってか大丈夫そうだな。

俺が席に座るとほぼ同時にヴィルヘル先生が入ってくる。

「さて、みんなテストお疲れ様!

いい成績だった人も悪かった人もいるだろうが、今後も二学期のテストに向けて頑張ってくれ。」

そういえば教師は何か仕事はあったのだろうか?

とはいえこの人はいつも通りのハイテンションだから関係ないか。

そこから数分間教壇で話し、それが終わり朝礼が終わるとバッジを配り始めた。

今回のような学期のテストが終わるたびに、バッジのランクが変化するらしい。

下がることも上がることも、もちろんそのままのこともあるだろう。

とりあえず今回は全員変わらないらしいが、俺のランクは変わることがあるのだろうか?

そんなことを思いながらそのバッジを受け取る。

零と書かれた銀のバッジだ。

周りの生徒たちは青くDと記されたバッジをつけていた。

俺のバッジはこれで零クラスということだろうか。

それを左胸の辺りにつける。

一つの名を与えられたような感覚を感じる。

全員にバッチを配り終え、先生は言う。

「君たちには我が学校の生徒であると言うことを改めて認識して欲しい!

君たちがこの世界を救う日が来るかもしれない。

誰かを助ける日が来るかもしれない。

そんな時にどうするのかを考えながらこれからも過ごしていってくれ。

以上!」

テストが終わり、夏休みまでは特にやることも無い。

その間に元の世界への帰り方でも考えるか…

そんなことを思っているとカルリアが俺のところへ来て問いかけてくる。

「あの…お時間いいですか?」

周りからの目が集まっているのが嫌でも伝わってくる。

「あぁ問題ない。

場所を変えるか。」

そう言って俺とカルリアは教室を出ていく。

教室の中からは

「おい!

あいつら付き合ってんのか!?」

とかいうアベルのでかい声が聞こえてきたので、それを華麗にスルーしながら廊下を歩いていくのだった。





俺とカルリアは人気がない空き教室の中で話すことにした。

内容は無論昨日のことについてだろう。

どう言い訳をするかな…

そんなことを考えていると、カルリアが話を切り出す。

「結局、昨日私を助けてくれたのはシロくんということでいいですか?」

「まぁお前を助けにいったのは俺だが…

爆発は俺がやったものじゃない。

Aクラスのやつが能力を暴発させただけだ。」

「だったら、壁を破った時に起きた雷はななんですか?

シロくんは…

一体何を隠しているんですか?」

これ以上言い逃れるのは無理があるか…

いや、いいことを思いついた。

「はぁ…わかったよ。

何が起きたのか本当のことを話そう。」

カルリアには悪いが、俺は魔法のことも魔力のことも話したくないんだ。

この世界では確かに能力というものが実力も戦いの勝敗も左右するだろう。

それは元の世界と同じだ。

だからこそ、周りの奴にはなにもできない奴だというイメージを持たせておくことが大切だと俺は思っていた。

何かの時に相手を油断させておくこともできるからな。

だからこそ、俺は嘘をつく。

「確かに、俺はお前を助けるためにあの廃工場へ行った。

しかし、その途中である男とバッタリ出会ってな。

お前も知っているだろう?

この世界を手中に収めようと企む集団のリーダー、グレイという男を。」

そう言った瞬間、彼女の顔は驚愕の色に染まる。

「じゃあシロくんはあのグレイと戦ったということですか!?」

やはり、この学校でも知名度が高いのだから当然知っているか。

「まぁそういうことだ。

グレイとの戦いの中、雷と共に吹っ飛ばされてな。

そうしたらたまたまお前が連れ込まれていた廃工場に辿り着いたんだ。

グレイは俺との戦いをAクラスの奴らに邪魔されたのにブチギレて、そこにいた生徒たちをボコボコにしていった。

それで最後の1人が能力を使って廃工場ごと吹き飛ばそうとした。

その隙にお前を連れ出してそこから撤退したんだ。

グレイに追跡されなかったのは不幸中の幸いだったな。

こんなことを言ってもどうせ信用されないだろうし、かえって混乱させると思ったから話すのを控えていたんだが。」

どうだ?我ながらなかなかのアドリブだと思うが…

「なるほど…そういうことですか…」

お?納得してくれたか?

「つまりグレイはAクラスを複数人いても勝つことができないほど強いのですね…

そしてその能力は雷に関係している可能性があると…」

ここで奴の能力が雷だと言ってしまっては違った時に被害が大きそうだな…

訂正しておくか。

「雷とは言ったが、どんなものかはわからない。

お前が見たように雷のような見た目をした何か違うものかもしれないし、奴の扱うことができる力のうちがあの光ということかもしれない。

確証が持てない間は混乱させちまうだろう。

学園長にも教師にも誰にも話すなよ?」

俺が言うと、

「もちろんです。

シロくんが言うなと言うなら言いません。

あなたは命の恩人ですから。」

「そう言ってもらえるなら大丈夫だな。

俺もグレイについては知りたいことだらけなんだ。

また何か情報があったら伝えてやるよ。」

そこまで言って、

「あ、そうだ。」

俺は言わなければいけないことを言う。

「また何か俺のことで問題が起きても無視してくれ。

お前を人質にでもされると困るんでな。

あと格上に喧嘩を売るようなこともやめておけ。

自分ができる範囲を逸脱した行為は、返って自分の身を滅ぼしかねない。」

「はい…わかりました…」

しょぼんとするように彼女は顔を下げる。

やれやれ…そう思いながら俺は口を開く。

「ただ、今回のは俺のためにやってくれたことだ。

そこは礼を言っておく。

ありがとう。」

彼女は嬉しそうな表情で顔を上げる。

「どういたしまして!」

いい笑顔だな…

その笑顔を見てあの人のことを不意に思い出す。

「あと、私からも1ついいですか?」

「ん?なんだ?」

「さっき信用してもらえないだろうって言ってましたけど…

私はシロくんのことを信用してますよ?

だからなんでも話してください。

相談にくらいは乗れるかもしれませんし。」

「あぁ。

そうさせてもらうよ。」

そう言って浮かべた俺の笑みは、授業開始の鐘の音によってかき消される。

「遅刻する。

急ぐぞ。」

そう言って俺は立ち上がる。

「シロくんの話が長いせいでもう遅刻ですよ…」

トホホという顔をするカルリアと共に教室に戻り、周りからの変な視線を感じながら2人で怒られるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

今回で最なれも10話になりました。

いまだに主人公がどんな人間なのか掴めないという感じではあると思うのですが、それを含めて最なれの見どころと思っていただけると嬉しいです。

まだまだ先は長く続いていきますが、結構ストーリーの進みが早いので、今後も楽しく、考察しながら読んでいただけると幸いです。

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