新たなる一歩
その時、燃え盛る村の中で俺はそいつと約束をした。
この世界を笑顔あふれる世界にすると。
理不尽に笑顔が失われる世界を壊してやると。
そのために2人で命でもかけてやると。
それまでは死なないと。
しかし、世界はあまりにも非情だった。
たった1人、俺が愛した人をこの世から消していった。
誰かの笑顔のために戦った人間を、奪っていった。
これが神によって起こされたものと言われたらどうしようもない。
だが、彼女の死に神なんぞ関係ない。
人間が、人間の手によって殺したのだ。
だから俺は決めた。
約束を果たすため、この世界の腐った奴らに復讐をするために、
最強になることを━━
俺は妙な違和感に目を開く。
ここは…どこだ?
どこかに飛ばされた?
一瞬そんな考えが頭をよぎる。
とは言っても、いつもと決定的に違うものがある…
つまりここは違う世界か…?
いや、そんなことがあるわけはないと思うのだが…
そして自分の行動を思い返す。
疲れきってベッドへ飛び込み眠りについたのだ。
そのまま寝てしまったはずなのだが、ここは見た感じ森の中だ。
何があったんだ…
今の状況を思案していると、突如として後ろから気配を感じる。
幸いにもいつもの装備品はそのままだ。
ナイフに手を伸ばしつつ、素早く立ち上がって振り返る。
そこには1人の女が立っている。
茶色と金の混ざったような髪色に小柄な体。
青と金の装飾がついているブカっとした白い服を綺麗に着こなしている。
見ない服装だ。
少なくとも庶民が来ているようなものとは違う。
するとどこかの国の王女か何かだろうか?
いや、そんな人間がこんな森の中1人で歩いているわけないか…
そう思いながら、
「お前は誰だ?」
と問いかける。
特に殺意は感じない。
ただ、ここがどこかもわからない今、警戒するしかないだろう。
しかしそいつはあっさりとその問いに答えた。
「私の名前はアリア。
アリア・ベルナーヴェ。
能力育成学校の学園長をしています。」
聞いたことがない学校だ。
「能力育成学校?
その学校はなんだ?」
俺の世界には存在しない学校…
やはりここは違う世界で確定だろう。
「それはですね━━」
彼女が話し始めた時、遠方で轟音が響く。
音的に何かの爆発音。
これが当たり前に起きているとなると物騒な世界だな。
俺が考えている間に、
「すみませんが話している時間はなさそうです!」
焦った様子でそう言ってそいつは飛び上がる。
空を飛べるのか…
いや、それはおいおい考えればいいだろう。
「おい!俺も連れていけ!」
ナイフをしまいながら俺は声をかける。
「え?いやでも…」
「時間がないんだろ!」
「わ、わかりましたよ!」
彼女はそう言い、俺の方へ手を向ける。
すると、俺の体は浮き上がる。
「いいですか!
勝手なことはしないでくださいね!」
そう念を押されながら俺たちは音のした方へと飛んでいく。
すぐに先ほどの音の元となっているであろう煙が近づいてくる。
そして、街の中に上がる黒煙と1人の男の姿を視界にとらえる。
こんな白昼堂々と、しかも街のど真ん中であんなことやったのか…
そう思いながらも、俺とアリアと名乗る女は地上に向けて降下していく。
「やっぱりあなたですか!」
わかりきっていたように彼女は言う。
「へっ。
学園長自ら来てくれるとは話が早くて助かるじゃねぇか!」
男は不敵な笑みを浮かべている。
「あなた、我が校の元生徒として恥ずかしくないのですか!」
アリアが声を強める。
元生徒ってことは学校への報復かなんかか?
「恥ずかしい?
逆にどこに恥ずかしい要素があると思ってんだ?
今学校は春休み、つまり暴れ回るなら今しかないってことだ!」
「━━くっ…」
彼女の顔は失態を物語っていた。
男の口振り的に計画を練って来て、それが綺麗にハマったということだろう。
「あんたも俺の能力の強さは知ってんだろ?
てことで取引しようぜ。」
「とり…ひき?」
彼女の顔は曇っている。
つまり、その取引の内容が簡単に想像できるほどやばい相手ということだろう。
そしてその男は興奮した口調で怒声とともに口を開く。
「俺に跪け!
お前の学校の有り金を全部持ってこい!!」
学校がどれほどの規模かはわからないが、なかなか酷い条件を突きつけてくるもんだな…
そんなことを思いながら、俺はやり取りを静観する。
「なぜあなたなんかにそんなことをしないと…!」
アリアがそういった瞬間、そいつは手を伸ばす。
その先にはただの一般人と思われる子供が震えて立ちすくんでいる。
「お前が逆らうならここにいる奴は死ぬぞ?
いいのかぁ?」
勝ち誇る様にニヤニヤしながらそいつは言う。
経験上、こういうやつは大体慢心があるもんだ。
俺は悠長にそんなことを考えているが、その間にもアリアは歯を食いしばりながら両手を地に着く。
「はっはっは!
ざまぁねぇなぁ!」
そいつは声を上げながらその姿を見下している。
自分の憂さ晴らしのためだけに、何も知らないであろう人間を巻き飲んでいるということで良さそうだな。
「当人同士の問題だと思っていたが…」
俺は呟きながら一歩前に出る。
「ちょ、ちょっと!
やめなさい!」
驚きと焦りが入り混じった顔で彼女は俺を見る。
「大丈夫だ。」
それだけ言って、そいつの前に歩いて行く。
「あ?
なんだお前?
人質とってんのが見えてないのか?」
ケラケラと笑いながらそいつは言ってくる。
「見えないが?」
俺がそう言った刹那、そいつは驚愕の顔を浮かべる。
その理由は簡単だ。
俺はすでに子供を抱えていた。
「は?」
信じれないものを見たかのようにそいつは素っ頓狂な言葉を発する。
「どうした?何かやるんじゃないのか?」
挑発するように俺は言う。
そいつの目に、生気が戻ってくる。
「だ、だったらお望み通り消し炭にしてやるよ!」
そう言ってその向けられた手に手のひらサイズの燃え盛る球体が作られ、それをこちらに向けて放ってくる。
火球…しかも結構な力が圧縮されているようだが、
「この程度のもの、どうということはないな。」
俺は腰からナイフを取り出し、子供を後ろに座らせながらその炎を切り裂く。
爆発が巻き起こる瞬間に、その球体を木っ端微塵に切り刻んでいく。
結果、何も起こることもなく、それは消え去った。
「なん…だと?」
そいつの唇は震えている。
「さて…どうする?
大人しく捕まるか、抵抗するか。」
「クソっ!
だったらこの辺り全て焼け野原にしてやる!」
まぁそうくるだろうな。
「全員死ねっ!」
そいつが言った時には俺はすでにゼロ距離まで接近していた。
感情に身を任せたやつは隙だらけだ。
仮にこいつが腕の立つ実力者だとしても、だ。
そこを突くだけで容易く勝てる。
「チェックメイトだ。」
俺はそいつの腹に逆さに持ったナイフの柄を喰らわせる。
「がっ…うっぅ…!」
苦しげな声と共に口から唾を吐き、そいつはその場に倒れる。
………
その場にはしばらく静寂が流れる。
周りに人がいないのだから当然といえば当然だろう。
「あ、あなたね!」
急にアリアが大声を出す。
こちらに向かって駆け寄ってくる。
その瞬間、俺と彼女の間に割って入ってきた人間がいた。
何者かの気配を感じた瞬間、そいつは目の前にいた。
濁った銀の目が、被った黒いフードの下からのぞいている。
こいつはヤバい。
直感的に感じる。
「今の動き…」
そいつは口を開く。
「能力を使っていないな?
よくあれだけの速度を出せるものだ。」
能力?
さっきのやつが使った炎はその能力ということだろうか。
そんなところまで俺のいた世界とは違うのか…
目の前にいるのは強者であるはずなのに、なぜかそんなことを悠長に考えてしまう。
「なかなか面白い力を持ったやつみたいだな。
だが今の戦い、本気を出していないんだろう?」
そう言ってそいつは不適な笑みを浮かべる。
銀の髪がフードの下からチラリと見える。
「本気を出して今から俺と戦ってみないか?」
フードの男が言った時だった。
「何してるの!
逃げなさい!」
アリアの声が飛ぶ。
しかし、目の前のこいつからは殺意が一切感じられない。
少なくとも、今は俺を殺すことはない。
なぜかそう思うことができる。
「おっとアリア学園長。
こんなところにいるなんて珍しいじゃないか。」
彼女の顔はこわばっている。
しかも先ほどよりも遥かにだ。
つまり、この男はとてつもないほどの実力者か、彼女にとっての脅威になるということだろう。
アリアは大声を出す。
「なぜここにきたのか言いなさい!」
アリアにそう言われ、男はめんどくさそうな口調で言い返す。
「まぁそう焦るな。
仲間に挨拶をしにきただけだ。」
平静を保ちながらその男は言う。
その言葉が俺には引っかかった。
仲間…?
状況から考えて俺のことで間違いなさそうだが…
なぜ仲間だということになる?
「転生者同士、仲良くするのは当たり前だろ?」
転生者?
また初めて聞く言葉だ。
そう思ったのも束の間、
「ここにいても十分に話は出来なさそうだな…
おっと、忘れるところだった。
お前の名前はなんだ?」
俺の目をまっすぐに見て聞いてくるそいつに、
「シロだ。」
と短く答える。
「シロか…
じゃあな。
また会おうぜ。」
そう言って、その男は一瞬でその場から姿を消した。
この未知なる世界について知らなくてはならないことがありそうだな…
そう思いつつ、俺は空を見上げるのだった━━━。
ご一読いただきありがとうございます。
タイトルが長いから略すなら「最なれ」かな?なんて思いながらも、いろいろと考えてこのタイトルになりました。
これからも続けて書いていきますのでどうぞよろしくお願いします。