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89話

 



「何にも、見当たらねぇ……と言うか、倶利伽羅の数が尋常じゃねぇぞ、おい。……そりゃあ、経過観察の対象が突然行方不明になったんだから騒ぎになるのは当然か。人形使いのお陰で、裏切り者や潜伏者の前例が出来ちまった訳だしよ」

「今もまだ、人形使いと繋がっている倶利伽羅は結構いたしね。倶利伽羅の方でも、まだ把握できていないのかもしれない」

「もしくは、気付いていながら放置しているのかもしれないね」

「意味、あんのかそれ?」

「意味がある、と言えばあるし、無いと言えば無い、かな。永新クンなら分かるだろ?」


「確証は無いですけど……。多分、人形使いの目的は、倶利伽羅の数を減らすとか、大量の妖魔を手に入れる、とかじゃない。あくまでも(ハク)に打ち込んだ薬液の実地試験に過ぎなかったんだと思う。その為に、サンプルを大量に用意できて、尚且つ把握が容易い倶利伽羅に罠を張り巡らせたんだと思う……。俺が戦った妖魔擬きの倶利伽羅は、薬液じゃなくて術式を用いていたから、恐らく、もっと他のパターンも調べていたのかもしれない。……でも結果は、薬液の方が有用だと示された。薬液の試験運用、そして調整を経て(ハク)に打ち込む事こそが、人形使いの本来の目的だったんじゃないかな」


「ンな事があったのか」

「新型霊具が狙われている、って俺と真宵に教えてくれたのは虎鐘さんだったから、人形使いの本来の目的から少しでも目を離させる事が出来たなら、虎鐘さんは役目を果たしたとも言える……んじゃないかな」

「なんだよ永新、あんなクズ野郎の肩を持つつもりか?」

「まぁまぁ羅威竿、永新クンは純粋な答えを口にしただけだから。本当に、あんなクズ野郎だったとは思いもしなかったよ。僕が紹介したとは言え、木っ端微塵になって殺されて当然だね」



 失踪した燦然院香織を探す為、手掛かりを求めて燦然院家の周辺を捜査しにやって来た永新、羅威竿、誠一郎の三人だが、その成果は思うようにいかず、離れた場所にあるカフェにて休息を図っていた。

 始めたばかりとは言え、失踪の手がかりの一つも掴めない理由は、羅威竿が口にした通り、昨夜の巡回ルート以上に倶利伽羅が目を光らせているのが大きな原因。その目を盗んで捜査できる範囲は限られており、まともな捜索は出来ないでいた。


 しかし、このままカフェで時間を潰していても問題の解決には至らない。

 一日、と言うタイムリミットが設けられている以上、何が何でも手掛かりを探さなければならず、燦然院香織の足取りを考える事から始める。



「いつまでもこんなところで関係ねぇ事くっちゃべっていても意味はねぇ。まず、お嬢様が何時、どうやって消えたか考える所からだな」

「あの二人が言うには、突然学校に来なくなった、って言ってたよね。となると、行方不明になったのは学校の下校時から次の日の登校時。監視役の倶利伽羅の目が多い夜の時間が難しいとなると、やっぱり朝の登校時って考えるのが普通かな」

「それは有り得なくない話だけど……人形使い本人が襲撃したとしたら、どうだい? もしくは人形使いに相当する上級妖魔だった場合」

「そうなると……夜の時間帯も可能、とは言え、それは些か強引過ぎませんか?」

「強引、と言うと?」

「強引、っつうのは、お前の言う通り、もし万が一にもそれだけの力を持った上級妖魔が居たとして……、そんな奴が俱利伽羅の目から逃れたとは思えねぇ。夜の時間帯であれば必ず誰かしらの倶利伽羅と戦闘が起こったはず。目撃情報、ないし接敵情報があれば、必ず俱利伽羅の情報網に引っ掛かる。何せ、俱利伽羅の情報網は俺様達ですら特定されかねない程に優秀だ。だァから何回も引っ越しているんだが……。それなのに、未だにお嬢様の家の周辺を捜索してる、っつう事は、お嬢様を攫ったヤツは倶利伽羅の情報網にも引っ掛かっていない、って事になる。永新が言いたいのはそう言う事だろ」



 羅威竿の捕捉に、永新は頷きを返す。

 妖魔達が中にスパイを潜り込ませなければやり過ごす事すら難しい程に、倶利伽羅の情報網は優秀。それをもってしても燦然院香織の行方が掴めないと言う事は、そもそも俱利伽羅の情報網に引っ掛かっていないと言う事であり、永新はそれを言いたかった。



「あ、すみません。コーヒーお代わりいいですか? 攫った相手がどうであれ……それなら、燦然院さんがもう殺されてるかも、って言う可能性はどうだい? 人形使いが燦然院さんを攫って生かしておく理由が分からないだろう? それは他の妖魔も同じで、霊力を手にした彼女は絶好の餌でしかないからね。彼女が攫われた先で殺されているかもしれないのだとしたら……、永新クンはどうする?」

「どうするも何も、俺がやるべき事は変わりませんよ。香織を、皆の元に返すだけです。……それに、攫う理由なら十分考えられます」

「理由? あのお嬢様にそんな価値があるってのか?」

「……今の俺達や、倶利伽羅がそれを答えを出しているでしょ。人一人が行方不明になれば、それだけの数が動く。きっと攫った相手は、今動いている人達全員、もしくはその内の誰かを罠に嵌めようとしているんじゃないかな? 例えば……燦然院、絵麻とか」

「別の、燦然院……。あぁ、あの時お嬢様と一緒に居た、お前を目当てにしてた倶利伽羅か」

「……あんまり思い出させないでよ」



 憶測で語ってみるものの、羅威竿に指摘されて露骨に嫌な顔を見せる永新。

 それは、明確な拒絶の意であり、何よりも永新が罠に嵌められた事を腹立たしく思っている証拠でもあった。


 実際には罠に嵌められたのは燦然院絵麻の方なのだが、その事実を永新は知る由も無かった。



「その推論だと、僕達もその罠のターゲット、って事になるけど、それでもいいのかい?」

「罠だろうと関係なく、俺は香織を助けたいと思っています。あの二人と同じように、俺にとっても香織は大切な友人……ですので」



 香織が生まれて初めて出来た友人が蝶野と蝉岡であるように、永新にとっても気兼ねなく接する事が出来る友人と言うのは、香織が初めてだった。

 倶利伽羅の時代は常に家柄が付き纏うが故に、永新が対等な関係を築く事が出来るのは、永新と同じ家格の倶利伽羅のみであった。しかし、永新を取り巻く環境は常に家格が上の倶利伽羅しかおらず、燦然院家でさえも本来であれば燼月家などとは関わる事が出来ないような家柄。それ故に、家柄もお互いの立場も関係無く接してくれた香織の存在と言うのは、絵麻を手引きした一件があったとしても永新の中では揺るがない程の地位が築かれているのであった。


 真宵や羅威竿と言った妖魔の仲間たちに関しては、一方的にだが永新は夢にまで見た家族のような関係を築けていると認識していた。


 そんな永新の答えに対して、誠一郎は興味深そうな笑みを永新に向けた後、話題を挿げ替えるかのように羅威竿に話を振っていく。



「ふぅん……。それはそうと羅威竿。ルゥは、サンプルの解析はどこまで進んだか話してた?」

「半日で大分進んだ、とは言ってたぜ。なんでも、あの薬液には即効性はあれども、倶利伽羅の体が妖魔化するのには時間がかかるらしい」

「即効性があるのに、時間がかかる? 矛盾してない?」

「俺様もそう思った。ンで、聞いてみた所、倶利伽羅の体内に根付いた妖魔の血が、薬液によって沸き立ち、体が作り替えられていくってのが薬液の効果らしい。そこで倶利伽羅の多くは意識を失い、妖魔に身体が乗っ取られる訳だが、体は人間のままらしい」

「……それは、失敗作じゃないのかい?」

「いや、時間がかかるだけで、いつかは完全に妖魔に変わるんだとよ。個人差が大きいらしいが、早くても数時間。遅い奴だと、半日はかかるとかなんとか。ンで、ルゥが作るのはその作用を打ち消す血清な訳だ。なんでも、妖魔の血に対抗できる抗毒血清を作って血を上書きするとか、なんとか……。正直、話してる内容は半分くらい理解できなかったが、要するにそんな事を言ってたぜ」

「だから、薬液を打った後でも、倶利伽羅の死体は消えなかった……? となると、もしかしたら……」

「あぁ、そのもしかしたらだ。血清があれば、妖魔化した倶利伽羅も戻せるかもしれねぇ。これは倶利伽羅連中も考えは同じだろうがな。……永新、気に病む必要はねぇ。これは必要な犠牲、毒を薬に帰る作業なんだ。殺さなくて済んだ、なんてのは考えるだけ無駄だ」

「分かってる。今はただ、香織を探さないと……」



 (ハク)の血の暴走を鎮める為に、血清を作る。

 しかしそれは妖魔化した人間にも作用して、元の人間に戻す事が出来ると言う代物。


 あの薬液を毒と仮称してそれに抵抗できる血を作る事が目的なのだが、もしかしたら永新達が殺した倶利伽羅の多くも助けられたのではないか、と永新の脳裏に一瞬だけ過った考えを羅威竿は即座に否定する。

 言葉の通り、過ぎ去った事で頭を悩ませても、現実は何も変わらない。それは永新も理解しているのだが、争いごととは無縁の生来の穏やかさが益の無い思考ばかりを巡らせる為、永新はそれらを振り払う為にも前を向く。前を向くために、首から下げた御守りとして渡されたガラス球を強く握る。



「血清、ねぇ……」

「誠一郎、どうかしたか?」

「いや、なんでもないよ。永新クンの言う通り、燦然院さんを探しに行くのが先決だな、って。今度は三人分かれて探してみる、っていうのはどうだい? 倶利伽羅に見つかった時のリスクが大きいけど、そっちの方が効率が良いと思うからさ」

「……それもそうだな。振り分けはどうする?」

「僕が東と南、永新クンが西、羅威竿が北でいいんじゃないかな」

「お前、守りが薄い所を狙いやがって……」

「まぁまぁ、その分二人の倍働くから許してよ。僕ってば戦うのには不向きな能力だしさ」

「虎鐘さんもそうでしたけど、誠一郎さんの能力って……」

「んー、秘密……、かなぁ? その時が来たら、教えてあげる」



 ふふっ、楽しそうに笑う誠一郎の声で三人は立ち上がり、カフェを後にする。

 その後、三人は言われた通りに分かれて再びの捜査を開始する。


 しかし、燦然院香織の通学路や燦然院家の正面に位置する西側と北側は俱利伽羅の目が多く、永新と羅威竿の二人は思うように痕跡を探る事が出来ないまま時間だけが過ぎて行き、瞬く間に集合時間が迫って作業を切り上げざるを得なくなる。


 そうして一番に集合場所に戻って来た永新はしょぼくれた顔をしながら羅威竿を出迎え、お互いに収穫が無かった事を憂う。


 それから間もなくして集合時間になるのだが、幾ら時間が経っても誠一郎が戻ってこない。

 何かあったのではないか、と慌てる永新に対して、羅威竿は全幅の信頼を寄せているかの様子でどっしりと構えて誠一郎が戻ってくるのを待っていると、三十分程遅れてようやく誠一郎が姿を見せるのだった。



「――見つけたよ! 燦然院さんの、痕跡!!」



 開口一番にその言葉を聞いた永新と羅威竿は即座に立ち上がり、誠一郎が先導する道を後ろに付いて行く。


 そして誠一郎に案内された先で、永新と羅威竿は、誠一郎が見つけたと言うその痕跡を見て、慄くのだった。



「……異界、か」

「それも、こんなに小さい……」

「これは、異界の出入り口なんかじゃねぇ。隅の一端に過ぎねぇ。異界は時々、座標がズレて出現する事がある。だから、必ずしもこれがお嬢様の失踪と関係しているとは言い切れねぇんだが……。こうも露骨に隠されていたんじゃあな……。これは、倶利伽羅にも見つけられねぇ訳だ」



 永新達が案内されたのは、高級住宅街の中に隠れるようにひっそりと佇む廃屋。

 見てくれは高級住宅街に馴染むようデザインされた建物ではあるが、数年前から所有者が失踪。土地も建物も所有したまま消えてしまった為、数年経過しただけでは取り壊す事も出来ない。それ故にこの場所は廃屋となっているのだが、その所有者の失踪の理由、そして燦然院香織の失踪に大きく関わっている可能性が高いと言うのが、誠一郎の発見した異界の穴であった。


 俱利伽羅には異界の穴を軽視、もしくは重要視しない風潮が蔓延しており、異界の穴を塞ぐよりも、その周辺を結界で閉ざす、と言う対症療法で済ませていた。異界の穴を塞ぐための術式、及び楔となる杭を生み出す工程と言うのは、かつて失伝されてしまったが故に未だに研究過程にあり、再現は困難であるため先送りにするのが最善ではあった。しかし異界の穴は時間の経過と共に各地で増えていく一方であり、この異界の穴も小さな結界が施されているだけであった。


 そして、そんな異界の穴の傍に落ちてた学生鞄を拾い上げた羅威竿は、倶利伽羅の杜撰さに思わずため息を吐いた。



「……ビンゴ、だな」

「この穴に飛び込めば、香織の元に行けるんだよね?」

「待て永新。今も言ったが、異界の穴と異界化は密接な関係に在る。だが見てみろ。この部屋は異界化していない。ってぇ事は、これは座標がズレてここに出現しているだけで、妖魔を吐き出すような事態には陥ってねぇ。恐らく、此処の持ち主はこの異界の穴が出現した際に呑み込まれたんだろうが、それ以降は何も吸い込んでいないし、生んでもいない。って事は……どこか別の場所に入り口がある、って話だ」

「別の、入り口が?」

「そうだろ、誠一郎。遅くなったのも、その先を辿っていたからなんだろ?」

「ご明察だよ、羅威竿。この異界の穴はただのハリボテ。本体はここから南に下った先にある貸し倉庫の一角にあったよ」

「でかした、誠一郎。間違いねぇ、お嬢様はそこに居る。行くぞ、永新!」

「うん……!!」



 三人は目線を交わして頷き合い、即座にその場から離れていく。

 向かう先は、誠一郎が見つけた貸し倉庫の一角。途中、一般人に紛れて巡回する倶利伽羅の目から隠れてを繰り返して進む事、凡そ三十分。

 ようやく辿り着いた倉庫にはコンテナがズラリと並んでおり、永新は目配せだけで誠一郎に語り掛ける。



「霊力が混在していて正確な位置は把握できない……! 虱潰しにするしか、無いかもね。僕は一列目を、羅威竿は二列目、永新クンは三列目から順に見ていこう! 壊しても構わないから!!」

「応ッ!!」

「はい!」



 無数の破壊音を轟かせてコンテナの中を探る永新達。異界化するコンテナを探して見て回る中、お目当ての物を引き当てたのは、三列目を探して回った永新であった。




「――ッ、香織!!! 羅威竿、誠一郎さん!! 見つけました!!!」




 大きな声を上げて発見を報せると、二人から称賛の声が上がるも、二人が来るのを待つ暇など無く、永新は香織に駆け寄る。

 異界化を果たして空間の広がったコンテナの中で、香織は椅子に縛り付けられ、目も口も覆われた状態で居た。それはどんなに怖かった事か。どんなに心細かっただろうか。永新は駆け寄った後に香織の拘束を解き、目を、口を解放していく。永新の「もう大丈夫だから」と言う声に気が付いていたのか、目には安堵の涙を浮かべていたのだが、口に咥えられていた轡を外した、刹那。彼女の記憶に宿った最悪のイメージを迷わず口にするのであった。











「――わ、わたくしを攫ったのは、せ、誠一郎さん、ですわ……ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」











「「は……?」」



 喉が張り裂けんばかりに叫ばれた香織の絶叫に、永新は思わず呆けた声を漏らす。それとは別に、同じようにその言葉に疑念を抱いた声が後方からも聞こえてくる。


 ――否。


 それは違って。

 永新の疑念の声に重なって聞こえてきたのは、香織の絶叫に対する疑念ではなく、自らの身に起こった異変に対しての疑念の声であった。


 永新がそれを理解したのは、続けて香織が短い悲鳴を上げ、後方に視線を移した時の事だった。






「て、め……ぇ。なん、の……まね、だ……ッ」






「――凄いや、羅威竿。心臓を潰されても死なないなんてね」






 視線の先。そこでは、羅威竿と重なるようにして誠一郎の姿があり、何故か羅威竿の胸からは誠一郎の腕が生えている光景が、永新の目には映っていた。




「………………………………………………………………え?」




 目の前で起こった光景に理解が追い付かない永新は、ただ呆ける事しか出来ずに立ち尽くす。


 飛び散る鮮血。苦痛に歪む羅威竿の表情。そして何よりも、それを成したのが誠一郎であると言う事。

 そのどれもが信じがたく、隣で悲鳴を上げる香織を守る事すら出来ずに、永新はただただ茫然と立ち尽くすのみ。


 それを嘲笑うかのように永新の脳裏にはある言葉が思い出されて――。



 ――せいいちろうには、きをつけて。



 今になって思い出したルゥの言葉に、永新はようやく思い出したかのように呼吸を再開させるのであった。










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