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66話

 


「――申し開きはあるか」


「くッ……! 僕は、倶利伽羅の責務を果たそうとしたまで……っ。どいつもこいつも……、僕の足を引っ張ってばかりで、何も本質を分かっていない……ッ!!! 燼月永新を始末する事は、倶利伽羅の益だと言うのにッ!!!! そうでしょう、盟主・火加々美(ひかがみ)十蔵(じゅうぞう)殿ッ!! ――痛ッ……!!!」


「獅子王さん、右腕の火傷はお辛いでしょう。余りはしゃぎ過ぎないようお気をつけて」



 痛々しい様子で右腕にガーゼと包帯が巻かれた獅子王は現在、燼月永新が妖魔に堕ちた日に集められた火加々美の邸宅に、一人呼び出されていた。その場に居合わせているのが火加々美家の当主にして東の盟主、火加々美十蔵に加えてその愛娘、火加々美甘奈(かんな)のみであるのは、獅子王が四家に属する者であるが故の身内贔屓であった。


 しかし、獅子王と同じ世代に生まれ、圧倒的な才能と努力によって一際秀でた実力を身に付けた甘奈は、同級生の失態を前に明らかな失望の目を向けていた。

 その目が物語るように、この場で追及されるのは今回の獅子王の行動であり、その是非。だが、たった今見せた獅子王の態度からして、この一件に関して全ての裁量権を有する十蔵は獅子王に反省の意は無し、と判断する。



「……分かっていないのは貴様だ、神来戸獅子王(けらとししお)。貴様は此度、実験兵器である刀剣型霊具・時雨(しぐれ)を無断で持ち出した。これで妖魔の一体でも葬って来ればまだしも、燦然院の敷地内での結界術を用いぬ戦闘行為、及び燦然院(さんぜんいん)絵麻(えま)を故意に危険に晒した行動……。如何に四家と言えども、倶利伽羅と言う組織に属する以上、貴様には罰を与えねばならない」


「罰……ッ!? い、如何に火加々美家とは言え、そんなものを与えた日には神来戸家との対立も止むなしと言う事を、お分かりでは無い、と……? 僕には正当性があった! つまり、罰せられるべきはあの場において戦闘行動を取らなかった三人であって、僕が罰せられる謂れなど無いはず!! 倶利伽羅として正しい行いをした僕を、罰すると言うのですか……!!?」



「――そうだ。その上で、貴様を罰すると言っているのだ」



「ッ……!!!??」



 神来戸の威光に縋るような物言いで譲歩を引き出そうと画策した獅子王だったが、火加々美家当主、十蔵はそれすらも無用、と切り捨てて、獅子王に罰則を与えると判決を下す。

 そんな余りにも無謀かつ自棄にも満ちた裁定を前に獅子王は思わず息を飲んで取り乱す。神来戸の威光と言うものは、この状況下にあっても無罪放免を引きずり出す切り札として効果的であると思っていただけに、下手をすれば倶利伽羅の組織が二つに割れると言っても過言ではない判断を下した十蔵に、獅子王は「正気では無い」と頬を引きつらせるばかりであった。


 裁量権を握る十蔵に対して、獅子王がここまで自信満々にも自らの失態を認めようともしなかったのには理由が存在し、それこそが、倶利伽羅と言う組織が一枚岩ではない事の証明でもあった。


 西の灼骨、東の火加々美、北の炎導。

 それぞれが倶利伽羅内において特級の発言権を有しており、盟主の座と言うのはその地区における超法規的な権力を有すると言っても過言では無かった。

 しかし、当然の如く盟主が頂上に君臨するように、西も北も東も例外なく、その下に倶利伽羅有数の名家が揃っており、その中でも東には盟主の家と遜色ない歴史と功績を持った名家があって、それを称える為に拵えられた名称こそが「四家」であった。

 それには盟主が一強とならずに、乱心した場合でも即座に止める事が出来るようにとお互いに目を光らせる、と言う名目もあった。


 以上のように、四家、と言うのはこれまでの歴史上、決して仲良しこよしで手を繋いで並んで歩いて来たと言う訳ではなく、水面下で睨み合いを交わしながら、様々な利権や名声を求めて盟主の座を競い合ってきた敵同士、と言う名目でもあるのであった。



「そんな事をすれば、神来戸家が黙ってはいませんよ……!!」


「ふふふっ。獅子王さん、あなたは今、ご自分の状況が理解できていないようですね」


「黙れ、甘奈……!! お前には用は無い……っ!」


「あらあら、フられてしまいました。ですが、ひとつだけ聞かせて下さい。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「ッ……、黙れ!!! まだだ、まだ終わっていないはずだ……。僕は、逃げたお前とは違うんだよ……!!」


「獅子王さんには、分かりませんか。……私や晴也さん、七星さんが降りた理由は」


「何だと……!?」



 変わらず獅子王に落胆の目を向ける大和撫子、甘奈はそれ以上語る事は無い、とばかりに目を伏せてしまう。そんな態度を目の当たりにし、獅子王は増々苛立ちを募らせていくのだが、十蔵の考えが分からない以上、獅子王には自分の正当性を訴える他ないのであった。


 甘奈の獅子王に告げた言葉、「世代筆頭」。それこそが盟主と四家に深く関わって来ており、獅子王が手にしようと甚く執着しているものであった。


 世代筆頭、それは盟主を決める取り決めに用いられる評価の裁定。

 次世代の子供達による、「世代筆頭」の座と言う評価こそが盟主に直接繋がる道と言っても過言ではない。


 東西北、日本全国における倶利伽羅の中でも十五歳の少年少女に送られる名誉を競い合い、五年毎に設けられた任期の内の総合力でもって判断されるのが盟主の座。そんな家の全てを背負わされて四家の子供達は奮闘するのだが、東の四家全ての子供達が同じ年に介すると言う非常に稀な年において巻き起こった燼月永新の妖魔堕ち。

 禁忌とされるそれが巻き起こった東の地域における少年少女らはその年の世代筆頭の候補から外される事になったのだが、四家は例外として最後まで候補として残っていた。それは次代の盟主の座が掛かっているために必然でありその座を切り捨てる、などと言うのは決して有り得ない話であった。だと言うのに、そこで四家の中で想定外の事態が起こったのだ。


 天炎(てんえん)家と御厨(みくりや)家。その両家の子が世代筆頭の選考から外して欲しいとそれぞれの家を通して、直訴が行われたのであった。

 本来では有り得ない話。四家の子はそれぞれが四家の将来を背負うべくして生まれ育てられてきた。だと言うのに、その使命を、役割を自ら捨てると言っているような行動を取った二人を、同じ四家である獅子王は気でも狂ったのかと思わざるを得なかった。そしてそれを許可した天炎家、御厨家の両家に対しても二つの意味で哀憐を抱かずにはいられなかった。


 その判断を下した晴也(はるや)七星(ななほし)、それから両家の当主。世代筆頭の選考から降りると言う決断にどんな意味が、どんな葛藤があったのかも想像する事が出来ずに。


 そんな事をすれば、最悪家から見放されて捨てられたとしてもおかしくない、とばかり考えていた獅子王は「であるならば甘奈と僕の一騎打ちだ」と思考を世代筆頭の座に切り替えた直後、更なる報せが獅子王の元に届いた。


 ――世代筆頭最有力候補であった火加々美甘奈もまた、世代筆頭の候補から降りると言う報せが。


 現状の盟主の座に収まる家の子が候補から降りたとならば事実上、東の地域からの候補は潰える形となり、唯一諦めていなかった神来戸家もまた、候補を取り下げざるを得ないのであった。

 これによって獅子王は晴也、七星に加えて甘奈の事も「臆病者」と罵るようになり、自分の輝かしくなるはずだった未来を求めて邁進する性格へと変貌していった。


 四家の中でも人一倍「世代筆頭」の座を狙っていた獅子王の強い思いはやがて強い執着へと変わり果て、東の地域で世代筆頭の候補を取り消さなければならなくなった原因である「燼月永新の排除」に固執し始める。

 また、獅子王が臨む「燼月永新の排除」に関しては別の思惑もあり、燦然院絵麻に盗聴器を仕掛けるなどと言った苛烈極める所業を繰り返していたのであった。



「――ですから、僕は倶利伽羅の裏切り者である燼月永新をこの手で葬るために、あらゆる手段を用いて……」


「――もういい。これ以上は聞くに堪えん」


「ッ、僕はただ、倶利伽羅としての責務を果たそうと――」


「倶利伽羅としての責務に関しては認めてやろう。確かに、妖魔を前にした貴様の判断は正しい」


「! では……!」


「だが、それだけだ。正しいからと言って、間違っていない訳では無い。倶利伽羅としての責務はプラス材料だとしても、結界術を用いぬ戦闘行為、燦然院絵麻を故意に危険に晒した事、それに神来戸家からの圧力も考慮して、ようやく差し引き無しと言った所か」


「それでは……!」


「何を終わったような顔をしている? 貴様の是非はこれからだ。未だ開発段階の実験兵器、刀剣型霊具・時雨(しぐれ)を無断で使用した件についてはまだ終わってなどいない。これに関しては神来戸家からも裁決に至っては厳格に、と言われている。まぁ、言われるまでもないが、これは四家の共同開発だからな。貴様にはそれなりの処罰が下る。覚悟は良いな」


「ひっ……!? そんな、馬鹿な……!」


「馬鹿な事をしたのはあなたですよ、獅子王さん。燼月永新の出現に二度も介したのは貴方が初めてでした。故に、連盟に報告さえ上げていればそれなりの人員は動員できたはずです。なのに、あなたはそれを怠って自らの手柄にしようと焦り過ぎた……。それが出来ていれば、今頃はそんな火傷に苦しむことも無ければ、罰則を受ける事も無かったでしょう……」



 実験兵器、刀剣型霊具の持ち出しに関して、それでも尚も、と獅子王は倶利伽羅としての正当性の一点張りで押し通そうと試みるも、最早話にならない、とばかりに十蔵に切って捨てられる。

 甘奈の言う通り、獅子王は焦り過ぎたのであった。段階を踏めば助かったものを、狭まった視界で物事を捉えてしまったが故に、獅子王は罰則を喰らう羽目になるのであった。


 十蔵から言い渡されたのは、一定期間の謹慎。

 それは彼の右腕の治療期間とも一致し、十蔵からの慈悲とも取れる裁定であった。

 けれども、それは次の満月が来ても解かれる事の無い謹慎処分であり、その間に燼月永新が誰かの手で始末される、と言う最悪を想定した獅子王の顔色は真っ青を通り越して白く、土気色にすらなっていた。


 処分を言い終えた十蔵がそんな獅子王に対して退席を命じると、獅子王は最後に二人を一瞥した後、ふらついた足取りでその場を後にしていくのだが、背中に投げかけられた甘奈の声に、彼は一度だけ足を止めた。



「……先生が、目を覚ましたそうです。良かったら、皆さんで一緒にお見舞いに行きませんか?」


「…………僕は、遠慮させてもらう。謹慎中だからな」


「……私は、獅子王さんの事も友人だと、思っていますからね」


「……」



 会話はそれで終わり、獅子王は背を向けたまま決して振り返る事無く火加々美邸を後にしていくのであった。

 残されたのは、長い睫毛を伏せて瞼を降ろし、小さな溜め息を吐く甘奈と、優秀過ぎる娘を持った父親の二人のみ。先に口を開いたのは、その父親の方だった。



「悪いな、甘奈。損な役回りばかりさせるようで」

「いえ。ここに同席させていただけただけでも当主様のご配慮に感謝いたしておりますので」

「ここには私達だけだ、口調は崩して良い。それとも、もう『お父様』とは呼んでくれないか?」

「……いえ、ありがとうございました、お父様」

「甘奈、お前にはもっと、年頃の娘らしい生活をさせてやるつもりだったのだがな」

「私は十分に良い子供時代を過ごさせていただきましたので。友人も、出来ましたから」

「そうか……」

「それで、お父様。実験兵器の回収は、どうなっていますか?」

「親子の会話はもう打ち切りか……。実験兵器とは名ばかりの使い物にならない霊具だが、皮肉にも今回の件で実戦用データが取れたと喜びの声の連絡があった。それに加えて、現場からの新たな霊具の要請だ。確かに、一部の倶利伽羅と、あの日を境に出現するようになった上級妖魔との間には相当な実力差が開いている。開発段階の霊具を実践投入する良い機会だとは思うが……」

「安全性の面、ですね。獅子王さんの右腕の火傷は、やはり霊具の反動によるものですか?」

「いや、アレは倶利伽羅に伝わる『秘伝』を用いたが故の代償だ。甘奈にはまだ伝えていなかったな」

「秘伝、ですか……」

「体と精神の成長、それから霊力の制御が出来るようになるまでは秘匿しなければならない。それが倶利伽羅における秘伝の取り扱いだ。いずれ甘奈も知るだろうから先に言っておくが、そう易々と使って良いものではない。肝に銘じておけ」

「はい、かしこまりました。……ですが、その口ぶりだと、安全面に関しては問題が無い、と言う事ですか? であれば耐久性? もしくは資金面での問題が? 開発段階の霊具を卸せないのにはどんな理由が?」

「……」



 四家、ではなく倶利伽羅に伝わりし「奥伝」のその更に上を行く「秘伝」の霊技。

 それは肉体に代償を求める一撃必殺の霊技であり、神来戸家が獅子王にそれを教えていたという事実の方が十蔵にとっては驚きであった。今回はその「秘伝」が失敗に終わったから右腕に深度の深い火傷だけで済んだから良いものの、本来であれば命の危険すらあったのだ、と十蔵は甘奈に言い含める。


 その上で、霊具には問題無かったのではないか、と提起する甘奈に、十蔵は僅かに思案した後、父親としての姿では無く、東の盟主としての声音で告げる。

 本来であれば娘には聞かせたくなどない話。それを今からするのだと理解した甘奈が背筋を正すのを見て、出来過ぎた娘だと安堵しながら十蔵は語る。



「……倶利伽羅に、裏切り者が潜んでいる可能性が、ある」


「それは……! いえ、医務官が妖魔に擦り替わっていたのですから、有り得ない話ですが……まだ、どこかに残っていると……?」


「その可能性が高い。この霊具は、間違いなく倶利伽羅の戦力を大きく底上げするものになる。それがもし、万が一妖魔の手に渡りでもしたら、非常に不味い。故に、開発は四家のみが主導として行い、完全に身内だけで秘匿して行っているのだ。戦力の底上げ以前に、倶利伽羅内部の一掃を行わなければ、霊具の支給は出来ないのだ」


「……それを話す、と言う事は、お父様はもう既に裏切り者に目を付けている……と言う事ですね? その上で、私に接触を図れ、と言う認識で合っていますか?」


「……察しが良すぎるのも困りものだな。だが、お前には少しばかり酷な話になりかねない。それでも良いか?」


「覚悟の上です。私に、任せて下さい」



 一切の躊躇いなどない、既に覚悟を終えている眼差しを見せる娘に嘆息を漏らした十蔵は、胸元から護符を取り出し格納の術式を解除させて一つの霊具を取り出してから説明を口にする。



「私は今、二つの罠を張っている。その内の一つが、この偽の霊具。それを開発している、と言う話だ。今回、旭燈(あさひ)兄妹が霊具を開発していると知っている口振りで要請してきたのは、私が流すように言った偽の霊具開発の噂を耳にしているからだろう。今回の一件で、間違いなく裏切り者はこの話に興味を示すだろう。そして、噂の出所には辿り着きやすいようルートを用意している」

「……それは、余りにも裏切り者に都合が良すぎるのではないしょうか? 却って疑わしくなるかと」

「その心配は尤もだな。だが、そこで私は、最後の一押しにとある人物に要請を出した」

「とある、人物ですか……?」



「あぁ。北の盟主、炎導ササラだ」



「ッ!! 北の、盟主……!?」

「あぁ。彼女には上級妖魔を討伐したと言う功績もある上、新しい霊具の提供には申し分ない相手だ。これだけ用意したのだ。裏切り者は必ず、そこに現れるだろう」

「それでは、私はその者達の証拠を押さえ、現行犯で捕縛すればよろしいのですね?」

「いいや、そこには天炎家と御厨家を向かわせている。上手く事が運べば、炎導ササラとの共闘になるだろう。そして、目を付けた連中が動き出した事も確認済みだ。これ以上は戦力過多になって直前で逃がしかねない」

「では……、私はどこに?」



 同年代において最強と名高い北の盟主に興味を示すかのように目を瞠るも、甘奈はすぐに思考を切り替えるようにして尋ねるのだが、十蔵は僅かな沈黙の間を置いた後に再度口を開く。



「……もう一つの罠。それが、今回の神来戸獅子王の失態を公表する事だ」

「それは……ッ! 神来戸家から、何を言われるか……」

「これは神来戸からの申し出でもあるのだ。神来戸は、獅子王を見放すつもりなのだろう……」

「そんな……」

「……だが、これは好機だ。四家から見放された獅子王に近付こうと試みる人物もまた、裏切り者の可能性が高い。獅子王には、囮になってもらう訳だ。その上で――」


「――彼が、倶利伽羅を裏切るかどうかも見定める、と……? 獅子王さんは、確かに捻くれていますが、それは彼に与えられた環境がそうさせたまで……! 魂までは売ったりなど、しないはずです……!!」


「……その上で、神来戸は獅子王の将来を決めるつもりなのだろう」

「では、私は獅子王さんの監視、ですか?」

「いいや。それは神来戸が責任を持って果たすと約束した。その上で、我々残る三家も補佐に入るが、甘奈は最後の場所だ。……この人物には、罠も権謀も通用しない。その男に、直接問答してきて欲しい」



 十蔵の言葉に、甘奈はささくれ立った心を落ち着かせるように一度深い息を吐いた後、覚悟を据えたとばかりに顔を上げて十蔵と真正面から向き合う。



「その、人物の名は?」



「……(すめらぎ)龍火(りゅうび)。かつて最強の倶利伽羅として名を馳せた男だ」



「……やはり、先生の事でしたか」

「妖魔の王、並びに燼月永新と繋がっていた学園の元医務官であった上級妖魔、宿無(やどなし)真宵(まよい)。彼女は身元不明ながらも皇龍火の推薦と言うだけで学園の医務官として採用された異色の経歴の持ち主だ。医務官と言うのは常に不足しているからな、当時の連盟は皇龍火の推薦と言うだけで受け入れたのだろうが、どう考えてもおかしいだろう。……気は進まないとは思うが、任務として、受けてはくれまいか?」



 十蔵は、東の盟主としてではなく、一人の父親として娘を案じるかのように眉間に皺を寄せて問いかける。それに対して、甘奈は一度目を伏せて頭を振った後、娘としてではなく、倶利伽羅として十蔵の前に跪く。



「命じて下さい。私に、先生の――皇龍火の腹を探るよう、命じて下さい」


「……これは、命令だ。皇龍火が妖魔と繋がっているかどうか、倶利伽羅を裏切っているかどうかを、調査せよ」


「かしこまりました。……晴也さんと、七星さんにこの旨は伝えても?」


「お前の裁量に任せる。彼らにも知る権利はあるからな」


「……私はこれで、失礼します」



 一瞬にして張り詰めた緊張が緩やかに解けていく中、立ち上がり部屋を後にしていく娘の、甘奈の背に、十蔵は声を掛ける。



「……気を付けるのだぞ」


「はい、お父様。行って参ります――」



 振り返って、まだ幼さを残した笑みを浮かべた娘の姿をばっちりと脳裏に焼き付けた後、甘奈の足音が遠ざかっていくのを確認した十蔵は、座椅子の背もたれに年を負う毎に重さを増していくその身を預けて瞼を閉じると、子供の成長を噛み締めるかのように深い深い息を吐いて行く。


 倶利伽羅の中に潜む、妖魔と繋がる裏切り者。

 これを一掃したら最後、新たな霊具の投入により倶利伽羅の戦力は大きく底上げされるに違いない。

 そうなれば――。


 あらゆる可能性、倶利伽羅のあらゆる未来を見据える十蔵の脳に安寧はもたらされず、ほんの僅かな休息を経てから、十蔵は再び動き出す。


 全ての倶利伽羅の、ひいては我が子達の豊かな未来の為に――。









友達思い、家族思いの良い子、それが火加々美甘奈です。

倶利伽羅に、火加々美の家に倣って身内贔屓、それもまた火加々美甘奈なのです。

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