表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

異世界恋愛

私が婚約破棄されている横で、剣の素振りをやめない馬鹿がいる

作者: フーツラ

最後までお付き合い頂けたら幸いです。

 王都の貴族街にある公園。私は婚約者のヘンリーに呼び出されていた。


「フリージア、君との婚約を破棄させてもらう」

「ヤァ! トォ!」

「……何故なの? 教えてヘンリー」


 ヘンリーはすぐ隣から聞こえ始めた男の掛け声に顔を顰めながら、言葉を続けた。


「君との婚約は親同士が決めたことに過ぎない」

「セイッ! ヤァッ!!」

「……それはそうだけれど……」


 私が悲しそうな声を出しても、男は剣の素振りをやめない。それどころか、益々激しくなってきたように思える。どうやら、こちらの会話は全く聞こえていないらしい。


「私は真実の愛を見つけたんだ。だから、君と一緒になることは出来ない」

「トリャァァ!! セイセイヤァァッ!!」

「そんな……! 私のことを愛していると言ったのは嘘だったの……!?」


 私の言葉を聞いても、ヘンリーは表情一つ変えな──。


「破ァァァッ! 滅ッッッッッ!!」

「うるさいわね!! こっちは真剣な話をしているのよ!!」


 あまりの空気の読めなさに思わず怒鳴ってしまった。


 剣を振っていた男は動きを止め、私とヘンリーを一瞥してから自分の剣を誇らしげに掲げる。


「こっちだって真剣だぞ?」

「そーいう話をしてるんじゃないの……!!」

「真剣な話じゃなかったのか。ならば、気にすることはないな」


 そう言って、男はまた素振りを再開した。


「……フリージア。とにかく私は君との婚約を続けるつもりはない」

「わかったわ」


 私の返事を聞いて、ヘンリーは足早に立ち去った。きっと、真実の愛とやらを注ぐ相手のところへ向かったのでしょう。


 あぁ。終わってしまった。両親になんて伝えよう。


 ヘンリーとの婚約は、財政が傾くリットン子爵家にとって頼みの綱だった。ウチの両親は、裕福なヘンリーの実家からの支援を期待していたのだ。



 すぐに屋敷に帰る気分にはならず、よろよろと公園のベンチに座る。


「ヤァ! トゥ!」


 男はまだ剣を振っていた。貴族なのは間違いないけれど、お茶会等では見たことのない顔だった。


 最近王都に来たのだろうか?


「フンッ! 破ッ!!」


 さっきまでは邪魔な掛け声だったけれど、男の剣舞を観ていると妙に心が落ち着いた。


 剣の煌きを追いかけていると、余計なことを考えずに済む。


「斬ッッ!!」


 大きく剣を振るった後、男はピタリと動きを止めた。まだ緊張感は残っているけれど、サッと剣は仕舞われる。


「ふぅー」


 男が息を吐くとその緊張感も霧散し、急に周囲の音が聞こえ始めた。私は随分と長い間、男の剣舞に見惚れていたらしい。


 男は辺りをキョロキョロと見渡し、私を見つけて寄ってきた。


「すまない。どこかこの辺で水が飲めるところはないか?」


 確かに男は汗だくだ。金色の髪がピタリと頬に張り付いている。


「近くにはないですね。でも、出すことなら出来ますよ?」


 私は立ち上がり、魔力を練って水の魔球を一つ、中空に浮かべた。


「ほお。器用だな。頂くぞ?」


 男は手を突っ込んで水を掬い、ゴクリと飲み干した。その後は顔を洗い始める。


 私はもう一度魔力を練り、風の魔球を男の側に浮かべた。


 風が水気を飛ばし、濡れていた髪もすっかり乾く。


「ふぅ。すっきりした。ありがとうな」

「どういたしまして」


 髪を手櫛で整えた男の風貌はとても凛々しいものだった。意志の強い瞳が心を惹きつける。


「ところで、貴方様は? 初めてお見かけしましたが?」

「あぁ、俺か? ランスロットという。昨日、西の辺境からこの王都にやってきたばかりなんだ」


 西の辺境伯の御令息ね……。最近、鉱山が見つかって注目を浴びている……。


 たぶん、私の瞳は鋭くなった筈だ。獲物を見つけた! というように。


「私はリットン子爵家の長女、フリージアです」


 スカートを摘み、畏まって挨拶をする。


「もっと気楽にいこうぜ。フリージア。見たところ、俺と同じぐらいの歳だろう?」

「十六です」

「やっぱりだ。実は俺、明日から王立貴族院へ通うんだ」

「私も通っております。もしよろしければ、明日案内しましょうか?」


「頼む! 不安だったんだ!」とランスロット。


 剣を振るっていた時とは違う、人懐っこい顔だ。


「少し座ってお話をしませんか? 私、辺境に興味がありますの」

「辺境なんて野蛮な話ばかりだけどな!」



 私はランスロットにベンチを勧め、日が暮れる頃まで話し込んだ。


「では、また明日お会いしましょう」

「流石に君を一人で帰すわけにはいかない。送っていくよ」


 よしっ! 作戦通り!


 公園を後にし、少し肌寒くなった通りを二人で歩く。


「こちらですわ」


 先導する振りをして、ランスロットの手を握った。ゴツゴツした剣士の手だ。王都の貴族令息のものとは違い、とても力強い。


 ランスロットは緊張しているのか、言葉数が少ない。剣ばかり振って、女性と接することは少なかったのかもしれない。


 彼の拍動がこちらにまで伝わってくる。


 私は確信した。これは、押せば落とせると。



 それからしばらくして、子爵家の屋敷が見えてきた。


「ちょっと待っていてくださいね。両親を紹介します!」

「えっ……! 迷惑になるのでは……!?」

「そんなことはありません!」


 狼狽えるランスロットを言いくるめ、私は両親を呼びに行った。そしてこう伝えた。


「ヘンリーに婚約破棄されたけど、もっと有望な西の辺境伯の令息を捕まえてきたわ!!」と。


 人生、何が起こるか分からないものである。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!


少しでも「楽しめた!」という方は、ブクマと評価をよろしくお願いします! モチベーションに繋がります!


■その他の異世界恋愛短編


『配信魔法を開発したので婚約破棄を中継しますわ!』

https://ncode.syosetu.com/n5921ii/


『奴隷令嬢は幸せを掴めるのか?』

https://ncode.syosetu.com/n3085ii/


『あなたは私のことを忘れるでしょう』

https://ncode.syosetu.com/n0619ie/


『転移した先が婚約破棄の真っ最中でした』

https://ncode.syosetu.com/n3374ie/


『見世物になった聖女が掴んだもの』

https://ncode.syosetu.com/n8170hu/


『声なき聖女の伝え方』

https://ncode.syosetu.com/n8427hx/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ