第八話 ご主人さま止めないでください
第八話 ご主人さま止めないでください
そのうまい話をこちらによこせと欲求してきた身の程知らずたちは、
いきなりご主人さまの、話に割り込んでくるなり偉そうに振る舞う。
殺意が少し湧きましたが、ご主人さまに止められてしまったからには仕方がない。
ガラの悪い男3人に女1人の構成。
男たちの装備を見るに、話しかけて来たヤツはコイツらのリーダー格であろうか、腰にぶらぶらと剣を携えている。
盾を持っていないところを見ると、後ろの大きめな男がタンク職でしょうか。
身体つきは後ろの男いがいは、とても戦い慣れてるようには見えないほど貧弱。
装備品にも差がある。
他のヤツらは、大なり小なり使い古している装備を付けているが。
リーダーはというとほとんど汚れておらず、そこそこ仕立てのいい服を着ている。
金で傭兵を雇って、冒険者ごっこをしている一般人と見て間違いなさそう。
もう一人の男も、大人しそうに一言も喋らないのがなお薄気味悪い。
ローブを着込んでいることから、魔術士か。
それも黒魔術。
女はこの流れだとヒーラー職でしょうか。
わたしはつぶさに観察して、いつでもご主人さまの前に立てるように心構えをする。
ピリピリとした空気の中、相手側のリーダーはいけしゃあしゃあと話し出した。
「別にその任務オタクら受ける気ないんだろ? なら貰っても構わないはずだ」
「いや、これは冒険者ランクが少なくともAにいっておらねば承認できぬ案件じゃ。 おまえさんがたはランクA以上あるのか?」
受付嬢のベアさまはそういうと、不届き者の冒険者たちは仲間うちで嗤いあう。
「ほら、婆さんこれでいいかよ?」
冒険者の身分証を、不届き者はベアさまに渡す。
「むっ、これは」
その身分証にはランクAと印字されていた。
ウソだ。
わたしはすぐに心の中で叫ぶ。
誰がどう見てもランクAの冒険者の持つオーラとはかけ離れている。
せいぜい見積もってランクDが関の山。
そんなヤツがランクAなど、これまた金の力で用意したものであることは察しがついた。
「ふむ、それは失礼した。 では、この任務おまえさん方が受けるということでいいのかえ?」
受付嬢のベアさまは話を進める。
さすがにこの事態ご主人さまの旧知の方だ。
気付いてわざと言っているのでしょう。
わたしは黙って聞いていることにした。
「やめておけ」
そこにご主人さまはこの不届きな輩に一つ忠告した。
「コイツはおまえたちの手には負えない」
「はあ? おっさん頭腐ってんのか? 俺はおっさんと違って臆病でもなんでもねえよ! それに知ってるか、さっきだってサイプロクスを倒して来たんだぜ? AもBも同じだろ?」
男が自慢するサイプロクス通称一つ目の鬼はランクBクラスの魔物だ。
ランクBクラスとランクAクラスでは高い壁があるのですが、自分が戦闘に参加しないスタイルのこの男はその差などわからないのでしょう。
どのランクの間にも明確に差があるのだ。
しかし、彼は自分が前線に立つことなく自動で進んでいる。
だから、どれくらいの差があるのか測れない。
今回、立ち場もわきまえずご主人さまに話しかけてきたのもその証拠。
戦場に立ったつもり、やり遂げたつもりで生きてきたから相手の力量が自分で判断できない。
その空気を読まない男が、次に目をつけたのはわたしだった。
「つーか、おっさん。 おっさんにはもったいないないレア種連れてんじゃん? コイツ譲ってくれよ? 金に困ってんなら言い値で買ってやるよ」
はあ?
何言ってんだコイツというばかりにわたしは睨みつける。
あろうことかその汚らしい手でわたしの顎を掴んできた。
流石のわたしもこれには虫唾が走り、しっぽがブワッと広がる。
いっそ、殺ってしまうか?
ご主人さまの前で、こんなことを思うなど、はしたなかったが、わたしは最悪の事態を想像する。
「触るな……」
わたしがいうよりも早くドスが効いた声が飛んでくる。
そして、男の腕をギチギチとご主人さまは締め上げる。
わたしのためにご主人さまがわざわざ動くなんて。
オフィーリアは幸せものです!
わたしがキュンと歓喜していると、聞きたくもない声が騒ぎ立てた。
「いってぇって! なんだよ! クソが」
男はわたしから離れると、ご主人さまから掴まえられた腕をさする。
「チッ、行くぞ! おまえらついてこい」
クエストの紙をひったくり、捨て台詞を吐くと男は仲間を引き連れて出て行った。
「で、どうするよ」
楽しげにことの顛末を見ていたジークさまは、
ニヤニヤとご主人さまに問いかける。
「そうだな、ベア。 現在のベヒーモスの居場所はどこだ?」
ご主人さまはベアさまにベヒーモスの所在を聞き始め、渋っていたクエストに乗り気のようでした。