第六話 受付……嬢!?
第六話 受付……嬢!?
ご主人さまは魂が抜けたように無口になった。
そんなにあの受付嬢がよかったのですか!?
わたしというメイドがいながら全く。
ご主人さまの浮気症には困ったものです。
そんな腑抜けたご主人さまのことなど気にもせず、目の前の老婆はご主人さまに見合ったクエストを探していく。
「これ、これ、あとはこれ」
テキパキと素早くご主人さまの前にクエスト内容が載った紙を提示する。
ご主人さまは死んだ目で渡されたクエスト内容に目を通していく。
「小型の陸竜のタマゴ駆除に、肉食芋虫退治、それと野犬退治……」
なんとも言えないといった表情でご主人さまは老婆をみる。
「なんじゃ、不満か?」
「どれも、オレじゃなくても出来る仕事じゃねぇか」
「その割にそこそこの賞金じゃろ?」
わたしはご主人さまの捨てた紙を拾い確認する。
それぞれ15000G、12000G、8000G。
どれも難易度の割には高めに設定されている。
これならパーティなど組まずともご主人さまとわたしだけでもまわれる。
あといくつかのクエストも掛け持ちしたら1日で結構稼げそうだ。
だけど、ご主人さまは首を縦に振る気配がない。
「全然ダメだ。 もっと、ないのか? 高難易度は」
ご主人さまはやる気に満ちているのか、4人を一つのパーティとして2つのパーティで行くのが常識のコミュ症お断りのクエストを求め始めた。
もはやそれ、高収入……より、高いやりがいを得られるだけのやりがい搾取クエストなのではとツッコミたかったけど、グッと我慢した。
「相変わらずのバトル馬鹿じゃのう……。 今の世の中、高難易度は下火、名声を得るより堅実なお金を得られるクエスト。 という冒険者が増えておる。 高額な金を出しても引き受けるツワモノが少なくての。 なかなか依頼主もいないのだ、が」
勿体つけるように老婆はご主人さまをチラチラみる。
ご主人さまは目は血走りジャンキーのように、はやくよこせとイラ立ちはじめている。
「ここだけの話とっておきがあるんじゃ」
「聞かせろ!!」
「それは」
「それは?」
わたしとご主人さまは、固唾を飲んで老婆の言葉をまつ。
だが、その前に割り込んできた陽気な声があった。
「おおっと、誰かと思えば!!」
ご主人さまの肩に腕をかけ馴れ馴れしく話に入ってくる男。
「ジーク!?おまえ……!」
「よっ! 元気してたかよ? おー、オフィーリアもいるじゃねぇか! 珍しいな二人してこんなところにいるの! って、ウワッ!? ベアトリーチェおまえもいたのか」
すぐさま鳥のように口が回るこの男は盾職がメインの男ジークだ。
ご主人さまは、ダメージを出すのがメインの花形職業のアタッカー。
そして、この頭の中まで筋肉で出来ていそうな男は前線で敵の攻撃を凌ぐ盾職と言われる職業。
他に、サポートでパーティの存続にかかわる回復職。
あと、パーティを鼓舞してバフをつける強化職がおおまかにいる。
この男はなんでも、ご主人さまと長いことパーティを組んで周っていたという。
今でもたまに出会えばクエストに行く仲だ。
うるさいのが増えたとわたしは気が滅入りはじめる。
この状況、どう考えてもオレもついて行くとか言いかねない。
ご主人さまとわたしだけのパーティでいいのに。
せっかくのご主人さまとのクエスト。
思い浮かべていた、イチャイチャで甘いプランが立ち消えそうで、わたしは泣きたくなった。
「おまえこそ任務の帰りか? 報告しないのか?」
流石ご主人さまは鋭い!
さっさと報告してかえれ! かえれ!とわたしは心の中でコールする。
「ああ、もうそれは終わった。 帰ろうとしたらおまえの声が聞こえた気がしてな! そしたらビンゴだったワケだ! それで、ここに来たんだ、なんのクエスト受けるんだ?」
もう、興味津々で仲間になる気まんまんじゃないですか、この男。
ご主人さまは、わたしの気持ちなどつゆ知らずビシッと答えた。
「それは決まっている。 高難易度だ!」
どうやら、ご主人さまはまだこだわっていた様子で意気揚々と自分の好みをドヤ顔でジーク……さまに伝えてしまった。
ご主人さま違います。
「高・収・入です!」
わたしはきっぱりと、ご主人さまが忘れている本来の目的を伝えた。