第四話 いざ冒険者協会その2
第四話 いざ冒険者協会その2
わたしはご主人さまに言われた通り、二階の借りてる部屋に戻りカギつきのカバンを探す。
昨日、掃除を出来なかったせいで、ご主人さまの部屋の状態は相変わらず汚いままだった。
ご主人さまは部屋を片付けても、三日で元通りにする天才。
片付けてもイタチごっこなのだけど、そこはわたしがいなければダメということにしておく。
ベッドの下には、冒険者らしく回復薬剤やら魔石やらが転がっている。
あとは、洗濯に出してない衣服。
キノコが生える前に処理をせねば。
やっぱり、昨日掃除を出来なかったのは痛いと思ったが、いまはそれどころではない。
布団を捲り、机の下を覗くもカバンは見つからなかった。
そういえば、この頃、あのカバンを見ていない気がする。
いままでの記憶では、そこら辺にポイッと置かれて放置されていた気がするのですが。
ふむ、ここら辺にないってことは……。
考えられるのはここくらいか。
部屋の片隅にある、開かずのクローゼット。
それは異界へと通じる扉。
わたしは意を決して扉に手をかける。
キィッと扉が音を立てて開く。
それと同時にドドドドと雪崩の起きる音が押し寄せた。
「き、きゃああああ……!!!」
◇◇
「今なにか聞こえなかったか?」
一階でオフィーリア待ちをしている二人の耳に、悲鳴と共に何かが落ちる音が聞こえた。
「あ……! ヤバっ」
何かを思い出したのか冒険者はまずいという顔をした後二階へと駆け上がっていった。
◇◇
「オフィーリア……!! 大丈夫かっ!?」
勢いよく扉を開けるなりご主人さまは、わたしの名前を呼んだ。
「ご主人さまぁ……、もうめちゃくちゃですよ〜!!」
「うっ……」
ご主人さまは部屋の状況を見るなり顔を引きつらせる。
辺りは、クローゼットに押し込められていた、虫食いが起きている服やら何やらが散乱していた。
ご主人さまは溜め込む癖がある。
なんでもかんでもいつか使うかもととっておく。
おかげでこの状況が発生した。
「ご主人さま、見てないで助けてくださいよ……」
大量の衣服にのしかかられ、わたしはもはや窒息すんぜんだった。
「悪い、オフィーリア……いま、引っ張ってやる」
ずる、ずるると、わたしはされるがままご主人さまから引っ張りだされた。
「はぁ……、死ぬかとおもった」
パンパンっと、わたしは衣服についた埃をほろう。
「……それで、オフィーリア。 カバンはあったか?」
「あっ、いえ、まだ見つかってません。 部屋の見えるところにはありませんでした。 残すところは……この、開かずの間」
「そ、そうか、あとはオレがやっておく。 オフィーリアは下に戻ってもいいぞ」
あやしい。
突然、帰れなどあやしすぎます。
「ご主人さま……なにかそこに隠してるものとか、あるんですか?」
わたしはズバリ単刀直入にご主人さまに聞く。
ご主人さまはビクッと肩を跳ねさせ少ししどろもどろで答えた。
「い、いやー、そんなものはない、ないぞ! 断じてない」
そして、ウサギが穴を掘るようにクローゼットの中の残りの衣服を掻き出しはじめた。
「あ、あった! あった!!」
ご主人さまは目当てのものを探し出しはしゃぎ始める。
そして、ご主人さまはそのパンパンに膨れた革張りのカバンを引っ張りあげると、さっそく下に持っていった。
はぁ……、部屋どうするんだろ。
帰ったら、大仕事だとわたしはもう一度部屋の惨状を目に焼き付けると部屋をそっと出た。
◇◇
「おーい、持ってきたぞ! これのどれかは担保代わりになるはずだ」
そういうなり、ご主人さまはドシャッとホテルのカウンターにカバンを乗せ魔力をカギに注ぐ。
ご主人さまのようにカギをよく無くすタイプには重宝するタイプのカギだった。
登録した魔力反応にだけ反応を起こしロックを解除する。
大変便利な魔法道具だ。
「ほう、大変そうだったが見つかったか」
ガサゴソとカバン漁りに、夢中になっているご主人さまを横目にオーナーは話しかけてきた。
「ええ、なんとか」
ご主人さまはぶつくさと懐かしいモノたちの思い出を語りながら物色している。
そろそろ止めないと時間がかかるやつだと、わたしはご主人さまに意見をだす。
「ご主人さま……、早くしないと冒険者協会のある町に行くの夜になってしまわれます」
「そ、そうだったな、悪い、悪い」
ご主人さまはハッとすると、お目当てのモノをカバンから取り出した。
「これなんてどうだい?」
「ふむ、なんだねコレ? 折りたたみ式の弓に見えるが」
ご主人さまが取り出した第一候補は、折りたたみ式の弓の柄だった。
「ここをこうすると、はいっ!」
手品でも披露するかのように、ご主人さまはただの弓柄から弓本体を駆動させてみせた。
「それなんか珍しいのかね?」
「これはオレがかつてゴルゴーンを狩った時に使っていた相棒だ!」
「いや、そんなこと言われても知らんし」
ご主人さまはオーナーのお言葉に一時肩を落とすもめげずに再トライする。
「じゃあ、これだ!」
そう言って魔力が凝縮している珠を取り出した。
「こ、これは!!?」
あまりの禍々しい魔力にオーナーはたじろぐ。
「ティマイオスの真核」
「し、しまってくれ! 物騒すぎる、それ! そんなモノ丸裸で貰っても魔獣が寄ってくるではないか!?」
「え?また、狩ればいいじゃないか」
(この男、戦闘バカか?こんなヤバい物を持ち込むとは……危険なのはもしやこの男なのでは?)
オーナーは苦い顔をするとご主人さまにこう欲求した。
「もっと、フツーなのはないのかね? フツーなの」
ご主人さまはこれでも昔はすごい偉業を達したとウワサされる方だ。
スゴイモノ《曰く付き》しかあるはずない!
「フツー……か」
うーんと、唸りカバンから取り出したのは一枚の金貨だった。
「なんかの表彰で貰った記念コイン」
「これは……」
オーナーはよく見る為にルーペを取り出すとコインに彫られた文字を読み上げた。
「アルバティオン記念硬貨……! しかもこれ先代の国王と裏面にドラゴンが彫られている! 激レアでは!?」
「そうなの? よく知らないが担保になりそうなワケ?」
「ああ、なる! というかもう……」
「やりましたね! ご主人さま!これで旅立てます!」
「おうっ!」
はしゃぐ二人を尻目に呆れた顔をしながら、オーナーは二人のじゃれあいを見ていた。
ボソリと小声で戻ってこなくていいぞ。
と、オーナーは呟いたがオフィーリアと冒険者は二人で喜びあって全くもって聞いてはいなかった。