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六話 誘惑してくる近所の一水先生

 高校生活が始まってから始めての土曜休み。俺は碧の朝飯と昼飯用の弁当を手早く準備し、三東家へ届けに行く。ついでに一緒に朝飯を済ませ、三東家の掃除、洗濯を手伝い、溜まっていた家事を片付ける。小学生の頃はそれこそ毎日、通い妻のように三東家に訪問し家事をしていた。中学位からは毎日の昼飯と稀に夕飯、土曜日は溜まった家事の手伝いをするのみにしている。碧も碧父も家事が苦手で、放って置くと家がごみ溜めになってしまうため、せめて一週間に一度だけ、今も俺が片付けることにしている。甘やかしすぎな気もするが、まぁ仕方ない。女の子には優しくが家訓である。

 昼飯を済ませ、三東家でやることを片付けた俺は、碧と別れ現在は一水先生の家へと向かっている。中学のころ、何だかんだあって先生に勉強を見てもらうことになった俺は、ぐんぐんと成績が延び、無事、海波高校入学に至った。本当に先生には感謝である。そういったことの感謝の意味合いもあり、俺は一週間に数回、先生の下を訪れ、食事の準備や家事の手伝いをしている。何で家事手伝いまでやっているかというと、頼まれたからだ。仕事で疲れた先生の代わりに家事を手伝うことは、勉強を見てもらうお礼にもなっているので、喜んで継続している。

 今日は、いつもは俺にお任せの夕飯メニューについて、珍しく先生からリクエストがあった。せっかくのリクエストなので、全力で取りかかろうと意気込んでいる。

 

「こわにちわー」

 インターホンを鳴らし、しばらく待つとチェーンを外す音がし、すぐに鍵の空く音と共にドアが開く。


「いらっしゃい。ケースケちゃん、今日も美味しいご飯よろしくね」

 ジャージ姿の先生が現れ、部屋の中へと誘ってくれる。先生と勉強や家事手伝いなどのプライベートで会うようになり判明したのだが。先生は家の中では意外とズボラでだらしがなかったりする。とはいえジャージですら先生が着るとセクシーに見えるので幻滅ポイントにはならないところが凄い。


「じゃあ今日は品数多かったり仕込あったりするのでさっそくキッチン借りますね」

「よろしくおねがいね。私はちょっと仕事してるから何かあったら声かけてね」

 休みの日すら仕事とは、お疲れさまである。そんな先生の今日のリクエストはがっつりお酒が呑めるご飯とのことだ。なんでも、3年前位の俺の前での粗相。それ以来、外で呑むときはセーブするようにしていたらしく、もう大分長い間、羽目を外して呑めていないらしい。そこで、家呑みなら潰れる程呑めるからと、美味しいおツマミが欲しい、ということらしい。俺は先生とのわりとショッキングな出会いを思い出しつつ、はりきって料理の仕込を進めるのだった。


 

「さて、もうそろそろ仕込終わりますけど、何時くらいから始めますか?」

 18時と良い時間になってきたので、まだ仕事中と思われる先生に、邪魔して悪いかな、とも少し思いつつ、俺は声をかけた。


「ありがとう。仕事は一段落着いたから、先にお風呂入ってさっぱりしてから呑みたいわ。入ってる間に料理始めてくれると助かるわ」

 そう言うとぐーと手を上に伸ばし延びをする。仕事は終わったようだ。お疲れさまです。先生はお風呂のドアを空け、浴室の中へと向かっていった。さて、では先生が風呂を上がるまでに料理を並べお酒を用意しておこう。キッチンに向かい調理作業を進める。

 突然だが、この家の間取りについて少しだけ説明しようと思う。この部屋はワンルームで、玄関を入ると向かって右側すぐにキッチンスペースがある。左側にはすりガラスのドアがありユニットバスとなっている。つまり何が言いたいかと言うと、キッチンで作業をしていると、背中側から、風呂を使っている音が、気配がバリバリに感じてしまうのだ。

 後ろからジャージのファスナーを下ろす音がジーと小さな音で聞こえる。シュルっとジャージが擦れる音と、そして床にスッと落ちる音。状況に気づいてしまうと、どうしても耳がそちらに向いてしまう。今、すりガラスの向こうで先生が服を・・・。いかんいかん、煩悩を振り払い俺は食事の支度を再開する。シャワーの音と共に楽しそうな鼻唄が聞こえてくる。チガウチガウ集中しろ俺。ちなみに先生は音痴だ。鼻歌もどこか音程が外れており、そこがまた可愛らしい。つい鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる姿を想像してしまう。・・・煩悩が全然振り払えていない。俺は悶々としつつ晩酌の準備を進めるのだった。



 食事の準備が出来たので、片付けられるものからキッチンで洗い物をしていると後ろから、ガチャっとドアが開く音がした。先生がお風呂終わったようだ。


「おぉ凄い。テーブルにいっぱい料理並んでる!」

 後ろから先生の嬉しそうな声がする。先生に話しかけようと振り向くと、そこにはタオルを巻いただけの先生が・・・


 ガン!!


 俺はほぼタオルだけの裸の先生を見ないようにと、勢いよく首を回転させた結果、キッチンの上棚に勢いよく頭をぶつけてしまった。


「ちょっと、ケースケちゃん大丈夫?凄い音したわよ」

 心配してくれた先生が俺にかけよりぶつけて赤くなっていると思われる額を、顔を近づけ覗き込んでくる。


「せ、先生、ふく、服をきてください!」

 興奮して、今にも弾けそうな心臓を押さえ込み、何とか自分の意思を伝える。顔が近いがタオル一枚の身体か、胸が、頭ひとつ分程度の距離に存在している。風呂上がりのいい匂いと、温まった身体から立ち昇るむあっとした熱気。爆発しそうな頭と胸を何とか落ち着かせるため、俺は上を向き目をつぶる。


「ふふ、ごめんね、興奮させちゃったかな」

 これは、からかわれているのだろうか。先生は謝りながらも離れることも服を着に行くこともなく、目の前に居る。突然彼女の手が俺の顔に伸びる、それと同時にシュルり、トサッと何かが床に落ちる音。なんの音だったかわからないわからないと念仏の様に心の中で唱えながら、頭は真っ白になっていく。

 ぐいっ。


 頭に触れた彼女の手が、俺の顔を無理やり下に向ける。


「ごめんね、ちょっとからかいすぎたね。服着てるから大丈夫よ」

 何と。どうやら最初からからかわれていたみたいだ。俺はほっと息を吐き、目を開ける。

 


 先生、下着だけで、服着てると騙るのはイケナイと思います。 

 

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