五話 お礼をしたい近所の北白さん
目が覚めると、目の前には昨夜の記憶のままの格好の。……いや、そのまま寝たせいか、ボタンがはだけて昨夜より卑猥な感じが増している女性が、土下座をしていた。
「ご迷惑をおかけしました」
すみません、すみませんと、凄い勢いで謝罪の言葉を繰り返している。
「えーと、昨夜のことは覚えていらっしゃる感じでしょうか」
「はい・・・。家まで運んでくれたどころか、汚物の処理までさせてしまって、あまつさえ抱き枕代わりにして、外泊させてしまうとは。本当に申し訳ありません」
どうやら、ベロンベロンに酔っても記憶ははっきりとしているタイプのようだ。
「いえ、俺は問題ありませんから。気にしないでください」
「ですが、えーと中学生くらいですよね?ご両親にさぞご心配お掛けしてしまっているかと・・・」
「両親はお盆中、実家に戻っていて、こっちには俺1人留守番だったので、特に問題ありませんよ」
親がいるタイミングに無断外泊だと心配かけてしまっただろうが、まぁ今回はタイミングが良い。問題はないだろう。
「そうだ、お姉さんの荷物、全部拾ってきたつもりでしたけど、夜で暗かったので拾い損ねたものとかなかったですかね?荷物は確か玄関の所に置いておいたかと思います」
「あっはい。起きてすぐ確認しました。何もなくなってなかったです。ありがとう」
よかった、荷物は無事だったらしい。
「・・・」
視線を感じる?
「どうしました?」
「すみません。名前。申し遅れましたが北白 一水です。一水と呼んでください」
「あぁ。えと、自分は風見 鶏介です。中一です」
「ケイスケちゃんですね」
いきなりのちゃんづけ?!恥ずかしい、・・・が年齢離れてるしそんなものか。親にもケーちゃんとか呼ばれてるし。
「改めて、昨日はどうもありがとうございました」
「年下ですし、そんな畏まった話し方でなくて大丈夫ですよ?」
「そう?じゃあ少しフランクに話そうかしら。それで、近いうちに何かしらお礼をさせてもらいた・・・」
その時、ぐぐぅ~とお腹の音がなる。しかも奇跡的に二人同時で。妙にハモった腹の音が、静かな部屋でやたらとはっきり、くっきり聞こえてしまった。
「・・・っ」
女性にとって、やはり恥ずかしい音なのか、顔が真っ赤である。美人が顔を赤らめているのは、非常にドキッとしてしまう。
「あー昨日から何も食べてなくて、腹鳴っちゃってすみません。もし良かったら昨日食べるつもりで買った食料とかあるので一緒に食べませんか?」
初対面で一緒に食事しようとか、俺はどこのナンパ野郎かとも思うが、実は昨日の昼から何も食べていないせいで、真面目に自分の空腹が限界だったのだ。早く何か口にしたい。
「うっ、ごめんなさい。私お料理ほとんどしないから、材料とか全然ストックないのよ、今日はたまたまレトルトとかの買い置きも残ってなくて・・・」
料理出来しいんだ。以外である。どうも俺は美人はなんでも出来るんじゃないかって偏見があるようだ。
「じゃあ、昨日俺が買ったもので準備しますね。台所借りて良いですか」
「えっ、あっはい、どうぞ」
借りて良いようだ。さて、昨日なに買ったかな。買い物袋を確認する。味噌、豆腐、玉子、ウィンナー
「味噌があるけど、出汁がないな」
「粉末の出汁だったら調味料の所にあったかも」
料理しないのにあるんだな、粉末出汁。
「つかれた時とかに、たまにお湯で溶いて飲んだりするのよ」
なんか、体に悪そうだな。まぁいい。米はないが食事を作るとしよう。俺は台所を借りて料理を開始した。
「お味噌汁美味しい。二日酔いの身体に染みるわぁ」
どうやらお口に合ったようだ。よかった。俺達は今、部屋の中央にある、小さな円いテーブルで食事を食べ始めている。テーブルが本当に小さいので、一水さんと距離が近く、なんだか落ち着かない。昨日はアルコールとサラサラの臭いばかりだったのが嘘のように、いい匂いが一水さんの方から漂ってきている気がする。
「今の中学生の男の子って、こんなにちゃんと料理できるのね。凄いわ」
味噌汁と卵焼きとウィンナー焼くぐらい誰でも出来ると思うが。
「卵焼きも、凄い美味しい。私が焼くともっと焦げるし、甘すぎたり、しょっぱすぎたりするし」
出汁があったので簡易出汁巻きにしたのだが、お気に召したようだ。
「親があんまり家にいない家庭なので、俺が家事全般やってるんで、自然と出来るようになったんですよ」
「まぁ!大変じゃない。ケイスケちゃん凄いのね」
唐突によしよしと頭を撫でられる。恥ずかしい。恥ずかしいが何だろう。悪くないのでそのまま撫でられてみ。なんか心がほっこりする。一水さんは昨日の醜態からは想像もつかないくらい、見た目通りのなんでも出来そうな、頼りになりそうな年上の女性の雰囲気を醸し出していて、気を抜くと甘えたくなってしまいそうだ。
「家事もやってるとなるとお勉強はちゃんと出来てるの?」
「まぁ、そこそこな成績とれるくらいには」
この頃は実力テストでなんとか全体の半分よりは上、くらいの成績だった。
「もし良かったら、私がお勉強みてあげましょうか。私これでも高校教師なのよ?」
OLさんでなく女教師だったようだ。こんな美人教師のいる学校とか是非通いたい。
「へぇ先生だったんですね。どこの高校何ですか?」
聞くと、海波高校で英語教師をしているとのこと。海波高校はこの近辺では、大分偏差値も高い進学校である。
「凄いですね。そんな学校の先生に教われるなら是非お願いしたいですが、迷惑ではありませんか?」
実際、海波高校は家から近いこともあり、将来の受験先候補だったので、そこの教師に勉強を見てももらえるのは実にありがたい。むしろ家庭教師費用出すべきな気がする。そう伝えてみると、
「大丈夫。教師だからお金もらってバイトみたいになっちゃうとあまり良くないから、気にしなくて良いわ」
なるほど。
「もし気になるなら、たまにこうやって食事をご馳走してくれると嬉しいわ」
そう話す彼女の顔を見ていたが、ふと目線を下に、手元を見ると、用意した食事は、俺の味噌汁以外全て、綺麗に無くなっていた。俺は卵焼きもウインナーもまだひとつも食べてないが、彼女が食べてしまったようだ。舌をペロッと出して「ゴメン、つい食べっちやった」と謝ってくる。美人は何しても様になるな。仕方がなく俺は味噌汁を啜り、少しでも腹を膨らませることにした。食べ終わり、俺は彼女に声をかける。
「では、今後は是非ともよろしくお願いいたします。一水先生」