とあるラジオの心霊企画 語り
新たな人物は…?
『えぇっと(ザザ…)、聞こえているの(ザザ…)かな?ご紹介に(ザザ…)預かりまし(ザザ…)た。沼田と(ザザ…)云う者です。宜しくお(ザザ…)願いします。』
沼田と名乗った其の人物は、やや草臥れた印象を受ける中年男性の声で挨拶をする。其の際に電波障害か、其れともマイクに風か何かが当たっているのか所々に雑音が混じっていた。
「アレ?電波状況が悪いのかな?」
「こっちの声は聞こえているか?」
『はい!問題無いですよ!』
『こっちでは特に問題無いですね。僕達の声はどうですか?』
「問題無いな。其れじゃあ、再開してくれ」
『は〜い!其れでは案内をお願いします!』
『分かりました(ザザ…)。こちらです(ザザ…)』
暫く三人の歩く音が聞こえてくる。足元に水溜りがあるのか水の跳ねる音も聞こえる。
『鬱蒼とした森が続きますねぇ。今にも何か出そうな雰囲気です。
其れにしても地面が泥濘んでいるなぁ(ピチャ…♪ピチャ…♪♪ピチャ…♪)』
『最近、雨って降ったっけ?(ピチャ…♪ピチャ…♪♪ピチャ…♪)』
『あぁ、(ザザッ…)水捌けが悪いんですよ(ザザッ…)。更に森の中な(ザザッ…)ので少し(ザザッ…)の雨や湿度が高い日は良く(ザザッ…)泥濘んでいるです』
『そうなんですか(……♪……♪♪…♪)』
「怪我をしない様に気を付けてくれよ。……なぁ、何か聞こえてくる歌?が大きくなっていないか?」
「そうですか?」
其れを聞いたラジオを聞いている貴方も、確かに最初には注意深く聴かなければ殆ど聞こえなかった其の音が、何時の間にかそんな事をしなくても聞こえる程に大きくなっている事に気が付いた。其れにも拘らず、聞こえている様子の無いMCの一人の明日香と中継先の二人は、何故か雑音が混ざる沼田と云う男と相まって何とも不気味さを感じざるを得ない。
『ダムに中々着きませんねぇ〜(ビチャ…♪ビチャ…♪♪ビチャ…♪)』
『後どれ位ですか?(ビチャ…♪ビチャ…♪♪ビチャ…♪)』
『もうそろ(ザザッ…)そろだと思い(ザザッ…)ますよ。
とは云えまだ時間が掛かりそうなので、ダムに着く迄の暇潰しに昔話をしましょうか(ザザッ…ザッ…ザザザザザ…ッ!!……ブツンッ!!)』
沼田がそう言った瞬間に彼の発言に付き纏っていた雑音が一気に大きく激しくなり、唐突に消える。其れを合図にする様に、彼は粛々と語り始めた。
『貴方達の目的地である【宇多沼村】は嘗ては【謌】に沼と書いて【謌沼村】と呼び、何処にでもある田舎の村の一つでしたが、一つだけ他の村と違う所がありました。
其れは【歌】です。村にある【謌沼】と呼ばれる沼に住まうと言い伝えられていた【沼謌様】から大昔に授けられたとされる其の【歌】は【呪い謌】又は【呪い謌】と呼ばれ、其の呼び名の通り常識では計り知れない様な力がありました』
『其の力を求めて嘗ては政治家等も訪れて栄えていた【謌沼村】でしたが、時代の流れと云う物には敵わぬ物で、他の村と同じく過疎化の波に呑まれて衰退して行きました。』
『其れにどうにか抗いたかった当時の村長でしたが、【呪い謌】を除けば何処にでもある、寧ろ他に特産や観光資源の無い分他の村よりも劣っていた【謌沼村】にそんな力はありませんでした』
『其れで其のまま諦めた村人が村を離れて廃村になったって感じですか?』
高梨の当然とも云うべき其の問いを、沼田は静かな落ち着いた声で否定した。
『いえ、そう単純な話ではなかったのです』
沼田の語りが続きます