プロローグ
――この世界は“自由”だ。人間の生きる世界も、魔族の生きる世界も変わらず、誰しもが夢や希望、時に野心を持って他者と競い、争っている。生きているんだから当然の事なんだけど、だからこそ誰にでもある権利だ。
僕はセト・アルヴェリア、将来の夢は“魔法剣士”。
赤いツンツン髪と赤い目が特徴の平凡な人型魔族。
全く知られていない、いわゆる無名の小さな村で魔獣を狩りながら家族と毎日を過ごしてる。
家族の構成は父と母に、兄が一人。
父さんは魔法使い。
母さんは剣士。
兄さんは、魔法剣士。
特に“テテュス兄さん”は僕の憧れの人で、こういう人になりたいと最初に目標にした人だ。魔界じゃ珍しい人格者でもあるし、何より優しくて、強かった。
僕が生まれて、三年程の時だった。
僕を抱えて外を散歩していた母を一匹の魔獣が襲った。母さんは剣士としてそれなりの実力を持っていたそうだけど、長年のブランクに加え、安全だった自宅周辺だったから剣なんて持ち歩いてなかった。
父さんは街へ買い出しに行ったばかりで、助けに戻ってきてくれるというのは期待できない状況。
そこへ奇跡的に助けに入ってきたのが、生まれて初めて目にした兄の姿。テテュス兄さんだった。
テテュス兄さんはこの頃、剣を片手に長い間家に戻っていなかった。
剣に炎を宿して、魔獣を一刀で斬り伏せたその姿。
僕達を守ったその勇ましい姿は今でも鮮明に思い出せる。
魔獣を倒した兄さんの表情はとても悲しげにしていた事も、その後に見せた安堵の笑みも。
優しくて、強くて……誇れる兄さんだ。
――僕はいじめられっ子で、弱虫だ。
同じ村にいる同年代の子には非力だと笑われ、喧嘩して負けては泣き虫、弱虫だと指を指された。
……非力なのは認める。でもこの世界には“種族”による差だってある。
僕達の様な人間と同じ姿形をした“人型”だと特に露骨だ。
例えば、僕の場合は物理的な力で押し負けてる。
喧嘩する相手は獣人が多いし、身体の大きさや筋力も違うから魔力や魔法による工夫が無いと、単純な力だけで勝つのは難しい。何気ない一発を貰って簡単に意識をもっていかれたり、骨を折られたり……沢山泣かされた。
僕が弱虫だと言われるのは、僕がされたことをやり返そうとは思わないのもある。
勿論、やり返した方が良い場面ならしなくもないんだけど。
全力を出しても勝てないと分かってても、それでも、僕は力を出せなくて、結局負けてしまうんだ。
血を見るのが怖い。
誰も、傷ついて欲しくない。
誰もが、死んで欲しくない。
死に繋がる事はみんな怖いよ。
みんな、僕の事を“意気地なし”って言う。
それはそうかも知れない、この魔界じゃ弱肉強食が常なんだし、やられてやり返せない様なら魔族失格で、平和な村の外に出たらどうなってしまうのか。
かといって人間界ならそうならずに済むのか……それは分からないけど。
きっと今日もどこかで悪戯に殺される人がいて、力がある者の自分勝手な都合で死んでいく人達がいる。
今は比較的平和な時代らしいけど、それでも争いは起きていて、毎日どこかで誰かが死んでいく。
そして、魔界を統べる魔王の言葉一つで常識も何もかもがひっくり返るこの恐ろしい世の中。
僕はこんな世の中が好きじゃない。
自分一人で全てを守りたいなんて言わないけど、せめて、目に見える範囲だけでも理不尽な死から、沢山の人を救いたいと思う。
願うだけじゃ、助からない命がある。
僕はなりたい。テテュス兄さんの様に優しくて胸を張れる男に。
誰かを守れる程の、強くて優しい魔法剣士に。