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高橋くんの歌2 メガネ

 オレは一見すると根暗に見えるらしい。もう少し分かりやすく言うと、オタクだ。オタク系。

 オタクに見えるか、見えないかは、やっぱり見かけが一番大事。うん、そらそうだ。

 たとえば、うちのクラスでダントツ人気のある男に、中条くんというやつがいる。出席番号で、オレの次だ。

 中条くんは背が高く、がたいもいい。だもんで、自分の体形を活かしてバレーボール部に所属している。頭だってまあまあいいのをオレは知っている。(この間のテストで、オレは平均だ! と叫んでた。)

 一番重要な顔はというと、スポーツ人らしくきりっとしている。こう、眉毛とかが、きりりって感じ。その上、髪の毛は爽やかにツンツンヘア。ちなみに見た目だけじゃなく、中身もからっとしている。誰に対しても感じのいい性格をしているもんだから、いい男ポイントが高すぎる。

 そんな中条くんだから、体育の授業でスパイクを一発でも決めれば、もう、女子はきゃーきゃーだ。そらもう、割れんばかりにきゃーきゃーだ。

 まだ一年だってーのに、先輩のお姉さまがたにもかわいいと言われ、今赤丸人気急上昇中のフレッシュくんだ。

 オレなんかから言わせてもらえば、うらやましいかぎりである。

 そんな中条くんが、オタクと見られることはまずない。

 でも、オレはといえば、どこから見ても平凡少年。どんだけ底上げしようと頑張っても、所詮平凡は平凡。身長・体重・顔すべて並。髪の毛は黒。(日本人だからね。)最近散髪していないので、ちょっと長くなったかなー。

 メガネは……かけてない。そう、かけてないんだ。

 オタクといえばメガネっこなイメージが、オレとしては強いんだけど。

 オレだってメガネをかけていたら、まだ「アイツ、オタクだよな」と影で囁かれても仕方ないなと思うけど、かけてないんだよ。だから、オレがオタクと言われるのは少々納得がいかない。それ以外はオタクとして見られても仕方ない見た目だ。それは間違いない。

 納得がいかなかったオレは、この高校に入学した後にメガネを買った。黒縁の、見たら一発でそれっぽい! と思えるようなやつを、百均で。(いやー百均って便利だね。)

 これでオレは自他共に認めるオタクになったのだ。実際に自分がオタクかどうかは分からないが、とりあえず、見た目オタクになった。なったら、人にオタクと言われて満足できた。

 だって、今のオレ、どっからどうみてもオタクだもんねー。くいっとメガネを上げるしぐさもばっちりさ!

 もともと人と話すよりも、考えごとをするほうが好きだってことも根暗につながり、オレはクラスの中で孤立するな――と思ったが、そんなことにはならなかった。

 なぜなら。

「高橋」

 今、オレの背中をつついて話しかけてきたやつ……あの中条くんが、オレの友達だからだ。

「おっす、中条くん」

「おっはよ」

 満面の笑みで笑う中条くんは、白い歯を光らせて今日も爽やか度はMAXだ。

 席替えしても、何の因果か運命か、中条くんはオレの後ろの席になった。

 そのとき中条くんは言ったのだ「ラッキー。また高橋の後ろだな、よろしく」と。

 そのときオレは思った。(えーと。たぶん、中条くんはオレに好意的だ。)と。

 さらに思った。(こいつ、オレなんかと仲良くしてていいのか?)と。

 中条くん派の女子は特に思うだろう。「なんでアイツなんかが中条くんと仲がいいのよ!」と、ややヒステリック気味に。

 それは、まあ、そうだな。オレだって不思議だ。中条くんだったら、もっとレベルの高いやつといくらでも友達になれるだろーに。なぜ、オレ。いや、中条くんには他にも友達はいるけどね。なんでその中にオレも含まれてんのかなーと流れ的に思ったから、きいてみた。

「ところで、中条くん。朝からこんなことをきくのもなんなんだけど」

「んー?」

「中条くん、オレなんかと友達でいいの?」

「オレ、自分のこと、なんかって言うやつ好きじゃないけど」

 おっと、にっこり顔ですげーこと言われた。

 自分のこと卑下すんなって、言ってんだろうけど、いやーなんて言うか。中条くん、すげえ。オレだったら人にそんなこと言えない。だってオレはちっちゃい人間だからだ。自分を卑下するほうが、安心するような人間だからだ。

 オレは照れくさいわ、恥ずかしいわで、顔が熱くなってきた。

「え、えーと。じゃあ、オレと?」

「つか、なんでいまさらそんなこときくんだよ?」

「いやー。いまさらなんだけど、なんでだろなあって思って」

「気に入ったから友達になる以外、友達になる理由ってなんかあるの?」

「うへえ?」

 うおっと、きょとん顔ですげーこと言われた。素でこういうこと言えるやつってほんとすげー。恥ずかしー。すげー。

 先生、頭から火が出そうです! そう叫びたいのをこらえて、オレは汗だくになりながら答えた。

「な、ない、かな?」

「だっろ? オレ、橋本おもしれーと思うもん。特に歌! 歌部のあれ! 気に入ってっし!」

「歌」

 意外だと思ったら、「そう、歌。ちなみに今日朝一番の一句は?」と唐突に言われた。

「え?」

 なんだって?

「歌だよ」

 にっこり笑って、もう一回言われた。

 ……これは、なんか、歌えと。そう言われているんだろうか。

「ええと……いきなりそんなこと言われても、いいの出てこない……」

「いいからいいから。思ったこと、ほら」

 ばしーんと背中を叩かれて、オレは前のめりになりながら、ずれたメガネを押し上げた。

「ええと……そーだな。メノマエノ イケメンオトコハ トモダチサ?」

「ははっ! 語尾あげんなよー! 友達だろオレたち! イケメンなんかじゃねーけどな! お前まじで、人のことのせるのうめーよなあ!」

 ばしーんばしーんと男らしくオレの背中を叩きながら、中条くんは豪快に笑った。その姿に、オレは思わず引きつった笑いを浮かべてしまいながら、そーいえばと、あることに気がついた。

(中条くんて、自分のこと、かっこいいって思ってないんだよなあ……)

 ってことは、中条くんから見たら、オレは一体どんなふうに映っているんだろうと、ちょっとだけ興味がわいた。ジャニーズ風のイケメンだったりして。ま、そりゃないか。

 けど、もしかしたら中条くんも、オレと同じように、メガネが必要なのかもしれない。 


(中条くんや あんたもメガネが 必要です)


 なんつって。


 

読んでくださり、ありがとうございました。

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