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シーツ  作者: CGF
1/2

1.



Nから相談があると家に呼ばれた。




5年ほど買い手のつかなかった空き家にNが越して来たのは半年程前。


近所という事もあり、私とは初日から交流があった。


田舎の一軒家にNとその娘が越して来た理由は訊いていない。こちらから訊くのは何か悪い気がして憚られたし、話したければそのうちNが話すだろうと思ったからだった。



母子二人で知り合いも無い場所に住む…事情が何かあるのだろう。仕事はPCで行う類いのものだとは聞いていた。



自家製のチキンソテーとビールを助手席に乗せ、三分ほどで着く家にお邪魔する。私の家からだとN宅は小高い丘になっていて徒歩は面倒なのだ。



「あぁT!いらっしゃい」


「Tおじちゃんこんにちは!」



Nと娘のCが迎えてくれる。Cはまだ3歳、家の扉を開けると全力で走ってきて私に抱き着いた。


私はCを抱えてNの家に入った。




────────



「おかしなものを見るのよ」



夕食を楽しんだ後、Cを寝かせて一息つく。子供はゼンマイがきれた様にすぐ寝入った。Nの相談はその後で聞く事にあらかじめ決めていた。




Nの口から出たのはおよそこんな話だ。



時おり、白い影が視界をよぎるという。


それは例えばPCで仕事をしている時、ふと疲れて頭をあげた際に部屋の扉が開いている事に気付く。




開けていたかしら?




開けていて不都合がある訳では無いが、開けっぱなしにしていた記憶が無い。


娘のCの躾を考えてそういうだらしなさを見せない様に気を付けているのだという。


建てつけが悪いのか、と思いながら扉を閉めに行こうとすると、扉の陰にこちらを窺っている気配がした。



Cかな?



Nは笑いをこらえながら扉にこっそり近付いた。



「ばぁ!!」…




…廊下には誰もいなかった。



扉の陰には何故かシーツが落ちていたという。



「Cがイタズラしてたんじゃないのかい?」



子供がシーツを被って『オバケ』の真似をするなんてよくある話だ。


シーツに覗き穴を鋏で開けない限り怒るほどのイタズラじゃない。



「……Cは庭に居たわ、その時窓から見たの」



Nの仕事部屋は窓が庭に面している。


一人で砂山を作って遊ぶ姿が見えたという。



「他にもあったの」



Nが夜、寝付けずにダイニングに行った時、シーツを被った姿を目撃した。




「……C?」




シーツの端から小さな右手を出すと、何かを指差した。


思わず指差す方向を見た。が、何がある訳でもない。


振り向くとそれは消えていたという。





そんな事が三度ほどあった。




「あれはCじゃないわ……Cより頭一つ背が高かった様に見えたもの」



不審者……不法侵入者にしては小さい。Cはまだ3歳、頭一つ大きいとしても5つかそこらの背丈だ。


近場にそれくらいの年格好の子供はいなかった。それは私も知っている。だからCはいつも一人で遊んでいるのだ。




「その子は……いつも何かを指差すの。でもそれが判らない、何も無いのよ」



昨夜、Cの部屋から悲鳴があがった。


慌てて部屋の扉を開けると、『シーツの子』が立っている。その子はNに気付くとやはり何かを指差した。



Nはその時指された方を向かず、シーツに手を伸ばした。


シーツを掴む。誰がやっているのか確かめるつもりだったという。








        ふにゃり






Nの指がシーツに触れた途端、床に落ちた。



誰もいなかった。

何も入っていなかった。






「……何処を指差すんだい?」


「そうね…指は床を向いてるわ……でも何も落ちていないのよ?」



今はCと二人で寝ていて、仕事部屋でCを遊ばせているという。



「私の見ていないところでCが…Cに何かあったりしない様にいつも一緒にいるようにしてる…」



Nは首を振ると蒼い顔を私に向けて続けた。



「…Cに何か無いようにって云ったけど、私も独りでいるのが怖いってのが本音ね。子供に良い影響じゃないけど」


「他には……何かあるのかい?」




足音がするという。




夜寝ていると、廊下を歩く音が聴こえるのだと。



廊下を素足で







  ぺた



    ぺた



   ぺた



     ぺた






……と、硬い廊下の床を湿った音が続くのだと。







  ぺた



    ぺた



   ぺた



     ぺた






私は今座っているダイニングから伸びる廊下を見た。



「……おかしいでしょ?そんな音がするはず無いのよ。でも聴こえるのよ」



ダイニングから伸びる廊下は…






…カーペットが敷かれていた。



「カーペットは廊下に全部?」


「えぇ、私達が越して来た時から敷いてあったわ…新しいのに換えたけど」



こんな状態で足音を立てるとしたら踏み鳴らす様に歩かなければいけないだろう。ドスドスと響く音になるはずだ。



「ねぇT?この家、前の持ち主ってどんな方?何か……聞いてない?」


「5年も前の事だからなぁ、すぐに引っ越してしまったんだ……そういえば」



その前の住人も、長居はしなかった。


更にその前は……どうだっただろう?



「この家は二十年くらい前に建てられて、最初の家族は十年くらい住んだのかな?…後はたまに越して来るとすぐいなくなるの繰り返しだったと思う」



私も建てられた頃はまだ子供で記憶はあやふやだ。


この家に越して来た住人はいつも知り合う間もなく出ていってしまう。



「……信じてくれる?」



私はそれに答えず、Nに訊いた。



「とりあえず、Nが『シーツの子』を見た場所を見せてくれ」



私はNを促してダイニングの何処に居たのかを訊いた。



「そこよ…そう、そのあたり」



Nの指示で同じ場所に立つ。



Cの背丈から考えて、腰を屈め、Nの記憶を元に右手を指差した。


だいたいの感じでしかないが、壁と床の接する辺りに指が向く。




……確かに何も無い。



────────

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